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[緊迫する様子の二人をじっと見つめる]
[落ち着きのない様子のブリジットをそっと抱き締めて]
[何が起ころうとしているのか、ただ二人の会話を聞いている]
[ゆっくりと銃を抜き、老人の胸元へと突きつける。
ザムエルはそれにあがらうことなく微かな言葉を続ける。]
「それよりも……。
これが終わった時に……、ハイン……さ。 生き延び……たら……。
この茶番を……終わり……。」
[途切れ途切れの言葉がとまる。老人の胸元で組んだ手が、緩む。]
…あぁ、終わらせるさ。
少なくとも、お前さんは…ここで。
[右手の人差し指に、力を込める。
消音化された銃口が、キュン…とあまりにそ
っけない音を立て、
老人の弱った心臓を、正確に貫いた。]
……違う……ルーツィアは、もう、いない……。
[かすれた呟きが、こぼれた。
違うのに。
違うのに。
なんでこうも。
重なる。
状況が。
……そんな風に煩わされていた思考を、何かが倒れる音が遮る。振り返れば]
……ユリアンっ!?
[そこには、意識を手放した、ユリアンの姿が]
[ハインリヒが銃を抜くのを見つけ]
[ブリジットがそれを見ないようにと庇って]
ハインリヒ…何を…
子供の前なのよ!銃は……!
[それだけ叫ぶように口にして]
[だけど、止められない、と確信はしていて]
殺した
[ブリジットは呟く]
[あっけなく]
[ザムエルの命は、ハインリヒによって奪われた]
[…張り詰めた空気は、途絶えない]
[目の前で起きたことに目を背けて]
……なんてことを…
[小さく呟く]
[血の、匂い。昼間と同じ、あの]
[震えるブリジットを抱き締めて]
二階に…部屋に行きましょうブリジット…
ここは…怖い、から。
[急速に糸が萎びてゆくように、居間の空気は温んでゆくようだった。だけど、ハインリヒが引き金にかけた指の辺りは、まだ黒い意志を持って、凍りついているように思えた]
……ここで倒れるかよ、お前……。
[呆れたように、呟いて。
まだ、埋葬がすんでいない事に気づけば、慣れぬ手つきでスコップを手に取り。
少女の亡骸を、土の温もりの中へと]
……ルーツィア。
[作業をどうにか終えて。
小さく、名を呼ぶ。
それは。
歌を贈ろうと思った者の名前で]
どうして、あの時……俺を。
[空を、見上げる]
[自分の名をくり返すブリジットを、もう一度抱き締めて、そっと髪をなでる]
大丈夫…あなたには何もさせない。
もしもあなたが……
[そこまで言って口を閉ざす]
[もし、ハインリヒに聞かれたら]
[頭を振って考えを追い出して]
…大丈夫、私があなたを守るから。
[ここを出よう、と言う声に頷いて]
行きましょう。
[ブリジットの手を握って、階段に向かう]
[一度振り返って、立ち尽くしたままのハインリヒを見るけれど]
[何も言わず、逃げるように]
―一階・居間→二階・自室―
[エルザの言葉に動きが止まった]
[そして動かない眸から透明な涙が]
[すぅっと]
[零れ落ちた]
[守ってくれると言ってくれた人は去ってしまった]
[幸せにと言って去ってしまった]
[行かないでと][一緒に行こうと言ったのに]
[去ってしまったのに]
エルザぁ…
[手をとられるままにエルザに連れられる]
[振り返らずに、エルザを追うように]
[声出さず涙だけを流して]
[エルザの部屋へと一緒に入った]
…逃れられ…ねぇのかよ……。
[ぽつりと漏れる、呟き。
血脈に仕込まれた、毒。
魂を束縛する、茨の鎖。
…結局俺は、茶番劇の役者のまま。
舞台からは降りられず。
銃を持つ手が、ゆっくりと下がる。]
―二階・自室―
[部屋に入って、ブリジットが泣いている事に気付いて、そっとハンカチで涙を拭いて]
大丈夫、あなたは守ってみせるわ。
そして、私も何処にも行かない。
一緒に居てあげるから泣かないで?
[ベッドに寝かしつけようとして、服が汚れている事に気付いたけれど]
[着替えさせる服が見当たらなくて]
[乾いているから、と変に自分で納得して]
さ、もう休みましょう?
一緒に居てあげるから。
─エルザの部屋─
[エルザに抱きつく]
うん…うん……
[泣かないでと言われて頷くように]
[エルザの心情にまでは気づかなくて]
[何度も頷いた]
…約束…約束……
[頷いて頷いて]
[ベッドの中に入る]
[ぺたりと座り込む。
この人は、自分が出来なかった望みを、俺に託したのではなかったのか?
何故?
何故??
何が俺にそうさせた?…いや、俺は何をしている?]
…くっ!
[自分の左手に、思いっきり銃底を叩きつける。
みしり、と嫌な音がした。
呑まれるのか?
もう呑まれてしまっているのか?
…あの人のように。]
[ブリジットがベッドに入るのを見届けて]
[少し考えて自分もベッドの中に]
おやすみなさい、ブリジット。
ここに居るから…ね?
[そう言って、また昨日のように子守り歌を歌って]
[ブリジットが眠ったことに気付いたなら]
[やがて自分も*眠ってしまうだろう*]
[老人をそっとソファーに横たえると、両手を組ませて毛布をかけた。
左手が痛みを訴えたが、気にしないことにした。
定位置に座ると、肘をついて頭を抱える。
ぐるぐると堂々巡りを繰り返す思考。
…何処までが自分の意志かも判らず。
そのまま、もう動かぬ老人の死体を*見つめ続けている。*]
[エルザの温もりを感じて]
[まどろむ]
[不思議な安らぎに似た]
[なんだろう]
[ぽかぽかする]
ぽかぽか…
[エルザの優しい匂いに包まれて*眠る*]
―集会所の外―
[7、8歳くらいの金髪の少女が何かを抱えてやってきた。
女の子は頻りに辺りを警戒していたが、
誰もいないとわかるとそっと腕に抱えていたものを地面に下ろした]
『さあ、ジョン。
いつも閉じ込められていて辛いよね。
この時間、大人達はミーティングで出払ってるから、
ちょっとくらい研究室抜け出しても大丈夫、見つからないよ』
[女の子がそういうと、地面の荷物は返事をするかのように「わふ」と吠えた。荷物――いや、小型の犬は女の子のあとをついて回る]
『ジョン!折角だから、思い切り走り回ってきなよ。
こんなチャンスめったにないんだから!』
[と少女は言うが、ここまで慕われて万更でもない様子]
[一人と一匹はあちこち走り回り、もつれるように雪上を転がり回る]
[しかし女の子は気付いてなかった。
「ジョン」と呼ばれている小型の犬、いや獣が、
ときたま女の子のほうをじっと見ていることを]
[普通の犬では有り得ない、
虚無の闇を思わせる真っ赤な瞳で]
[唐突に女の子と犬の姿が消えた。
まるではじめから存在しなかったように]
[二人が走り回っていた場所には、
新雪が降り積もり、足跡一つ*ついてはいなかった*]
―一階・厨房―
[僅かな呻き声を上げて目を覚ます。
目を開けて最初に目に入ったのが食器棚で。
思わず首を傾げてから思い出す]
…ああ…俺、また…
[少し周囲を見回せば裏口の扉が見えて。
それで想像がつく]
…運ぶつもりが運ばれた、か。
何してんだろ、俺…
[片膝を立て、緩く抱いて額を押し付ける]
[溜息を吐き出しながら目を閉じて]
[目蓋に映るのは]
[昨夜の]
―――っ!
[全身の骨が軋むような錯覚。
咄嗟に抱いたのは痛みを訴える体か、懐のそれか]
……………ぃ……って、ぇ……
[かなりの間の後、ようやく声を絞り出し。
急速に失われた体力を補うように*眠りについた*]
壁|・)o〇(*業務連絡*
まとめのほうに、相談用のページ新設しましたのでご活用をー。
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―森の中―
[目を開く]
[冷たい][雪が]
[おいてきてしまった少女のことを考える]
[埋めてあげればよかった][そう思う]
[おいてきてしまった少女のことを考える]
[彼女は、きっと][幸せになるだろう]
[だから逃げて]
[ここから]
[昨日のささやいた言葉を][判ってくれただろうか]
[月ではない][陽の下で]
[爪だけを]
[狼のものに]
[そっとそれを][集会所にはにおいは届かないだろうと]
[風向きから判断して]
[自分の手首に*押し当てる*]
[彼の部屋は、未だ少女が、赤い海に沈むままだろう]
[机の上に、二冊の本]
[使い古した辞書と][まだ空白のある日記]
[日記の中には、とりとめのないことも書いてある]
[子供たちに、文字を教え始めた時のこと]
[一人で暮らし始めての生活のこと]
[義母が自分を見ても叫ばなかった時のこと]
[そして]
[この集会所につれてこられた時のこと]
[仲間がいたこと]
[守ると、約束したこと]
[幼馴染も守ろうと]
[それが][だんだん][月の話に]
[かれらがしあわせになるようにとねがう言葉]
―ニ階・イレーネの部屋―
[ランプの灯火はゆらゆらと揺れて次第に小さくなって]
[それと共に彼女の姿は薄く][幼い少女へと変わっていく]
[さらさらの長い銀の髪を靡かせて]
[大きな瑠璃色の瞳をきょろきょろと動かして]
[暖かそうなコートを翻して扉から出て]
[ふいと焔は消え彼女の部屋に静寂と暗闇が訪れる]
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