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……そういえば、蛍が綺麗だと、ツィンカが言っていたわね。
[夕飯の支度が済むと、ちいさく呟いて窓の外を見ます。]
飛んでいるかはわからないけれど、お散歩がてら、見に行ってみようかしら?
人狼の影か、あの村の事を思い出すのう。
……おや、良い匂いじゃ。
[おじいさんが鼻をひくひくとさせたのは、教会の前を通り掛かった時のこと。
そういえば、そろそろ夕ご飯の時間です]
[森近くの木こり小屋から宿への道をのんびり歩きます。
遠目に森の木立の間で小さな光が過ぎりました。]
…蛍か。
いや、まーたホラントかもしれんな。
どっちでも腹の足しにはならねえが。
[外に出ると、誰かの声が聞こえました。]
……あら?
[声の方に行ってみると、そこには。]
あら、御隠居様。
こんばんわ、お散歩ですか?
[旅人はゆっくりと、黒い森のほうへとむかいます。
そこに小川が流れているのは、村に来る途中で見つけていました。]
人狼なんて聞いたから、少し不気味に思っていたけれど。
[森はもうすぐそこです。]
おや、ドロテアさんか。こんばんは。
わしゃ散歩から帰る所での。
ドロテアさんは、お使いに出るところかの。
[教会のお手伝いさんに声を掛けられて、おじいさんは白いまゆげの影の目をそちらへ向けました]
これから、お戻りになられるところでしたの。
わたくしと逆ですわね。
そろそろ、蛍が綺麗、と聞きましたので、見に行ってみようかと思ったのですわ。
[森から宿へと向かう道。
ちょうど逆にくる旅人が見えました。
とんがり帽子がないので、銀の髪がぼんやり光って見えるようでした。]
よお、こんな時間にどうした?
旅に出るにはちと遅い時間だぞ。
[小川の流れより大きな声が響きます。]
〜 村の中 〜
うぅん。
どうしよう、どうしよう。
〔背中に小さなリュックを背負ったアナは、閉まってしまったお店の前で、唇に指を当てて困り顔をしていた。〕
おとなりさんに、分けて貰えばよかったかな。
〔ぐるぐるぐるぐる回ったあと、月と星の明かり、それから家から零れる光を頼りに、人気のない暗い道を歩いていく。〕
おお、蛍か。今年ももうそんな季節なんじゃのう。
気を付けて行っておいで。変な噂も立っとる事じゃしの。
[相手が若い娘さんなので、おじいさんは心配そうです]
村の設定が変更されました。
あら、大丈夫ですわ。
奥深い所までは行きませんし、遅くなると牧師様にもご迷惑をおかけてしてしますますから。
[心配そうな御隠居に、にっこりと笑って答えます。]
変な噂……ホラントさんのお話でしょうか?
おや。
ドミニク殿か。
[大きな声が聞こえたので、旅人はぱちぱちとまばたきをしました。
そうしてそこにドミニクがいるのを見つけると、ぺこりと頭を下げました。
しばっていない銀の髪はさらさらとゆれます。]
蛍を見に行こうと思ってな。
ツィンカ殿が、きれいだと言っていたから。
彼女は今日の朝、村を発ってしまったようだけれど。
[少し首を傾けながら、旅人はそう言うのでした。]
〔仕方ない、と家のほうに戻っていこうとすると、教会のほうで話し声。
ちょっぴり心細かったらしいアナは、少しだけ急ぎ足に、そちらへと向かっていった。〕
ドロテアお姉さん、ベリエスお爺ちゃん。
こんばんは! いい夜ですね。
うむ、それなら良いのじゃよ。
[にっこり笑うドロテアを見て、安心したように頷きます]
そうじゃ、ホラントの話じゃよ。
あやつの事だからあんまり信用してはおらんのじゃが、前にもどこかで同じ話を聞いたような気がしてのう……。
[おじいさんがこの村に来たのは、歳をとってからのことです。
だからそのお話を聞いたのも、こことは違うどこかの村でのことでしょう]
あら、アナちゃんこんばんは。
[急ぎ足でやって来たアナに、まずは挨拶をして。]
どうしたの、こんな時間にひとりで?
[それから、少しだけ首を傾げてたずねました。]
おや、お嬢ちゃん。
こんばんは、こんな所でどうしたね。
夜遅くに表へ出るのは危ないぞい。
[アナの声に振り向くと、やんわりと言い聞かせるように言いました]
ホラントお兄ちゃんが、どうかしましたか?
〔聞こえたおはなしに、アナはまるい眼をぱちくり瞬かせる。〕
灯り用の油が、切れちゃったんです。
買いに来たんだけれど、お店、おしまいみたいで。
お家は、天の明かりを分けて貰うか、蝋燭を使ったらいいけれど、お兄ちゃん、きっと困ってしまうから。
[綺麗な銀の髪が流れて挨拶するのを木こりは頷き返します。
それから黙って話を聞いていましたが、ツィンカが旅立った下りで口が大きく開いて、がこんと閉じました。]
そうか。行っちまったか。
また来る時にはどれだけ化けてるんだかな。
……蛍、いる場所知ってるのか?
[つい零した呟きを気まずく思い、大男は話題を変えようとしました。
つまりは、元に戻っただけですが。]
……同じ、お話?
他の場所にも、人狼のお話はあるのですか?
[ご隠居の言葉に、一つ、瞬きます。]
ああ……ホラントさんの噂話の事を、ちょっとお話していたの。
灯り用の油なら、この間買い足したばかりだから、わけてあげましょうか?
ランタンが使えないと、ホラントさん、困ってしまうものね。
ホホ、なあに、ホラントの噂話を聞いて少々びっくりしてしまったのじゃ。
あんまりみんなを脅かさないようにと、あやつに言っておいてくれんかのう?
[そう言って、アナが事情を話すのを聞きました]
ほう、お兄ちゃんのために油をのう。
感心な話じゃが、嬢ちゃんに何かあったらホラントも悲しむぞい。
[そしてドロテアが油を分けてあげると言えば、そちらに頷くのでした]
ツィンカ殿は化けるのか。
[つぶやきはしっかり拾ったようです。
生真面目なようすで、旅人は首をかしげるのでした。]
いいや。
だけど、ここに来る途中で小川を見たから、きっとそこだろうと思ったんだ。
[話題が元に戻りましたので、旅人もかしげた首を元に戻します。]
[おじいさんは、ドロテアの言葉に頷きます]
おお、そうじゃ。
こういう怖いお話はのう、多少形は違えども、いろんな場所にあるものなのじゃよ。
ホラントの噂話は、果たして何処から仕入れてきたものなのかのう。
ドロテアお姉さん、ほんとう?
……でも、やっぱり、悪いです。
油も無料じゃないもの。
夜中にひとりで歩くのも危ないから、今日はお休みして貰って、明日、また買いに行くほうが、いいかもしれません。
〔ゆらゆら揺れる天秤は、どっちに傾くのやら。
理由をつけて、自分を納得させようとしているよう。〕
人狼の、おはなし?
確かに、こわいおはなしで、みんなを不安にさせちゃうのは、いけません。
でも、ほんとうなら、大変だから。
きっと、お兄ちゃん、気をつけて欲しくて言っていることだと思うんです。
……ホラントお兄ちゃん、いろんなおはなしをするのが好きだけれど、あんなにこわいのは、初めてかもしれません。
あっちの、
〔昼間、メルセデスに話したときと同じように、アナは黒い森を指さす。〕
遠くの方に行くようになってからだと思います。
誰かに、おはなし、聞いたのかな……?
でも……御伽噺ですわよね?
[ご隠居の言葉に、聞き返す声はちょっと不安そうです。]
ホラントさんのお話は不思議。
みんなが知っているお話だったり、誰も知らないものだったり。
本当に、どこから聞いてくるのかしら?
[しっかり拾われたらしい一言に、大男の背が揺れました。
傾げられた首から髭面を背けて小川の奥を指差します。]
そう、あっちだ。
綺麗な水が好きだからな。
……まだ足元があんま良くねえ。気いつけろ。
[元に戻った首を横目に木こりはそう継ぎ足しました。
そうして、余計なことを言ったとばかりに、むすっと口を閉じました。]
あら、困ったときはお互い様、でしょう?
油は、後で返してくれれば構わないから、大丈夫よ。
牧師様だって、わかってくださるわ。
[迷っているようなアナの様子に、にっこりと笑います。]
それに、油がないからって灯りも持たずにでかけたりしたら、その方がよっぽど危ないわ?
おや、羊飼い アルベリヒ が来たようです。
[村はずれの小さな牧場に、一人の羊飼いが住んでおりました]
アリーにベリー、シリーにデリー、イリーにエリー、みんな揃ってるかい?
ああ、ごめん、フリーを忘れていたな。ほらほら、早く小屋に入った入った。
……それは、困っちゃう。
もう、行っちゃったり、していないかな?
〔ドロテアの一言に、アナの心配は、ほかへと移ってしまった。
あっちこっち、視線は行ったり来たりをくりかえす。〕
そうじゃのう。本当になったら大変なことだ。
じゃから、普段から気を付けておくのは大切なことじゃよ。夜に外に出ない、とかのう。
……遠くの方か……。
[一度黒い森の方を見てから、ドロテアへと向き直ります]
ホホ、勿論そうじゃよ。
わしゃ長いこと生きとるが、それでも獣に化ける人間など見たことがないからのう。
安心するのじゃよ。
[不安そうなドロテアを見て、おじいさんは明るく笑うのでした]
[羊飼いの飼う羊は七頭、最後の二頭は双子の羊で、見た目もそっくりのおちびさん。いつも片方を忘れてしまいそうになるのです]
どうした?今夜はいやに落ち着かないじゃあないか。
まさか…いやいや、狼なんか来るわけないよ。
さあさあ、安心しておやすみ。
合っていたか。よかった。
ご忠告、感謝する。
[口を閉じてしまった木こりに、旅人はぺこりと頭を下げました。]
ドミニク殿は、これから宿に行くのかな。
食事はできているよ。
冷めてもだいじょうぶなように作ってあると、お婆さんが言っていた。
[そうして、ふと、思い出したように言いました。
昨日もその前の日も宿で会いましたから、旅人はそんな風に思ったらしいのです。]
ね、そうなったら困ってしまうでしょう?
……勿論、一番いいのは夜中に出歩かない事なのだけれど……。
ちょっと、待っていてね?
[あっちこっちを見るアナにつられるように周囲を見回すと、一度、教会の中へと戻ります。]
……うん、気をつけます。
〔ふたりに言われて、アナは、しゅん、となってしまった。
心なしか、結んだ髪まで垂れているみたいだ。〕
夜は不思議な感じがするから、つい、外に誘われちゃうけれど。
それでも、何かがあったら、たいへんだもの。
お姉さんと、お爺ちゃんも、気をつけてくださいね。
口うるさく言ってすまなかったのう。
嬢ちゃんは賢い子じゃから、きっとわかってくれると思ってのことじゃよ。
[そう言って、しゅんとしているアナに微笑みかけます]
そうじゃな、わしも若い頃は夜が好きじゃったよ。
夜風に当たり星を眺めるのも良いものじゃ。
この歳になると夜は眠たくなってしまうがの、それでも出歩く時はよおく気を付けておるよ。
[素直に頭を下げられて、木こりは居心地悪そうに身じろぎました。
見透かされたような言葉に齧りかけのパンを握り締めます。]
木こりは食わないと動けんからな。
それに…ゼルマさんの飯は冷めても旨い。
[ぶっきらぼうに言うと、背を向けてのしのし歩き出すのでした。]
[教会の中に戻り、灯り油を小さな入れ物にわけて、しっかりと蓋をします。]
はい、お待ちどうさま。
気をつけて、もって行ってね?
[それから、外に戻ってそれをアナに差し出しました。]
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