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なるほど、此方が守されたか。
それも悪くはないかも知れぬね。
[落とされるのにつられて声は潜まる]
さてなはてな、どうだろうね。
此方としては濃色の子も気にかかりはするけれど、
此方の及ぶ場とも思えず、悩みどころ。
[首を傾げつ念押されても、素直に言うはずもなく。]
…大丈夫じゃと言うておろ。
なに、我が仏頂面はいつものことじゃ。
そなたが心曇らすことに非ず。
[邪気なき笑みに、ついと琥珀が逃げるは照れたや否や。]
そうですかい…天狗の里に隠される子供は、どうも、いかにも難しい。
[ふと白い霧を見遣った顔は、珍しく僅かに憂いを帯びて見えたか]
[烏とあやめが交わす言葉は聞こえぬものの、その様には、何か感じてか、ゆる、と首を傾げつ]
笑わぬと、こころがいたむといわれたの。
だから、心配なの。
[琥珀がそらされる意にはやはり気づかぬか。
紅緋はきょとり、としつつえいかを見つめ]
おや、そうですかい?
[あやめの言葉を聞けば、瞬時にいつもの笑みに戻って]
これでも、天狗に誘われるのは、二度目の常連なんですがねえ。
腹の虫や、疳の虫…
[縁側で足揺らすその背を、仔うさぎは見ていたろうか。
風が運ぶ酒精も手伝い、半ば伏せる睫毛がふるふると震え、]
…どちらも要らぬわ!
[どちらも要りそな声音で、ぷいと横向く。
追い討ち掛けるよなあやめの言の葉に、ますます頑なになろう。]
[えいかの声には、ますます笑みを深くして。あやめにはこともなげに、頷いてみせる]
そういうことになりますねえ。
以前に迷いこんだのは、丁度ねいろ坊くらいの頃ですが。
[されど童の紡ぐ言の葉を、気って捨てるは心が咎め、]
…そうか。
そなた…風漣は良い言葉をもろうたのじゃな。
じゃがの、笑いたくない時に笑うもまた心が痛むのじゃ。
笑わぬと、こころがいたむでも、
こころがいたむに、笑わずとも良いと…我は思う。
[きょとり向けられる眼差しに、琥珀が揺れて返す。]
…なに、笑いたくば我も笑うゆえ、心配要らぬ。
[やや苦しげに聞こえるは、優しき言葉が性分に合わぬゆえか。]
母様のさいごのお言葉だから。大切にしているの。
[それはえいかに言うよりは、独り言のよに小さき言葉で]
笑いたくないときに……。
[それは、言葉にはできずとも、意は伝わってか。
こくり、ひとつ、頷いて]
それなら、良かった。
[笑いたくば、との言葉に向けるは、屈託なき笑み。
その傍らの小さき獣も、同じく無垢な瞳を向けて]
[俯く面を、風に乱れし髪が隠す。
やや癖のある髪は、風が過ぎても頬に張り付いたまま。]
[問答のあっけない幕切れに、零れた吐息は安堵か落胆か。]
〔すいと様々の色彩から逸らされし眼差しは、
未だに闇の訪れぬ白の天へと向けられて、
白き足は縁側にてぱたり所在無げに揺れる。〕
[縁側の様子に、ゆる、と首を傾げた後、軽めの夕餉を済ませ。
同じく食べ終え、眠たげな音彩が休めるように、と童子たちに頼めば。
自らは立ち上がり、庭へと降りて。
てん、と一つ鞠をつく]
[風漣の小さき言葉を、俯いたままに聞くも。
髪より乱れし心は、言の葉散るよに纏まらず。]
…母上殿の。そうか。
[極短く返し、髪に隠せし揺れ惑う琥珀を紅緋へと向けて。
されど屈託なき笑み向けられれば、ゆらゆらと移ろう。
小さき獣の瞳すら、琥珀は堪えること敵わずに。]
ひいや ふうや
みいや ようや
いつやの むさし
ななやの やくし
ここのや とおや
[唄とともに、つかれる鞠。
くるり、くるくる、朱と金の華が巡る。
最後に空へと投げた花の紋、それを確りと抱きとめて]
…………。
[小さく紡ぎしその言葉、それは*風にとけるよに*]
[リーン…]
[鈴の音が冴え冴えと。白い帳を震わせる]
[静かに開いた襖の向こう、玲瓏たる笑みを浮かべた天狗の神巫は、ゆるりあたりを見渡した]
[ねいろが布団へと運ばれゆくも見ることなく、
てん、と鞠の跳ねる音だけを聞く。]
[視界の端には、所在無げに揺れる白き足。]
[水飴取り出して、はくと咥える。
しばし言の葉交わさずとも、*誰も何も言わぬであろうと*]
〔隠されし星の代わりにか、
くうるり空へと舞うは花の紋。
映す紫黒は何を思ふか定かならず。
されども揺れず移ろわず、
唯ただ静かにそこにある。〕
[ふと、幾人かの者の上に、静かな視線は留まったろうか?]
では、どうか、お心安らかにあらせませ。
あとは、よしなに…
[それは、誰への言葉だったか。]
[振り向かぬあやめとは裏腹に、じっと神巫の姿を見つめ、その姿の消えると同時に目を伏せる]
ひとりはさみし…
ふたりはこいし…
ゆくかもどるか…
[その視線は、いつか空舞う花の紋へと移ろうか]
はてさて…真にくえぬは、いずれの御仁か…
[眠りを誘う鈴の音が、やがて今宵も響くだろう…白い闇夜に咲く花に、笑み浮かべたまま*杯を干した*]
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