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…ううん。
一番大事、を、見着けたんだなぁ、と思って。
[目を細めて口を横に引っ張り、にこりと笑みを作った。
柳眉が少しひくと震えてしまったのは止められなかったが。
呼ばわれる名前に、ん、と頷いて]
…さっきの、続き。
比較するのは、ユーリーとキリルだったんだな、って。
[そういう事だよね?と告げる意地悪]
だとしたら、俺はキリルを見着けても
カチューシャと会わせられない、よ。
[それでも、顔は少し泣きそうにくしゃと崩れた]
[目許を手の甲でぐいと乱暴に拭う。
少しだけ感じる水の感触。
大きく息を吐き出して幼馴染たちを見遣る]
イヴァ
如何してレイスはキミを殺した ?
[疑問を口にして]
キリルを二度も恐がらせるなんて
しない、よな ?
[一度目を後悔していた事を知っていた。
大事に思っていることも知っていた。
だからこそレイスがイヴァンを害した事が腑に落ちない]
……流石のメーフィエも怒るだろうな。
[悲しい。その感情は確かに在るようで、薄い紗を隔てた様に、何処か他人事の様だった。
守れと言われた訳ではない。けれど、死なせてしまった。
悲しく無い訳が無いのに、何処か麻痺してしまっている。]
姉さん、僕、
人を殺してしまったかも知れない。
[もう動かないひとに、罪の告白を落とした。
昔は大人びた彼女に、些細な相談事を持ちかけたりもしていた。
生きて聞いていたら、彼女は如何しただろうか。しょうがないわね、なんて言って笑ってくれただろうか。]
―― 回想 ――
[ようやくちゃんと顔を見ることが出来たキリル。
自分から一歩下がったキリル。
不安になって、捕まえておきたくて]
[背後の不穏に気がついたのは、全てが遅くなったあと。
背中から引き倒されかけ、とっさにバランスとって、倒れる方向は背後の襲撃者がキリルに向かうには自分が邪魔になる方向へ]
くそっ
キリル逃げ………っ!!
[抵抗しようとして馬乗りになられて、襲撃者の姿を見た。
決死の抵抗がひるむ。彼女の兄だった。
なぜ。緊張感は(一方的に)あったが、いい関係を築けていたと思ってた。ここで殴ったらキリルに見られてしまう]
[その判断を後悔するのは鈍色が体に付き立てられてから。
最後に見ていたのはキリルの顔。
せめて目を閉じさせてあげたくて。でも出来なくて]
……そんな訳無いか。
[そんな事は分かっている。
息を落として、立ち上がった。]
ごめん。
[立ち去る間際にもう一度呟く。
もうすぐいくから。
口にはしないけれど、僕はその心算でいた。]
え、……え?
いちばん、だいじって……
[ロランの不器用な笑みを見つめ、僅かに首を傾げるけれど。
彼の言葉で気づいた事に、表情のわけを問う言葉は吹っ飛んで、知らず頬が熱くなった。]
べ、べつに、比較したわけじゃ……
[ない、と小さく告げる。
無意識の天秤で秤られたことは否定しきれるものでもなく。
意地悪な言葉にすこし沈黙した]
……ロラン……
[泣きそうな顔をする幼馴染に、唇をかみ締め]
それでも――あたし、キリルに会いたい、よ。
――…きょうだいだから
レイスも人狼かもしれない、って
一瞬そんな風に思ってしまったんだ。
けど、きょうだいだから
必ずしも同じってわけじゃないよな。
[少なくとも自分とオリガは違っていた]
レイスがイヴァンを殺した理由――…
キリルの事を知らなかったから
イヴァンを人狼と思ったから
――…妹を守ろうとした、と考えたら
[それならば納得いくような気がした]
[家の外に出る。念の為振り返るけれど、何かいる気配は無かった。
行っていない場所は、未だ幾つか在る。]
……あ。
[その中の一つ。昨日尋ねようと思ったけれど、断念した場所。
今まで浮かばなかったのはきっと無意識に避けていたのだろう。
今も少しだけ躊躇ったが、向かう事にした。
途中で誰かがいても、声が掛からなければきっと気づけない。]
[虫の声が聞こえる。
気付かぬうちに、空の色は変わっていて。
随分と長い時間を、幼馴染の顔を見詰めてから
ふ、と、表情を和らげた]
………――嘘だよ。
俺の我が儘で、君とカチューシャが会えないなんて
そんな事あるわけないじゃないか。
[くるりと、車椅子の車輪を操り、背を向けた。
キィ、と、高い音が鳴る]
…居そうな所に、行ってみようか。
[信じ難い事が次々と語られ、寝起きに加えて寝不足の頭が悲鳴を上げそうになる。
処理しきれない情報に、もしかしたら引き攣った笑いを浮かべていたかもしれない。
ユーリーの取り乱した様を見て、疑う余地は自分には無く。]
…分かった。
[と短く。
花色をじっと見据えて子どもを落ち着かせるように頭に手を乗せた。]
…ロラン。
[両親の寝室の方から、ロランの困惑した声>>58が聞こえた。
無理もない。
ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染が、人狼だと聞かされたのだから。
「嫌だ」と呟く声>>63に胸が圧し潰されそうだ。
ユーリーと同じく、見たままを語ったカチューシャ>>67の肩をぽんと叩く。
不甲斐ないことに、掛ける言葉は見つからなかった。
ユーリー、ロラン、カチューシャ。
それぞれがキリルを止める手立てについて語るのを、窓際に立ち赤い月を睨みつけながら聞いていた。
自分の腹は、既に決まっていたから。
背を向けていたので、カチューシャが崩れ落ちるのには気付かなかった。
ユーリーが声を上げた>>86のを聞いて振り返ると、顔色の悪いカチューシャがぐったりとしていて。
ロランに貸していた部屋へと、抱きかかえて運んだ。]
――…シーマ、イヴァ。
[幼馴染に呼びかける]
僕はカーチャを守りたい。
[幼馴染の大事な妹。
そして、妹の大事な幼馴染。
それだけではないが、それを明確な形にはしないまま]
僕が殺されてやれば
彼女はしあわせになれるのかな。
幼馴染がかけることなく――…
わらっていきていけるんだろうか。
[キリルならばカチューシャを殺さないと信じたかった。
けれどもし、そうでなかったら――。
人狼は彼女の家族を奪っていった。
拭いきれぬ不安が裡に広がってゆく]
…おいッ!!ロラン!!
[キリルを探しに行く、というロランの名が口から突いて出たものの…、続きを紡ぐことが出来ず、小さく舌打ちをするに留まった。
陽が昇ってきたようで、空が白み始めたのを機に、ユーリーもこの家を出た。
そうして、気を失ったカチューシャと、自分だけが残された。]
―― 回想/生前 ――
[獣避けの香守りに、その紙を入れたのは別に気づいていたからじゃない]
[ユーリーが、彼に言ったことと同じ事を言えば彼女に通じるだろうと言ったから。好きだ、大切だってことは合うたびに何度も言っている]
[それ以外に全てを捧げるものを少し仕込んでおきたかった。
面と向かって疑うようにいうのは気分が害されるだろうから、気づけば気づいたときだとそれだけのこと]
[彼女には兄も大切な友人もいて。
自分にも畑と家族がいて。
……確かに本気だったけど、実現しないだろうとは思ってた]
[どれだけ時間がたったのか。
ロランと目をあわすことができなくて。
軽く瞳を伏せていた]
――ロラン……
[表情が和らげば声も柔らかく響くのか、そっと視線をあげて顔を見た。
車椅子に乗った人が背を向ける前に、その表情を見留めて小さく吐息を零す]
……二人が、大事なのも変わらないんだよ。
[ぽつり、と。
変わらぬ心を伝えて。
うん、と一つ頷いて、車椅子の隣に並ぶ]
いるとしたら……
――イヴァンさんのところ、かなあ……
[死を実感させるものではなく、思い出をたどれる場所。
イヴァンの家のほうへと視線を向けた]
─ イヴァンの畑 ─
ねえ…、イヴァン。
人と狼は、どう違っているのだと思う?
生き物を殺して生きるのは、どちらも同じものなのに。
……言い訳なのかな。
[花に向けて囁きかける。
風に揺れる花の茎を、片手で摘んでその花を見つめた]
―イヴァンの家―
[随分と歩いた筈だ。それでも不思議と疲れは感じなかった。
昨夜の血はもう乾いてしまって、触れれば肌からはぱらぱらと落ちる。
服に染み込んだものはそうはいかなかったけれど。
目指したのはそれを流した彼の家で、]
……キリル。
[黄色い花の向こう側に、一晩振りに妹の姿を見る。
出した声は風に消されそうな程、酷く掠れていた。]
[さわさわと畑の花が揺れる]
[紅がこぼれかけている黄色い花が揺れる]
『何も変わらないね』
[さわさわと風が言葉を紡ぐが、その意味は花が食べてしまった]
[微かな足音を、耳に聞いた。
人よりも鋭くなった聴覚は、兄の声を確かに捉える。
振り返る。兄の顔色は、蒼褪めて見えた]
…兄貴、
[それへ、感情浮かべぬ瞳が見つめ返す。
黄色い花々が、場違いなほど穏やかに風に揺れていた]
[畑を隔てた向こう側。それ以上、近寄る事はしなかった。
感情の無い目。今まで見た事もないそれに、拒絶された様な気がした。]
……憎いか。
[僅かに眉が寄って、それでも問うた。]
[兄の姿を認めた後。キイ。と、高く車椅子の音が響く。
未だ姿見えぬ方へと、目を向けた。
ほどなくして幼馴染が名を呼ぶ声を聞く]
ロラン?
[首を傾げて幼馴染の名を呼んだ。
ここにいると、何故知れたろう。
カチューシャの姿を続いて認めれば、納得もする。
彼もまた、昨夜の悲劇を聞いたのだろう]
― イヴァンの作業小屋 ―
[イヴァンの畑と作業小屋のあるほうへと歩く間。
ロランとの間には沈黙が横たわっていた。
言葉をかわすことのない時間は今迄だっていっぱいあったけれど。
なぜかすこし、それが気になった]
――キリル。
[畑の近くでロランがキリルに問いかける。
彼女の返事が聞こえれば、その姿に痛みをこらえるように眉を寄せた。
レイスの姿も見えれば、小さく息を飲み足を止める。
――昨夜の姿は、怖かったのだ]
[幼馴染二人に別れを告げて男は小屋を出る。
目元の赤みは先ほどよりは薄くなっているだろう。
男は家の貯蔵庫から甘い金色の液体に満たされた瓶を取り
妹の部屋から拝借したリボンを瓶の口に結んで
それをマクシームとカチューシャの家の玄関先に置く。
飲み口の良い、甘く優しい葡萄酒は
何時か彼女に約束したもの。
本当は彼女の誕生日に贈ろうと思っていたが――]
…………。
[足を止めた兄に、こちらから歩み寄ることはしない。
強いて表情を消した瞳の奥、兄の言葉に感情がゆらりと揺れた]
───…誰を憎むの。
兄貴を?自分を? …… …それとも人狼を?
[表情消した声は、ごく微かに揺らぎを帯びた]
[カチューシャと共にきた畑、レイスの後ろ姿が見えた。
少しだけ考えた後、何時もなら誰かが居ればその距離を測り、
自分から割り込むような真似はしないのだけれど、
ロランは車椅子の車輪を重い土の上転がして、
キリルの傍へと進んだ。
止められなければ、すぐ脇にまで。]
…ん、
[会話の邪魔をする気は無かった。
レイスとのものも、カチューシャとのものも]
…でも憎い。憎いかな。
ボクは──…あの時、兄貴を止めれなかった。
イヴァンを追い返すことも、出来なかった。
……。兄貴はここに、どうして来たの。
[護身用にと母から譲り受けた銀のナイフを腰に帯びる。
キリルやロラン、カチューシャたちの姿を捜し
彷徨い歩き、その途中、イライダの死を知った。
人狼に襲われた痕跡を確認して男は瞑目する]
――…人の血の味を知った獣は
再び、人を襲う。
力ずくで止めるしかないのか。
[ミハイルとの会話を思い出し苦く紡いだ]
[背後の音と気配はちらと振り返だけ。すぐに前を向いた。
無感情だった声が、僅かに揺れたのが分かる。]
人狼、……人狼か。
[彼女が人狼だとは直接訊いていない。
けれど、昨夜垣間見た目の色だとか、家の中を彷徨いた時に見かけた洗濯物だとか。
何となく、そんな気はしていた。
それならそれで都合が良い、とも。]
人狼の事では無いよ。
[首を横に振った。]
…────、え。
[差し出された髪飾りに、思わず目を丸くした。
幾ら探しても見つからなかった髪飾り。
それがどうして、カチューシャの手にあるのか]
それ……、うん。
なくしたと、思っていたの。
[何の気もなく、幼馴染の内心知らずに頷いた]
憎いか。……そうか。
[もう一度呟いた。今度は問い掛けでなく。
先に上げたうちのどれが憎いのか、確認はしなかった。
何をしに、という問い掛けに、妹の顔を正面から見る。]
仇を伐ちたいなら、
[足を踏み出す事は出来ない。間には花があるから。
代わりに妹に向けて、手を述べた。]
殺すといい。
………。それじゃ、兄貴を?
[首を横に振られるのに、胸元を押さえる。
そこにあるのは、匂い袋と昨夜の鋏。
鋏についた血は落としていない。
───未だその血を、落とせてはいない]
兄貴の、ことを?
[僅かに顔を歪めそうになって、視線をついと逸らした]
[はっと、述べられた言葉にレイスを見る。
目を見開き、喉が鳴った]
……何、言って……
[レイスは彼女の兄だ。
何を言い出すのだ、と、口の中で思わず声を転がす]
[キリルの傍に近づく幼馴染たちを止める様な事はしなかった。
カチューシャの手に在るものには覚えがあって、僅かに目を開いたけれど、それだけだ。]
[ゆる、と首を振る。
再び外をゆけば猟銃を肩にかけ歩くミハイルを見つけた]
ミハイル…!
[呼びかけて、駆け寄る]
イライダが、人狼に殺された。
[イヴァンに続くイライダの訃報。
心が麻痺してしまいそうなほどの悲劇が続く]
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