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[音楽室を出て、広間へと向かう。
ふと、人の気配を感じればネリーの姿が。
会釈するのにやあ、と挨拶を返した直後に、ベルの音らしきものを捉えた気がした]
……また、誰か来たのかな?
[ 開かれた扉。今度は紛れも無く安堵の息を吐く。]
あー……っと、今晩和。
……済みません、取り敢えずタオル御願い出来ますか。
[ 殆ど感覚の失せ赤らんだ手を軽く不利、バツが悪そうに苦笑を浮かべつつ云う。寒さ故か、顔色は蒼褪めていた。濡れた髪から服から、パタパタと止め処無く水が滴っていく。]
―広間―
[どれ位ぼんやりとしていたのか。
広間に現れたウェンディに会釈を返し、周りを伺う。
相変わらずの様子に一つ息を吐き、恐らくは昨日飲み過ぎたせい、と]
それにしても静かだな…。
[きっといつもはこんな感じなのだろうと。
その静けさを打ち消すように、雨音]
降って来たのか。
[そういえば先ほどハーヴェイが帰ると言っていたが、大丈夫だろうかとふと思い。
微かに届くドアベルの音にあぁ、やはり…と]
[開いた扉の向こうにいた者に、きょとん、とまばたいて]
ハーヴェイ……何、やってんの、そんなになって。
[問いかける声には呆れと共に、僅かに心配の響きも織り込まれ]
[扉の向こうにいたのは酷く濡れそぼってはいたけれど、ここ数日で見慣れた客人であることは一目瞭然であった。
その酷い姿に思わずきゃ、と小さく声を上げつつも]
しょ…少々お待ちを!
[奥の部屋へとぱたぱたと駆け出して行く]
[そういえば、とふと思い出す。
昨日のあの怪我人はどうしているだろう?
先ほど訊いた時は落ち着いていると言っていたけれど]
そろそろ、目ぇ覚ますころかな…?
[怪我の程度から流石に気にはなって、立ち上がり彼が居る部屋へと様子を伺いに]
―広間→二階・客室―
途中で降り出して来たんだから仕方無いだろうが。
御蔭でずぶ濡れ……って、あ゛ー……。
[ メイに誤魔化すような言葉を返す途中、ポケットを漁れば案の定グシャグシャのシガレットケース。此れでは使い物に成らないだろう。]
一箱しか持って来て無かったのに。
[ 思わず愚痴が零れるも、]
あ、済みません。助かります。
[慌てて駆けて行くネリーを見れば小さく頭を下げる。]
[その部屋の前に立てば、一応驚かせぬようにと軽くドアを叩いてからゆっくりと開いて。
近付こうと見れば、目を覚ましているようでゆっくりと視線が漂う]
気が付いたか…?
あぁ、様子を見に来ただけだから安心していい。
[昨夜の怯えた姿を思い出し、刺激をしないようにと声を掛けて]
何してるんだか、もう……。
[返ってきた言葉に、ため息一つ。
それから、ぐしゃぐしゃのシガレットケースとこぼれた愚痴に、くく、と笑い声を上げて]
あーあ、ご愁傷様。
身体に悪いものやってるから、罰でもあたったんじゃない?
[冗談めかした口調でこんな言葉を投げかけて]
―回想―
[眠る前に、隠し子の話を聞いた。といっても、彼のその口調は楽しげで、重いものなど感じさせない。
それだけで本当のことなんてわかるようなもの。]
ん、そうね。じゃぁ、今度はわたしの番?
……え、その話が好いの? いつも同じ事しか言っていないというのに、不思議なこと。
そうね、そう。
ずっと昔の話だわ。その村に住んでいた子供が大人になってしまうくらい昔の話。
[頭を撫でてくる手は心地よい。わたしは請われるままに話し始める。]
そう。
それはずっと昔の話。
ある日、人狼が現れました。
長老様は、殺せといいます。でも誰が人狼なのでしょう。
村の人々は、話し合いました。疑いあいました。
「お前がやったんだ」
「いいや、お前に違いない」
そんな中、異能者がいました。
彼女は、その白い肌を黒く、何かに浸食されたように染めて言いました。
「あなたが人狼よ」
果たして、彼は人狼でした。
それから彼女は、探せと村人に言われました。彼女はその身体の一部に、毒を受けるためにそれを続けました。
だけれど、そのもう一人の人狼に。
彼女が気づくことはありませんでした。
彼はまだ、彼女の娘と、同じ年頃だったから。
彼女を殺した彼は、彼女の娘にも爪を振るいました。
まるで玩具に対するように。
それでも、突然興味をなくしたように、彼は去りました。
その後。
人狼の痕跡は、何もなくなりました。
[大きめのバスタオルを引っ張り出すと、再び玄関へと向かった。慌ただしく駆ける音が雨音に混じり館内に響く]
済みません、お待たせ致しましたっ
[そう言いながら青年に手渡した。
それから湯浴みの用意はできていただろうか、とまた駆けて行く]
[こちらへと向けられる視線に驚きが混じるのを見れば、やはり怯えさせたかと]
俺はあんたには危害は加えない、ここにそんな奴は居ない。
怪我はどうだ?まだ痛むか?
[どう声を掛けたものかと悩み、当たり障りのない言葉を掛ける]
あ、俺はナサニエル。
…あんたの名前は?言いたくないなら言わなくて良いけど。
罰、ねえ……。
[ メイの発した言葉に、一瞬遠い表情になりはしたものの、]
無駄に吸う自称愛煙家どもと違って、俺は節度ある吸い方しているんだが。
[可笑しそうな様子を目をすがめて見やれば、役に立たなくなったケースを片手で潰しつつ不機嫌そうに云う。
事実吸い始めたのは十八の頃からだし、月に一箱もあれば充分だった。]
……誰か持っていると好いんだけどな……、
暫くは帰れないだろうし。
[突然叫び声を上げた男に驚き、落ち着かせようと体を支えて]
おいっ!しっかりしろ!
ここは安全だ、だから落ち着け!!
[まるで子供のように怯える彼を宥めるように支えて]
……いったい何があったって言うんだ?
[それは誰に問うでもなく零れた疑問]
[節度、という言葉に小首を傾げ]
まあ、そうかもね。
煙苦手なボクからすると、五十歩百歩だけど。
[さらりと言いつつ、しばらく帰れない、という言葉には、雨の勢いから、確かにね、と呟いて]
うーん、アーヴァインさんは吸う人だったっけ……?
[記憶を辿り始めたその矢先。
響いている、激しい雨音。
それすら引き裂くような、叫び声が届いて]
……や……な、何?
[震える呟きをもらしつつ。
握り締めた手が、無意識のように左の胸元に押し当てられた]
[支えようと身体に触れたナサニエル]
[その手の感触に][ギクリと]
[振り解こうと暴れる。]
[行動は幼児の様でもその力は確かに成人した男のもので]
[身を竦めて子供のように泣く男を、宥めるようにそっと撫でて。
本来なら母親の仕事だろうが、施設で育った自分には他人事と思えずに]
よっぽど辛い目にあったんだな、あんた。
[それ以上は何も言えず、訊けずに、だた彼が落ち着くのを待って]
[包帯に包まれた傷だらけの肢体]
[けれどもそれは無力ではなく。]
[恐らくは実用の為に鍛えられたと思しい]
[しなやかな筋肉に包まれたそれで]
………う……うぅ………
!!!!
[ぱっと]
[毛布を跳ね飛ばし]
[触れる手から逃げようとするかの様に]
[ベッドから飛び降り]
[走り出す。]
[押さえていた腕を跳ね除け、ベッドを降り走り去ろうとする男を追う]
おい!無理するな、危ないから!!
[叫んだところで止まる筈も無く、ただ追いかけて]
俺は人前じゃ吸わないから好いんだ。
[ 其れでも、染み付いた匂いは容易には取れない訳だが。
耳に届いた悲鳴に眉を険しくし天井を見遣っていたが、胸に手を当てるメイの姿に視線を下ろす。]
……大丈夫か?
[声の聞こえた方──階段を見やって、立ち尽くしていたが、問いかけにはっと我に返って]
え、あ。
あ、うん。
何でもない、よ?
[とっさに笑顔を作りつつ、ほらなんでもない、と言いたげにぱたぱたと手を振るものの。
どうにも、不自然さは拭えなくて]
[頭を抱え蹲る男に近付き、目線を合わせるようにしゃがんで]
ほら、急に動くから…。
俺は敵じゃない、って言ってるだろう?
…ナサニエル、だ。分かるか?
[驚かさぬように、できるだけ静かな声で]
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