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[少年を胸に抱き、前傾姿勢になった男から視線は離さず――]
お兄さん。
俺を、殺すのかい?
――いいよ。
俺は、バレエダンサーとしては、もう死んだも同然だから。
こんな目じゃ、使ってくれる劇団は無いんだ。
おまけに、この腐った色はね、視神経から先まで届いてるんだって――義眼で誤魔化すこともできないんだよ。
今更『身体が死んだ』とて、あまり変わらないさ――…
或いはそれが、呪いの効果だったのかも知れんがね。
[軽い口調で言う。
紅蛇の闇色の眼が城へと向いたのは、鈴のざわめきとほぼ同時だったか。
宴。
短い言葉が、真紅より紡がれる]
[外へと踏み出しかけた足がぴたと止まります。
吼えるような一声によって。]
…。
[赤い華を背にして、上を見上げました。]
うたげ。
終わりへ向かうもの…。
[知らず、緋の靴は城へと向かう]
死した今では。
意味の無い事かもしれませんが。
終焉の獣が狩られたならば、人はどうなるのでしょうか。
可笑しいね、お兄さん。
[肩を竦めて笑ってみせる。]
だって、まだラッセルが獣って決まった訳じゃないのに――…
『なんでこの世の終わりみたいな顔をしているの?』
……本当に、可笑しいな。
そんなにこの状況が嫌ならば、まずはそこのネズミさんが稀代のペテン師だと言って御覧よ。
何故、言えないのかなぁ……?
ね、お兄さん。
俺はまだ、ネズミさんを信じている訳じゃないのに……
[胸元からナイフを取り出した。]
権利。
権利など必要か?
[唇に浮かぶは冷笑]
おまえは、こいつを殺すのを躊躇っていたな?
生きていて欲しかったんじゃないのか。
……手に入れたものを簡単に手放すほど、おまえはお人好しか?
[喉を鳴らす嘲弄の響きでもって応える。]
[呼吸を整え、神経を集中する]
…よし。
[意を決すると軋む身体に鞭を打ち、壁に手をあて支えながら立ち上がる。キッ、とオッドアイは階上へと向けられ、多少ふらつきながらも足は階段へと向かう。近付くにつれて階上で話される内容も耳に届いてくるだろうか]
さて、ね。
『終焉』を齎す者が狩られたなら、奴らが齎すそれはなくなるだろうけど。
残された者がどうなるかは、『番人』も言っていなかった気がするな。
[疑問の言葉には、興味ない、と言わんばかりの口調で返す。
死した今となってはあちら側の行く末など、興味は薄く。
声は、気のない響き。
城へと向かう緋の靴を引き止めるでなく、共に行くでなく。
蒼氷は静かに、その先を見つめるのみ]
……オレは、死にたいわけじゃないよ。
死ぬより厭なことがあっただけ。
[長い沈黙を置いて、クインジーに答えを返す。
身動きをとるは、叶わぬ侭]
[声には覚えがありました。
彼には今朝方、忠告をしたはず。
あれではもうバレてしまったのだろうと、そのことは見えずとも分かります。]
…多勢に無勢、でしょう。
[今日だけで何度溜息を吐いたことでしょう。
もうひとりいると思っていたから、追わなかったのに。
外に行く筈の足を中に向けて、
城の壁に揺れる灯をひとつ、手に取りました。]
お前が生かしたいと思うのもお前の権利だが
お前は本当にそいつの話を聞いているのか?
大切に思っているのなら、それくらいしろ
勝手に決め付けるんじゃなくな
――人を手に入れるなんぞ誰にも出来ないぞ
[男の声は冷静に、目はナサニエルを見る]
[その後ろのギルバートには、一瞥のみ]
ラッセル、もう一度聞くぞ
お前はどうしたい?
――ナサニエルのことは関係なく、お前は、どうしたい?
もしも。
[ひめやかな言の葉をくれないが零す]
もしも、――ならば、私は使者に感謝しなければならないのかもしれません。
それに。
最期に、うつくしいあかを見せて頂いた気もするのです。
[緋を纏う背がそれ以上語る事は無い]
[女は城の中へと*消えて行く*]
さっき、言ったよ。
[答えは短い]
終わりを齎さなければならないなら――
全て、あかの海に沈めてしまおうか?
[視線は壁にかかる燭台へと向く。揺れる焔]
……感謝、ね。
[城へと消える背を、見送り。
緋の中に立ち尽くし、空を見上げる。
行かぬのか。
紅蛇が問う]
……行って、それで?
使えぬ護りの力に歯噛みしろ、と?
[ばかばかしい、と。
大げさなため息と共、言葉が落ちる]
――…吐いたな、ラッセル。
いや、『フィン』とやら。
まあ、名前なんざどっちでもいい。
くだらない与太話みたいなものさ。
そして、そちらの青いお兄さんは君のお仲間さんかな。別に、違ってても良いけれどね。
『あかの海に沈める』ねぇ――…
元より、俺は他者に興味などなかった。
……『護り手』としての覚醒を余儀なくされたお陰で、多少、幾人かには意識を向けたが。
[淡々と語る。
それが真意か否かは定かではなく。
蒼氷に宿る想いも窺い知れぬ]
……彼岸に身を置く今となっては、無為な事。
[紡がれる言葉。
紅蛇はしゅるりと腕を一つ、巡る。
虚空。
真紅の紡ぐ短い言葉。
それへ返る言は、何一つ*紡がれない*]
[緊張感に満ちた静かな言葉が交わされる中、狙うのは一点]
…ならっ、てめえが沈め!!
[狙うのはナサニエルの腕に身動き取れぬ*ラッセルの心臓*]
くだらなくは、ないよ。
――僕にとっては。
[呟く一瞬、瞳は翳りを帯びた。
問いかけに答える事は無く]
そう。きれいな、あか。
僕は色を知らないけれど、それだけは、分かるから。
[ぽたぽたと。
腕から落つる、熱い滴を感じる]
[炎がじわりと目の中に入り込むように]
[ラッセルの指がその炎に飲まれるように]
[それはぞっとするほど、焼きついた光景と重なった]
――っ
[後ろからケネスが行く]
[止めることはできない]
[緋がゆれる]
[少しうしろに、シャーロットの姿]
下がってろ!
[火が広がったら、彼女を助けられるようにと、*そちらに足が進んだ*]
[少年を抱いていた腕が、力を喪いだらりと垂れる。]
[冷たく獰猛だった笑みは、陽に照らされた雪が解けるように消え失せた。]
[浮かぶのは、苦く]
[虚無に満ちた]
[階段に近付いて、聞こえて来たのは]
…『あかの海』?
[唐突にそれだけを聞いても、浮かぶのは身体に流れる緋色が広がる様子か、外の緋色の花の群れ]
[ケネスが前へと踏み出す]
[クインジーがこちらを向き叫ぶ]
[下がれと言う言葉に、足はその場でピタリと*止まった*]
(人を殺すことになんのためらいも無いのに)
[男の感情は、今も冷静に、ただ事態の成り行きを見る]
[火の手から少女を救おうとする気持ち]
[そして、ラッセルの望みをかなえてやりたいという気持ち]
[頭は割れるように痛んだ]
[火の中で 緋が散る *まぼろしを見る*]
ギィ、―――――。
[もう一つ。
紡いだ名は誰に、届いたろう。
愛称ではない、同胞の名を。
眼差しは一時、笑う男へと向けられた。
眼を伏せて力の抜けた腕から身を離す。
焔を揺らす燭台へと手を伸ばそうとし、
刃が迫るは*その直後*]
[階上では未だ、音がしています。
少なくとも片方は未だ生きているのでしょう。
廊下を照らす灯が、微かに揺れています。]
…あれを全部床に落として回ったら、
終焉を見れるかしら。
[赤い色の少年が似たようなことを考えているなど、わたしには分かりません。
手許を照らす色は、あの華の赤よりも*綺麗に映りました。*]
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