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[――だから、銃は嫌いだ。
ぷつりと体の中に這入って来る其れ。幾ら小さくとも衝撃は伝わり、体がぐらりと崩れた。
銀のチェーンのその下。小さな銀のメダルの裏側に、小さく折り畳まれたカードは在るのに――せめて此れだけは守らなければと思うのが、意識としての最後か。
其の時、反応の遅れた黒の手は、今までの様に彼女を守りはせず、
只、ほんの微かに照準を外させただけで、殆ど変わりは無いのだった。
止めなどささずとも、もう――其の体に動く力は無い。声を出す事も出来ない。
ただ黒が僅かに震えて、床に根を下ろす。カードを取られないように――其れは殆ど力を成さないのに。]
[せめて、誰だったか位、教えられればと、
若しかしたら其の時に考えたかもしれない。
只、其れが叶うほど命は残らず、
口唇から頭から背中から紅は零れ、紅の瞳よりも彼女を染め上げる。
胸元の紅い花は、甘い血のにおいに埋もれ。
もう、指先も動かないのに。
見開かれた紅の瞳は――其処を映して]
[猫は走った。ひたすら走った。
飼い主ではない、ただ一人の心から認める友の為に。
それは猫の持つ野生の勘と言うものでしかなかったのだけれど、ただただ走る。
やがて、かすかに扉の間の隙間を抜けて彼女の元へと辿りつく。
一歩、二歩、と歩き出し。
ゆっくりゆっくり彼女に近づいた。
生きているのか、死んでしまったのかもよくわからなくて、とりあえず猫は彼女の頬をぺろりと舐めた。
彼女が生きているなら、きっと喜んでくれると思ったのだ]
[ノブの動きに変化はない]
はぁ。こんな事ならシャロンについてた方がよかったかなぁ?
[そんな事を呟きながらぼんやりしていると、唐突に二つの殺気が膨れ上がった。
はっとして、そちらに向かおうか迷っている間に、殺気の一つは消えうせた]
……誰か死んだのか?
いや、死んだな……。ったく、これだから殺したがりの死にたがり連中は……。
「レッグ様」
ナナエか。誰が逝った?
「オーフェン様にございます」
[あの、何処か寂しげな少年の顔を思い浮かべ、大きく溜息をついた]
どうせなら年寄りが死ねってのなぁ。
シャーネーナー。俺も少し見てくるから、ここは頼むわ。
[そう言って少しばかり歩を進めたところで、猫を追いかけていく集団を見つけた]
?
何だ?
[そう呟き、彼もまた猫の後を追いかけ始めた]
[先ほど弾かれた自分の銃を拾い上げ、埃を払って、懐のホルスターへ。左腕の小型拳銃の仕掛けは取り外し、しまう。]
[荷物の中から一本のコンバットナイフを取り出すと、無造作にシャロンの血だまりに突っ込んで、適当な布で拭く。]
[まだシャロンが生きているのは分かっていた。]
[向かうすがら、また違う気配が揺らぎ。思わず紅が弧を描く。]
皆血が滾っちゃってるのかしらね?ま、こんな状況じゃぁ当然なんでしょうけど。
[目的の部屋にたどり着けば、出て行く1匹+αが見え。気にかかったが先にこちらをと部屋を覗けば。]
派手にやっちゃってるのね……遺体すらないだなんて。
[思わずため息。]
参ったなぁ……これでうまくやれるかしら?ま、やるしかないんでしょうけども。
[もう其れは死体とも云って良いものだっただろう。
猫の舐める感触など、伝わる筈も無い。
只、ただ。
其れはある種、奇跡とも云えるのか? それともただの、反射なのか。
守るべきは、カードではなかった。
まだ其処に居る裏切り者の手に、彼女が誤ってかかってしまわないように。
守る様に、動いた。
紅の瞳は白を映す。――動けたなら、口唇だけでも動かせたなら。
否、其れを認識して居るのか居ないのか、其れすらも判らぬままに。
エドガーが、生に気付いて居ても居なくても。
そして突き立てられたナイフに、
*もう、何の奇跡も、起きるわけはなくなった。*]
[力の衝突を感じ取り目を細める。そして騒ぎ出す白猫]
ふぅん、続けざまに事が起きるなんて。何だかんだ言って皆暴れたかったんじゃないの?
どうやら、その子も何か感じ取ったようだね。ついていこう
[そして駆けていく白猫についていった]
[だが同時に止めも必要無いと分かっている。]
[もって数分だ。何か余計な事を出来るほど力は残っていまい。いつもなら、痛み止めを射ったりや懺悔を聞いたりした所だろう。が、彼女は殺しの標的ではなく敵だった。勝者が敗者にそんな事をすれば、余計に彼女の最期を安らかならぬものにしてしまう。]
[だから、何処からともなく現れた猫も、ただ見ているだけにした。]
―自室―
[衣装を外し、浴室へと入る。
シャワーを捻り、水と石鹸とでザッと肌を流す]
このままじゃ巻き込んじまうからネェ。
[香気を香気で押さえ込む。
抑え切れないそれで周囲を巻き込むのは本意でなかった]
[猫は彼女に守られたかったのではなく、彼女にただ笑ってほしかっただけなのだが。
それは叶わず、洞へと閉じ込められてしまえばそれは嫌だとば仮にかりかりと洞の中から爪を立てたけれどそれは開くことはなく]
[ややして、廊下から部屋にバタバタと幾つかの足音が届き始めるだろう。
眉は鉄錆の匂いによって歪められ、やがて彼らは白羊卿の座所へと辿りつくだろう]
[二枚の紙が舞い、一枚が落ちる。ひらひらと舞い落ちる其れを手に取って]
…君が落ちたか。シャロン。
[頭上で未だ舞い続ける一枚の紙。そこに浮き上がる一点の黒い滲み。それが徐々に広がっていき]
─それは一点の違和感。
『戦わせない』と言ってたのは何故なのか。
裏切り者は複数居るとは言え、絶対数は圧倒的に少ない。
我々が活発?にランダムに戦った場合、彼らが撃破される可能性もまた上がる。しかし、我々を大人しく固定しておけば、彼らの望む形で各個撃破する事ができる…。
一方で「我々が最早ボスに信用されてない」と言い危機感を煽り、一方で「自分がボスを説得する」と言う…。
[黒い滲みが一気に広がり紙を黒く染め上げていく]
何時以来だろうね、ここまでするのが必要になるのは。
白羊のに知られたら笑われてしまうかネェ。
[湯を浴び直し、蛇口を捻って止める。
タオルで拭きながら浴室を出て、衣装を再び纏う。
微かに硬質な音が響いた]
やれ、もう一つの途絶えた気配を確認に行くか。
[ゆっくりと部屋を横切り、扉を開く]
[白い影を追い、かけた先。
見えて来たそれは、ある程度、予想していた場所で]
『やっぱり、裏目に出たかっ!』
[ふと過ぎるのは、そんな苛立ち。
無意識の内に、唇が噛み締められるか]
――此処は、白羊宮の…、
っ…!
[後を追うように踏み入れる部屋に気付き、僅かに目を細める。
そうして立ち込める徹錆の匂いに、口許を覆うように手を当て。
卓上へ投げ出された武器と、床へと伏せた身体に眉を寄せた。
椅子へ落ち着き払い座る、部屋の持ち主へと向ける視線は
レンズの向こう、鋭く。赤と銀に光って]
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