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6人目、小説家 榛名 がやってきました。
[昼。
穏やかな時間が流れる集落。自宅傍に聳える木の下で、木に凭れながら原稿用紙にペンを走らせる。不意にペンが止まると、ふ、と息を吐きながら視線を上げた]
………。
[さぁあ、と緩やかな風が吹き、長く垂らした髪を揺らす]
若葉の、季節…。
[瞳に映りしは凭れた木の青々しい葉。風により揺れる髪を押さえながら、食い入るように見つめた]
[しばし葉擦れの音を聞き、揺れる枝葉と木漏れ日を見て。視線を落とすと、またペンが原稿用紙の上を滑り始める]
………?
[再びペンが止まった]
…な、ぁに?
[何かが聞こえた気がした。周囲には誰も居ない。漏れた言葉に対する返事は無かった。
その後聞こえなくなった何かに首を傾げるも、確かめる術も無く。すぐに意識は原稿用紙へと戻された]
7人目、細工物屋 玲 がやってきました。
[祭りを取り仕切る宮司の装束。
それを慕ってきた相手が身につけている]
本当に似合ってるよ。
だから、綾姉なら大丈夫だってば。
[憂いが残る表情を]
それとも。私が言うのじゃ信用できない…?
[下から覘き上げるように見て首を傾げた]
[頭を無造作にかきながら、利吉が旅籠の1階に移動する。
そこには、先程までの利吉同様に所在無さげにあくびをする猫一匹。
それから、覇気のよさそうな主人が一人。
利吉は、猫から伝染されたあくびをもらしながら、主人に近づいた]
ふぁ〜あ。
よー。腹減った。
『……お前なぁ。こっちだって慈善事業じゃねえんだ。
そんな何度も何度も何度も何度も、ただ飯食わせるわけにはいかねえんだよ』
いやまあ、言いたいことは分かるが、俺、金ねえんだ。
『んじゃ、水でも飲んでろ』
それは、実家にいるときによくやってる。
後、小麦粉舐めたりな。
[何故だか可愛そうな人を見つめるような目で見つめられた。
なんとなく、猫からも見下されてる気がする]
『……お前。もうちょいなんとかしたほうがいいぞ?』
なんとか出来るようなもんならなんとかしてるさ。
まあ、男一匹、それなりに生きていけるもんさ。
『生きていけねえから、そんな状態になってるんじゃないか』
それを言われると辛い。
[言いながら、またくしゃくしゃのタバコを一つ取り出して、図々しくもカウンターに座り込んだ]
まあ、んじゃ、希望通り水もらおうかな。
後、塩でいいや。
『……』
[やはり、自分を見る目が哀れみの目に見えるような気がする]
[慌てたように首を振る綾野にクスリと笑う]
そうだよ、父さんも張り切っているんだから。
綾姉の晴れ舞台を自分の細工で盛り立てるんだって。
[人差し指を立てて念を押す。
秒の沈黙の後、二人は顔を見合わせて笑った]
当日、楽しみにしてるからね。
お祭りにって戻ってくる人達も絶対に驚くよ。
それじゃ、またね。
[笑い余韻を残したまま、畳から立ち上がる。
鞄を抱え直し、バイバイ、と手を振って外へ出た]
[村の規模から、泊まりになるようなら最悪野宿を覚悟していたのだが。]
こんな小さな村にも、旅行で来るやつがいるのかね…?
[あっさり見つかった旅籠に、独りごちる。]
[ギィ、と軋むドアを開けて、中へ。]
[薄暗い屋内に、一瞬目を瞬かせる。と、]
…ん?
『ほらよ』
[注文してから出てきたのは、希望通りの水。
それから、野菜屑で作った野菜スープ。それとひとかけらのパンだった]
お。いいのか?
『……うちの宿で餓死されても、評判悪くなるしな。
……ったく。俺もまだまだ甘いな……』
[食うに困らない、とはこういう理由らしい]
悪いね。んじゃ、いただくよ。
[言って、口にくわえたタバコをギュッと握り締めて消すと、粗末ながらも、利吉にとっては豪勢な食事にありついた]
[利吉が、一度二度、目をまたたかせて、その人物を眺めると、パンを飲み干してから口を開いた]
聡……か?
お前、何してんだこんなところまで?
何でも屋の仕事はどうした?
あんたこそ探偵の、
あー、いやあって無いようなもんだよな、あんたに仕事なんて。
俺は…[言葉を濁す。「呼ばれたような気がしたから」なんて馬鹿々々しくて言えない。]
別にいいだろ。
あんたなんでここにいる?
俺はまあ……なんつーんだろうな。
依頼っちゃ依頼かな。
お前も知ってんだろ。
あの警官の兄ちゃん。
ほら、よくお前をしょっぴいてたあいつ。
あいつから、この村で何かが起きる、みたいなこと言われてな。
そんでまあ、特にやることもないし、旅行がてら、な。
[しばらく集中していたが、滑らせていたペンを止め、大きく息を吐いた]
残りは、明日。
[少し疲れたような表情で呟き、道具を仕舞うと自宅へと入る。既に母親が畑仕事から帰っていて、今日採れた野菜を旅籠に届けて欲しいと頼まれた。体調が優れないなら自分が行くからとも付け足して]
ん、持って行くくらいなら大丈夫。
行って来るね。
[部屋に道具を置いてから、持って行く野菜を籠に入れて自宅を出た]
8人目、学生 涼 がやってきました。
あいつのか…
[苦い顔をする。その警官と利吉には何度か煮え湯を飲まされている。]
何かが起きる、ね。ったく、相変わらず暇だなおっさん。
[スタスタとカウンターに寄ると、二人の会話には興味なさ気に新聞を読んでいた主人に声をかける。]
飯をくれ。
『こちらで?』
おっさんの隣じゃ飯が不味くなる。弁当かなんかあるか?
『ちょっとお待ちを。』
[主人は短く言い置いて、奥に下がった。]
あー、もー、サイアクー
お土産とかいうしー……まー仕方ないかー。
[電源切って、ぽいっとバッグにしまう。いちおー持ってきた電源は、かなりムダになったっぽい。地図もプリントしといてよかった。そうじゃなかったらぜったい、迷う!]
えーと、こっちから来たんだしー、
……よく考えたら迷うわけないじゃんああもう!
[その言葉には、少しも気にせずに、利吉が話を続けた]
それにしても、聡。
おめー、またあいつがぼやいてたぜ?
ヤンチャしすぎんなってよ。
俺も、まあ、人のことは言えねえから、なんも言えずに、うむうむ、とか適当に頷いていたがよ。
ま。俺にとっちゃ、お前みたいな若い奴は、少しぐらい無茶するぐらいが丁度よいと思うがね。
死なねえ程度に適当にやってみればいいさ。
[言いながら、野菜スープをズズリ]
[やがて、呼び出し音を響かせる受話器を手に足を何度も踏み変える姿があった]
…あ、ようやく出た。
寝ぼけてるの?ちゃんと起きてっ!
[やる気の無い声に怒鳴り返す。
でないと兄は右から左になりかねないのだから]
うん、まぁこっちはそれなりに。
それよりも桜祭りの時期なんだけど。
父さんが連絡して戻らせろって。
[怪訝そうな相手の声に、溜息を吐き]
さてはまた戻らないつもりだったでしょう。
今年から綾姉が宮司として取り仕切るの。
父さんは今そのための準備におおわらわなんだから。
…その辺はいつもと同じ。
儀式の日程が変わるわけないでしょう?
[トントントン、と通話口を軽く指で弾きながら]
お土産のリクエスト?
じゃあね、前に貰ったほら、あのお店のクリームの…。
[ちゃっかり頼み込んだのは生菓子。
これなら送るというわけにもいかないだろうという悪巧みを含めて。
それからも何だかんだと押し問答やら近況報告やらを交わし]
うん、それじゃね。
これで戻ってこなかったら馬鹿兄、の上に超がつくんだからね!
ちゃんと戻ってきてよ!!
[最後にも念押しを忘れずに電話を切った。
それが数日前のこと]
……っかし、まあ。
[煙草に火を点け、文字通り一服しつつ、ぽつり、呟く。
ここから集落までの峠の下り道は、ガソリン節約のために押して行かねばならず。
その前の一休み中な訳だが]
三年前も、七年前とかわらねぇなぁ、って思ったもんだが。
……ほんとに、全く、変わってねぇよなぁ。
[そう簡単に変わるものでもないのはわかっているが。
妙にしみじみと、こんな呟きをもらしていた]
[籠を手に旅籠へと向かう。途中、祭りの準備をしている様子が見えた]
お祭り…魂鎮めの、儀式。
今年から、綾野が取り仕切るんだっけ。
皆、頑張ってるなぁ…。
[祭りの準備。身体が弱い榛名にはその準備すら手伝うことが出来なくて。眉尻を下げ、悲しげな表情でそれを遠巻きに見るしか出来なかった]
………。
[しばらくそれを眺めた後、再び旅籠に向けて歩み始める]
[所変わって旅籠の前。]
おォ。
すげェ、まだ続いてんじゃん。
[3年前と変わらない場所に建つ建物に関心したように呟きつつ、扉を開けた。]
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