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[小さな軋みを立てて、窓が開く。
私は話し声の聞こえる方へと顔を出した。白金の髪が風に煽られて頬にかかる]
……。
[淡い菫色が見下ろすは、黒と青の色彩。
艶やかな黒は、彼の竜。
バンダナに覆われた青に、一つ瞬く。彼に見覚えはあったろうか]
正論吐かれてため息ついてるようじゃ、オトさんも見た目程元気じゃありませんね。
[軽口には軽口で応じて、にっこり]
ま、個人的にも、とっとと収拾してもらわないと困るんですよねえ。
[主に家出娘が何やらかすか心配で、とは口に出さず]
それじゃ、協力してもらえそうな方には、手分けして得意領域をお願いするってことで。
火山はダーヴ殿に任せればいいんでしょうけど、地下を探すなら大地の方…ああ、さっき出掛けて行ったな…僕がそっちは探します。
竜族の方々には、オトさんお願いしてくださいね?
[仕切る気みたいです]
[返された軽口には、苦笑で返し。
個人的に、という物言いには、不思議そうに首を傾げる]
ま、動きたい、と思えば、独自に動きそうな面々も多い気はするんだけどね。
特に竜は、個で動く事が多いし。
[自分が極端なのはさておいて]
ともあれ、やるだけやってみますか。
[仕切るのを止める気はないようです]
ああ、確かに。
[くすくすと笑い声をあげて]
でも事情は説明してあげないと。機鋼竜の存在自体、ちゃんと知らない方が多いだろうし。
[そこまで言って、ふと気付いたように頭上を見上げる。感じるのは天聖の力…本にあったデータと、前に見かけた優美な姿を思い出す]
……麒麟殿?
[枷の青年とは違う気配に、目を眇めてバンダナの青年を見やる。
強い日差しに光る髪は、よく見れば黒に近い紫であったか]
[少々身を乗り出しすぎたか、蓬髪が風に攫われる。
私は乱れる髪を片手でかき上げ――動きを止めた]
……ああ、そうか。
元々、アレの件は、竜郷でも一部にしか知らされてなかったくらいだし……な。
[つい失念していたその事実に、とぼけた声をあげ]
んじゃま、人が集まった頃に、まだ話してない面々にも説明しますか。
……その前に、俺はもう一度中央塔を見てくる。
色々と、引っかかる事もあるんでね。
[静かな声でこう告げ。
ユリアンが上を見上げれば、つられるように窓を見上げ、やあ、と言いつつ手を振り、歩き出す。
見上げた瞬間に異眸に宿った色彩──信頼のそれに、果たして雷精は気づいたか否か*]
[視線に気付いたのか、件の青年が頭上を見上げた。
私は手をそのままに――動かせぬを知られるは恥かしきゆえ――青年へと首を傾ける]
…えぇ。
そなたは…誰そ?
[彼の竜と親しげな様子に、人ではあらぬだろうかと。
距離があるを幸いに問いかける]
ふはは、げほっ くすぐったいよ
[結局岸まで運ばれてしまい、そそくさと服を拾う。
マテウス(昨日屋敷に居たような気がしなくもない)の口にくわえられたままの魚を見て]
ええと、た、食べても美味しく無いから!
一人で無理はしちゃダメですよー、オトーさーん!
[歩み去る時空竜に、明るく(あ軽く?)声をかけてから、改めて上を見上げて微笑む]
こんにちは!僕はユリアン。
雷撃王の使い走りを勤める雷精です。
[問いかけは、名を聞くためだけのものでは無かろうと察して、答える]
−北部:氷結洞−
[周囲に張り巡らせられた鏡の如き氷の壁]
[結晶は合わさり透き通る花のように咲く]
……、
[吐き出す息は白い。]
[何時から其処に居たのか]
[少なくとも洞穴の外に足跡は無く]
[かと言って]
[薄手の上下は寒さに耐え得るとは見えず]
[時間の経過は不明瞭で]
[短く手を振り、歩き出す黒髪の青年を私は黙して見送る。
その背へと投げられた呼びかけに絶句していた訳ではない、はず]
…ユリ…ァン……… 雷精殿…?
[やはり上手く発音できず、口の中で幾度か繰り返して。
なれど終に口から零れたのは、名ではなく青年の属せしもの]
そなたは…何か王の命を受けていらしたのかえ?
[己の名を名乗る事を忘れたまま、私は問いを重ねた]
―西部・広葉樹地帯―
[森の中でもひときわ高い樹の上。
その上の方の枝に腰掛け、そこから一望出来る界を見ている。]
…………さて、どうするかね。
とにかく、誰かが入り口を見つけないと始まらないかな。
[ぼんやりとしながら、呟く。]
呼びにくければ、ユリでも、ユリりんでも、構いませんけど。
[なんとなく、そんな気がして、にこにこと付け加え]
ええ、この機鋼界に新たな竜が生まれるという話が伝わったので、様子を見に来たんです。
機精と雷精は、対ではないですが縁が深いものですから。
まあ少しでも関わりのあるものを見過ごしに出来ないのは、雷撃王の性癖でもあるんですけどね。
[聞かれないことまで、ぺらぺら]
リディと魚を一緒に食卓に並べようとしたって無駄だし!
食べても美味しくないって言ってんじゃん……って違うの?
[撫でられたら何となく落ち着いてきた気がしたので、ごそごそとスカートを穿きながら、魚とマテウスの(厳つい)顔を見比べた]
…感謝いたしまする。
[速やかに看破された様子と示された代替案に、私は眉を下げる。
なるだけ呼ばずにいようと心に思ったも、恐らくは見破られるであろうが]
新たな竜…なるほどの。
機と雷はそのような縁であったか。
[100年未満のとはいえ、それなりに精霊の話も耳にしたか。
滑らかに提供される情報を大まかに察してゆく]
あはははは、食卓に並べるつもりなら、こんなに丁寧に岸に運ばないよ。
[壊さないように抱えてくるのは彼にとってそこそこ気をつかう行為で。
元気そうな姿にほっとしながら、下着一枚でリディの身長ほどもある魚を手に下げる姿は怖がられても仕方ないか、とか]
麒麟殿は、望んでいらしたわけではなさそうですね。
清浄の気を好む種の方には、ここは少々雑多に過ぎるでしょうか?
お加減が悪そうだ。
[どこか、儚げに見える相手に、心配そうに言葉を繋ぐ]
そうなの。
[シャツを着込む]
ていうか溺れてた訳じゃないんだけど……ええと、ありがと。
[セーターに腕を通した]
それにしても、大変な事になってるっぽいのにおじさん[に、見える]そんな格好で、元気ね。狩り?
[かけられた労わりの言葉に、私は愁いを帯びた瞳を瞬かせた。
理由を告げてもいいものか、しばし躊躇う。
なれど、込められた心配の響きに…私は掠れる声で言葉を紡ぐ]
…ええ、望んでは…参りませぬ。
私は…人に馴染む事が出来ませぬゆえ。
[種としての『人』、つまりは人間が苦手だと告げる瞳は、精霊である青年への恐れは抱いてはおらず]
ああ、人間が苦手でいらしたか。
[獣形の種にそういった者は、少なくは無い。理由は様々だろうが]
ここは精霊界ですから、基本的にはあまり人間は居ませんが…そう、今回偶然に引き込まれてしまった人が二人ばかり。ですが悪い人では無いと思いますよ。
あまり気を張られずに、御過ごしあれ。
僕は少々、用があるので失礼しますが…ああ、そうだ、厨房にサラダと果物があります。
良かったら召し上がってください。
[確か、彼の種は草食だったと思い出して、そう勧めた]
[傍らに、先だって、アーベルの引っかかった木が一本。トン、と地を蹴り、その幹をするすると昇る、窓際近くまで達すると、そのまま身軽に幹を蹴って、窓枠に取りついた]
ああ、髪が絡んじゃったんですねえ。
ん〜狩り…はあながち間違って無いかなぁ。
大変なことになってるのはそうらしいが、かといって焦っても何もできんしな。
腹が減っては戦もできないし?
でも君は何してたんだ?
[からからと笑いながら。]
[納得された様子に、私は安堵の息を吐く。
更に告げられし言葉を受け取り、事態の理解に勤め――瞬き一つ]
…二人?
なれど気配は十を越え…
[精霊、竜、そして獣族も。
私はもたらされた情報に、幾度も唇を開けては閉じて。
言葉は終に出る事なく、彼の精に勧められるを素直に頷く。
少々痛みが走るも、私に用を果たしにいく青年を止める気はなく。
行くならば見送ろうとした]
なんかアレね、呑気?
大地だから?
[やや呆れた。スカートや膝についた砂を払い落とした。
何処かにぶつけたらしく、膝のあたりに青あざが出来ていたが特に気にはならなかった]
…………ていうか、”オトさん”を探してたんだった。
ま、いいや。居ないし。
一回お屋敷に戻るけど、まだ狩りする訳?
[何やら見詰め合ったかと思えば、身軽に窓枠にまで達した青年に、私は潤んだままの瞳を向ける。
「髪」「絡む」
嗚呼、気付かれた事に耳が仄かに赤くなろうか]
……えぇ。
[返事は髪が絡んだ事へのもの。
なれど青年の矢継ぎ早の言葉が先を越して、触っても良いと許可を与えた形に成る]
では、少し動かずにいてくださいね。
[笑みを浮かべて、指先を絡み合った腕輪と白金の髪に伸ばす。ほんの僅か、雷撃の力が指先に宿っているのは感じられたか。触れるか触れないかという一瞬に、するすると、何かに引き寄せられるように髪が腕輪から解けて離れる]
さあ、これで大丈夫。
[もう一度笑って、窓枠から飛び降りた]
…呑気、かぁ。かもしれんなぁ、でも何とかなるよ、なんとかする…ってお〜い…。
[頭を掻いて苦笑し、話す間に小さくなる少女の姿。
腰に手を当ててひとつ、口許に笑みを浮かべたまま溜め息をつくと、魚を担いでパラソルなどの横をざくざく歩く。
途中、すっかり渇いた服を木から取って身に着けることは忘れずに屋敷へと草を踏み。
大地の心地よい感触に目を*細めながら*]
では、失礼します。麒麟殿。
[にこにこと手を振って、今度こそ駆け出していく]
[途中、リディやマテウスと出会えば、リディには少し呆れたような、同時に安心したような笑みを見せ、マテウスには機鋼竜の話をして、ファクトリーの入り口を探すのを手伝ってくれないか、と*頼むだろう*]
[「動かずにいてくださいね」
笑みを向ける青年の言葉に、私は何故か逆らえず動きを止める。
明らかに敵意なき気配故だろうか]
あ……
[伸ばされる指先。
触れるか触れないかという刹那、蓬髪は緩やかな痺れを帯びて仄かに広がろうか。
次の瞬間、何事もなかったかの如く白金の輪が腕を滑り降りて。
私は言葉を発する事も出来ず、青年の笑みを見返す]
……あ、ありがとうございまする。
[声が出たのは、青年が窓枠から消えた後]
やっぱり呑気だし。
[辺りの風景を満喫しているらしいマテウスを、顔を顰めるようにして笑う。ユリアンに出逢ったが、彼がマテウスに語った機鋼竜の話などは興味が無いのか、適当に聞き流してさっさと屋敷に向かう]
ライデンは忙しそうだし。
[すっかりユリアンの姿が見えなくなってから]
まー、元気ならいーんじゃない?
べたべたになっちゃったしシャワー浴びよ。
[*屋敷へ*]
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