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[柄が刃を打ち相手に達さなかったのを見てとると、すぐに鎌を手元に引き寄せて自分の前で一度横に振る。
伸びてきた刃は軌道を変えるように横からその鎌で叩くと、刃の生む風が頬を撫でた。]
やだなぁ、ボクの一張羅…どうしてくれるのさぁ。
[ふわりと膨らんだ袖の肩の部分が、裂けた。
が、上げた顔は相手を睨む事はせず笑い、また一歩下がって間合いを一度取り]
あはははははは!
その為の場所なら、キミが血ィ、見せてよ…っ!
[低い姿勢から左手で取っ手右手で柄の端を持ち、左に大きく体を傾げながら自分の奥へと鎌を一度引く。
次の瞬間力いっぱい踏み込みながら鎌を振るうと、フォンと音を立てて相手の顔手前10センチくらいで左下から右上へと振り切る。
障害物に当たらなかった鎌は振り切ったトコロで柄の部分がしならせ、深く刃を内側へと曲げてぐぐぐ、と沿った。
そしてそのまま、ぱちんとまるで鞭かゴムのように勢い良く戻り、同時に足をもう一歩踏み込んで相手を鎌の射程県内に捕らえる。
勢い良く戻ってきた鎌の刃の後ろ、柄の部分がルージュの頭上から襲う。]
[軽い返答に私はクスリと微笑む。]
ええ、昨日し損なった下調べも兼ねまして。
ここまで、上がってくるのもひと苦労でしたわ。
それで、アーベルさんは?
ユリアンさん。
……こんばんは? お散歩ですか。
[ゆるりと首を傾げる。
浮かべた笑みは、薄く、薄く。
何処かつくりものめいていた。
広がる夜闇に紛れて、遠目には解り辛いけれど。]
―回想・アーベルの部屋(個室F)―
[彼の好物について、記憶が正しかった事に一喜。
自分は一緒に持ってきた青林檎を添えて、お茶を楽しむ。
温かいお茶が眠気を誘ったのか、やがて舟を漕ぎ始める姿に
アーベルはどんな反応を返しただろうか。
それはさておき、一夜が明けて。
調理なんて知らない彼女は放っておけば果物しか食べず。
声をかけられ、嬉々として用意されたご飯を頂戴した]
美味し――。
[この世の幸せが此処にあるわけでもなかろうに。
けれど、彼女は心底幸せそうな顔をして]
――あ、お出かけ?
私も、行く――っ。
[アーベルが外へ向かう素振りを見せれば、
小鴨のようにその後に従った]
なるほどね。
[下調べ、という言葉に肩をすくめ]
俺は……考え事しながらふらついてただけ。
そしたら、どっかで始めた連中がいたようなんで、どこでやってんのかな、と思って。
[様子見に来た、と。さらり、返す]
[は、と。短い息を零した。
少女に向ける視線に滲むのは、苛立ちと、嫌悪。
と、知人の名を呼ぶ声が届いて、僅かに眼を見開いた。
暫しの沈黙の後、一つ、深呼吸。ゆっくりと翠を伏せる。
少女へと注がれていた負の感情はその裏へと隠して――
強く握っていた掌を、ゆる、と緩める。]
――…、
[再び視線を上げた先に、青年の姿を捉えて。]
メイドなんだから自分で縫いなさいな。
[相手もそうだが緊張感のない声で返す]
やーよ。
そんなに血が見たいなら…自分のを見れば良いでしょっ!
[弾かれた刃はルージュの影へと吸い込まれる。
その隙に相手は鎌を振り抜いてきて。
一撃目は当たることなく鎌は上へと抜けて行く。
しかしそれだけでは終わらなかった。
僅かな油断。
その隙を逃すことなく鎌の柄が上から打ち下ろされてくる]
くっ…!
[その勢いに避けられないと悟ると、腕を振り上げ頭の上でクロスさせる。
同時に影が布状に下から伸び、ルージュを護るようにクロスした腕の上に展開した。
柄からの衝撃を全てそれで受け切ろうと]
[きょとん。]
…………?
[制御の隙間。聞こえた呟きに不思議そうに
小さく少女は振り向いて。
モニターが制御を離れ、ゆーでぃっとの姿が映る
少女にとっては、記憶の始まりから
植え付けられたこの能力が
感嘆が滲む言葉を引き出したとは、思い付かず。]
[女子高生の声に、いまいちはなれがちだった意識がしっかり引き戻される]
あー…まぁ、さんぽっつーか、何つーか。
一人歩き?
そっちは…。
………誰かと、逢引?
[微かに首をかしげ、消炭の瞳を細め]
[揺らめく朱に気付きつつも、この場では何も言わず。
彼が昇り切ったのを確認すれば、速度を上げて一息に
屋上を軽く見下ろせる程度の高さまで]
こんばん、は?
[彼女もアーベルと同じく意外、という感想を抱いたのだろう。
ほんの少しばかり首を傾げて、ぺこりと挨拶をした]
……、……あいびき?
[理解不能な単語を聞いた。
とばかりに、そっくり、繰り返した。
ぐぐぐぐ、と更に傾げられる首に、飾りが鳴り――]
ああ、そうなんですか。
それでしたら、えっと。
多分あっちの方でユーディットさんとオトフリートさんが。
[そう言って、さっきまで彼女が立っていたあたりの方角を示す。
その言葉に含まれていた矛盾には気付かないまま。]
[鎌を力を添えるようにして落とすが、影が防御を助ける。
ち、と小さく舌打ちしつつ、顔が近づいたならばにんまりと笑う。]
あはははは。
ボク、自分が痛いのはイヤだからさぁ。
ねぇ、痛い表情(かお)、して?
[会話は実に楽しそうに見えるだろうか?
防御に使った影がどう動くか分からない為、トン、と一歩また後ろへ下がって間合いを取ろうとする。
と、そう見せかけて、鎌を持った右手と逆の左手の人差し指と中指を2本、自分の唇へつけつつ、息を吸った。
頬をぷっくりと膨らませて指と指の間に息を吹き込むと、黒い炎がゴ、と噴き出た。]
誰が逢引だって?――フェイ。
[呆れ混じりに、聞えてきた言葉に突っ込みを投げる。
夜闇に紛れて、姿は判りづらいものの
声の主は十二分に理解できた。]
…そういう君は、あの子どうしたの。
[ぴったり引っ付いてたでしょ。
と、隣に居ない存在に、ゆるりと首を傾いで]
[パタパタと上がってきたイレーネに気付くと、にっこり微笑み]
ああ、イレーネちゃん。こんばんわ。
えっと、そんなに不思議ですか
[小首を傾げる様に苦笑い。]
君にとってはあたりまえのこと、か。
[不思議そうにこちらを振り向いた少女に返したのは苦笑。
こちらの感情を理解していないことが分かる、無垢な表情。先日のイレーネとの会話の時よりも深くどこかを抉る棘。
けれど今はそれを抑えるだけの目的があり、視線は意志によって逸らされ再びモニターへと向けられる]
…早速始めているのもいるわけだ。
遣り合ってるのはエンジェル…と、誰だアレ?
[映った姿に眉を寄せる。怪訝そうに呟いて]
リーチュェだっけ。
あれが誰か、君には分かるか?
[集中から発音は僅か乱れつつ、少女に問いかける]
ん、と。
あんまり、運動しそうじゃないって思ってた、から。
ここまで登ってきたんだ、って。
あとあと。
何だか、壊れた場所にいる感じがしない、から。
[と、苦笑いには至って真面目に返した。
壊れた場所、とは廃墟の事を指した言葉だが
どう受け取られるかは分からない]
[ナターリエの言葉に、あいつらか、と呟く]
……執事とメイドのバトルって、それもそれですげーな、おい。
[小さく呟いて、示された方角を見やる。
この位置からは何も見えず、糸が舞う状況では獣の感覚は働かないため、正確な情報はまだ、捉えられないが。
ぶつかりあう、気配らしきものは確りと捉えられた]
どっちが勝っても不思議なし……って、とこだな。
あれ、違うの。
[ふうん、と相槌を打とうとした表情が一瞬凝固し、そして噴出した。
そこに見えたのが隣人の姿だったからだ]
…日碧?!
おまえ、お上品な顔して夜に、しかもこんなところ選んで逢引なんて…!!
[わざとらしいオーバーリアクション]
[イレーネからの問いには、苦笑いをしつつ]
そうですね。運動は得意じゃないですよ。
ここまで上がってくるのには骨が折れました。
壊れた場所? ああ、私ってそういう風に見えますか。
…ちぇ、何だよ二人して李雪李雪ってよー。
あー、はいはい、どうせ俺様おまけだよー。ちぇ。
[ぷりぷり不機嫌そうな顔してから小さく息をついて]
あー…今頃宿舎で起きてる頃だと思うけど。
[それがどうかしたのかとばかりに青少年は二人のほうを見て、その間で視線を揺らし首をかしげる]
ユーディットと、オトフリート――?
やりあう、バトル――?
[二人がじゃんけんをしてるのかな、と思って
彼女の指差す方向を見たけれど――何も分からない。
勝敗の行方に興味津々というように、
示された方向へついと翼を向ける]
[翼を向けるイレーネの様子に、左手を額に当てつつ前髪をかき上げる。
そう言えば、その辺りの概念の理解には至ってなかったのだな、と]
ああ、どーもそうらしい。
かなり、痛そうな気もするけどな……。
あんなに懐いていたのに、
ひとりにして来たら、可哀想じゃないですか。
それに、今は、こんな状況なのに――
[なのに。
何を暢気に会話しているのだろうと、過ぎる思考。]
大変なのに、頑張ったんだ。
とてもとても、したい事があったんだ――ね。
それは、できた?
[無為に苦労をするようにも見えなかったらしく、
このビルの上に何か目的があったものと考えたようだ]
壊れた、場所。
ナターリエはもっと、何だろう。
静かで寒くない場所にいそうな感じがした。
[少女は自分の言動が、相手に影響があるとは
欠片もおもわず、ただただ不思議。
ユリアンが映っていないから、切り替えるようとすれば……]
…………?
[不思議な呼び名も続く言葉にも
ふるふると首を横にふり]
…それは喧嘩売ってると捉えても?
で。そういうフェイ君は、「こんなところ」で何してるのさ。
[一部を強調して聞えるのは、恐らく気のせいじゃない。
緩やかに笑みを浮かべて、くつりと喉を鳴らす。
続く言葉に、一つ瞬いて]
随分と懐いてるようだったから。
放っておいて、大丈夫なのかと、ね。
[泣いたりしないんですか?と同じように首を傾いで]
[影に助けられたとは言え、その衝撃は全て受けきれず、ビリ、と腕が痺れる]
うふふ、イ・ヤ☆
[近付いた顔を逸らすことなくにこりと笑み返して拒否の言葉を紡ぐ。
相手が間合いを取ると影はうねりルージュの周囲で停滞する。
その影を複数の刃へと変えようとした時だった。
不意打ちのようにユーディットが黒い炎を噴出した]
きゃあ!
…いやー! 髪の毛焦げたじゃない!!
もう怒ったわ!!
[咄嗟に直撃は避けたが真紅の長い髪は緩やかに動いたためにチリリと先が焦げる。
怒りの表情を露にしたルージュは自分の影を全て周囲に集め、分散させ、無数の槍を作り出した]
串刺しになりなさいっ!!
[作り出した槍を宙で繰り、ユーディットを取り囲む。
パチンと指を鳴らすと、槍はユーディットへと襲い掛かった]
…そうか。
邪魔して悪かった。
[少女の探し物を先にしていいと言ったのは自分。
映った姿は気になったが、どうぞ、というように右手を広げた]
したい……こと?
[そう呟き、一瞬表情が凍る。だが、すぐにもとの表情に戻ると苦笑いをしつつ]
え、ええ。一応は。
[それはとても曖昧な答え。まるで、『そんなものなかった』ような。]
うーん、温室育ちってことですか。まあ、否定は出来ないです。
痛そう――?
[古き時代にピコピコハンマーとヘルメットで
繰り広げられた血で血を洗う不毛な戦いを知らない彼女には
痛みを伴うじゃんけんを欠片も連想する事ができず。
少し振り返ると]
どうして痛くするのか、分かんない。
[二人とも変なの、とユーディットとオトフリートに対して
妙な評価を下しただろうか]
[ナターリエの答えには満足したのだろうか。
にこり、と笑うと]
頑張って登ってきて、したい事できなかったら悲しいもんね。
良かった、ね。
[ここで何をしようとしていたのだろう。
遠くを見たかったのかな、風に吹かれたかったのかな。
それとも、ユーディットとオトフリートさんのじゃんけんの
観戦をしたかったのかな。
そんな暢気な事を考えながら]
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