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─広間→─
[朱花と名乗る声>>0に、驚いた様子は見せず、ただ小さく息を吐く。
椅子に座っていた時間は僅かで、音も立てずに立ち上がる。
戸惑う青年の返答>>2を背に、男は静かに広間を後にした]
[新たに命が散らされたのを感知したのか。
ツルバラは少女の首筋に、巻き付くように伸びて、
そこで緋色から変化した朱き花を咲かせる。]
わからない。
多分、お祖父ちゃんなら知っていたと思うけど。
左の太ももの内側に白いツルバラの痣があって。
それをお祖父ちゃんは絶対に見せるなって言ってた。
……お祖父ちゃんが死んで、気がついたら。朱く染まってた。
[エーリッヒの掠れた声と問い>>2に、少女の声は揺らぐことなかった。
祖父が亡くなったのは経った数日前の事なのに。
だいぶん昔に思えてしまう。]
─ 1階廊下 ─
[いつもは息苦しゅうなる白昼夢やったのに、今回は息苦しくあらへん。
それもそんはずや。
うちは水中やなく、水面に立っとった。
空は白い。
やけど、見下ろした先の水中は、闇みとぅに真っ暗で。
そん中に、人影が一つ、漂っとった。
ナティやった。
周囲に紅いもん滲ませて、ナティが水中漂っとった。
それ見た瞬間、判ってもうた]
[ ”人狼や” て ]
─── ァ 、 ァ、 ァア !
[自分ん心とは裏腹に、歓喜が籠められた声が出てん。
見つけた、見つけた!て、頭ん中に声が響いとった。
思わず両手で頭を抱えてまう]
ッ ウ ァ 、 ナ ティ …!
[声は喜んでんのに、ものすごぉ泣きたなってくる。
もう頭ん中がぐちゃぐちゃやった]
― 広間 ―
……………。
[広間で、皆の話を聞いていた娘が、こてりと首を傾げた。
死んだとき、寝ていたときのまま、ほどかれて軽くウェーブがかかっている髪が、さらりと肩の前に落ちた]
朱花ってなんだろ。
[お伽噺にも伝承にも疎い、人狼も知らなかった娘が、双花や支えるものを知るはずもなく。
ハンスたちが近くにいないいまは、訊ける相手もいなく。
なにか大切な話をしているらしいとは思っても、話の内容はまったく理解できていなかった……]
(ごめん……、ね)
[音なき謝罪を向けたのは、
ミリィとカルメンとハンス……そしてアーベルへと。
約束はどうやら果たし損ねたようだった。
月のいとし子を探し終えることをしないまま、この命は終わる]
[少女は両の手をしばし見てから、目の前にいる青年を見る。
ライヒアルトが静かに広間を辞す>>4のには気付かない。
ぞくり、とした快感に似た何かが背筋を駆けて行ったが。
それを堪えながら、少女は感じていた違和に。眼を逸らしていた事に眼を向ける。]
……エリお兄ちゃん人狼、だよね?
[少女はできるだけ笑みを作る。
銀のナイフは結局取りにいけてないから、少女は無防備のままだ。]
[クロエが振るい、迫る刃をよける素振りを見せずに受ける。
相手に返すのは鋭い爪は、言葉と矛盾したかのような行動に相手にはとれたかもしれない。
どちらも、選ぶ結果として自分が出した答えの為だった。
討たれることも、討つことも、血肉を口にせずに為すことが、最期に人としての……]
クロエさん……
[受ける傷は自分の致命傷となるもの、それでも微かに動けたのは月のいとし子の為か、自らの最期の意志の為か。
振るった爪もまた、クロエの致命傷になっており、互いの血に部屋と視界が染まっていく。
伸ばす腕は、クロエの体を慈しむように抱きしめようと、意識が薄れ行く中で……**]
― 1階廊下→ナタの部屋 ―
分かった。
[ロザと一緒に階段を上がる。
ナタの部屋がどこなのか、ロザに教えてもらって扉を開けた]
……クロ。
[ナタの胸に突き立っているのは、アベさんの形見のスティレット。それを突き立てたはずのクロは瞳に涙を滲ませて、悔しそうにも哀しそうにも見えた]
そう、だね。
すごくできが悪い。
[少女は、エーリッヒの言葉>>11に頷く。
ツルバラは、誰の目にも視認できる位置まで伸びていた。]
うん。
前にも、そういってくれた、ね。
[少女が手を汚す必要はない。
ローザがカルメンを殺した日に聞いたのと同じ言葉に、クスクスと笑った。]
……我が儘だけど両方、かな?
人としてのあたしは違うって言って欲しい。
朱花としてのあたしはそうだって言って欲しい。
[問いに返された問いに、正直に答える。]
―広間―
[先程まで男の座っていた椅子の上には、一冊の黒い手帳が置いてあった。
表紙には名が刻まれていて、誰のものかはすぐ知れるだろう。
その頁の途中には一枚の紙が挟まれ、閉じたままでも分かる程度にはみ出していた。
真面目な男らしい、几帳面な文字の並ぶ手帳の中とは違い、紙にあるのは殴り書いたような乱雑な文字だったが、それでも何が書いてあるのか判別する事は可能な筈だ。
そこにあるのは、過去に起こった一連の人狼騒動の真実。
人狼の発祥と、教会の関わりと、『場』の条件と、快楽と苦痛と。
そして一番下に、丁寧な文字の一文が加えられていた。
『何らかの要因により、通常とは異なる形で、“場”が崩れるケースもある――』]
― →階段―
[二階へと上がる階段の途中で、男は立ち止まった。
シスターを人狼と告げる娘の声>>8が、その耳に入った]
嗚呼。
彼女でも、越える事はできなかったか。
[小さく息を吐いて、手を組む。天井を仰ぐ]
……願わくば。
止まらぬ『突風』の進む先が、主の御意志に沿うものでありますように。
[教会ではなく、神の意志と、男は呟いた。
2つは似ているようで、大きな隔たりがある。少なくとも、男はそう思っていた]
間に合わなかった。また。
[クロの首筋から吹き出したのだろう血は、部屋を赤く染めていた。ナタの手は、人が持つはずのない鋭い爪が伸びて同じ赤に染まっていた。けれど]
……ナタ。
[倒れてもなおクロの方を向いている、その顔に浮かんでいたのは慈愛に満ちた微笑だった。
シスターらしく、優しすぎて、胸が苦しくなる]
[青年の答えは、どうだったか。
少女は表情を変えぬまま、青年の方へと足を踏み出す。]
…本当なら、役目を重んじるべきなんだろうけど。
でも、あたしにとって一番大事なこと、なにより優先させたいことがあるの。
[少女は青年の正体と共に、目を背けていた感情を認め、受け入れ。
あと一歩、踏み出せば手が届く場所で立ち止まった。]
[当てもなく歩く。
暗い世界を漂うように。]
幕切れは唐突。花は散ったら戻らない。
貴方の前では良い子でいたかったけど、最期まで私は醜かった。
てもそれも おしまい おしまい。全部おしまい。
ろくでもない人生だった。次があるなら、もっと上手く生きたいわ。
[振り返り、見る光景はカルメンだったものを抱いて泣く女性。]
私に愛をくれたのは、貴方だけよ。
貴方が男の人だったら良かったのに……って、実は何度も思ってた。ふふ。
でも、もし貴方が男の人だったら……きっと私達、友達にはなれなかったもの、ね。
だから、これでいいの。
[銀の髪飾りがキラリ瞬き、女の魂は闇に消える。**]
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