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─広間─
───……っ。
[返って来た言葉>>96に、オレは眉尻を下げて噤んだ口を歪めた]
……そりゃ、仲悪いわけじゃ、なかったよ。
[上げた顔はまた床を見詰める。
仲悪くは無かったけどさ。
…でも、オレ少し疑ったりもしちまったから。
だから、ゲルダに返した言葉は少し歯切れが悪かった]
…エーリッヒの部屋?
それだったら、左側の、奥から三つ目の部屋だよ。
[エーファ>>95がゲルダ>>99に訊ねる言葉を受けて、代わりにオレが答えた。
さっきクレメンスに教えて貰ったからな、これは間違ってない]
[心配はするというアーベルに、でもと言いかけたものの続いた言葉にまぁ、と瞬きして少し赤くなった。]
もう。アーベルったら。
そういう意味じゃないのに。
…アーベル?
[そう言って見上げた後、大丈夫だと言った自分に向けられたのは笑顔、ではあったのだけれど。
こういう顔をする時は必ず何か驚かされてきたから、恐る恐る彼を見つめて名を呼んだ。]
[不意に景色が変わる。
菫の眸に映るのは未だ見慣れぬ天井の色。
顔を埋めるライヒアルトの黒髪に手を伸ばし優しく抱く。
濡れる感触が伝わり彼が泣いているのだと知れた。
ずっと泣くのを我慢している風だった少年の姿が浮かぶ]
我慢しなくていいよ。
[私が居なくなったら彼は泣くのだろうか。
彼を慰める誰かは居てくれるのだろうか。
これから先のことを思えば切なくてスンと小さく鼻が鳴る]
[アーベルから解ったと言われれば杞憂だったかと安堵しかけた矢先、身体に浮遊感を感じて。
自分が抱き上げられていると気付くと顔は耳まで赤くなった。]
あ、あ、あ、アーベル…!?
ま、まって、わ、私あるけるから…!
[子供ではないのに抱き上げられれば恥ずかしくて降ろしてと頼んでも結局聞き入れてもらえず。
そのまま二階まで連れていってもらうことになった。]
―二階・ナターリエの部屋―
ナータも知らなかったんだ。
[クレムにも伝えてないと言われ、深緑から透明な筋が流れてゆく。
熱い想いは溢れるけれど。村の教会からずっと離れずに育った男もまた、感情を正しく理解しきれているか怪しかった]
今は苦しくない。
……たべて、しまったから。
[主語は抜いても伝わるだろう。
友人の祖父の血肉を糧としたのは、この男だ]
だから食べない。
このあたたかさを、俺から、奪わないで。
[ナータを組み伏せたまま。優しく撫でられながら。
彼女が眠ってしまうまで。
彼はその言葉を翻そうとしなかった。自分にも言い聞かせるように]
― 二階・ブリジットの部屋 ―
[苦もなく主を抱いてかかえ、無論降ろしての要求は聞く気が無い。]
ほら暴れたら危ないから大人しくしててネ。
ほーら、高い高いー。
[そんな事を言いながら、階段のところでふわっと持ち上げてみたりする。
何か言われても笑んだまま、寄り道はする事無くブリジットの部屋まで行くとベットの上へと降ろした。]
到着っと。
辛いんだったら横になるんだヨ?
[そう翠色の目を見て、さながら兄のようにいい含めた。]
─広間─
わっ。
[さっきより強く撫でられて>>106、思わず声を出した]
……我慢、してるわけ、じゃ。
[ないよ、って言葉までは何故か出て来なかった。
でもどうしてだか涙も出て来ないんだ。
自分で自分が良く解らない。
だから、それ以上返答する代わりに、きゅっと口をきつく結んで。
オレは水で濡らしたタオルでごしごしと床を拭き始めた。
少しずつ、赤が削ぎ落されていく]
―二階/自室―
[ライヒアルトが苦しくないと言えば安堵する。
もう少しだけ一緒にいれるだろうか。
そんな考えが頭を過るが理由を考えれば良かったとも言えず]
……そう。
[胸元に触れる吐息がくすぐったくて微かに身動ぎながら
あやすように彼の髪を梳き撫でて]
さっきね、ラーイは名乗り出るのに反対してくれたでしょう。
本当はね、すごく嬉しかった。
[食べない、と。
奪わないで、と訴える彼の言葉を嬉しく思う。
頷いてしまいたくなるがその願いへの返しは曖昧なまま]
―広間―
[驚きの声>>109にもまったく動じることはなかった。
ただ、続く言葉。止まった言葉。
また、一度、頭をなでて。
床を拭いているのを見て、離す。消えてゆく色に、一度目を伏せてから]
……終わるまで、ここにいるよ。
[彼を見て、拒否は許さないような宣言。
ただ、それ以上の言葉は、動いている間、自分からはかけない]
終わったら、ちゃんとお湯を浴びてくること。
僕に手伝わせないなら、ゆっくりあったまってくること。そうじゃないと、寝てるところに忍び込んで、可愛いピンを留めてあげるからね。
[そんな条件は、ある程度綺麗になってから、普段の口調で言い切った**]
ラーイと一緒に居ると安心する。
ふたりだとあったかいね。
[ライヒアルトが自分と違う存在であろうとも怖いとは思わなかった。
少しだけ舌足らずでこどもの頃のような呟き。
打ち明けて心の重石が少し軽くなったせいか
彼の温度を感じているせいか徐々に瞼が重くなる]
――…だいすきよ、ラーイ。
[囁くような甘い音色を最後に女はまどろみの中におちてゆく**]
―広間→二階・個室―
ね、お願いだから、アーベルおろし…きゃあっ!?
[軽々と自分を抱え歩くアーベルに、それでも降ろしてとお願いしたものの。
逆にしがみつくことになってしまったりで、結局部屋の中まで連れて行ってもらってしまった。
ベッドの上に降ろしてもらうと、恥ずかしかったのを責めたい気持ちと申し訳ないという気持ちの入り混じった顔で彼を見上げ頷いた。]
ありがとう、アーベル。
ちゃんと休む、から。
でも、何も抱っこして運んでくれなくても……
―二階・ナターリエの部屋―
だって、名乗り出られてしまったらそのままにしておけなくなる。
見極める者を見逃すなんてありえないから。
ナータがそうだとは……伝えたくなかったんだ。
[仲間の名は言えない。無意識にもセーブが掛かる。
けれどその存在は仄めかす言い方になった。
誰かは呆れたようにこちらから意識をそらしていたから、そんな気配にも気がつかなかったのかもしれない]
うん。ふたり、あったかい。
[腕の下でまどろみに落ちてゆくひとの頬をそっと撫でて。
眠りにつけない獣を抱えた男は、温もり絶やさないよう毛布を重ねてかけてその隣から抜け出した]
……もう私、子供じゃないのに…。
[急な発作で動けなくなり抱き上げられることは子供の頃こそ多かったけれど最近はほとんど無くて。
だからこそ恥ずかしくて、そう小さく呟いた。**]
─広間─
[拒否を許さないような声>>111が聞こえた。
血に触れないなら、まぁ良いか]
───……ん。
[オレは短く返事をして、しばらく床掃除に専念する。
粗方綺麗になって、もう少しかな、と顔を上げた時。
オレには更なる言葉が待っていた]
……何でそこでそうなるんだ。
つか忍び込むな、野郎の部屋に。
…ちゃんと浴びるよ。
[むっとすると言うか、やっぱどっちかってーと糸目になってオレは言い返した。
自分が血を浴びたわけじゃないのに、匂いが纏わり付いてる気がする。
そのまま部屋に戻るのは、俺としても不本意だった]
片付けて、風呂行って来る。
[床を拭き終わると、オレは掃除道具を片付けて、赤がついたタオルを入れた布袋を手に一旦勝手口から外へと出る。
赤の溜まりを拭いたものを室内に置いておくのは嫌だったから、納屋の傍に置いておこうと思った。
まだヴィリーが居たかまでは覚えていない。
外は寒かったし、早く風呂に入りたいと気が急いていたから、声をかけられない限りはそのまま風呂へと向かうことに*なる*]
―二階―
待たせすぎた、かな。
[無人の廊下で小さく呟く]
でも、それならもう少しだけ。
[足を向けたのは死んだと聞いた友人の部屋。
クレムがその場にいたのなら、きっと運ばれているだろうと思って]
エーリ。
[ごめん、と。その遺体を前に深緑を伏せて頭を垂れた。
謝る権利もないだろうと、謝罪の言葉は胸の内だけで。
部屋の中にはまだ鉄の匂いが強く残っていた。
獣を甘く見すぎていた。衝動は前触れなく一気に高まった]
― 二階・ブリジットの部屋→広間 ―
[ブリジットの、なんとも言いがたい顔>>113を見れば、笑みは楽しげに深まった。
ちゃんと休むという言葉が主の口から出れば、良く出来ましたと言わんばかりに頭を撫でて。]
もうちょっとしたら普通に歩ける、なんて言うからだヨ。
すぐに二階で休んでもらうには、抱えていくのが一番安全だし確実だし。
ほら何の問題もない。
[主が恥ずかしい、という点は見ないフリ。]
それじゃ、また後でね。
もし苦しかったら、俺なりゼルなり呼ぶんだヨ?
[伝えながら、部屋を出た。
そしてブリジットと約束した通り、双子の様子を見るために、広間へと降りる。そこに双子はいたかどうか。
既に眠っているのなら、無理に顔を合わせる事はしないだろうが。
双子と会えたなら様子を伺った。その際エーファの様子に多少なりと気づく事もあるだろうか。
会えても会えずとも、一度水を求めて厨房へと向かった。]
―二階→玄関外―
……チ。
[舌打ち一つで部屋を出た。
足音は殺したけれど、物音を完全に抑えることは出来ない。
隣室にいた人がそれに気づいたのは仕方の無い不幸だった]
落ち着いておくと言ったんだ。
[玄関を出て寒風に吹かれ。
コエではなく紡いだら、誰に背後から聞き返された]
こんな時間に何してるんだよ、クレム兄っ。
[慌てて振り返れば、こっちの台詞だと笑われた。
こちらには笑う余裕なんてない。エーリの血匂も微かに残った、あまいあまい、花の香り]
バ、カ。くれむにぃの、ばか。
[声が明瞭さを失ってゆく。
髪が髪でない何かに変わり、眸を金に光らせて、膝をつき。
首筋目掛けて飛び掛った黒い獣を、その人はどうしたか。
目に焼きついた最後の表情は、いつも通りの包容力を見せる笑み]
―玄関外―
[玄関を出て、右手に少し進んだ場所。
そこが自衛団の監視ポイントから死角になるというのは、狙ったわけでなくたまたまそうなっただけのことだった]
なんてあまい。
ぜんぜん、ちがうね。
[酔ったコエは一部空気も震わせ声となった。
白の上にも流れる緋色を舐めながら、黒狼はうっそりと笑う]
これが、極上の。
……ふぅっ。
[優しい腕も温もりも、この時は脳裏の端に追いやられて。
裡から湧き上がる衝動に身を委ねて、酔い痴れて]
―玄関外―
[そうなった後でナータの部屋に戻れはせず。
自室に戻り虚脱の表情で過ごした後、闇が黒から蒼に変わり始める頃。静かに階段を降りて玄関から外へと出て。
やがて朝陽に照らされだす無残な姿を、深緑は見下ろした]
グッ…。
[うつ伏せにされた背中の服は爪で引き千切られ露にされて。
肉の薄い場所をこそぎ落すように削られて。
削り残した肉に残る朱花は、もう甘く香らない。
漂う血臭は頭の心をぼやかせるけれど、衝動の域までは達しない]
―玄関外―
クレム、に。
[兄とはもう呼べなかった。
抱き起こした首筋と胸に残る虚ろを作ったのは己だから。
自衛団長をそうしたのと同じように。
震えながら跪いて腕を伸ばす。
黒衣は緋色に染まってもあまり目立たない。
ただ物言わぬ骸を抱きしめて、誰かが来るまでその場に蹲り続けた。深緑は昏く沈んで。何か指示されれば、まるで被害者のようにも見える動きで従う*だろう*]
―一階・広間―
[エーファのことを抱きしめて、そのため自分の服も赤に濡れるだろうか。
先にと猫のことを心配する様子>>87に少し戸惑う様子を見せた後]
ああ、そう、だな。
このままじゃ、たしかに、かわいそうだ。
濡らしたタオル用意しようか。
[用意に向かうのは二人でだったか、自分ひとりだったか。
猫を拭いてやりながら、妹はエーリッヒの部屋のことを尋ねていて、答えはエルゼからもらえた。
告げられる言葉は自分にだけに聞こえるようにだったか、自分は困惑の表情を向けて、どうすればいいのかわからずにいた]
いない、ほうが、いい?いた、ほうが、いい…?
[かける言葉は遠慮がちに、普段エーファがするような様子に似ていたかもしれない**]
―前夜/自室―
名乗りでなきゃいけないと思っていたの。
おにいさまとラーイには伝えたから……
私が食べられてしまった時に二人に疑いが向くのが怖かった。
[広間でその力を求められていたからというのもあるけれど
心の何処かで正体を知ってしまったおとうとの心配もしていた。
朱花を抱くクレメンスについてはその心配もないのだと知れたが
それはライヒアルトにのみ疑いが向くのと同義で
だからこそ名乗り出ることを女は選んだ]
見逃さなくていい。ラーイの好きにしていいよ。
[誰かの存在を匂わせる言葉に少しだけ困ったような顔]
ラーイがひとりじゃないなら……
[私が居なくなってもその誰かが隣にいてくれるかな。
そんな事を思いながら意識は徐々に深淵へと沈んでゆく]
―朝/自室―
[疲れていたのか安心していたからかその夜はぐっすりと眠れた。
意識が途切れる前に優しい声とぬくもりを耳朶に感じた気がしたけれど
それが現であったか夢であったか女は知らず。
目が覚めるのはいつもと同じ時間――。
ぼんやりと見上げた天井、ややして隣を見るがおとうとの姿は無かった]
――…ん。
[其処に彼が居ないことを寂しく思う。
生きていることを嬉しく思うと同時に哀しくも感じた。
いつの間にか掛けられていた毛布をぎゅっと抱きしめる]
寂しいなんて言ったら笑われてしまうかしら。
[毛布に顔を埋めると髪に咲く銀の花が揺れた。
はたりと瞬いて銀の髪飾りへと手を宛がう。
其れを髪から外して無事であることを確認すると安堵の息を漏らした。
起き上がりゲルダに貰った其れを大事そうに両の手で包んで、一度鏡台にそれを置いて、身支度を整えようとした]
[ふと気になって長い袖を捲ると左の上腕には手の跡がある。
薄い痣は自衛団員に掴まれた時にできたもの]
痛いと思っていたらやっぱり痣になっていたのね。
ゼルギウスさんに湿布貰っておけば良かった。
[仮令、死を覚悟していても
仮令、他の場所に大きな傷痕があろうとも
気になるものは気になるのだから仕方ない]
おにいさまやラーイが知ったら怒るかしら。
[ヴィリーが詰所での出来事を漏らした時の二人の反応を思い出し
くすりと小さな笑みを零した]
見られない場所で良かったわ。
あまり余計な心配かけたくないし……。
[袖を元通りにしてから髪を梳かししてから、神に祈りを捧げる]
[祈りの時間は静かに過ぎ去り
前にしたのと同じように宿る力を行使する。
思い浮かべた相手は隻眼の男。
視える結果は予想通り――。
探し当てた時の愉悦は無かった]
ヴィリーさんは人狼じゃない……。
じゃあ、おにいさまの言っていたあれは……。
[彼が事件に巻き込まれたことがあると義兄は言っていた。
考えても彼が何者かはわからない。
どのような体験をしたのかもこの力では知れない]
おにいさまに伝えておいた方が良いかしら。
[もう一人のきょうだいは誰がそうであるか知っているだろうから
意識は頼れる義兄――朱花宿すその人へと向かう]
―朝/クレメンスの部屋の前―
[部屋を出て義兄の部屋の扉をノックする。
急いでいたからヴェールも髪飾りも置いてきてしまった]
おにいさま……?
[名を呼んでみるが返る声は無い]
まだ眠っているのかしら。
[厭な考えが頭を過るがそれを必死で否定する。
何度声を掛けてもいくら待っても声は聞こえてこない。
痺れを切らしたかドアノブに手を掛けた]
おにいさま、入りますよ。
[もう一度言葉を重ね扉を開く。
鍵は掛かっておらず何の抵抗もなく部屋の中の景色が見えた]
―朝/クレメンスの部屋―
[人が居る気配が感じられない部屋。
中に入って寝台を見るけれど義兄の姿は無かった。
くるりと部屋の中を見渡して]
――…居ない。
[不安で声が震えそうになる。
厭な予感は募るばかりでそれが消える気配はない]
もう広間に行っているのかしら。
[そうであって欲しいと思いながら紡いだ言葉は
自分でも情けなく思うほどに頼りない響き。
もぬけの殻になっている部屋を出て廊下へと戻る。
誰かと会うことがあれば義兄の居場所を知らないか尋ねるだろう]
―朝/広間―
[階段を一段また一段と下りてゆく。
気が逸り何度か足を踏み外しそうになりながら
辿りついた広間にも義兄であるクレメンスの姿はない]
おにいさま?
[名を呼べば出てきてくれるだろうか。
そんな淡い期待をこめて彼を呼ぶのだけれど声も姿も無い儘。
カウンターに厨房、食料庫にリネン室や浴室――
探せるところは探してみたが義兄の気配は感じられない]
何処に行ってしまったの……?
[不安げに紡ぎへなりと眉尻を下げる。
こんな時はいつもあやすように頭を撫でてくれる義兄の手が恋しい]
あとは……、外……?
―朝/玄関外―
[自衛団にはあまり近付かぬように言われたのを覚えている。
外に出れば自衛団員に咎められるだろうか。
それでも義兄の行方が気になり足は外へと向いた。
玄関から外に出れば冷たい空気が肌を刺す。
微かな風が運ぶのは冷たさだけではなく鉄錆にも似た匂い。
それは右の方から流れてきていた]
――…これ、って。
[何の匂いだっただろう。
考えてはいけない。
其方に行ってはダメ。
頭の片隅で警鐘が鳴り響いているのに
女は匂いのする方向へと歩み探し人を見つけてしまう]
[濃い血の匂いの中心に義兄は居た。
肉を抉り取られ死の香りを纏う義兄とその躯を抱くおとうと。
ヒク、と喉が引き攣るような感覚]
…………ぁ。
[小さく漏れる声]
おにい、さ、ま。
[深い傷痕と血だまりを見れば義兄が既に事切れていることを知れるが
それを受け入れる事が出来ずに名を呼んだ。
覚束ない足取りでふたりの傍へと行けば
ライヒアルトの少し後ろでぺたりと膝を折る]
おにいさま……、おにいさま……っ!!
い、や……、どうして……、……ッ
[いやいやをするように頭を振るい
やがて女は顔を覆って泣き崩れる]
[堪え切れぬ嗚咽は哀しみの深さを示すよう。
頼りになる優しい兄の死を妹は嘆き悲しむ。
物心ついたときから一緒だったから
養父と同じく家族なのだと思っていた人。
歳が離れていたからか頼るばかりだったけれど
それでも何処か誇らしげな笑みを浮かべ面倒をみてくれた。
嗚咽混じりの声があにを呼ぶ。
如何してこうなってしまったのだろう。
あにの命を奪ったのはきっと私。
あにに相談しなかったから彼はこうなってしまった。
あにとおとうとを天秤に掛けることなど出来なかった。
出来ないと思っていたのにあの夜おとうとを選んでしまった。
罪の意識がまた一つ重なる。
彼の死を嘆く資格さえないのかもしれない。
それでも罪深い女は喪った大事な人を思い泣き濡れる**]
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