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テレーズ、サリィ、クレイグ、それにミレイユか。
僕が知ってるだけで四人。
他にも消えた者がいるかもしれないけど……
[忽然と消える、命。
痕跡さえ残らぬそれを目の当たりにして
その事実が心に重くのしかかるようだった。
ゆっくりと視線上げて、ユーリに向けた顔に表情は薄い。]
ちょっと、中、みてくるわ。
[テレーズの家を指さして、それからひらり、手を掲げた。]
まだ、って言うとそのうち来て欲しかったってぇ口振りだねぇ。
なに、寂しかったの?
[生を潰えた割には揶揄いの笑みを浮かべてクレイグに言う。
よ、と言う掛け声と共に立ち上がると、いつもの癖で服を払う仕草をした]
えいやっ。
[声と共に、顔を覆ったままのクレイグに対し、抱きつきを敢行する。
逃げる余裕は無いだろうと踏んでのこと]
この状況で誰も、ってわけには行かないからね。
アタシで良かったよ、他が残れる。
アタシは、どの道引き寄せる可能性が高かったんだから。
アンタと同じでさ。
[言いながら、自分より背の高い弟を瞳だけで見上げた]
そういうんじゃなっ……!
[揶揄の響きは感じていても感情が上手く追いついていなくて、つい、声を荒げてしまう。
整理の追いつかない感情がぐるぐるして、動きが取れずにいたから、当然、抱きつかれるのを避ける余裕はない]
…………。
そりゃ、そうかも、しんないけど。
俺、は。
[刻が満ちるまで、生きて欲しかった、とは言葉にしない。
それが繰言なのはわかっているから。
見上げられているのはわかっていても、右手を動かす事はできなかった。
泣きそうになっている自覚があったから]
ユーリ。
お前さんも大事なやつがいるなら、さ。
ちゃんと会って話しとけよ。
間に合わなくて後悔してる僕からのお節介。
[へらりと。
一度、意識して無理に笑って見せた。
見送る視線に小さく頷くように、頭が上下する。]
― テレーズ宅 ―
[盲目のいとこが暮らしていた家に足を踏み入れる。
人の気配は感じられなかった。
サリィには感じられた気配を待宵草は教えてくれない。
クレイグと繋がっていた意識も今は元に戻ったようにある。
隅々まで見て回り、テーブルの前で立ち止まる。
テレーズと一緒に囲んだ食卓。
さいごに共にとった食事はサリィからの差し入れ。]
ほんと、なぁんにも残ってないんだな。
[口伝の君が綴る伝承も、その音色も
記憶に残るのみになってしまった。]
[捉えた弟をぎゅーっと抱き締めて、背中をポンポンと叩いてやった]
過ぎたこと言ってもしゃーないよ。
……でも、ありがと。
アンタの気持ちは嬉しいよ。
アタシだって、同じだったんだもの。
アンタが残って欲しかった。
[顔から手を退かさないクレイグを見上げて言った後、額を彼の胸に押し付けて視線を外す]
泣け、思いっきり。
アタシも泣いてきた。
泣いて、すっきりしてきた。
我慢すんなよ、ほら。
[泣いて来たと言いながら、声は僅かに震えていた]
守れなくて、ごめんな。
[ぽつ、と零してしまうのはテレーズを庇護対象と思っていたから。
大事な口伝を次に繋げる大事な口伝の君。]
テレーズ。
[呼びかけても、あの澄んだ声は聞こえない。
低めの己の声とは違い女性らしく耳に心地よい声。
理想であった存在の消失に心はぽっかりと穴があいたよう。]
なんで――…
[己でなくいとこの彼女が先だったのか。
そんな問いがぐるぐると巡り続ける。]
クレイグもクレイグだ。
飲みに行くって約束しただろーに。
[責める色は薄い。
ただ残念で、寂しい感覚が占めていた。]
クレイグ、お前さんは間に合ったのか?
――…ああ、メリルに聞けば
[聞くには伝える必要もあるだろうか。
考えて弱ったように吐息が漏れる。]
[クレイグとの約束からサリィと交わしたそれを思い出す。]
先々代の作ったレシピ。
食べに行ってもサリィには感想伝えられないんだな。
[いつも嬉しそうに笑ってきいてくれる看板娘の顔が過る。
待ってる、と言っていた彼女。
その場所で待つのは、きっと彼女の父親で]
――…親父さんにも、伝えなきゃ、な。
[白花亭に行こうと思うのに、まだその場を離れがたく
足は思うように動いてくれなかった。**]
そう、だけ、ど。
……とーさんと、約束、してたのに。
姉より先に、消えない、って。
[ぽつ、と零す声は掠れる]
なのに、それ、守れなくて。
[悔しかった、と言葉にできなかったけれど、声には十分、滲み出る]
……気軽に、言うな。
男には、意地ってもんが、あるんだ、から。
[泣け、と言われてもすぐにはそれに従えない、けれど。
抑えていた感情の一端が、姉との再会で綻んでいるのもまた、事実で]
……姉…………ごめ、ん。
[小さな声で呟いた後。
姉の肩を借りるように寄りかかり、しばし、動きを止める。
思いっきり、というには程遠いけれど。
泣いているのは気配で十分伝わるか。**]
ホントだよ、アタシより先に消えやがって。
[ぺん、と一度クレイグの背を平手で叩く。
然程力の入っていない叩き方。
本気で言っているわけではないと言うのは感じ取れよう]
うん、アンタ意地っ張りだもんね。
[声に悔しさが滲んでいるのは気付いていたけど、敢えてその指摘はせず。
気軽に言うなと言う反論に、小さく笑いながら声を返した]
謝んなくても良いから。
少しでも良いから、吐き出しちまえ。
[肩にかかる負荷を、支えるようにして受け止める。
ややあって伝わる気配に、安堵に似た息を吐き出した。
それを確認した後、クレイグを支えるままにサリィへと視線を向ける。
彼女がまだ居るなら、滲んだ瞳でアイコンタクトくらいは出来ようか**]
[死神、天上青、そんなノクロの説明に、エトの同意に、頷いた。
わかった、という言葉のかわり。
ノクロが荷物を拾ってくれたのを見ると、慌てて、でも、]
ありがとう。
[ちゃんと息を一つ吸い込んで、言った。
いつもみたいに笑ったつもりが、ちょっとぎこちなかった。
と、ユーリが走ってくる。
自分の名前を呼んでいる。
そちらを見て、瞬いて。
その口からミレイユの名が出ると、表情が曇った。
茸粉をノクロに渡されて、うん、と頷いていたから、言葉もすぐには返せない。]
[「いっちまった」というノクロ。こくんと小さく頷いた。
ユーリがノクロに手を差し伸べるのを見て、ノクロへと今度は心配げな目を向ける。
けれど問われれば、自分のポケットの中に入ったメモを開いて、答える。]
甘香草の粉。
おいしい木の実。
……ある?
[サリィはいないから。あるんじゃないかって言われたユーリを見て、尋ねる。
お代はちゃんとポケットの中。
エトがテレーズの家の中を見に行く、というのを、頷いて、それから、空いた手の方を小さく振った。
荷物はちゃんと自分で持っていく。]
コレットおばあちゃん、火傷だから。
手伝いも、する。
[ノクロとユーリに、そんな風に、言葉を選びながら、ゆっくりと語りもした**]
─ 回想 ─
[メリルを探しに行く少し前。
クレイグの頭をぎゅっと抱き寄せていたから、彼の表情>>3:+51は見えなくて。
それでも、零れ落ちた言葉に、どんな顔をしているかは、何となく解った。
溜息混じりの笑みは、やっぱりいつもの店でのやり取りを経た後浮かべていたそれで]
…良いのよ。
頼り方って、人それぞれだもの。
これだってクレくんの頼り方、でしょう?
[クレイグだけじゃない、メリルも。
こちらのお節介から逃げようと思えばいくらだって逃げられるのに、そうしないでくれていた。
それはきっと、自分を信頼してくれていたからだ、と。
根拠も確かめたことも無いけれど、疑い無い気持ちを口にしてから、彼を離し。
頷く彼>>3:+52に、いつもの笑顔で頷きを返した]
─ 回想 ─
…………メー、ちゃ…
[道に倒れたままの彼女>>+2の名を、紡ぎ切ることはできず。
クレイグから向けられた視線>>+4に気づくと、ぎこちなく頷きは返したものの、自分はその場に立ち止まったまま。
倒れている彼女に近づいて声をかける様子をただ見つめ、起き上がったメリルがこちらを見る>>+7のには、眉を下げて。
自分に何が起きたか悟った様子の彼女>>+8を見ていられなくて目を閉じかけた、けれど]
メー、ちゃん。
[嘆息したクレイグをえいや、と抱きしめる彼女>>+10に、ぱちりと瞬き。
続く会話に、緩く、柔らかな笑みを浮かべ]
(…良かった)
[自然に浮かんだ言葉は、不謹慎かもしれないけれどただ、素直な思い]
[姉弟の傍を離れて、ふわりとした足取りで向かう先。
気がかりは幾つもあったけれど、優先したのは無事な人たちよりもおそらく今、一人でいるはずの]
…レーちゃん。
おうちで、刈られたんだと思うけど…
まだ、あそこにいるかしら。
[自分より先に刈られただろう彼女を探すために、彼女の気配が残っていた場所へ─
自分が刈られた場所でもある、テレーズの家へと向かった]
[ふわり、浮かぶような漂うような足取りで向かった先。
ノクロ達の姿が見えれば、安堵で無意識の内表情が和らいだ、けれど]
…ミー、ちゃん?
[生きている者の中にミレイユの姿は無く。
自分と同じになっているミレイユの姿は、そこにあっただろうか**]
……好きで、消えたわけじゃ、ない。
[小さな声でぽつ、と紡ぐのは反論。>>+15
子供っぽい切り返しは、意地張りの表れ。
内面を示すのは幼い頃から得意ではなかったから、感情が表に出る時はいつもこんな感じだった。
先にサリィに言われたこと>>+16には、何も返せなかったけれど。
拒絶しなかったことが、それへの無言の肯定となっていたくらいで。
エトとの意識のやり取りでほろほろと内の内に秘めていたものを零せたのも、直接顔を合わせていないからできた、と。
そこまで言えてしまう表現下手。
それだけに、一度感情を綻ばせると、鎮めるには少し、時間もかかり。
サリィが離れていく>>+19のにも気づかぬまま、背を叩く感触>>+22に、しばし、甘えて]
…………ありがと、姉。
も、大丈夫、だ。
[ようやく、気持ちが静まった頃、小さく紡いで顔を上げる。
それでも、痕は見せまい、とするのは意地張り半分矜持半分。
ぐ、と顔を背けて目元を拭い、は、と息吐く仕種をひとつ、落とした]
[クレイグが離れ行く>>+28のには逆らわず。
腕を自分の横に戻して腰に添えた]
そっか……そうだね。
後で探してみよっか。
[確か、サリィがその方向に向かった気がするけれど、そんなことを言って。
続いた言葉にやや半目になってクレイグを見た]
……アンタ、ホントに何も遺せなかったと思ってるの?
『周期』については確かに遺せやしないだろうけど、他にもあるでしょ?
アンタが為したことは。
アンタの仕事、どれだけ皆の役に立ってるか、分かってる?
[左手は腰に当てたままに、右手は人差し指を突き出す形でクレイグの胸に指先を押し当てる]
[探して、という提案>>+29には、うん、と素直に頷いて。
半目の表情と、押し当てられた指先に、へにゃり、と眉が落ちた]
……似たようなこと、エトにも、言われた。
[ぽつ、と小さく呟いて。は、と小さく息吐く仕種]
でも、それは、『筆記者』としての務め、で。
『俺』が残すものじゃないんじゃないか、って。
[ほろほろと零すのは、待宵草の繋いだ意識で解き放った内の内]
……そう、思ってて。
だから、俺だから残せるものって、なんなんだろうって、ずっと、考えてたんだけ、ど。
[思い返すのは、ユーリの言葉。>>3:27]
……俺、ちゃんと、残せてたの、かな。
俺だから、残せる、もの。
ばっかねぇ。
『筆記者』の勤めでも、『アンタ』がやったことに変わりないでしょ?
当代の筆記者は、アンタ。
アンタ以外には出来ないことなの。
[クレイグ>>+30の胸に押し当てた指を戻しながら、相手の顔を見上げる]
それにね、『遺す』ってのは、何も形があるものだけじゃないわよ。
アンタ、今まで仕事をいい加減にやってきたわけじゃないでしょ?
だったらそれにはアンタの『想い』が籠められてる。
残った人達はそれをしっかり受け継いでいってくれるわ。
アタシ達が父さんと母さんから受け継いだように。
[戻した右手は自分の胸元へ。
手を広げて添えて、見上げる相手に笑みを向けた]
[読み上げられるメモの内容には首を傾げるばかりで在庫は無く。
右手は荷物へと戻しつつ、視線はついとユーリの方へ]
お、ユーリのとこにあるんなら良かった。
そんなら取りに行った方がいいか?
[それとも待ってる?とユーリとミケルに首を傾いで]
……、?
[一瞬、ユーリの口元が躊躇いがちに揺らめいた気がして、瞬く]
─ 自宅 ─
[二人の事はユーリに任せて、壁を伝って家へ戻る。
竈の赤さに、数度目をしばたいた]
……まだ、だめよ。
[小さい手を握って]
せっかく選ばれたのに。
せっかく降りて来て下さったのに。
[天井を、いや、その向こうの遠いどこかを仰いで]
……どうか、
間に合って。
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