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[覗き込まれた顔に、真っ直ぐな視線を向ける。
風に揺れた髪が額にかかり、それを指で左右に分けて耳にかける。
邪魔にならぬよう編み下された髪も揺れ、体に巻かれた鎖に触れてカチャリと音をたてた。]
エミーリェ・アパトと申します。
雷竜王がケツァルコアトル様に随行して参りました。
[上へ向け、声を返す。]
[西殿を離れて後は竜皇殿を出、商店街を見て回る]
あの仔らには何を土産とするが良いかのぅ。
[来る時に地竜王と会話した、里の仔竜達への土産物を探す]
読んで学び、触れて学び。
刺激となるものが良いのぅ。
[店主に訊ねたり実際に読ませてもらったりと、ザムエル自身探すことを楽しんでいるようだ]
[ 風の流れに沿い、人の流れを遡り、路は殿に至る。
ぷつり、喧騒の途切れる場所があった。その先は聖なる宮であるから、一般の者の出入りは少ない。
距離を置いて眺める宮殿には清廉な気配が漂う。属こそ違えど、均衡を望むという意味では、影輝にも近しいところがあった。
立ち止まり暫し黒曜石の瞳に映した後、影は敷地内へと入った。]
[一見何も起きてはいない。何時もの様子と変わらない。
だがクレメンスには、傷ついた指先に周囲を漂うソレが集まり、瞬時にその傷を癒すのが、よくわかった。
おそらくソレを知覚できるのは、今はクレメンスのみ。
そしてその様子に何も動じないその様は、それが日常的に行われている事だという事を表していた。]
…っは。
[ため息と共に、変わらない笑みが崩れた。]
やっぱ、戻らないとよかったな。
[そこには常の彼は居ない。]
あ、やっぱり。
[雷竜王の、という言葉に、小さく呟いて、よ、と言いつつ立ち上がる。
とん、と枝を蹴り、ミリィの前へと降り立った]
名前、知られてるっぽいけど。
嵐竜王の随行代理のティル=ビルガーだよ。
こいつは、風獣王の眷族のピア。
[ぴょこり、と礼をしつつ、小猿の名も伝える。
青の瞳は、巻きつけられた鎖を不思議そうに見やっていた]
―― 竜皇殿・門内 ――
怒られちゃったなあ、ちょっと覗いてみたかっただけなんだけど。
[肩の機械竜に愚痴りながら、本殿から門へと向かう道をとぼとぼと歩いている]
次はどこに行こうか?まだ見ていない場所ってあったっけ?
[けれど気分はすぐに切り替わったようで、次の興味の対象を探そうと視線はきょろきょろと辺りを巡る]
―竜皇殿:敷地の内側―
[東の方に向かい、まわりを眺めながらゆこうとして。
そっと感じた気配は対の一つだからこそわかりやすく。]
ノーラ殿
[軽く頭を下げる。
それから上げ、中を見たときに、金色の頭が見えた。]
……エーリッヒ殿も。
自由時間に皆様なにをされているのでしょうか。
[今更気になったというように、少し不思議そうな顔をした。]
えぇ、随行者名簿を先程。
ピア殿、今日は初めまして。
[背を伸ばしたまま、頭を下げる。
顔を上げたあと、人差し指で眼鏡を上げてまたぴしりと背筋を伸ばして]
嵐竜王様には未だこの度お会いしておりませんが、お変わりありませんか?
[ニコリ、口元に硬い笑みを浮かべた。]
あ、こんにちは、オトフリートさん。
[行く手に姿を現した月闇竜に、にこりと笑って駆け寄っていく]
探検してたんです。オトフリートさんは…読書ですか?
[手にした本に目を止めて問い返した]
いえ、本を買って来たのです。
今から読書にしようかと思っておりましたが。
[微笑んで]
探検ですか。
色々な場所にいけましたか?
そっか、名簿あるんだっけ。
[今更のように呟く。
頭を下げられたピアは、肩の上でぺこ、とお辞儀を返した。
一応、風獣王に連なるもの、としての矜持とかあるらしい]
ああ、兄貴?
特に変わってないっぽいよ。オレも、会うの久しぶりだったけど、相変わらずだったし。
[硬い笑みには気づいているのかいないのか。
返す言葉は、大雑把]
オト殿。……エーリッヒ殿。
[ 声を発した当人と同じだけの間を置いて、影は名を紡ぐ。
ゆったりとした歩みで近くに寄る頃には、エーリッヒはオトフリートの元に辿り着いていた。]
私は散歩ですね。
アーベル殿……心竜王様の随行者殿も、そうであったようです。
[ 影の眼差しは対の一から、機鋼の竜へと転じられる。]
探検、それは楽しそうですね。
[想定してないわけではなかった。だか大丈夫だと思っていたし、何より竜王はともかく月闇の竜には会わないかもしれないと、思い込んでいたのかもしれない。
けれど嫌な予感はなんとやら。
見かけた時の内心は、穏やかではなかった。
会えば―嫌でも意識せずにはいられない故に。
遥か過去に置き去りにしたはずの、己が心とその願いに。]
あーあ…。
[がり、と首の後ろをかく。
久しぶりの邂逅は、クレメンスの内側を揺らした。
それでもいつもならば、こうして一人頭を冷やしていれば治まるもので。
だからあの場を離れたというのに。]
ノーラさんも、こんにちは。
[影輝竜にも笑顔を向けて、二人の言葉に頷く]
いつもは入れない場所に近付けるから、面白いですよ。
でも、本殿を覗き見しようとしたら怒られちゃいました。
[ぺろりと小さく舌を出す。機械竜がカシャカシャと羽ばたいて、呆れたように瞳を青く明滅させた]
[自分と同じように頭を下げた猿に、
思わず口元が緩んでしまいそうになり、また、慌てて硬く引き結ぶ。
ティルの口ぶりに、深く頷いて]
お変わりないのは良い事ですね。
翠樹の竜王と陽光の竜王にはお会いになりましたか?
小さなお子を連れておられて、驚きました。
[本人は雑談しているつもりだが、口調はまるで参考書を読み上げるようだ。]
それは怒られるでしょうね。
[エーリッヒの言葉に、小さく笑う。]
今は会議で忙しいでしょうし。
竜王方の邪魔になるような場所は、きっと見られなかったでしょう?
―竜皇殿―
[竜都の心の坩堝と逆の静寂を求め、気配なく青年は建物の外を散策していた。心の動きを押さえれば動く彫像のようなもので、佇めば景色の一部に溶け込んでいただろう。
途中で随行者に出会いそうになれば踵を返していたから、その軌跡は青年の領域に相応しく混沌とも言えるものだった]
……疲れたな。
[事情が事情ゆえに力強い随行者が多く【心の間】とは異なる。
それでもやがて静かな場所を見つけ、目を閉じて佇んでいた]
まあ、兄貴がいきなり気が利くよーになったりしたら、それはそれで気味悪いけどなっ。
[あっけらかん、と言ってのける一言は、身内故の気安いもの]
ん、ちょこっと挨拶はしたと思ったけど、ちゃんと話してないなあ。
んでも、ちっちゃい子とか、会議の間どーすんだろ……。
[会議場には、竜王以外には入れないわけで。
その間の子守はどうするんだろうか、とかある意味余計な事を考えつつ]
……ってゆーか、さ。
おねーさん、なんか、無理してる?
ギュンターさんは、
お怒りになると恐ろしいですからね。
[ 口調は先に似て、けれど僅かな幼さを帯びる。それは歳を経たものと、未熟なものとの差異であろう。
青の眼を明滅させる機械竜に、ノーラの手が持ち上がり、黒布を押えるように折っていた指が伸びた。]
こちらは、エーリッヒさんが創ったものでしたっけ。
[あまり荷物にならないよう、大きなものは買うことはなく。購入も帰りが良いだろうと数もあまり買わなかった]
会議が終わるまではもう少し時間があるしの。
後はのんびり過ごすとするか。
[小さな袋だけを手に、商店街の商品を見回りながら竜皇殿のある方向へと歩み始める。買い物をする姿は孫に土産を買う爺状態だったが、そんなことは気にしない]
ああ。
読書をされるおつもりだったのなら、
お邪魔してしまったでしょうか。
[ 触れる寸前で手は止まり、月闇の竜へと首を巡らせて問を落とす。]
書は知識の集まり。良いものを得られますよう。
―― 竜皇殿前・敷地内 ――
ちょこっとだけ覗けないかなって思っただけなんですけど。さすがに竜都の警備は厳しいですねえ。
[オトフリートの笑みに笑顔で応じて]
そうそう、会議場の近くではギュンターさんが頑張ってて、なんだか俺、廊下の端っこを通っただけで「会議の邪魔はまかりなりません!」て、怖い顔で睨まれちゃったんですよ。
きっと、うちの機竜王が、余計なこと言ったんじゃないかって思うんですけど。
[恐らく機竜王は、事実を告げただけだと思われる]
[閉じていた瞼を上げたのは、対である生命の心の揺らぎを捉えた為。青年はもう一度瞼を閉じて、その心の動きを追いかける。
月闇の竜から感じたものよりもそれは弱く、未だ揺れる余地がある事を感じさせた]
……。
[『感情』を司る月闇の協力は既に得られた。申しかけは施してあり実行するだけの今、声を掛けるかどうか迷う。
その心の動きは青年の消えていた気配を微かに揺らがせた]
ああ、いえ。
場所を探すのも大変で。
どこに椅子があるかと、考えていたのです。
[ノーラにそう告げると、あたりを見回す。
近くに椅子はない。]
ギュンター殿が見張りでしたか。
それは、様子が浮かびます。
[来た時にみた様子を思い浮かべて、くすりと笑う。
それから思いついて、]
エーリッヒ殿、探検の中で椅子など、見かけませんでしたか?
ええ、こいつは俺が産まれて初めて創ったモノなんです。
[ノーラに機械竜について問われると、嬉しそうに紹介する]
ユル、ご挨拶して。
[促された機械竜は、カシャカシャと羽ばたくと、瞳を明滅させた。その色はめまぐるしく移り変わり、最後に影輝の貴紫を映して光る]
会議の間は…何方かと一緒におられるのではないかと。
翠樹のお仔は、もう一方随行されておられたようですし…。
[言いながら、口元に軽いこぶしを当て
続いてかけられた言葉には、ぱちりと目を瞬いて]
いえ、無理など。
このエミーリェ、きちりと全てこなしておりますよ。
[気が緩んだのを気取られたかと、表情を引き締めた。
ちらりとピアの様子をたまに見る様子は、気になる様子を隠しきれていないのだが。]
/*
本当ならミリィのところにでも行きたいんだが、入り口で固まってるからそこで一旦引っかかりそうなw
まぁ引っかかっても良いんだが。
ノーラとちゃんと顔合わせてないし。
―――――――――――。
なん、だ?
[溢れるように。
内側から漏れ、零れるのは遠い記憶の欠片。
クレメンスの願いの、その源。
今の今まで、忘れていたささやかな出来事すらも、鮮明に脳裏を過ぎった。]
椅子、ですか。
広間……にありはするでしょうが、
それでは人の行き来があって落ち着けないでしょうね。
庭に腰を落ち着けて、というのもまた、しかり。
テラスの傍にはあったようにも思いますが。
[ 頭を僅かに斜めへと傾け、言葉を選びつつ、記憶を探る。]
[感情を封じ込めるすべなど、もうこの身に染み付いている。
初めて会った彼らに、付き合いの浅い他の竜たちに、そのあたりは伝わらない。
己のあり方に内心で少し笑った。]
[心は揺れる。
それでも、それは激しい動き方ではなかった。
少し傾いたまま、ゆるくゆるく、うわべに押し隠されて。]
─竜皇殿・中庭─
まあ、何とかできなきゃ、連れてこないかあ。
[そこら辺は人事のためか、特に気にした様子もなく]
んー、きちりとかっていうんじゃなくてー。
[青の瞳と、ピアの茶色の丸い瞳と。
両方がじい、という感じでミリィへ向けられ]
あーうー、なんつーか、押さえてる?
自由じゃないなあ、とか、そんな感じ?
[上手く言葉にできず、何となく物言いは曖昧に]
―― 竜皇殿前・敷地内 ――
椅子ですか?庭にはベンチがありましたけど…
[言いかけて、ノーラの言葉に頷く]
うん、今は警備兵や会議の関係者が沢山行き来してますからねえ、落ち着けないのは確かかも。
落ち着けないのは、困ってしまいますね。
[肩をすくめ、エーリッヒにも礼を。]
ですが、探してみます。
読み終わるとは思えないのですけれどね。
[見せた背表紙は、5センチ以上はあるものだった。]
─竜皇殿西殿・議事場前─
では、主様。私は竜都にて待機しておりますので、御用命がございましたらお呼びくださいませ。
[そう言って一礼し、議場をあとにする。]
―竜皇殿・中庭―
ふふふ。性分みたいなものでしょうからねえ、ミリィのそれは。
[水晶の扇子を片手に、中庭へと現れたブリジット。
幼さの残る風竜へと、穏やかに微笑んだ]
はじめまして、ユル?
[ 一風変わった羽ばたきの音と明滅する色に、ノーラの意識は機械竜に寄せられた。伸ばした指先がその身体に触れる。竜の皮膚とも人の肌とも感触は異なり、体温はやはり、なかろうか。
全ての色を集めた黒の瞳は、踊る色彩を零さず写し取る。終わりには貴紫に留まったのを見、驚きを孕んで、瞬いた。]
属の本質がわかるのかな、賢い子ですね。
―――――――――――。
[顔を伏せ、片手で覆う。
止めろと、己の内かける静止は声にならない。
記憶はまるで嵐のように駆け抜けてゆき。
全てが自分を通り抜けた時に残ったものは。
懐かしさと、後悔と。
愛と、憎しみ。]
[渦巻く乱れた心の中で残ったそれらは、小さな棘のように内側に残り。
長い時をかけて少しずつ、忘れかけていたものが。
過去にもどったかのように、脳裏に焼きついた。
ずると、先ほど手にした葉の元に背を預ける。]
…。
[笑みはない。
ただ、内に蘇った強い願い、想いに、流されないようまだ、抗った。]
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