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― 翌朝 ―
[修道院の朝は早い。
場所が変われど体に染みついた習慣は消えはしなかった。
早朝、寝台から起き出し身なりを整えて祈祷を行う。
そうしていれば館の主も起き出す頃合いになろう。
一泊の礼と挨拶をしてから発とうと思っていた。
朝の静寂は思いのほか早く破られる。
上がる声>>0:175は驚きゆえのものか。
聞き覚えのある声音に伏せていた視線があがる。]
この声……、
[何かあったか、と、立ち上がる。
部屋を出ようとドアノブに手を掛けたところで違和に気付いた。]
[利き手である右の甲、手首に近いその位置。
うっすらと色が変わり痣のようになっている。]
――…ん。
何処かで打ったか?
[思い返してみるがそのような覚えはない。
首を傾げながらその痣を怪訝な表情で見据える。
何か見覚えのある形に思えなくもないが
その輪郭はまだぼんやりとしていた。
普通にしていれば袖口で隠れる位置。
痛みもないことからさして気にせず、
そのままにして部屋を出る。]
[泊まるつもりはなかったから荷物は殆どない。
声が外から聞こえた、とまでは分からず
防寒着は部屋においたまま。
階段を下りて辺りを見回す。
少しばかり出遅れたせいで、
そのころにはすでに橋の有様を見た者も
帰ってこようとするところかもしれない。
厨房ではすでにエーファが竈に火をいれていた>>19。
視線を落とせば黒猫が静かにそれを見守っている。]
おはよう、エーファ、モリオン。
少し前に、声がきこえたんだけど、何かあった?
[声を掛ければ、氷の堤の件は聞けるだろうか。
外に出られぬ事を知ると少し考える素振りをみせてから
広間へと行き、暖炉に火をいれ、悴む指先を温める事にした。**]
─ 演奏会の翌日 ─
[堤で橋が壊れたことをギュンターに伝えると、それならば仕方が無い、と無理に渡らず滞在するよう指示が出た。
この辺りはイヴァンと同じような判断らしい]
俺がここに来てるの知ってるはずだから、橋が壊れたことは多分今日中に伝わると思うよ。
橋の架け直しには堤もどうにかしなきゃならないけど…臨時的な吊り橋みたいなのをまず架けることになるんじゃないかな。
脱出を優先しないとならんだろうし。
氷の上に乗せる形になるかもしれないけど、直接氷の上歩くよりは良いっしょ。
[大工として、村の方で取るだろう対策をギュンターに伝え、ギュンターからも同意を得た。
自分がこちらにいるのだから、道具や材料さえ行き来させることが出来れば作業も早く終わると考えてもいる。
道具等の行き来には恐らくロープを渡してのやり取りになるだろう。
これは岸向こうからロープつきの矢を放ってもらえば比較的に簡単に出来る作業だ]
[ユリアンの部屋を訪れると、具合が悪そうなユリアン>>33が顔を出した]
ありゃ、昨日の演奏会で冷えたか?
エーファに薬無いか聞いておくわ。
飯も運ぶから今日は寝とけよ?
ま、しばらくはここで滞在することになっから、今日に限らずゆっくり休んで完治させた方が良いぜ。
[そう伝えるに至る背景、橋が氷の堤で壊れてしまったことも伝えておく。
ユリアンから掠れた声>>34で確認され、頷きを返した]
多少時間はかかるかもしれねーけど、直に架け直しの作業が始まるさ。
だから出られるようになるまでに治しとけ。
[体調が優れないうちは外にも出せない、と。
念を押してその時は部屋を辞した]
[エーファにもユリアンのことは伝え、薬のことや食事を運んだ方が良い旨を伝えた。
食事は手が離せないようなら運ぶのを手伝ったりもする]
…しっかし、あんまりやることもないよな。
[屋根の雪下ろしでもすっかなー、なんて考えるのは、基本的に力仕事しか出来ないが故。
この後に起こることなど、予感すらも抱いていなかった**]
─ 2階客室 ─
[エーファが様子を見に来てくれれば、熱でうるんだ瞳を向け、ビルケのための食事を頼むだろう。
残り物の野菜くずを柔らかくなるまで煮込んでほしいと。]
面倒をかけてごめんね、でも……。
もう、こんな…おばあちゃんだから…。
[自分のことが話題になっていると気づいて、顔だけを上げる白髪交じりの老犬は、寒さ厳しいこの時期を越せるだろうか。
ユリアンにとっては母とも姉とも思える存在だけに、離れて暮らす家族よりも心配で。
人間の風邪が犬にうつらないと知っていてよかったと心底思う。
そうでなければ、モリオンが嫌がっても、ビルケを暖かな広間で休ませてほしいと頼んでいただろう。]**
─ 厨房 ─
[人の気配に、少年を見守っていた黒猫がぴくり、と身を震わせてそちらを見る。
直後にかけられた声>>38に、刻んだ野菜を鍋に放り込む手が止まる]
あ、おはようございまーす。
[居住まい正して挨拶。合わせるように黒猫も鳴く]
それが……橋の所に、氷の堤ができちゃってて。
橋……壊れちゃったんです。
それ見てびっくりして、その……。
[大声を上げていた、とまでは言えなかったが、決まり悪そうな態度からその辺りは伝わるか]
とりあえず、今無理に通るのは危ないから、村からの救助を待とう、って、イヴァンにーさんが。
……氷って、思ってもない所で割れるから、無理に渡らない方がいいですし。
[ほんの少し声音が強張るのは、過去の経緯故の事。
その様子に、黒猫が案ずるような声を上げて鳴く]
どうするにしても、ちゃんとご飯は食べないと、だから。
できたら、報せますねー。
[殊更に明るい口調でその強張りを飛ばそうとの試みは、上手く行っている……と、自分では思っていたが、実際にはどうだったか。
何やら考えるような素振りにはどうしたのかなー、なんて思いながらも、問いかけるほどの余裕はなく。
ライヒアルトが厨房を離れると、小さく息を吐いて食事の準備を再開した]
[スープを作って卵をゆでて、パンやハムを用意して、と。
そんなばたばたが一段落した頃に、動き回っていたイヴァンからユリアンの体調の事を教えられた。>>41]
ユリさんが?
ありゃ……昨夜、冷えちゃったのかな。
わかった、ちょっと様子見てくるよ。
[風邪をひいたと一言で言っても、症状は様々。
あった薬を合わせなくては効果は薄い]
あ、ご飯できてるしお茶も用意できてるから、先に食べちゃっていいからね。
みんなにも伝えといてー!
[そう言い置いて走り出す。
向かうのは二階のユリアンの部屋。
行く先を察したのか、黒猫はいってらー、と言わんばかりににー、と鳴いた]
─ 二階・ユリアンの部屋 ─
ユリさーん?
風邪ひいたっていうけど、どんな感じ?
[部屋を訪れ、最初に問いかけたのはこんな事。
大丈夫じゃないのはわかっているから余計な事は言わず、顔色を見たり喉を見せてもらったり、とできる範囲の診察をして]
んー……んじゃ、熱さまし煎じてくる。
スープも持ってくるから、食べられるだけ食べてね、食べないと薬の効きも悪いから。
[出した結論に応じて告げると、犬の食事を頼まれた。>>43]
ん、そっちも大事だもんな。
面倒なんて言わないのー、元はと言えばじっちゃんが寒いのに外でー、なんて言い出したのがアレなんだから。
[大本は歌い手なのだが、さらりと責任転嫁して]
ビルケもだよ。
困った時はお互い様なんだから。
……ユリさんの傍で、ゆっくりしてな。
[調子が悪い時は、親しいものの温もりもまた薬となる、とは師の受け売り。
それ故に、こんな言葉をかけてから部屋を出た]
……えーっと、熱さましっていうと、あれとあれと……。
[ぶつぶつと呟きながらまずは三階の自室へ。
部屋に入ろうとした所で、丁度出てきた祖父に声をかけられた]
なに、じっちゃん?
……あ、うん、わかってるよ。
[外に出られなくなった事と、それに伴う客人の世話の話に短く頷いて。
更に何か言おうとする気配に、あ、これ長くなる、と察して]
あ、長くなるなら後にして!
ユリさんが具合悪いから、薬用意しないといけないから。
そっち、優先!
[先んじて言い切り、部屋へと駆けこむ。
閉まった扉の向こうで落ちたため息には気づかないまま、部屋の一角に設えた薬草の棚から必要な物を取り出して厨房へと取って返し。
その後は薬湯を煎じて届けたり、備蓄を確かめたりと一日忙しなく動き回る事となる。**]
─ 2階客室 ─
[イヴァンから伝えられて>>41いたのだろう、やってきたエーファの対応は、
「熱さまし煎じてくる」「食べないと薬の効きも悪いから」>>47
と明快だった。
「元はと言えばじっちゃんが寒いのに外でー、なんて言い出したのがアレなんだから」>>48
と続けられれば、]
うん……実は、昨日の夕方には寒気がしてたんだと思う。
今思えば、演奏会をすると聞く前から……。
自覚してなかったけど。
エーファには手間をかけて申し訳ないね。
…村への橋が、壊れたんだって?
しばらくごやっかいに、なるしかない、のかな…。
[掠れた声で確認する。]
─ 孤立の翌朝 ─
─── ぶえっくしょん!!
[その日は寒さで早朝に目覚めた。
どうやら前日に空気の入れ替えのために開けた窓を閉め忘れたらしい]
うー、寒ぃー。
[両腕を擦りながら窓を閉め、カーテンまで閉めてしまう。
陽を遮った室内は薄暗く、良い塩梅の暗さ]
もーちょい……。
[そのままベッドへと潜り込んで二度寝の構え*]
─ 演奏会の翌朝 ─
そうですか。
[氷の堤が橋を壊した事と、それによる孤立。
館の主にそれを知らされた旅人は、それだけを小さく呟いた]
いえ、いいんです……それならそれで、かくれていられます。
[しばらく出られない、という主に旅人はふるふる、と首を横に振る。
感情薄い様子に主は眉を寄せつつも、それ以上は何も言わず。
ただ、ちゃんと食事を取って体力をつけるように、とだけ伝えて部屋を出た]
…………はい。
[それに、旅人は小さな頷きを返し。
昼近くに厨房を訪れ、スープとパン、それと水差しを求めるとまた部屋へと閉じこもった。
どこか浮ついた足取りで進むその姿は、傍目には幽鬼の類にも見えたやも。**]
─ 孤立当日/夜 ─
あー……疲れた。
[朝から一日動き回っていたせいか、日が暮れる頃にはすっかり疲れ果てていた]
……お客多いのは、いつもなら気になんないんだけどなぁ。
[そう、来客自体は嫌いじゃない。
だから、苦手意識の抜けないカルメンに泊まる旨を伝えられた時>>9も、「構いませんよー」と返せていた。
元より、祖父が構わないと言っているのにこちらがごねる筋もないわけなのだが、それはそれとして]
集中力、落ちてるよなあ……兆候あったみたいなのに、気付けてなかったとか。
[思い返すのはユリアンとのやり取り。>>50
自覚症状もなかったようだから、無理もないのだろうけれど、病の兆候を気取れなかったのはちょっとだけ悔しい。
そんな悔しさもあったから、掠れた声での確認にも「完治するまではここでゆっくりして!」と言い切ったりもしていたのだが]
あと、あっちの旅人さんもなー……。
前から思ってたけど、食細すぎるし……。
[厨房に食事を求めてきた時の様子>>54を思い出して、ため息ひとつ。
スープとパンだけでいい、というから、もっとちゃんと食べてー! とゆで卵やらサラダやらも押し付けようとしたがするりゆらりと避けられた。
あれは駄目だ、後で滋養のある薬湯だけでも飲ませないと、なんて。
あれこれ考えている間にのしかかって来た睡魔は重く──それに囚われた結果の眠りは深いものだった。*]
[手を止めて挨拶を返してくれたエーファ>>44に
気遣いなく、という風に軽く手を掲げた。
身を震わせた黒猫と一度視線が合うけれど
呼ぶでも撫でるでもなく一定の距離保つまま。
鳴き声が聞こえると、少しだけ嬉しげに目を細む。]
橋が壊れた……?
それは……驚くよね。
[氷の堤が出来たというならそれは自然によるもの。
自然の大いなる力の前に人が為せることは限られている。
彼の言葉と表情で、言葉にならぬそれは伝わり、
うんうん、と頷きを向けた。]
[女性のような名と、その相貌。
はじめてエーファを見掛けた際、
「可愛いお孫さんですね」とギュンターに言えば、
性別をそっと補足されて失言するには至らなかった。
料理をしている姿をみていると
性別を知っていても誤認しそうになる瞬間がある。
続く声>>45に思い出は遠のき]
救助を待つ……、ああ、イヴァンさんの見立てなら
その方が良さそうだね。
でもそうなると……、次のミサまでに戻るのは難しいか。
[此処から出られぬ事が教会での役割についてに意識が移ろい
悩ましげに吐息をこぼせど、解決策などでるはずもなく。
問わずとも漏れた思考の欠片で何を考えるかは凡そ知れよう。]
広間を暖めて待っていよう。
手伝いが必要なら声を掛けて。
[そう言い置いて、広間の暖炉に火をいれる。]
[あたたかな部屋。
胃を満たすのもまたあたたかな料理。
十分な食事に感謝を館の主と作り手に伝える。
そうして、部屋に戻り、
修道士としての日課に勤しみ
閉ざされた館での一日が過ぎる。*]
―孤立当日・玄関→―
[カルメンを促すようにして>>25屋敷の中へと戻る。
先に入ったイヴァンやエーファから、他の者たちへも事態は伝わっただろう。
何か出来る事はないかとうろついては見たものの、それぞれに適材適所があるようで、邪魔をしないようにするのが精一杯だった。
そんな中、ユリアンが風邪を引いたらしいと聞いて、ありゃ、と小さく声を零し]
そういえば、昨日もどこかおかしなところがあったけど…体調のせいでしたか。
[と、昨日話している間>>28も何かを気にしていた事を思い出した。それもきっと体調のせいだろうと思うのは、余計な事を考えたくなかったせいだった]
となると、あまり大きな音をさせるわけにも行きませんか。
[やる事がないのなら練習でもと思ったが、頭痛がするようであれば休む妨げになってしまう。]
[やがて食事が出来たとの報告に簡単な食事を済ませ、せめてもと使った皿を洗って
その間に、忙しく飛びまわるエーファ>>49を見つけたなら]
何か手伝える事はある?
もしないなら楽器の練習したいんだけど、ここの音楽室って、使っても大丈夫かな?
[と尋ねてみる。
かつての持ち主が住んでいたときの名残で、今は殆ど使われていないらしい部屋だ。
古いピアノが残されていて、親の反対の目に隠れて時々バイオリンを弾くのに使わせてもらった事がある。
部屋の使用の許可が出たならバイオリンを持ち込んで、暫くの間練習に専念する。
この先の事を考えないですむように]
―孤立当日/夜・2階客間―
[気を紛らわせるようにあれこれしていれば、時間が経つのは案外早い。
朝からいろいろあったせいで疲れたのか、それぞれが部屋に戻るのも早く、男もそれに習って早々に与えられた部屋へと引っ込んだ。]
………これ以上「本当に」何もないといいんですけど。
[無意識に強調して寝台へと潜る。
そう簡単に睡魔は訪れてくれそうになかった。*]
―孤立の翌朝―
[眠りの訪れは遅かったくせに、目覚めの訪れは早かった。
演奏会の時からずっと感じている胸騒ぎのような何かが急かすようで身体を起こす。
元々寝起きは悪い方ではない、折角早起きしたのだから寝なおすのは損と寝巻きを着替え、外の様子でも見に行こうと部屋を出た。]
そういえば、あれから歌い手さんのお姿を見ませんね……
[男がその姿を見たのは演奏会のあの時だけで、食事の時も姿を見せなかった。
姿を見る事が出来たなら、話がしたいと持ちかけるつもりでいた。
同じ音楽を志す物として話を聞きたくはあったし……何故「あの詩」だったのか尋ねてみたくもあったから]
あぁ、今日はまた一段と寒いですね……冬だから仕方ないですけど。
[玄関から外へ踏み出せば冷たい空気が刺さるようで首を竦める。
氷の堤は相変わらずで、思ったより時間が掛かるかもしれない、なんて考えながら歩く。
さくり、さくりと歩を進め、屋敷の陰から先へと目を向けたとき
視線の先に、「それ」はあった]
[そこはあの夜、歌い手が態々「ここで歌いたい」と指定した場所だった。
白い雪の上に無造作に転がる「もの」……]
一体なに………っ!?
[ある程度近づけばわかってしまう、雪の上に広がる赤に。かすかなその臭いに。
まさか、そう思いながらさらに近づいて、そうして]
――……っ
[思わずあげそうになった声を飲み込む。胃の中から上がってくる物を飲み込む。
そこに「あった」のは、無残に腹を裂かれ打ち捨てられた歌い手の亡骸。
どう見ても、人の手で行われたと思えないその惨状に言葉をなくし、ただ唇だけがかすかに震えた]
………時と、場所と
まさか、本当に……?
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