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[壁を伝い、廊下を進む姿は、館の主を物言わぬ死体へと変えた(と彼は思っている)犯人像とは結びがたくて。
心の奥底では怯えをはらみつつも、少しづつ近づいて声を掛ける。]
…ぁの、どこへ…行きたいんですか…?
[必要とされるなら、手を貸そうと。]
…俺?
[ローズの事を思えばそれは「よくある事」なのかも知れないけれど。
それでも彼女を傷つけるような事は出来なくて]
…望まない事を無理強いをする気はないよ、俺。
……俺なら…良いの?
[確認するように訊く。
気持ちが騒ぐ…それは今まで感じなかった感情]
―一階・廊下―
[ 広間へと入ろうとすればニ階へ上がって行った筈の男と少女の姿が見え、一瞥すれば頬笑んで頭を下げる。扉は未だ開けておらずに、立ち止まり手を掛けた儘。]
─一階・廊下─
[音楽室を出て、広間へと向かう。
広間にはちょうど、人が集まり始めている所らしい]
…………。
[ふ、と。
自分の瞳の変貌の事が気にはなったけれど。
隠しようもないのだからと割り切って、そちらへと向かった]
[彼が知っているのは、ぐたりと意識なく横たわる青年の姿だけで。
強い光を放つ琥珀色の双眸に、気圧されたまま動けずに。]
………ぁ、
[けれど、額に浮かぶ汗の珠に気付けば、具合が良くはない事が察せられて。撥ね退けられるのを半ば覚悟しつつも、手を伸ばそうと、]
[自分を支え、抱き留める青年の腕の向こうに、ヘンリエッタはいつまでも橋を見ていた。]
なんで……?
[同じ問いが繰り返される。
青年に促されるまま体は動いても、心はそこに止どまったまま。]
ああ、いえ。今丁度、部屋に入ろうとしたところで。
御見掛けしたのに、御挨拶もしないのは失礼ですから。
[ 云いながら両開きの大きな扉のノブを回して、ゆっくりと押す。暖かな空気が広間の中から流れ、幾人かの気配が在るのが感じられた。]
御二人は……何方にいっていらしたんですか?
[ 顔は二人の方に向けた儘、先程の様子を思い返しつつ訊ねる。]
あなたが、わたしを望むなら。
どれだけ酷いことをされても構わないわ。
…あなただからよ。
あなたはとても優しいから。
[好きになる、とか、求める、とか。
そういうものはよくわからなくて。
…それはもうずっと前からだけれど。
ただ。
彼なら、彼だけは、何をされても構わないと思って。]
館の主へ、花を手向けに。
[短く答える。]
もっとも、別の収穫もあったりしますが。
[花籠には葡萄、石榴、そして数日前に見たきりだった真っ赤な苺。]
[佇んでいたハーヴェイの声。問いかけ。開けられたドア。暖かい空気。
それらを無言で受け止めながら、少女は大人達をただ見上げていた。]
[何処へ――?]
[死出の旅路へ出向く者を見送りに――]
[口には出ない答えが少女の心を流れる。]
[かさり――]
[空の花籠が…揺れる]
……そう、ですか。
[ ルーサーに然う答えはするも、直後。バタン。瞬時にして閉まる扉。]
ああ、美味しそうですね。……苺、未だあったんですか。
[ 何事も無かったかの如くに応対する。]
[名乗ってから、初めて青年の名を知らないという事実が頭を掠めたけれど。
堰を切ったように続けられる青年の言葉に、意識は奪われて。つっかえながらも言葉を返そうと。]
ぇっと、ここは…アーヴァインさんの館です。
村からは離れてて…崖の上、と言うのが近いかなぁ。
…あ、村は吊り橋を渡って山を降りた所で……お兄さんはその吊り橋の近くに倒れてた、のかな、うん。
あの、お兄さんは…村の方から来たの?
その怪我は…村に何かあったの?
[――途中からは、村にいる家族の心配が口をついて出たが。]
─広間前─
[意を決してやって来た広間の前では、一種奇妙な光景]
……なに、やってんの?
[一度開けた扉をすぐに閉めたハーヴェイやルーサーの様子に、かくん、と首を傾げて]
[ローズの言葉に苦笑して軽く首を振って]
君にそんな酷い事はできないよ。
君を望んでも…望んでいれば尚更傷付けたくはないから。
俺は優しくない…臆病なだけだよ。
…嫌われたくないだけなんだ、君に。
―一階・廊下―
[部屋の前で服の皺を軽く整え、広間への道を歩む。大分人が集まっているのが遠目に伺え――というより、何故か広間の扉の前に、のようだったが。
階上から微かに声が聞こえた気がして、そういえばあの緑の髪の少年は大丈夫なのだろうかなどと思い、見上げた]
-回想/広間〜ヘンリエッタ私室-
[赤に捕われた少女の耳に、他者の言葉は届いていたのだろうか。
ただぼんやりと、目の前で交わされる言葉を、感情を見ていた。
昨夜から一時に色々なことがあり過ぎて、何を受け入れ何を拒否すれば良いのか分からない。
全てを受け入れるには、少女の心は幼過ぎた。混乱したまま、自分の部屋に戻り寝台に身を投げ出す。
眠りだけがただ、ここから逃げ出す手段であったから。]
なんでもないって……。
[とてもそうは見えないのだけれど。
しかし、追求を遮るようなルーサーの笑顔に、う、と言葉につまり]
よくわかんないけど……入らない方がいい、ってコト、なんだね。
[それでも何となく、察しはついているから。
こう呟くに止めておく]
[圧力さえ感じる笑顔には、子供でよかったと思いながら]
あら、神父様…
苺も採っていらっしゃったのですね…。
これはジャムか何かに?
[鈴なりの声で問い掛けを――]
[自分の立て続けの問い]
[少年の精一杯の返答に]
[一心に耳を傾けていたが]
たおれ、ていた……
[肌蹴た夜着より覗く][体中に巻かれた包帯]
[幾らか解けたそれに手を遣り]
[考え込む仕草]
[が、][少年の「村」と言う言葉に]
村……?
村…何処、の……
何かあった…?
[懸命に何か思い出そうと]
[噛み締められるよに呟かれる名に、小さく頷く。
そうして、続けられる問いには、一瞬意味が判らずに、]
しにん…?
[しにん=死人。一拍置いて、ようやく意味が繋がって。]
……っ…!
ぁ……あの、ひとは……アーヴァイン、さん…この館の、主…です。
[すぅと青年に負けぬほど、顔色をなくして。
――それでも答えたのは、何故、だろうか。]
-ヘンリエッタ私室-
[どれくらいの時が立ったのだろうか。
自分の叫びで目が覚めた。首に、肩に全身にまとわり着く汗が気持ち悪い。]
目が覚めても、大して変わらないわね……。
[寝てる間に目に滲んだ涙を手のひらで拭い、濡れた布巾で体の汗を拭う。
夢見は決して良くなかったのに、不思議と心は落ち着きを取り戻していた。
朝からずっと遠かった体の感覚が濡れた布巾の感触と共に戻っていく。]
これが、現実。
[少女は、鏡に映る自身を見て呟いた。]
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