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……どう考えても異常な状況で、知っている事をわざわざ聞くほど悪趣味じゃ……。
[悪趣味じゃない、と言う言葉は途切れる。
左腕へと伸びる、手の動き。
意識よりも先に身体が反応し、後ろに向けて飛びずさっていた]
……見掛けによって、か?
荒っぽいな、あんた。
[隠さず舌打ちし、距離を詰める]
死体が転がってて手負いのヤツがいる。疑うのは当然だ。
見せて下さいとでもお願いすりゃ見せてくれるのか?
[制止の声がかかるより早くその腕を掴もうと動く。欲するのは緋の一滴で十分。包帯の上から力づくで得ようとする姿は言われるままに荒っぽい]
そういわれてもなっ!
こっちは、ここに来た時から手負いなんでね。
それを理由に疑われても、納得はできんかな!
[言って信じるとは到底思えぬものの、それでもそれは自身の真実。
傷を持つ理由、それを癒すのを厭う理由は霞の奥ではあるけれど]
[ただ、左腕を他者の目に晒すのはできぬ事、と。
それだけは確たる意思としてそこにあるが故に。
腕を掴もうとする動きをかわすべく身体を低く構え、大きく横へと跳んだ]
[ハーヴェイがやってきて、問いかけに答えようとした矢先、先に問いが返る]
[暫し二人をみていたが、近付くとケネスに告げた]
そいつのは、確かに昨日からあったぞ
お前もいつまでも治療しないから悪い
[増えていてもわからないがと、口にはしないが]
[ささやかな晩餐の後は片付けをしてから自室とした部屋へ戻り。しばしの休息を取る]
[夜明け後。目は自然と覚めた。鏡が無いまま身嗜みを整え、出来る限りチェックをすると部屋を出る。ナサニエルとの約束を果たすべく彼を探そうとするが、部屋がどれか分からず、ましてやそこにまだ居ると言う保証もない。おそらくそれはナサニエルも同じだろうと、予測がつけやすいであろう広間へ向かうことにした]
[階段を降り、まず辿り着くのは全ての廊下に通ずる玄関ホール。そこまで来て、ようやく静かな騒ぎに気がついた]
……ちょっと、貴方達何やってるの!?
[相対するケネスとハーヴェイ。険悪なムードであることは直ぐに見て取れた。そちらに目が向いているためか、その先の惨劇にはまだ気付いて居ない]
……はいはい、俺が悪うございました。
[クインジーの言葉に、不機嫌な声でこう返し]
そちらさんに因縁つけられた、としか言えんが。
[上から聞こえたシャーロットには、それ以外に返せぬ答えを]
因縁って……何かあったの?
[階段を降り切って三人が居る傍まで近付く。表情は訝しげなものとなり、それぞれの顔を順繰りに見やった]
来た時からだと?
だったら余計にやばいだろうが。
手負いの獣ほど性質の悪いもんはねえよ!
[クインジーの肯定と何より割って入る女の声に動きを止める。二日酔いの頭に甲高く喚かれるのは微かに残る苦手意識]
ったく、煩そうなのが来たぜ。
オイてめえ、後で覚えてろ。
[ハーヴェイにチンピラじみた捨て台詞を残しその場を去る。向かうのは*食料の得られる場所*]
その何か、を聞こうとしたら、この騒ぎでね。
[シャーロットの問いに、短く返して]
……あんたの考え方の方が、よっぽどタチ悪いってんだ。
[捨て台詞を残して去る男の背に向けて、低く吐き捨てた]
……何よ、見ない方が良い、って。
[要領を得ず訝しげな表情のまま紅紫の瞳をクインジーに向ける]
それに随分と歯切れが悪いじゃない。
ここで何があったのかを聞いたら、掴みかかられたんだよ。
……で、結局何があったんだよ。
大分、物騒な言葉も聞こえた気がしたが。
[首を傾げるシャーロットに答えて、立ち上がり。
続いた問いは、クインジーへ]
普通の状態なら止めるがな
今はそうも言っていられないということだ
[ハーヴェイとシャーロットを順にみた]
昨日の話が本当だったということがわかった
掴みかかられたって。
じゃあ理由もなくってこと?
随分と乱暴なのね、あの人。
ただの飲んだくれかと思ったけど、更に乱暴だなんて。
[最低、と言う言葉は表情に現れたか。嫌悪するように眉根を寄せ、ハーヴェイに言葉を返す。続くハーヴェイのクインジーに対する問いは自分も知りたい部分であり、再び視線はクインジーへと向く]
…昨日の話って。
番人が言ってた終焉がどうのこうのって言う、あれ?
どこに居たって。
部屋に居たとしか言えないわ。
その前だったらキッチンで料理作った後、ナサニエルやネリー、ラッセル達とダイニングで食べてたけど。
…何よその聞き方。
疑ってるような物言いは。
[クインジーの問いに昨日のことをそのまま伝える。けれどその問いはどこか引っかかるものを覚えて、ぎゅう、と眉根に皺を寄せ、紅紫を細めた]
……昨日の、話。
[短い説明。
蒼氷は赤髪と、不自然な布団の間を数度行き交う]
……『終焉』?
[小さく呟き、それから、肩を竦めて]
昨日は、包帯代わりを探して。見つけた後は客室で寝てた。
……証明する術はないが、そこらは大体お互い様だろ。
疑わざるを得ない状況だと、番人が身をもって教えた。それだけだ
[シャーロットの言葉に、ため息]
意味は通じたか?
……誰も証明などできないだろう
終焉の使者が名乗り出るとも思わない
それでも一応、聞いただけだ
[調理の手伝いをすることもなく、女は唯少年の傍らに居た]
[未だ微睡みの裡にあるような響きで名を呼ばれ]
[女は顔を俯けた]
[背に垂らした金色が首を伝って、胸へと垂れる]
はい。
[スケッチブックを少年の手に返し]
[感想を求める問いかけに、女は少しの沈黙を作る]
花には、あかが浮かぶようでした。
他はすこうし、さむそうでございました。
[ささめく様に告げる言の葉]
[尋ねようと小さくくれないを開き、蕩む眼を見て、首を横に振る]
[食事を取る事もなく、その場を退いて、空き部屋へ]
[背の金色を下ろし、手首の鈴を外し、女は寝台に伏せた]
[空の流れは月から陽へ]
[鏡の無いままに身嗜みを整え、部屋を出る]
……痛い。
[起き上がった拍子にスケッチブックは転がり落ち、
ぱらぱらと捲れた頁は白紙の位置で止まった。
欠伸を噛み殺し、毛布の中から這い出る。
何も描かれていない頁を見詰め暫く茫としていたが、
目覚めきっていない足取りで、部屋を出た]
番人が身を以って…?
何よそれ、どう言う……。
[クインジーの言葉は確信を持って紡がれる。それにより立てられる予測。否定したい気持ちもあったが、彷徨った紅紫はホール内に不自然の置かれた布団を捉えた]
っ………───!
[白を染める紅。それは最初に見た緋色にも似ていて、それらが散らばっているような錯覚を覚えた]
(─あの緋色は、以前にも、見たことが、ある─)
[それは言葉にはならず息を飲むに留まり、更に視線はその布団の上を凝視する。紅紫が、すっと滅紫へと変じた]
[チリン]
[朝の空気に触れ、鈴が微かな音を立てる]
[玄関での出来事は、未だ遠く]
[開かれたままの扉から出てくる人影を女は見つけ]
おはようございます。
[何処か朧げな足取りの少年に声を掛けた]
『番人』が。
[それが意味する所は察しがつき。
同時、左の腕が、疼く。
それを抑えるように掴みつつ]
……名乗りを上げるくらいなら、こうはならん、だろうな。
[呟くよな言葉の後、蒼氷は布団へと。
空白の後、足がそちらへ向いて動いた]
見たいなら見れば良いが、倒れても放っておくぞ
[近寄るハーヴェイにそう言うだけ]
[シャーロットの様子は、ただみるだけだった]
[何も無い空間、そこに何かがあるかのように視線を注ぐ。しかし夢幻は直ぐ様掻き消え、滅紫は紅紫へと戻る]
……っ。
…クインジー。
さっき、番人が身を以って証明したって、言ったわよね。
…もしかして、これって…。
[訊ねながら、紅紫は布団を捉える。その傍にはいつの間にかハーヴェイが移動していた]
……あんたな。
俺を何だと。
[クインジーの言葉に、そちらを見やりつつ、ため息混じりにこう返す。
それから、布団の傍らに膝を突き、ほんの僅か捲って、その下を垣間見た]
……これは……。
[零れるのは、掠れた呟き]
はい。
[名を呼ばれ、短い答えを]
[足を留めた少年の傍らに寄り、首を傾げる]
[豊かな金色が、僅かに揺れた]
遅くまで、起きていらしたのでしょうか。
[酷く眠たげな様に、問い掛けて]
[碧の眼差しは声の響く方角へと向いた]
…賑やかですね。向かわれますか?
んーんー……
きちんと、寝たよ。
いつもより遅かったかもしれないけれど。
[ゆるゆると頭を振る度に、
寝癖のついた髪が揺れた。
続く問いには、かくん、と一度頷いた]
何か、あったのかな。
[目を擦り、女と同じ方向へ眼差しを転じる]
………そう。
[肯定を含む言葉に返した言葉は短いものだった。両腕で自身の身体を抱えるようにし、身を小さくしながら微かに震えた。それで居て倒れずに居たのは、半ば意地だったかも知れない]
……それが、真実ってことね。
よぅく分かったわ。
[紡がれる声は覚悟を決めたような低いもの]
……は。
まったく、笑えやしない……。
[隠されていたものを再び隠し、低く吐き捨てる]
『終焉』……ね。
こうなりたくなければ……って訳か。
[呟きは、瞳の色さながらに冷えた声]
そうですか。
[リィン]
[緋の爪先で、癖のついたあかを摘む]
[そうして、華奢な掌を乗せて撫で付ける]
私には、分かりませんが。
[頷く態を見て、緋色の靴は騒ぎの方角、玄関へと向かう]
[人影が幾つかと、布団]
[床に広がる緋の色に、女は瞬いてくれないを閉じた]
[微かに手首の鈴が震える]
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