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わ、ぁっ!
[動いたユーディットに対し、完全に遅れた動きで逆サイドへとステップを踏みながら左手を振るう。
刃がないそれは牽制にもならないはずだったが]
……?
[目を見開き唖然としている様子に。
何となく釣られて動きを止めた]
……情に、流されて……。
[掠れた呟き。刹那、蒼は伏せられて]
……馬鹿兄貴が……。
[零れた言葉は、どこか、吐き捨てるような響きを帯びる]
……あんっまりにも「らしすぎて」、怒る気にもなれやしねー……。
[ばさり、大きな音を立てて、銀翼が羽ばたく。
人の姿であれば、前髪をかき上げるか、でなければ肩を竦めるか──そんな仕種だろう]
貴様も他人の事は言えまいに。
おかげで、
――やりやすかったがな。
[ブリジットならば、端末でそうしたように。
鞘に収めた刃を、口許に当てた。]
…あ、っれー?
[ぷぅ、ぷぅ、と何度か噴く。
が、いつも出るべき炎は出ず――
キッ!と自分の手を睨みつけて]
何で、っさーー!!
[いきなり手に持った棒を、横に振った。
無くなった点滴の下げられていた棒にあたり、派手な音を立てて倒れた。
ワゴンに当たり、包帯や薬などの乗ったトレイが落ちた。]
[突然の破壊行為に今度はこちらの目が丸くなる]
もしかして。あなたは、同じ?
僕のように不要と言われたの?
[問いかけるようにユーディットへと呟き。
届いた感情の薄い声に慌てて背後を振り返った。
それだけで足元がフラつき、些かバランスを崩しながら]
……だから、大きなお世話だってんだ。
[そも、ここに連れてこられた経緯からして、人質を取られたがため。
そしてここでイレーネと会って……動きに鈍さが出ていたのは、否定できず。
声は、憮然とした響きを帯びた]
……って。
やりやすかった?
[何が、と問いつつ、訝しげな蒼を、向けて]
[ティルの言葉に、キ!と睨みつけて]
ボク、不要じゃないもん!
ボクは、いるもん…
ただ、今は、ちょっとお休みしてるだけで…
[しょんぼりと語尾を小さくしながら、背後を振り返るティルには睨む目をきょとりと大きく開けて首を傾けた]
…何?
…さて。
[グローブをはめれば窓からひょいと飛び降りる。
ざ、とブーツが地面を踏みつけたのはそれからしばらくもなかった。
ポケットの端末を接続して現在の状況を確認しながら足は南へと向かう。
瓦礫の谷間を抜けてブーツが礫と砂とを半々に踏む頃には空に月が昇って]
−→中央〜南域境界地帯−
だから、そのままの意味だよ、
アーベル=シュトゥルムヴィント。
“やりやすかった”ゆえに“生き残れた”。
おかげで、私は今――こうしてここにいる。
[細めた冬の緑は、月のように。
隠された口許もまた、同じか。]
感謝せねばなるまいな?
ぼ、僕だって。
[ユーディットに返す。そこまでは幼さがかなり混じった声]
っく、あなた、は。
ここは。
[倒れるのを回避しようと右手で近くの機械に縋りながら。
走った頭痛に左手を頭へと]
…あなたは誰だ。
[記憶と重ならない姿を「睨みつけ」た。
紫がかっていた瞳の色が露草色へと落ち着いてゆく]
……ああ。そ。
[冬の緑の、月の笑み。
それを、銀に包まれた蒼が見返す。
冬の海の色ね、と。
彼を育てた姉は言っていた]
お役に立てて何より……とでも言えばいいのかね?
[吐き捨てるような言葉。
声音にあるのは、微かな憤り。
それがどこへ、何を意味して向くのかは、定かではなく]
…あれぇ、ブリジットさん。
なんか、変?言葉とか。
[言われている内容は全く意とせず、ふわりと破れたスカートを揺らしてブリジットの傍まで行き、顔を覗き込んだ。
結果的に、ティルのすぐ近くに行くことになっただろうか。]
何故、貴様らはそうして他者を気にかけるか。
理解に苦しむな。
[吐き棄てられたそれにも、
感情のいろは浮かぶことなく。]
御自由に。
[瞬きの後には、形だけの月は消える。]
全く、因果なものだ――
もしくは、敢えて用意されたカードか。
[鞘を下ろして、腕を組んだ。]
んー?
[首を捻りながら、一歩下がり。
言われた言葉には口を尖らせて]
敗者だけど敗者敗者言わないでよっ!
もー。
[眉間に皺を寄せた。]
…Schwarzes・Meteorの、か。
[瞳を掠めるは憎悪の色か。
それでも今の自分では絶対に敵わないこと位は分かる。
相手は万全…かどうかは知らないが、少なくともそれ程のダメージを負っているようには見えない]
言われたからと大人しくしているなどとは。
思ってもいるまいに。
[苦々しそうに答える。声が僅か掠れた。
一歩下がるユーディットをチラリと見て]
…忌々しい。
[頭から左手を下ろす途中、耳に指が触れる。
吐き棄てたのはどちらに対してでもなさそうだったが]
何故って……。
俺は、一人では、生きられなかった。
親に捨てられて、兄貴に拾われて。
それで、生きられた。
そして、俺はその兄貴の『誓い』を引き継いだ。
だから……それは、俺にとっての『当たり前』なんだよ。
[それの理解に苦しむ、と言われても。
こちらには、その事が理解できなかった。
大切な者たちと共にあり、それを気遣うのが、彼にとっては当然だから]
[御自由に、との言葉には、じゃあいわねぇ、とさらりと返して]
因果っつーよりは、仕掛け人の悪趣味……ってのが、正しい気もするがね。
そうか。
私の「当たり前」は、異なる。
それだけの話か。
[彼女は組織の中で生きて来た。
それだけ、と切り捨てたにしては、珍しく、僅かに俯き伏せた眼は思案げないろを見せる。
ゆるりと顔を上げると、腕を解いて鞘を戻した。
今、戦う意志はない、という表明。]
大切なものが居る事は大切なことだ、と。
そう言っていたのは「ブリジット」だったかな。
あれも、貴様らを羨んでいたようだ。
[悪趣味との一言には、違いないと同意を示した。]
[「不要品」の一言には動揺を見せる。
今しがた囚われていた記憶、それを刺激する一言だから]
今は…?
[含みのある言葉に眉を寄せる。
だが続いたのは合理的であり、自分たちにとってもまず間違いなく正しくあろう言葉で]
それは…そうだな。
[内心ではこっそりと「ここが治療所なのか」と確認していたりもしたのだが。ユーディットの様子も測りながら息を吐いた]
そりゃ、全員の『当たり前』が同じ訳ねぇさ。
同じだったら……こんなくだらない遊びなんざ、なかったろうしよ。
[静かに言って。
戦意がない、という事を感じたなら、こちらも四肢の力を抜いて、伏す]
大切なものは、支えになる……強さになる。
……勿論、弱さにもなるがな。
[呟くように言って。羨んでいた、との言葉にやや、首を傾げる]
……俺と……イレーネ、を?
[零れた疑問は、不思議そうな響きを帯びて]
[小さく、溜息を零す。]
[僅かな浮遊感と共に、低く響いていた駆動音が止まる。
白の壁に隠された、鉄扉がゆっくりと開いて。]
―地上・モニタールーム―
――…、…!
[モニタの前に居座る、思いがけない人物に僅か眉を寄せた。
『下』のモニタでは、友人が映っていないのを確認していたから
てっきり、一緒に居るとばかり思っていたのに。]
不要品じゃないもん。
ボク、不要じゃないもん…。
[ブリジットの言葉には、泣きそうな表情になり、手に持った棒を一度地面に打ちつけた。]
[そのまま、何かをぶつぶつと呟きながら。
ブリジットの肩に手を伸ばし、避けられなければ突き飛ばすようにしてメディカルルームを出る。
そのまま向かいのhの部屋へと入り、バタンと音も荒々しく扉を*閉めた*]
…………?
[何が動く音。モニタールームの椅子で聞く。
先に球体2つが音の発生源にレンズを向け。
ワンテンポ遅れて少女自身も振り返る。]
…………。
[目に入る姿にいささか安堵。
何故なら、彼は確かユリアンのおともだち。]
くだらない、ね。
そうだな。
全く以て、くだらない――
[口許を歪める。
それは形づくられたものよりも余程、笑みに見えた。
愉快さを感じているとは思えなかったろうが。]
己には何も無いから、
有る者に対して、羨望の念を抱く。
浅ましいが、人間らしい感情だよ。
好意と同時に、嫉んでもいたわけだな。
だからこそ、イレーネ=ライアーに挑んだのもあったのだろう。
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