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[歩みだすカルロスとエリカの向こう。水鏡の中の夜の空にそっと手を触れる。わずかな波紋]
……ああ、飛びたいな。
[ネロの、鏡の中の紫紺と陽光の翼にした動作には気がつくことが出来ないまま。そんな事を*呟いた*]
[狐を探す鷹の目の男の後を追う。しばらく飛ぶうち体内に蓄積した虚に蝕まれた肺が悲鳴を上げ、速度を落とす。慌てて前を見ると、紫紺の男の視線を受けて、息を飲んだ]
『足手纏いだ。』
え……?
[その獰猛な鷹の目で示されたのは近くの施療院。一言のみを告げ、振り向いて飛び去る男の背中を、追うのは止め、ただ]
……あの……っ
服……とベッド……ありがと
[かけた言葉は届いたのか、鼻を鳴らす音が風に乗り聞こえたような気がした。聖殿から封印の光が溢れ出る、ほんの少し前の事]
外ねェ。
たしかに広いが――
[おかしそうに嗤う。
と、視線をとらえて、ラスを。それから言葉を聞いて、カレンを見た。]
やァ。
さてはて、何がしたかったといわれてもな。
[肩を竦める。]
愉しめれば良い、それだけだ。
[一瞬の躊躇の後、施療院の扉を叩く。しばらく間を置いて]
『もう診療時間は終わってるんだけどねえ。ま、お入りよ』
[返ってきた年輪を経た声は、心なしか沈んでいるように感じた。促されるまま中に入り、ラウルに見られながら簡単な診療を受けた。そこには以前の自分と変わりなく接する姿。無関心か悪感情に満ちた視線に慣れた身には少し不思議]
あの……っ
[口を開きかけ、つぐむ。怪訝そうな視線に]
……ううん、何でも……
診察、ありがと……ね……
[診療代、支払える物がないと告げれば、出世払いでいいさと笑われ。本当は他の誰かの分の食事だった、野菜と木の実のスープを馳走になる。身体を気遣う言葉と共に、診療所から送り出される。その不思議な魅力の持ち主を、カレンの姿と重ねた]
……カレンさん……いなかったね。広場、かな?
[少し元気が出た身体を、ラウルと共に聖殿へと向ける。向かった先では、すでに狐が封じられたと*聞くのだった*]
―森の奥・親の墓―
[たどり着いたその場は静かで。
当たり前だが、他者の気配はない]
……当然、か。
ここを知ってるのは、旦那とせんせ以外はみんなあっちに行っちまってンだしね。
[小さく呟き、座り込んで木にもたれ掛かる]
なんかもう、ホントに……嫌になる。
[零れ落ちたのは、小さな呟き]
[『天将の血筋』。そんな短い言葉だけで変わる、周囲の態度。
両親が出身を隠していたのは、これもあったのかと、今更ながらに感じていた]
……楽になりたいから、何かにすがる……か。
……でも、アタシも人の事は言えないね。
苦しくて逃げたくて、それで甘い言葉に引っ張られ……挙げ句、何にもなくなった。
[言葉とともに、浮かぶのは自嘲の笑み]
ホント……バカだ。
存分に。
[くつり、嗤って、ラスを見る。]
なかなか良い退屈しのぎだったな。
あァ……あんまりお前にとっては良い気分ではないか?
[水鏡のほうへと視線を投じる。]
……一番欲しいものが、一番怖いんだから……。
ホント、情けないったら。
[相棒もいない、完全な一人きりの状況は、いつもは表に出す事のない心情を溢させて。
小さくため息をついた後、瞑目する]
ゆうらゆら 風吹く空には何が舞う
ゆうらゆら 風乗り舞うのは旅する羽根よ
行き着く先などだぁれも知らぬ
そら行く道には果てなどないよ
ゆうらゆら 彷徨う羽根は何探す
ゆうらゆら ひとりの羽は、誰探す?
振り子はゆれる あおのそら
いずれもただしく いずれもあやまり
ゆうらゆら ゆうらゆら
そら行く羽は 何さがす?
アヤメ嬢は、とても苦しそうだったからな。
[それも愉しいというように、嗤って。
ふたたび狐はラスを見る。]
――さすが巫女殿、というべきか。
[アヤメが苦しそう、と言われれば目一杯の渋面を作り、肩を落とした。]
そんなきつく、首絞めてない筈なんだけどなぁ。
それは…謝るよ、うん。
巫女さん、あそこでずっと祈ってる。
なんつーか、遣り切れないなぁ。
[頭の後ろで手を組んで、ゴロリと横になった。]
[狐は一つ得心した。]
お前も莫迦だな。
すくいようもない、大莫迦者だ。
[おかしそうに嗤う。]
いいんじゃないか、アレはアレが好きでやっているんだろう。
[視線を投げるは、巫女と、その付き人。]
触発された、とでもいうか。
[くつくつと嗤い、狐の面の額に触れる。]
ここから、視えた、ということだろう。
コレは虚みたいなもンだからな。
虚を視る眼になったのさ。
面じゃないがな。
[くつりと嗤い]
しかも虚ですらない。
誰だってもっているものだが、他人のものも溜め込んでいるだけだ。
――飼い慣らしているからな。なんの問題もない。
他人のものって。
…あんた、実は結構苦労してる?……ッスか?
[喋りながら、やっと自分が普段と同じように話してしまっている事に気がついた。
無理矢理な語尾。]
…言われた、けど。
[むぅ、と眉を顰めながら]
俺、あんたとかロザリーとか金持ちは何不自由なくていいよなぁって、妬んでたんだぜ。
気づかないほうがどうかしていると思うが。
[ラスの言葉に、おもしろそうな声音。]
ロザリンドは知らないが、俺はずいぶんと昔から知っていたぞ。
だから莫迦だというんだ。
[くつくつ、耐えきれずに嗤った。]
まァ、百歩譲ってうまく演じていたとて、
そういう気には、敏いもンだ。コレが。
[額を指差す]
ただの傷痕だが、気になるか?
[その手を見て]
いくら巫女殿とは言え、これまで浄化は出来ないだろうが――
見ても気分の良いものでもあるまい。
いやでもほら。
傷跡とか、俺知らなかったし…良いモノじゃ、ないだろ?
[咎める調子でない様子に、逆に口を尖らせて上目遣いで言い訳のように。]
とくべつに何とも思っていないが。
まァ、見るほうの問題だろう。
そうやっていると、子どもよりも子どものようだな。
[面白がる調子。]
…もう俺25だぞ?
[下げた眉の下、大きく溜息をついて]
まぁ…「虚」に捕らわれるとか、子供以下だよな。
[自嘲気味に口の端を上げた。]
…ぅぅ。
[恨めしそうな目で、狐を見た。
その面は笑っているようにも見えて、更に眉を顰める。]
なぁ、あんたは何か「闇」って持ってる、のか?
[ふと声色を明るくして聞いてみた]
え。
何に、って。
こう、計画、とか、なんていうか…
[手をぱたぱたして、四角や丸を形どってみた後、ぴたりと止めて眉を下げてケイジを見上げ]
…何、だろ。
−上空−
[慌てて着いて来る気配も見ず、大きな翼を羽ばたかせた。
ケイジの姿を探し、地上を睨み飛ぶ。
だが狐の面を見つける事は出来ず、舌打ちした所で小さなラウルの鳴き声が耳に入った。何事かと体ごと振り返る。
視線の先、速度を落としよろめく白の翼が見えた。]
『………限界か。』
[昨夜消えた後の事は知らないが、小さな体が悲鳴を上げたのだろうと判断する。幸い、施療院は遠くなかった。
慌てて見上げてくる深紅の瞳を射抜き、顎をしゃくる。]
足手纏いだ。
[睨む視線で施療院を示し、再び前を向き四翼に力を入れた。
風を大きく捉え空を切る背を、声だけが追いかけてくる。]
………フン。
[耳に届いた礼に鼻を鳴らし、振り返る事なく飛び去る。
冷たい風を受ける顔は、少しだけ口の端を上げていた。]
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