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―回想―
はい、いってらっしゃいませ。
私はもう少しここにて。
[回復を高めるためか、半人半竜の姿となっている焔竜に触れながら、ティルに頷きを返した。
続いた言葉の重さに、視線は床へと落ちる]
…申し訳ありませんでした。
[自分を盾にするというよりは、本能的な防御反応が出ることを期待しての行動だった、というのは言い訳にすらならないだろう。そもそれは下手をすれば刻印に手を出すよりも酷いことになった可能性が(内側から刻印を破るような危険すらあっただろう)あるのを忘れているのだから、口にしていたら呆れられるどころではなかったかもしれない]
―回想/東殿・回廊―
[窮地に救いが述べられたのは命竜殿の言葉。
仔は縋る様に顔を振り向けど、怯えの為か言通りに後ろへと下がる事が出来ぬようであった。
命竜殿が欠片に対し対抗する術を持ち合わせておらぬ事は承知済み故、仔を拾うには難しいかと私は思えども意外にも――…失礼、有り難き事に命竜殿は危険を冒して僅か離れた場所に居る仔を回収する。
慣れぬ人物故か仔は随分と驚いた様であったが、欠片の恐怖に勝るものは無い。
大人しく命竜殿の腕に抱かれたままであった。
案の定か対抗手段を持たぬ以上、偶然にも其処に居られたお疲れの様子である焔竜殿に…少々ご足労をお願いする事になってしまったが。]
[氷竜殿に手渡されるまで身動ぎすら少々怪しかったなれど、
むずがる様子も抵抗もせぬ。
ただやはり慣れぬ腕の為か僅かに硬直した様にも見えてはおった。
だからして氷竜殿に其の身を渡されると、幼子は一寸不思議とでも言うかの様に命竜殿へと視線を向けておったのは少々意外であった。
何を思ったかは私に判らぬ。仔は何を言うでも無かった故に。
時折頭を撫ぜられるのが安堵するか――はてまた嬉しいのやも知れぬ。
以降幼子は始終氷竜殿の首に手を回ししがみ付いたままであった。
氷竜殿には至極申し訳無い事に、彼の腕の中は半ば定位置に収まりつつある。
――しかし此れを父王が知れば、嫉妬に氷竜王殿に下手な八つ当たりが向けられるやも知れぬと危惧せずに居られぬのは私の気のせいであろうか。
…幸か不幸か向こうの声は今は届かぬ故――此方の現状も知らぬと思いたいが。]
[と焔竜殿の消失に驚く間も無く。氷竜殿の問いに、
仔は驚愕したか不思議と思うたか闇竜殿へと視線を真直ぐに向けた。
それも其の筈、捜すと言っていた目的の剣を既に闇竜殿が持っていた故に。
しかし闇竜殿から密やかに告げられる言の葉に其の色も直ぐに消え失せた。]
……!…うん!
[共に王をお出しするとの言葉に仔は嬉しげに口許を綻ばす。
捜していた剣を闇竜殿が既に持ち合わせて居た事は確かに幼子にも不思議であったようであるが、其れ以上に父王に会えるやも知れぬという期待は幼子の心を埋めた。やくそく、と真似る様に仔は口許へ指を添える。
後の事は仔の記憶に少々薄い。
幼子の事、多少の恐怖はあったに違いは無かろうが氷竜殿に抱かれていた事も安堵する要因で有ったし、何より父に会える事への歓喜は何より大きい様であった。]
[途中で命竜殿を個室へと送りはすれど、幼子が行った運搬はそれは酷いものであった。首根っこを引っ掴み運ぶ仔の頭の中に首が絞まるや窒息する等の配慮は恐らくではあるが、無い。
もし氷竜殿が居らねば、…命竜殿の無事は確証に厳しいものであっただろう。
――氷竜殿には既に何度感謝を重ねたか判らぬ。
後に氷竜殿と共に個室へと戻り休息を取る事となった。
この時私はまだ知らねども一寸前程から雷竜殿の消失により力の調整が利かぬ。
身体を休めようかと思う矢先、氷竜殿は早々に倒れこんでしまった。
ここ数日、申し訳無い事に仔を抱きかかえて事を過ごして居るからであろうか――にしてもやはり珍しき事。因は疲労のみで無いのかとも思うが、その理由は私にはまだ知る由も無かった。
仔はいつかの様に少々の時間を掛けて氷竜殿へと毛布を被せると、就寝の挨拶を交わし。
闇竜殿の言葉に、仔と私は聊か異なる感情を抱きながら眠りの底へ着くことになる。]
―回想終了―
―焔竜の眠る部屋―
[どれだけの間、そうしていただろうか。
手に返る反応から幾らか落ち着いたらしきことを感じて溜息を吐いた。そっと手を離す]
お目覚めになられた時のために、何か食べるものがあった方が良いかしら。
[無くても焔竜なら本能が食堂へ導く気がしなくもないが。
少しでも早く食べるものが手に入るのに越したことはないだろうと、立ち上がり部屋を出る]
………。
[移動する途中、階上への階段を見上げて小さく唇を噛んだ。
感じられる幾つかの気配、微かに届く話し声。
戻ったら覚悟を決めて上にも行こうと思いながら、今は下にある食堂へと向けて階段を下りた]
多分、そうなのでしょう…無限の輪が。
…え。
[わかりませんか、との言葉に、少しばかり首を傾げる。
僅かに感じられる気配に、更に首を逆に傾けて]
あぁ…力ある剣、とやら、でしょうか?
それを、
[いいかけた所、ティルの声が聞こえて顔を向ける。
少しばかり穏やかな表情を作り、頷いて]
私は大丈夫です。
疾風竜殿も無事そうで、安心しました。
[ギュンターへも、同じように頭を下げた。]
―とある部屋→回廊―
[天気は今日も悪い。
その部屋を出た後、気配を探った。
今はこの首飾りは、沈黙している。]
[翠樹の仔へ、話にいかなければと。
そして、もうひとつ。
それは、決して心の奥から外へもらしはしない決意があった。]
――こちらですね。
[氷破の竜に願ったとおり、二人は一緒にいるようで。
仔にだけ話すことは可能だろうかと、困りながらもその部屋へ向かう。]
―食堂(厨房)―
カレー?
[誰が用意したのだろうか、寸胴鍋が置かれていた。
後は林檎が一つ。口元に指を当てて暫し考え、材料と道具を探してご飯を炊き始めた。食べる時には冷めてしまうかもしれないが、カレーが熱ければどうにかなるだろうとか]
[合間に棚を色々探って菓子の類を探し出し、大皿に盛り合わせてみた。自分のことに手一杯で陽光の仔竜とは未だ出会えていないが、こうしたものもあった方が良いだろうと。
同じようにもう少し小ぶりな鉢にも入れると、それを焔竜の部屋に置いておく分としてみた。ついでに見つけた林檎もいただいて、盆に乗せる]
[そうこうするうちに、ふっくらと炊き上がる良い匂いが立ち昇り始めただろうか。後は蒸らすだけ。盆を手に再びそこを後にする]
―食堂→二階―
―会議場前―
あぁ…――「揺らされて」居るのですね。
貴方が。
[足早に去るオトフリートの背中に、小さく呟いた言葉は彼女に届くか判らない。
そのまま暫し立ち尽くした後、ティルとギュンターに色々と事情を聞いた。
話される中、何度か疾風竜は悪態をついたかもしれない。
会議場は封じられ、王には会えないと聞いて少し落胆した。]
この中に入れれば、会えると思っていたのですが。
それにしても…あの剣を、揺らされた者が持っているのを王達は知っているのでしょうか…。
[身じろぐ。
寝台に伏せた背には、一枚足りない二対の翼。
良く見ればそこには、古い傷痕と共に腐り落ちた翼の痕跡がある。]
…ここは?
[薄くあけた青い目には、見知らぬ部屋の様子。]
―二階―
[焔竜の眠る部屋のサイドテーブルに林檎と菓子盆を置き。
様子を窺ってから再び部屋を出る。
廊下に出たところで、先ほどは気付かなかった扉が微妙に空いている部屋が目に入った。
気になって中を覘き見れば、ベッドの前で力尽きている生命竜の姿]
クレメンス様…。
[今は敵とも呼べるはずの相手だった。
それでも彼は恩人で。敵対しているはずの今も何度と無くその力でもって傷を癒してくれた。
そう、今動いていられるのも彼が休ませてくれたからなのだ]
…どうして。
[溜息を一つ。寝台へと抱え上げるのは無理だったが、凭れ掛かるその上に毛布を一枚掛け、そっと手を触れた。
焔竜にしたのと同じように、異質とならぬ程度の力を注ぐように]
[生命竜がどうしてそこまで消耗したのかは知らない。それでも外からよりも中で回復を図るべきであるような気配は何となく感じ取って。短い時間で手を離し、部屋から出ると扉を完全に閉めた]
[少しだけ疲労を感じつつ、廊下を戻ると気配が変わっている。
ダーヴィッドのいる部屋の扉を小さくノックした]
…?
[林檎くわえたまま、ドアからの物音に目をあげる。
見えた姿に目を見張って、なにかいいかけたが…
口は林檎の相手にいそがしくて、とりあえず口の中のモノを飲み事を優先。]
…エルザ?
て、事は…ここは…。
[とらわれたはずの彼女が居るなら、解放されたか、共にとらわれたかどちらかだ。]
―東殿・個室―
[疲労の程は氷竜殿程では無く、また同じ翠樹の気を纏う者であれど仔は幼い故にか均衡の崩れし影響を私ほど受けた訳でなかったのか、仔の目覚めは私や彼の竜より早かった。
幼子は一度寝台から抜け降り私と氷竜殿がまだ眠りの底だと知るや、
静かにせねばならぬと考えたのか、部屋に備えてあった椅子の一つに腰掛けたまま常に握り締めたままの小袋の中を弄る。
一つ、何味か判らぬ真白の包み紙に首を左に傾ぎ、しかし口へと放り込む。
薄荷だったか、慣れぬ味に僅かに幼子の顔は苦悶に歪んだ。]
…結局、役に立てなかったな。
[少しずつ思い出すのは、膨大な力の奔流にのまれる感触。
ぽすり、と寝台に伏せてうずくまった。]
―回廊→氷破の部屋―
[決して気付かれぬようにと気配を殺し、その部屋にたどり着く。
こんこんこんと、手の甲で三度ノックした。]
お目覚めでしたか。
[浮かぶのは安堵。モゴモゴしている姿に口元へと手を当てた。
笑っては失礼ですから]
西殿…結界の中です。
ダーヴィッド様は、その。剣の力にも弾かれて…。
[少し声のトーンを落としながら、状況を説明してゆく。
オトフリートに剣を奪われたこと、そのことで剣の機嫌も悪くなっているだろうこと。それからティルもまたこちらに取り込まれてしまっていることも。
ミリィのことはまだ知らず。伝えることも叶わなかったが]
願いなんて…他のを奪って叶えるもんじゃねぇだろが。
[微かなつぶやきと一緒に、まだ新しい翼をぱたり。
食べたらきっと、また眠るはず。*]
いいえ、そんなことは。
そう、気を失われている間にも助けていただいたのです。
[カケラを退けてもらった一件のことを慌てて言い添える。
だが声が沈んでいるのは、彼に伝えるべきものの一つを伝えることが出来なかったのを思い出したからだった]
役に立たないのは、私…。
[唇を噛んで、視線を落とす]
他のを奪って叶えるのもじゃない、ですか。
そう、ですね。
[力があるだけでは何にもならないことは知っている。
だがそうした言葉を自分のものと出来るほどの経験は無く。
ただ鸚鵡返しに口にして、心に刻むだけだった]
[食べ終えて再び眠りにつくダーヴィッドに頭を下げると部屋を辞し、今度こそ上の階へと上がる]
[突如室内へと響いた音。
別の味を食しようと包を解いた小さな手がはたりと止まる。
一寸の逡巡の後、椅子から軽く飛び降りた仔はぱたりと素足で床を叩いて扉へと駆け寄った。
その跡に点々と残る緑達は今まで寄りも些か大きく成長し、しかし直ぐに枯れゆく。
――其れが、雷竜殿が消失した影響かは知らねども。]
……だぁれ?
[幼子は恐る恐るに僅か扉を隙間に開け回廊へと覗き込んだ。
相手の顔を知れば、すぐさま其の顔は綻びようか。]
おはようございます、ベアトリーチェ殿。
[小さく笑って、首を傾げる]
今日は、まだお休みですか?
[仔の腕を見て、そこに蛇がいないことに気付き、尋ねた。
声は小さい。]
ブリジット殿も。
――うん、おはよ。
[幼子は自らの小さな身体で抑える様に、先程よりも扉の隙間を押し開ける。
投げられた問いに一度瞬くと、何かを確認するかの如く一度己の腕へと視線を向け次に室内へと振り返る。――私と氷竜殿が未だ眠りの底に居るようだと確認しやれば、最後に闇竜殿へと視線を戻して仔は小さな頷きを返し肯定を示した。]
ナギも、ブリジットもまだ、ねてる。
…きのう、たくさんつかれちゃった? から、かも。
そうですか。
それじゃあ、寝かせておいてあげましょう。
ベアトリーチェ殿は、大丈夫なんですか?
[そっと仔の頭を撫でて]
剣の、お話。
それなら、ここでしてしまいましょうね。
[しぃ、と人差し指を、口にあてて。]
[と、その前に一つ思い出して、メモを残す。
「食堂にカレーがありました」
…目を覚ます前に、自分の分も食べられる人が多いことを祈ろう]
―三階結界前―
[ミリィがいれば驚いて、まずはその話を聞くだろう。
そしてここにきた一番の理由は]
ギュンター様。
[養父とではなく、その名を呼ぶ。
年経た天竜は無言のまま、複雑な表情を浮かべてこちらを見た]
重ねての失態、謝罪の言葉も御座いません。
ですが、どうか。お力をお貸しください。
もう、これ以上は、足枷となりたくありません…!
[返ってきたのは*長い沈黙だった*]
その剣があれば、何らか叶う、のですか?
では、例えば、例えばですよ。
私が奪ってこの状態を元の状態に戻したいのです、と言えば戻せるのでしょうか。
[少し遠くを見るのは眼鏡の奥の濃い紅色。
ちらちらと、力無きモノへと揺れる小さな焔を写し、小さく呟けば。
ギュンター辺りには諫められるかもしれない。]
/*
時間切れなので、変なところですがここで。
動かしその他はご自由にお願いします。
邪魔だったら、この後またどこかに移動したことにしていただければ。
リーチェは、たくさんねたから、へいき!
[頭に触れる指が僅かくすぐったかったか、小さく笑いながら身を捩り。
そうしてから仔は自らの声が少々大きくなった事に気付いたか慌てて口を両の手で押さえる。氷竜殿を起こしはしないかと室内を再び振り返ったが、扉近辺からでは幼子の眼にはどうやら無事な様に見えたか安堵の息を零した。
確かに少なくとも先程より位置が動いたと云う訳では無い様に見えたが、
私も同様眠りの中故、実の所は判らぬ。]
おはなし。
ないしょ?
[闇竜殿の真似事の様に、仔も短な人差し指を口へと当てる。]
良い仔ですね
[くすくすと笑って、両手で口を押さえる様子をほほえましく見た。
それから、そっと膝を折り、目を合わせて。]
そう。お話、内緒ですよ。
ナギ殿にも、ブリジット殿にも。
できますか?
ブリジットにも、
…ナギにも?
[高さの近くなった闇竜殿の眼を真直ぐに捉えながら、仔はゆると首を傾ぐ。
氷竜殿であれば口を閉じれば幼子なりにも秘密裏に出来よう、しかし常日頃仕えている私にはどうか――仔は一寸困惑にも似た色を浮かべ考え込んだ。
しかし幾ら悟られる事が多いとは云え事を全て知られるとは在るまい。]
…わかった、だいじょうぶ。
リーチェ、いいこだから、できるよ。
[現れたエルザに、目を向けてお辞儀をし、挨拶。
知っているだけの事情を、摺り合わせる事になるだろうか。
そしてその後、ギュンターが重く長い沈黙を破るまで、ふたりの顔をじっと見た**]
良い仔ですね。
[仔の言葉を信じて、にこりと笑う。
もう一度、頭を撫でてから、ネクタイを外す。
そしてボタンを開き、そこにある首飾りを見せた。]
これも、剣です。
本当は、ザムエル殿のと、二つで、ひとつの剣。
半分だから、まだ、王様方は出せないのです。
ですが、もしかしたら。
……わたしが、その中に行ってしまうかもしれない。
その前に、あなたに、これを渡します。
[微笑んで。]
ぜったい、内緒ですよ?
…きれい、だね。
[闇竜へと見せられた首飾りを、幼子の双瞳は興味深げに真直ぐに捉えた。
剣の事と聞きして、何故首飾りなのかと幼子は思ったかも判らぬが、口を継いで出た言の葉は首飾りに対する素直な感想であった。
やはり幼子と云えども女児。装飾に興味を抱くのは不思議でないのやも知れぬ。]
――? 剣なの?
[闇竜殿の言葉に、仔は再び不思議そうに相手を見やった。
そうして今一度首飾りへと視線を向ける。幼子の眼にはやはり首飾りの様にしか映らぬのであろう。]
――ととさま、だせないの?
でも、おじいちゃん、剣もってないって、いってた。
…ノーラみたいなわっかも、わっかだから違うって。
…! やだ。
オトが中いっちゃったら、やだ。
[ふる、とむずがる様に仔は首を横へと振る。
しかし次の言葉には今度こそ確りとした驚愕の色を滲ませて瞬いた。
闇竜殿の言葉が判らなかった訳では在るまい。
しかし仔にとって驚くべき事に相違は無く。]
…あぶなくないの?
――さわっても、へいき?
[内緒との言葉には、小さく頷きながら。]
そのわっかと、この、かざり。
二つで、剣なのですよ。
すごい剣だから、形が変えられるそうです。
[微笑んで]
でも、老君。ザムエル殿は、二つが一緒になるのを、いやがるから、
どこかにやってしまおうと、しているんです。
だから、ザムエル殿は、教えてくれないんです。
私も、ベアトリーチェ殿と一緒にいたいです。
でも、これがあることに、気付かれてしまったから。
だから、ベアトリーチェ殿に渡すときは、
私が、持っていったように見せます。
[にこりと笑って]
触ってもだいじょうぶですよ。
でも、ぜったいみつからないように、こっそりね?
[首飾りを手に乗せて、触りますか?と。]
…すごいね。
――けんなのに、かたち、かわるんだ。
[闇竜の言葉に再び幼子の視線は首飾りへと注がれる。
やはりあの腕輪は剣に関与するものであったのだと幼子が安堵すると同時
続く言葉に、幼子は困惑を隠せぬようであった。]
…どうして?
おじいちゃんは、おうさま出したくないの?
[闇竜殿の説明は、幼子には不可解だとばかり困惑の色のまま首を傾ぐ。
仔は元を正せば父に会いたいだけではあったが、他の者にとっても王たる者達が居らぬ事は諸々に支障を来たすと云う事も重々に理解していた。
時折――例えば陽光の仔がそうで在ったように、中に居る王の一人の不機嫌に寄って誰かが中へと連れ込まれるとも聞及んでいた故、
尚更仔にとっては早く場から出さなければという思いもあったからであろうが。]
王様を出したくないのじゃなくて、本当の剣になったら、
とっても強いから、ザムエル殿には、使いこなせないんです。
[嘘ではない。
困ったように微笑んで。]
でも、誰かは、使いこなせるかもしれないでしょう?
挑戦しなくちゃ、出来ません。
今は、大人しい剣だけど、本当の剣になったら、とても意地悪なんです。
その挑戦が失敗したら、たいへんなことになっちゃうって、ザムエル殿は思っているんですよ。
――でも、早くしないと。
[眉を顰める。
ようやく、休ませたアーベルを思い返していたが、仔には伝わらないだろう。]
きづかれたら、だめなの?
中に、いれられちゃう? …だれに?
[笑みを向けられながらも告げられる言葉に、幼子は困惑のままも頷かざるを得ないようであった。
二対の剣が揃わねば、父に会う事が出来ぬと知ったばかりだと云うに、その一対が万が一中へと行ってしまえばそれすら叶わなくなってしまう。
幼子にとって、それは避けるべきでもあった。]
…こっそり。
[手に乗せられた首飾りをまじと見つめた後、恐る恐る指先にて触れる。
ひやりと硬質な冷たさはあるが、やはり見ただけでは剣とは思えぬ様であった。
不思議そうにじつと視線を注ぐ。]
……だから、あとで。
あなたに剣を渡します。
でも、お願いがあるんです。
それを。
[少し考えて]
ノーラ殿か、わたしの名前を、ちゃんと知っている人に、渡してください。
ベアトリーチェ殿が、もし怪我をしてしまったら、わたしはとても悲しいですから。
[首飾りに触れるベアトリーチェをそっと撫でて。]
わたしの、本当の名前を。
あなたにお教えします。
[微笑んで、その名を口にのぼらせた**]
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