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―西殿・結界前―
あら、アーベル。いらっしゃい。
[精神竜の青年に、ふわりと笑みを向けて]
進展……進展、ね。
とりあえず、今までで解析できた術式の結果。はい。
[そう言って、手帳をアーベルへと手渡した。
無数の式が、数十ページに渡って書き込まれている]
だからどいてください。
[あっちこっちからちゃんと隠すものは渡されているし、もう一度くりかえす。
それからノーラの言うことを聞いて、遠くにいきかけた。]
違います。
これは事故ですから
[それでもこれだけは否定せねばと。]
[正直なとこ、状況とか全然わかってないのだが。
ザムエルの声と、火炎竜からも押し出しを受けているので、いたらまずいのかなぁ、とか、ぼんやり]
えーと。
とりあえず、回れ右??
[きっとそれが正解。いろんな意味で]
タオルはないが、ハンカチならあるぜ。
[ナターリエの声に、服の内側から出してきたのは、ハンカチサイズの白い布。
でるわでるわ。どんだけ隠しもっていたのかという量が落とされた。
だが、サイズ的にあまり意味が無いような気がしなくもなく。]
―― 西殿・結界前 ――
俺はエーリッヒ。機鋼竜だよ。はじめまして、ベアトリーチェ。
[にこにこにこ。可愛いなあと表情が語ってます。それからブリジットに向けた顔は真顔に戻って]
へいちゃらとか言う方に限って無茶とか無理とか、平気でするんですから。
[なんだかしみじみ、実感がこもっているのは、青年の経歴を考えると少々奇妙かもしれない]
ユルは…お助けしたがってますけど、もちろん。でも無理しないのが一番ですよ。
[ブリジットの前で空中に停止して羽ばたいた機械竜が、同意するように黄色く瞳を明滅させた]
…、あ。
[新たに増えた人の影に、幼子が小さく声を上げる。
精神の竜であったか――紹介に預かったことは記憶に新しい。
声を上げたという事は、幼竜にも見覚えがあったという事だろう。
…尤も、仔の記憶の中に対する竜の名が刻まれているかは怪しいが。
確かあの場にて、陽光の仔竜とささやかな争いをしていたと記憶している。]
うむうむ、回れ右じゃ。
[こちらへと戻ってくるティルに頷いて。
未だ硬直しているらしいエルザを見ると、そちらへと向かい、広間方向へと背中を押していくことになろうか]
そう、おなまえ。
[言葉を反芻する翠樹の仔に、懐かしさを覚えた。
アウロラの世話役としてだけでなく、他の仔竜を育てた事もあったが。
仔竜と触れ合うこと自体久々で、どうにも穏やかな気持ちになる]
そうだね。閉じ込めちゃったいじわるな人、見つければ出れるね、きっと。
他の竜さんたちも、たくさんがんばってるみたいだから。
もうちょっと、待ってよね。
[穏やかな笑みを向けたところで、小さな瞳がまっすぐと見据えてきて]
さびしく……かあ。
ふふふ。アウロラの方が、さびしがってるかもしれないわねえ。
[何とはなしに、ぽつりと言葉を零した。ほんの少しだけ、困った笑みで]
え、あ、はい。
[狼狽えているのが丸分かりの声で、ザムエルに答える。
ダーヴィッドに押されるまま、その場を離れながら]
失礼を致しました。
オトフリート様と…ナターリエ、様。
[流水の竜の名前が出るのが遅れたのは、直接の会話がまだ無かったためか。それが余計になるとは思わず、平坦な声で二人へと謝罪を残した]
[タオルを渡されることこそ無かったが、ハンカチサイズの布をもらうと適当に吹き、更に色々と隠すものが寄せられ、とりあえず、それを着込んだ。
そして、ノーラの声が聞こえれば]
ほ、ほほほ。
さすがに、このようなおおっぴらな場面ではあまりいたしませんわよ?
[フォローになってるんだか、なってないんだか。
とりあえずは、そう宣言して立ち上がった]
……お手を取ろうかしらぁ?
[そして、振り返り、オトフリートへと手を伸ばしてみた]
はーい。
[場の音声実況があるんで、色々と微妙な訳だが、このままでは動きようもないし、と判断して、ザムエルに素直に頷いた]
んと、とりあえず、広間に行けばいいん?
[同じく押し出されたエルザと並ぶ形になった所で、ようやくピアが頭の上に移動した]
…水、というか…お水……ってのもちょっと違うや…。
[ともかく、棲むところが違う生き物だということだけはよーく理解したようだ。]
[ようやく立ち上がってくれたときには、もうなんだか、ツッコミ疲れがおきていて。
一応着込んだナターリエが、手を差し出してくるのを見た。]
……いえ。
大丈夫ですから。
[また倒れこむことにはなりたくないし、立ち上がれないわけもない。
むしろ濡れていて、服が気持ち悪かった。]
[手を無視して、床に手を着いて立ち上がる。]
[ 事故。一目見た現状と、周囲に滴り落ちる水。その言い様はまた、別の誤解を招きそうとも思うが、当の竜はそれどころではないのだろう。
ノーラは頷きを返したものの、如何解釈されたかは定かではない。
流水竜の否定も、酷く曖昧なものであった故に。]
―西殿・結界前―
本当にしみじみ言うのね、もう。
[口元に手を当てながら、困ったようにエーリッヒへと呟く。
どうやら図星だったらしく、赤い手のひらは見えないようにしている。
ちかちかと瞳を黄色く明滅させたユルの頭をそっと撫でやり、]
大丈夫。無理はしません。約束、約束。ね?
[ぽんぽん、とユルの頭を軽く叩いて、エーリッヒに微笑んだ]
[色々てんぱってたせいで上着をかけることはなかったのだが。
白いシャツは水を吸っているし、下のさらしが見えてしまうだろう。
その点だけは、自分がてんぱっていたのが良かったと思ったのだった。]
[エルザから聞こえる言葉には]
あぁ……えーと。
一応、事故ですわよぅ?
[至極真っ当な答えを返した。
オトフリートが自力で立ち上がるのは、なんとなく予想はしてたので、何事も無かったかのように手を引っ込め]
―――そう言えば。
何の御用だったのかしらぁ?
[と、今更過ぎることを聞いてみた]
―西殿/結界前―
えぇ、お邪魔します。
[前後してしまった挨拶を氷破竜に返し、渡された手帳に記された術式をレンズ越しの紺碧が流れるように追っていく。
確実に全て目を通した後、ブリジットに手帳を返し考え込むように目を伏せた]
ありがとうございました。
……随分と複雑な事になっていますね。
[深く静かな息を吐き、そうして仔竜らを心配させぬよう口元に笑みを戻す]
エーリッヒ。…きこう?
[ぱちりと幼子の眼が瞬き、真直ぐに相手を見やる。
幼仔とは云え、知識上では父王から聞かされた事ではある。聞覚えはあるだろう。
絶える事無い笑みが不思議か、傾いだ首は更に深くなる。]
はじめまし て。
…エーリッヒはなにか、たのしいこと、あった?
[氷竜殿の前で明滅する黄の光に、驚愕にか小さく肩が上がる。
しかしその表情は、恐れでは無く見慣れぬ不可思議に対するものと言えた。]
やれやれ、何をしておるやら。
[ぽつりと呟いた。誰がどうなっていたかはエルザが名を挙げたために理解出来て。その呟きの対象はもちろん己が懇意にしている者へと向けたもの。尤もそれは心配の念が含まれたものであったが]
うむ、広間であそこの騒ぎが終わるのを待つとしよう。
図書館で得た情報についても耳に入れておいた方が良いじゃろうしの。
尤も儂の推測が大半じゃが。
[ティルに頷きながらそう言葉を返し。ややあって広間へ辿り着くことだろう]
……
[このとき、ナターリエに対して何を思ったかは、オトの心の中だけに秘めておこう。]
食事をどうするか聞こうと思ったんですよ。
中に居たのはあなただけのようでしたから。
水音がきこえていたので……。
[広間に辿り着けば、ぽふ、とソファーの一つに沈んだ。
視覚情報は色々な意味で刺激すぎたらしい]
…ダーヴィッド様に様子をお聞きして。
ああ、ノーラ様にもお伺いしないと。
彼の剣は確か。
[思考が言葉になっている。
そちら側の思考だけだったのはきっと誰にとっても幸い]
[アーベルから返してもらった手帳を閉じ、袖へと戻して]
どういたしまして。
……どうにも、本当にねえ。もう少しで、ちょっとした糸口が掴めそうなのだけれど。
[つられて溜息を零すものの、同じように、仔竜らを心配させないよう、笑みを浮かべる。
翠樹の仔が、小さな機械竜を見つめるのを見て、エーリッヒへと]
ほらほら。リーチェにユルをちゃんと紹介しないと。
あと、ナギさんにもご挨拶しておかないとね?
[くすりと微笑む。気付くか気付くまいか、若い機竜へと話しかけた]
[騒動治まりなんとやら。
さてこっちも立ち去るかと、二人を見た時に気づいたのは、透けたシャツ。
内心ゲッと思ったのは、オトフリートの本来の姿を知るためか。]
っとそうだ。
オトに用事があったんだっけか。
ナター、悪いが借りていくぜ。
[オトフリートとナターリエの言葉を遮るようにして。
オトフリートの腕を掴み、回廊の人気の無い所をずんずか進んでいき、客室として用意されていただろう空き部屋に押し込むようにして入れておいた。]
うん、リーチェちゃんと、待つよ。
…ととさまと、約束したもの。
[真直ぐと見据えた先、氷竜の言葉に仔竜は一つ頷いた。
…はて、事を辿れば何とか父王の姿を一目見れぬかと此の西殿まで来た筈だが。
幼子はそれを忘れたかそれとも敢えて伏せたか。…そこまでは私にも判らぬ。]
おうさまも、さびしい?
……そしたら、はやく出してあげなきゃ、だめだね。
はやく、さがそ。
[困惑に似た表情を、仔は何と読取ったか。]
あー、さっき話してたことかあ。
[ザムエルにお気楽に頷いて回廊を進み、広間へ。
広間につくと、ひょい、と空いている椅子に陣取った]
こっちにいた人らは人らで、なんか、気がついたこととかあったんかな、そいや。
[暢気に言いつつ、まだ残ってるコロッケをはく、とかじり]
ああ。なるほど。
[オトフリートの心中は知らず、ただごく普通に納得した]
でも、それでしたら、そんなに急ぎの御用でもないのですから、メモした言付けを浴室へ置いておくか、私が上がってからたずねてもよろしかったですのに。
[言いながら、皆が離れていくのを見届けてから、適当に脱ぎ捨てられている服を回収して、元の服へと着替えていく]
まあでも。
ありがとうございますですわぁ。
[にこりと笑いながら礼を口にした]
[そうして、先ほど声を上げた翠樹の仔竜の肩の辺りを見、少女の表情と黄蛇の様子を視界に捉える]
こんにちは、ベアトリーチェ殿。ナギ殿。
私はアーベルと申します。
[名について話されている様子を見て、仔竜にわかりやすいよう名だけを告げる]
エーリッヒ殿も、こんにちは。
[年長者のブリジットにお説教している仔竜の姿に口元の笑みが深めつつ、挨拶を返す]
―― 西殿・結界前 ――
実例を沢山識ってますからね。
[先までなら、知識としてのそれは、今は兄弟達の記憶と感情を伴っている。それ故に案じる心は、真剣だったが、隠された掌に気付くには経験値が足りなかった]
約束ですよ?本当に。
[氷破竜に念を押すように言ってから、翠樹の仔へと向き直った]
楽しいのは、君に会えたことかな。新しい友達になれるかと思って。
[機械竜は、幼子の視線に気付いたか、カシャカシャと羽ばたいて、その傍へと近付き、くるりと空中で旋回した]
は?
[思わず、クレメンスの言葉に眉を寄せる。]
私にはなにも
って
[呆然としていたせいで、引かれ、連れられ、部屋に入れられて。
ようやく、息をしっかりと吐き出した。]
―西殿・結界前―
そうだ。
[ぽん、とひとつ手を打った所で、再度アーベルへと視線を移し]
さっき、結界を見てたみたいだけれど。
何か分かったことあったかしら?些細なことでもいいから。
[仔竜達へは、あまり聞こえないように。
アーベルの瞳を、レンズ越しにそっと見やった]
― 東殿・広間 ―
……待たせたの。
[ 幾許か遅れて広間に姿を現した影は、扉の傍で一礼をした。先程の事など、まるで無かったかのような素振りで。変わった事と言えば、普段、肩に羽織っているショールが失くなった事くらいだ。]
それで……、『力ある剣』の事じゃったかの。
おお、そうじゃった。
ダーヴィッドが誰かを調べるという話じゃったな。
じゃが戻ってきたばかりでまだ調べては居らぬじゃろうかのぅ…。
[ソファーに沈むエルザを見て、落ち着かせるようにその頭をぽむと撫でる。
ティルから帰って来た言葉には一つ頷き]
そうじゃな、何かしら分かったことはあるやもしれん。
ブリジット辺りは、懲りずに結界の解析でもしとりそうじゃし。
うんうん、偉いわね、リーチェは。
[しっかりと頷く様子を見て、同じように微笑み、首を縦に動かした]
ふふふ、そうね。はやく出してあげなきゃ、だめね。
がんばって、さがしましょ。
[くすくすと微笑み、優しい翠樹の仔の頭を、もう一度撫でた]
そう言えば、広間に集まる、とか言う話を誰かしていたですわねぃ。
[存外、時間のかかる衣服のためか着込むには少し時間がかかる]
何か新たな情報でも出てきたのかしらぁ?
私も行ってみましょうか。
[髪はまだ濡れたままだったが、ぷるぷると頭を振って、先程もらったハンカチサイズの布を少し頭に巻きつけてから、ナターリエが移動を開始した]
―――浴室→広間
[ナターリエにはへらり常の笑みを向ける。
さて素早く連れ去ったが、気づいていたかは分からない。
億劫そうに口を開いた月闇竜には、はぁっと小さく息をつきながら。]
…中にタオルと来客用の服が適当にあるはずだ。
ちゃーんと拭いて、着替えてから戻ってこいよ。
[口にはしないが、上着透けて色々知られても知らんぞと、暗に告げる。]
ついでに落ち着いて心の準備もしてくれば、言う事なしだけどな。
[みんなの居るところに帰るには勇気がいるよ!
とこれも暗に。
伝えれば、自身は返事も聞かずに扉の前からは離れるのだが。]
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