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― 2階・客間 ―
[何があろうと、如何なろうと、夜は必ず明ける。
光差す部屋で男は緩やかに目蓋を持ち上げた]
……眠れて、しまうのだね。
[あれ程に感情が昂ろうとも。
石に奪い去られた精神力を補う為に身体は自衛行動を取る。
ゆっくりと上体を起こし、溜め込んだ呼気を吐き出した。
それからサイドボードへ手を伸ばし]
書く必要も、もう無い……か。
[それでも頁を手繰り、辿り着くふたつの名前の下。
記すのは此方に残されたメイドの名。隣に「人」の一文字]
[其れを、じっと、見下ろす]
[イザードの最後の当主となった男は、当初からその器では無いと言われ続けていた。
商才には欠け、騙され易く、そして何よりも精神が弱かった。
手にかけた事業はそのことごとくが芳しくない結果に終わった。
甘い話に乗せられ、または虚偽の脅迫に屈し、財産は崩れて行った。
そうして何度目かの強盗に押し入られ、妻を亡くしたその翌日、男は死んだ。
家族の見ている前で、笑いながら自らの喉を裂いた。
遺されたのは空の金庫と多額の負債。
長女は嫁ぎ先を追われ、幼い次女は何処かへ売られた。長男は苦渋の末、家を手放したという。
そうなるより一足先に、次男はその家を出ていた。
滅びた我が家について幾つも幾つも噂話を聞いたけれど、その真偽については語ろうとしなかった。
その代わり己の身分を隠す事も、己を変える事もしなかった]
― 前日/書庫 ―
……うむ、大体合っているな。
部屋数は35だが。
随分と詳しいじゃないか。泥棒にでも来たか?
[人狼関係の本より顔を上げて、声を掛けてきた>>14メイドを見た。
僅かに目を細めつつ、出てくる言葉はいつものように軽口めいて]
ほぅ?
お前のような女に覚えは無いな。残念だ。
[何せ泥棒なら何度も見たから、とは言わなかったが。そもそも泥棒だったかの確証もないので。
とかく何を言われても、いつもの調子を崩す事は無かった]
…… そうか。
奴は死んだか。
[知らされたその時には、然程大きな反応は見せなかったのだが。
ネリーが居なくなった後で、小さく呟いた。
本棚に目を向ける。あの時勧められた本のスペースは未だ空いたままだ。
手元の本に目を落とす。開かれた頁に狼のイラストが載っていた]
……。
[息を吐くと、元の位置に本を押し込み。
食事を取るべく書庫を出て行った]
― 二階/自身の客室→食堂 ―
[部屋に戻って思い返す。
昔の事、今の事、そして先の事]
……
[そうして、どれくらいの時が過ぎたか
いつもより幾分控えめなネリーの声>>12が、自身を呼ぶのに気付いて立ち上がる。
ドアの外に立つネリーの表情は、心配というよりは興味が勝っていたように見えた。
肩口の破れから見える血の滲みや、衣服に染み付いた臭いから、事の顛末は知れるだろう]
……人狼は殺すべき、と言ったら睨まれましたから、人狼だったんでしょうね。
[相手の口調に合わせて軽く返した。あまり重ければからかわれそうで。
そうして、食事について問われたなら、食堂に向かうと伝えて。
あまり食欲は無かったけれど、出されたものは一通り食べた。
こんな時でも変わらぬ様子に、内心で「強い人だ」と思いながら。
そうして、食べ終えたなら礼を言って部屋へと帰る]
― 二階/自身の客室 ―
[部屋に戻って、ヘンリエッタやラッセルはどうしているだろうと考える。
食堂でラッセルと入れ違ったとは知らず、今日の一件をどう伝えるかと悩んで]
それは、明日にしましょうか……
[肩の傷から来る気だるさと、それ以上の精神的な疲れに意識が負けて。
寝台に横になれば、そう時をおかずに深い眠りへと]
― →翌朝 ―
[目覚めはあまりよくなかった。
それでもどうにか起き上がる。
肩の傷はどうやら落ち着いたようだった。
いつもどおりに各部屋を回るネリーに朝の挨拶をして部屋を出る。
今までどおりの時間が戻ったはず、だった]
― 翌朝/ラッセルの客室 ―
[部屋の扉が開いていた。嫌な既視感。
覗き込めば、既に慣れてしまった臭いとネリーの姿>>17]
まさか、そんな……
[床に転がる姿、残る傷はアーヴァインの傷と同じもので。
声が聞こえたか、ネリーがこちらを招いて、遺骸の側に歩み寄って]
まだ、人狼がいると言うことですか……それとも……
[そんなはずはない、と思う。ハーヴェイが人狼ではない、などと。
沈みかけた思考は、いつもどおりのネリーの様子に引き上げられた]
ああ、このままにはして置けませんね。
[そう言うと、寝台に乗せるなら任せる、と返される。
続いた言葉に思わず目を丸くして、そうして、笑う。
もしかしたら、彼女こそがそうなのかもしれないのに、それは、今は頭に浮かばなかった]
― 翌朝/客室 ―
[次の日の朝。
物言わぬ遺体と、それをつつくメイド>>16のすぐ傍で]
残念だったな。
殺してやれなくて。
[彼女の“期待”の本当の意味など知る由もないが。
いつものように亡霊は言う。
何も、何一つ変わらないかのような顔をして。
今は閉じられ安らかに見える最期の表情が如何なるものであったか。
知るのはきっと――彼と、彼女と、あともう一人――3人だけだ]
[亡骸を抱えた巡礼を見送った後。
ふと、疑問を感じた黒狼は、館の中へと入り、亡骸の運ばれた先へと向かった。
向かった先で行われていたのは、弔いの儀式。>>21
その後に綴られる言葉>>22に、漆黒の尾が揺れた]
…………。
[言葉を発することはないが、瞳にあるのは──哀れみのいろ。
音を立てて手を落とした後の言葉>>23に漏れたのは、嘲るような響きの唸り声だったが。
巡礼が部屋を立ち去った後、黒狼もまたその場を離れる。
残してきてしまった幼仔の事は気になるが、こうなってはどうする事もできず。
廊下の一画に伏して、ただ、成り行きを眺めるだけだった]
― 2階・ラッセルの客室 ―
[其処にはネリーとユージーン。
それから、物言わぬ姿となった、ラッセル]
……嗚呼。
[もしかしたら、石の方が、なんて。
薄らと抱えていた淡い期待も霧散する]
……まだ、居るようだよ。
ハーヴェイが『そう』であったのか判断する手段はないけれど。
[低く呟き、緩やかに首を左右に振る。
ユージーンの言葉に自然手を貸そうと動きかけて、ネリーの言葉に笑った]
では、力仕事は男二人に任せて貰うとしよう。
……そうだね、ではネリーには少し話を聞いて貰おうか。
[一先ずは、と。力を喪った為に随分と重い身体を持ち上げることに専念する]
[何も変わらないようだった男はしかし、周囲の音がふと途切れた一瞬、その目を伏せて]
……すまない。
[誰にも届かない声に、僅かに悔恨のようなものが浮かぶ。
ごみ箱に一枚、捨てられたままの紙は書きかけの手紙。
冒頭には、女性の名前が書かれていた]
[再び目を開いた時には、先程の様子は微塵も見当たらない。
やがてそこにユージーン>>30と、少し遅れてヒューバート>>32も姿を見せる。
ついでにもう一つ]
ふむ。
貴様か、人狼というのは。
[いつからかそこに居た黒い者>>+11に、亡霊の目は向けられた]
[その正体>>+13を読み取ったのかは定かではない。
そうでなくとも、今までに死んだ者のどちらかとなれば推測は容易だったかも知れないが。
何処か楽しげにも見える瞳を暫く無言で見て]
どんな恐ろしい姿かと思えば。
我が家の番犬と大して変わらんな。
[口を開いたかと思えば相変わらずの態度。
恨みやら恐れやら、そういった類の感情は見当たらない]
[てし、とされる>>+15直前に、片足をひょいと持ち上げ。
上手くタイミングが合えば、前脚と足裏が合わさる形となるか]
何だ、文句があるか人狼。
残念ながら同じにしか見えんぞ。人語も操らぬのではな。
なんなら首輪でも買ってやろうか。
[そうしながらも続ける挑発――というより、完全に軽口めいていた]
― 2階・ラッセルの部屋 ―
[部屋にいれば、ついさっき顔を合わせたユージーンもヒューバートもやってきた。みんな血の臭いに敏感になったんだなぁと思ったりもした。]
そうだねぇ、どっちかだろうねー。
どっちもかもしれないけど。
[>>30ユージーンの呟きには、真実のところわからないので、そんな風に言った。そんなに驚く事でもないが、違っていた事に衝撃を受けたような人の事は珍しそうに見た。
>>32ヒューバート曰くまだいるらしい。それはわかるが、どこか確信めいた物言いに違うものを感じたが、口は挟まなかった。
ラッセルの体は二人に任せて、自分は少し離れて遺体を見つめていると、ヒューバートに話しかけられ視線を向けて瞬いた。]
何です?話すことって。
[唸りの後、漸く零れた人の言葉>>+17。
驚きは少なかった。精々、片眉が上がった程度だ]
それは褒め言葉と取っておいてやろう。
しかし危うかったな。
あまりに喋らぬから、もう少しで鎖に繋ぐ所だったぞ。
[変わらぬ調子で言いながら、僅かに口端を持ち上げた**]
[喋らなかったのは、驚かすつもりがあったわけではなく。
ただ、億劫だったから、という程度のもの。
だから、驚き少ない様子も特に気にした風はなく]
おう、全力で褒めてるから、そのまま受け取っておけ。
[笑みの気配を帯びた声で言い切った。
鎖に繋ぐ所だった、という物言いに、また、笑うように一つ唸りを上げて]
そう簡単に、繋げると思うなよ?
[にぃ、と笑うように口を歪めて言い放つ。
こちらも口調は変わらず、楽しげなままだった。**]
― 2階・ラッセルの客室 ―
[ユージーンと共にラッセルを持ち上げる。
寝台に乗せる折には、不要な程に丁寧に下ろして]
丁度ユージーンも居る、丁度良いだろう。
これから話す事は、普通なら信じられないことだ。
信じるも信じないも任せるよ。
[床を染める程に零れた赤は、運ぶ行為ひとつで身体に移る。
赤く濡れた手や衣服をそのままに、瞬いたネリー>>34へと視線を向けた]
端的に話をしよう。
私は一夜に一人、人狼かそうでないかを見分ける手段を持っている。
これまで、ユージーンとラッセルを。
そして昨夜、君のことを視させて貰った。
……結果は全て、人狼ではないというものだ。
[一度、言葉を途切れさせる。
少し躊躇うように視線を彷徨わせ、何処か諦めたように腕を組み]
……今、この屋敷に残るのは四人。
その内の二人は間違いなく人だと判っている。
私から見れば、人狼である人物は完全に絞られた。
[ひとつ、息を吐いて]
……我々が生き残るには、彼女を殺すしかない。
君は、彼女に仕える者として、どうする?
─ 前日/2階・廊下→1階・食堂 ─
[撫でられて>>4、ほんの少しだけ表情が緩む。
微笑むとまではいかないものだったが、雰囲気が和らいだのは伝わるだろう]
はい。
[ゆっくりと言われてその通りに歩き始める。
足取りはそこまで危ないわけではなく、問題なく階下へ降り、食堂へ向かうことが出来た]
[食堂では具なしのスープとキッシュ>>12が出て来て。
結局、口に出来たのはスープだけだった]
[その後、ヒューバートとは別れることになるか。
ユージーンとハーヴェイのことは耳に入れることが出来たかどうか。
耳に入ったなら、人の手により齎された死に、身体を強張らせることになるだろう]
[それ以外は特に何か無いようなら、自室で過ごし夜を迎えることとなる]
─ 翌朝/自室 ─
[朝の目覚めは悪くない。
起きて、いつものように着替えて。
忘れずネックレスを身に付けて窓辺に立つ。
相変わらず白いカナリアは鳴かず、ヘンリエッタが近付くとバサバサと翼を大きく羽ばたかせた。
それを静かに見遣ると、自室を出て外へ]
─ 落ちた橋の前 ─
[かつては麓の村と繋がっていた場所。
今は焼け焦げた痕だけが残る場所。
唯一の道だった場所に、ヘンリエッタは居た]
……わたしは、生かされてきたのだから───
[生きたい。
生きなければ]
───がんばるよ。
[誰かに語りかけるように*呟いた*]
― 2階・ラッセルの客室 ―
へー、ヒューバートさんが。
[ホントに居たんだ、というのが先ず最初。それを素直に信じて良いかが後からやってくる。順番については特に気にもせずに、3名人狼でないという結果には、2、3度と瞬いた。]
そうですねぇ、幸い私は人間の味は知りませんから。
[ならば残るは一人だけ。迷う間も言葉を待つ。]
……ん。
[ふ、と、黒狼の意識がどこかにそれる。
死してなお届く、幼仔のコエ。
紡がれるそれに、黒狼は目を細め]
(……ん。
いいこだ)
[生きてコエを交わしていた時に、からかい混じりに向けた言葉を心の奥でそ、とこぼす。
既にこちらのコエは届かぬから、幼仔からの応えはないけれど。**]
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