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―個室―
[直ぐに持ち主に届けるは躊躇われ
それは自らの部屋で暫し預かることにした]
それにしても、
長剣の鞘は何処にいったんだろう。
ギュンター殿を襲った者が、持ち去った?
[捨てられていなければ良いと思う。
とても見事な装飾だったから無くすは惜しい。
作り手が哀しむ姿はみたくなかった]
………。
[考えるような間を置いて]
ギュンター殿の部屋に行ってみるか。
確か、日記があったんだよな。
[ライヒアルトに飛び掛り左手で首をつかみ壁に押さえつけるように、振り上げた右手はそのままの勢いのまま振り下ろす……、
人には到底無理な速度と力……そして鋭さを持った右手で、
顔のすぐ横の壁に傷をつける]
はぁ…はぁ…
[必死に湧き上がるものを抑えるようにしながら、首を横に振る]
苦しいけど……それだけは……いや……
[衝動よりもわずかに理性が勝り、ぎりぎりのところを掠める]
殺すのも……殺されるのも……
[苦しそうにうめく声でも、その顔が近くにあるライヒアルトには聞き取れるだろうか。
左手を離し、荒い呼吸のままで苦しむ胸を抑える]
―ギュンターの部屋―
[夜の帳がおり、月のいとし子の時間が訪れるまで。
男は自分にできうる限りの事をしようと思い行動する]
日記は、これか。
[ギュンターの残した言葉をじっと見据える]
狼の声――、久しくなかった事。
あの時、……また、って事は以前にも似たような事があったか。
ギュンター殿がその場所に居たのなら……
何処かにその時の記録が残っていないだろうか。
[部屋を見回し、手がかりを探す。
成果を上げられぬまま、陽は落ちて、その場で眠り込んでしまった**]
―個室―
……ッ !
[壁に強く押し付けられて、苦しげに顔を歪める。
だがそれだけだった。急な攻撃への戸惑いも、殺される事への恐怖も、その表情には浮かばない。
振り上がった腕が壁を傷つけた時にも少しばかり身を竦めたが、それもまたそれだけで終わる]
……苦しそうだな。
[やがて手が離れたなら、僅かに咳き込んだ後で、男は再び彼女を見た。
僅かに眉を寄せ、哀れむように]
だが、よく耐えた。
ライヒ……兄さんは……
いつもそう……
[それでも、同世代の者達と、仲が悪いわけではないが、皆に比べれば仲がいいとはいえない自分にとって、もっとも親しい人。
そして一番……]
ずるい……本当に……
[泣きそうな表情で、哀れむ様子を涙をこぼしながら見る]
ごめんなさい……
癒して……くる……
[涙をぬぐいながら部屋を去ろうとする、言葉の意味することは……語るまでもなく伝わったことだろう]
―個室―
……そうか。
[想いには気付くか否か、言葉を発したのは、癒してくると伝えたそれに対してのみ。
眉を寄せたが、止めることはしない。
気を付けろと言葉を掛けることもしない]
君は人だと、他には伝えた。信じたか否かは解らないが。
……最後まで諦めてはならない。
神は努力を尽くした者にのみ、与えてくださるのだ。
[見出す者を騙ったのだと、それだけで伝わるか。
出て行こうとする背に投げかけたのは、通常の教会とは少しばかり異なる教え。
そう説き続けてきた年下のシスターに対して、しかし男は彼の知る真実までは明かしたことはない]
─ 昨日/三階 ─
[ギュンターの遺体に比べれば、ハンスの遺体は恐ろしいものではなかった。
周りの話を聞くに、ベアトリーチェを無理矢理連れて逃げようとしたらしい。]
人質なんて取っても、意味がないでしょうに……。
どうやって逃げるおつもりだったんでしょう。
[一人呟く。悲鳴や銃声を聞いたからか、彼が外の人間だったからか、人質以外の発想は浮かばなかった。
その後は、部屋や廊下の掃除を手伝い。
ベアトリーチェがあのベッドカバーを使ってくれていることに気づいて、こんな時だが少し嬉しく感じたりもしつつ。
料理や屋敷の掃除などして夜まで過ごしたのだった。]
─ 翌朝/個室 ─
[眠っとる間もクロエさんやミリィが様子見に来てくれたかもしれんけど、うちは目ぇ覚ますことは無かってん。
何度か魘されとったかもしれんけど、溺れた夢見とるわけでは無ぅて。
喉元に残る息苦しさと、目ん前で人死ぬん見た精神的なもんやったと思う。
そないな風に早ぅに寝とったさかい、朝に目ぇ覚ますんはいつもより早かった]
………まだ苦し。
[ベッドん上に横向きに寝転がって、右手で喉元押さえる。
じわじわ締め付けるような感覚が残っとって、居心地悪ぅて眉根寄せた]
ミリィ起きとるやろか……まだ早ぅか。
後でもっかい薬もらお…。
[窓ん外見たら、陽ぃ昇り始めみとぉな雰囲気やった。
あんま早ぅ訪ねてもあかんやろ思て、薬貰いに行くんは後回しにしてん]
……………………。
[橋落ちてからうちに起きとる異変。
それがなんなんか、原因が見えて来ぃへん。
そもそも”人狼”てどういうことやねん。
何でうち、ハンスさんが人狼ちゃうて判んねや。
ホンマ解らんことだらけやで…。
今、なにが起きてんねん]
[御伽噺とかに直ぐ結びつかんかったさかい、うちは訳解らん状態が続いとった。
そん中で、うちん中で渦巻いとるもんを感じて困惑する。
訳分からん中で、”人狼探さなあかん”て思うてしもうとる。
それに疑問持ちよると、息苦しさが増すように感じてん。
解らんことだらけやったさかい、一旦なんも考えんようにして、うちは部屋ん外に出た。
まだ誰も起きてへんやろか。
ちょい外行って、朝ん空気吸ってこよ]
─ →外 ─
[ちゃんと上着着込んで外ん出た。
吐く息がめっちゃ白ぅて、外ん寒さがよぅ分かる。
めっちゃ寒いんやろな、細かーな雪がちらちら降っとった。
せや、外出たついでにギュンターさん埋葬されたとこ探してみよかな。
そう思て、庭の方に足向けてん]
………ん?
[そん途中にある、空がよぅ開けた場所。
そん中に、ぽつん、て雪やないなんかが転がっとるんが見えた。
なんやろて思て、サクサク雪踏んで近付いてみてん。
しばらく雪降っとったんやろか、転がっとるもんの周辺に足跡とかは見あたらへんかった]
─── ミリィ?
そないなとこで何して………
[転がっとったのはミリィやった。
赤ぁ髪が雪によぅ映えとる。
髪とおんなじ色の目ぇは閉じられてて見えん。
何してん、て声かけよ思たんやけど、そん声が止まってもうた]
………───── ミリィ!!!
[間ぁ置いて出たんは、雪ん上に転がってる人ん名前。
さっきの呼びかけと違ごて、声は絶叫に近かった。
ミリィん周囲が、髪よりも鮮やかぁな紅に染まっとったんや]
[駆け寄って、ミリィ抱き起こそ思て肩に手ぇかける。
腕は胸んところに組まれとって、ただ見れば祈っとるようやった。
肩掴んで上半身起こしたら、組んでた腕が腹んところに力無く落ちてく]
───ッ、 ァ……!
[腕あったところの胸に、ぽっかり穴ぁ開いとった。
それ認識した途端、鼻に鉄錆ん匂いが突き刺さってん。
匂いに顔顰めて、目の前の状況に困惑して、自分が今どないな表情しとったか、もう分からんくなっとった]
ミ リィ、 なん 、 なん、で
[─────── 人狼や。
そないな考えが頭にすっと入って来よった。
理由なんて分からへん。
事前情報とかそないなもん無くても、人狼の仕業やて、すんなり思えた]
[ミリィん首に痛々しい噛み痕が見える。
それ見とったら息苦しさが増して、目ぇに涙浮かんで来た]
…ッ 、うち が、探せてへん、から ッ…
[息苦しいんはそのせいやって、そう思えてきて、嗚咽混じりで声が零れ出てん]
ごめ、 ごめ ん 、ごめんな ミリィ ───……
[泣きながらゆぅて、上半身起こしたミリィ抱き締めた。
うちん涙がミリィん頬に零れて伝ってく。
青白くなってもうたそれが赤みを帯びるなんてことは全然無かってん]
[そぅしとる間に来る人はあったやろか。
うちはしばらくミリィ抱き締めて泣いとった]
[何でそうせなあかんのかは分からんけど、うちがやらなあかんことは理解した。
── やけど、うちが探す方法て、残酷すぎやせぇへんか*]
―ギュンターの部屋―
[机に伏せていた男がふると小さく身震いした。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
顔を上げて痺れた腕を解す。
窓を見ると夜が開けていたのだと知れた]
――…。
[感覚があるのは生きている証。
己が無事であるなら――。
立ち上がり、男はギュンターの部屋から立ち去る]
―廊下―
[まっすぐ向かう先はクロエの部屋だった。
まだ朝も早い時間に躊躇う事なく扉をノックする]
クロエ。
……アーベルだ。
[名を呼んでから、己の名を名乗り彼女の返事を待つ。
応えがあれば、ほっとしたように息を吐いた]
ああ、よかった。
無事だったんだね。
[無事を喜ぶ声は密やかにクロエにのみ伝えられる]
[赤い雫は、ぽたぽたと旅人の胸から零れ落ちる。まるで旅人の涙のように。ぼんやりと部屋を眺めた旅人の目に、廊下で蹲る娘の姿が映った>>14]
……
[何か引き寄せられるような感じがあって、旅人はその傍に歩み寄る]
また、具合が悪いのかい?
[余りに苦しそうに見えたので、旅人は、しゃがみこんで、その背を撫でようとしたが、当然のようにそれは叶わない。眉を下げた旅人の耳に、ローザの言葉の切れ端が届いた>>16]
嗚呼、きみには、判るんだね。
[耳では聞き取り辛い声も、魂だけの存在となった旅人には、はっきりと聞き取れる。旅人が人狼ではないことを、この娘は知ったのだ…人狼が、まだ、ここにいることも]
─ 夜・自室 ─
[それから時折ローザの様子を見て、
良く眠っていることに安堵する。
呼吸もマシになって思えたのは、ミリィの薬の賜物か。
魘される風>>71に時折額に手を添えて、
収まればローザを起こさぬように部屋をあとにした。
結局、昨日口にしたのは水と紅茶だけだった。
食事があるとユリアンが言ってくれていたのは覚えてる。
けれども何だかお腹が空くことがなかった。
お腹が減ったという実感よりも、
ぽかりとした空洞のようなものが胸の真ん中を占め続けていた]
……ライヒアルト修道士。
[夜に自室に戻れば髪を解き、じっと鏡を見つめる。
思うのは教会の修道士のこと]
―廊下―
朝から邪魔をして済まなかったね。
ちょっと心配だから、他の人たちの様子もみてくるよ。
[クロエにそう言いおいてから踵を返した。
ユリアンやライヒアルト、ナターリエの部屋、と、
手当たり次第に個室の扉を叩き安否を確認しようとする]
[彼は何故、教会の秘儀などと口にしたのだろう。
彼が人狼だからであろうか。
それとも他の目的があるからなのか──?
漆黒の瞳を一度閉じて、彼の面影を心に刻む。
色々あって、眠れないのではないかとも思った。
けれど心身の疲労は思いのほか深く、
ベッドに潜り込むといつしか深い眠りに誘い込まれる。
クロエの夢に悪夢が訪れることは、
────…、なかった ]
『双花支えしは見出す者たち…』
[旅人は、幻燈歌を知っている。それは、ただの歌としてではあるけれど、死んでみて、この場の状況とその歌の語る情景が、奇妙に一致している事に思い至った。もしも歌のとおりなのだとしたら、ローザは『死せる者』を見出す力があるのだろう]
…けど、ずいぶんと苦しそうだ。
[やはり、かわいそうだ、と旅人は思う]
[やがて旅人の遺体は部屋に運ばれていったが、それにはついていかなかった。身体と離れることが出来るのかどうかと試すような心持ちで、ふらふらと、窓の方へと向かう]
開けられないよな?
[窓に手を伸ばした瞬間、ふわりと浮くような感覚があって、旅人は外に出ていた。部屋は三階だったはずなのに、いつのまにか足の下には雪に覆われた地面がある。けれどそれを特に不思議とも思わず、旅人はゆっくりと歩き出した]
[昨日ベアトリーチェの部屋で騒ぎがあったとき、
既に彼の右手には包帯が巻かれていなかった。
けれどクロエがその時、それに気づくことはなかった。
騒ぎに紛れ、ローザに気を取られて気づけなかったのだ。
だから初めて彼が右手を晒しているのを目の当たりにして、
漆黒の目を見張り、続いて彼の瞳を見遣る]
─────…。
[何か言いたかった。
けれど言葉にはならず、きゅっと口元を引き締めるのみになる。
彼の決意は既に聞いていたから止めることも出来はしない。
それでも…気掛かりなのは、気掛かりなのだが]
ん。…あ、ちょっと待って。
[自分も行くにしろ、髪を纏めてからの方がいいだろう。
だから部屋を回ろうとする彼についていく素振りは見せず、
ただ踵を返すのに、一度引き止めるように彼の腕に手を伸ばした]
───ライヒアルト修道士は、違った。
[端的にそれのみを彼に告げる]
[下ろされたままの漆黒の髪。
それが新鮮に思えて少しの間見惚れるように
クロエに視線を注いでしまう]
――― …ッ、ああ。
[笑みを深めた彼女に同意して
ごまかすように視線外そうとすれば
手の事を言うのが聞こえた]
昨日広間でね――…
カルメンやエーリッヒに話をしたんだ。
お伽噺とは縁が薄いみたいでピンとは来なかったみたいだけど。
[その時の反応を思い出すように受けた印象を綴る]
もう、隠すのは止めたよ。
誰も、逃げられないのか、終わるまで。
[ぽたりぽたりと、赤い雫は旅人の胸を濡らす。けれどその赤は、白い大地を染める事は無い]
いたい…
[思い出したように呟いて、胸を押さえると、旅人は屋敷の方へと歩き出した。次に誰が死ぬのかを、見届けるために]
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