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[ベランダの手すりに肘をつき、手すりの上に垂直に立てた腕、手のうえに細い顎を乗せ、たとえば牧原モモだとか日月マイコに対してごく稀に見せた事しかないような優しげな頬笑み。]
[落ちてきたラップを片手で受け止めようとして。
返って来る相手の声に、予期せぬ感覚。]
…、…わ。っと。
[僅かに驚いて、瞬いた瞬間に受け損ね。
掌に弾かれたラップの塊は床を転がった。
何時もなら難無く受け取れるはずだろう事と
さっき感じたソレに、緩く首を傾げながら拾い上げる]
…よーす。飯作ってるの?
だったらせめて、着替えてこりゃいーのに。
[まさか急を要する状況だったとは思わない。
何で胴着なの、と相手の格好へ視線を向けて問い]
[じっとりと纏わりつく粘性の空気の中で呟く。]
しかし、司どもは仕掛けて来もしない。
まあいきなり向かって来られないのは
こちらとしては
楽が出来るだけ有り難いところだが
全く
緩い奴らだ。
だが
一体いつまでそうしていられるものかなァ……?
それともまさか黙って喰われてくれる
つもりかい。
[暫くの間、そのまま立ち尽くしていたが
仔犬が吼える声で我に返り、頭に乗せると、
放置したままだったビニール袋を拾い上げ建物を出た。
わざと桜の見え辛い裏庭の方へと迂回して、寮を目指す。
たとえ他に向かう人影があったとしても、目にも留めずに。
辿り着くと、聊か乱暴に、玄関の扉を開ける。
風の影響もあったか、やけに大きな音がした。
以前なら、寮母に叱られていたことだろう。
それも気にせず、大股に歩いて給湯室にまで踏み入った]
−体育館→寮−
[それから適当に人気のない校舎内を回るうち、気付けば外は既に暗く。]
……戻るか…
飯は、食わないと。
[呟いた刹那、其処は1年生の教室の前。
友梨の亡骸を抱き抱え、かけた自分の言葉が思い出された。灰色に濁り、何も映さない瞳。
あれから心の何処かが凍り付いてしまったことに、洋亮は未だ気付いて居ない。昨日も今日も、笑顔だけは何時もと同じつもりだった。]
[今、感じた感覚はなんだったのかと。
戸惑いながらも、少なくとも、それは違和や不快を伴うものではなく。
逆に、それが戸惑いを呼んだ]
ああ、うん。
稽古して、そのまま来ちゃったからねー。
……や、なんかこう……虫の知らせ? みたいなものがあって。
急いだ方がいいかな……とか。
[大概酷い物言いかも知れない]
無謀はしない。
そうすればいつか司も食べられる。
そうしたら音色にも追いつけるかな。
音色といっしょになれるかな。
[そんなことを呟きながら。
人の気配を探して動く]
…………虫の知らせ?
[マコトの言葉が、自分の料理への危機感を差しているとは、まるで気付かず。眉を寄せる]
……今夜も何か起こる、とか?
……、まーいっか。
稽古って、剣道だっけ?
[数秒、相手をじぃ、と見眺めるものの考えても判りそうに無く。
気のせいかと、当人は早々に気にしないことに決めたらしい。
一言脈絡無く呟いて、早々に話題を切り替える。
ラップの塊を、壁際に置いてあるゴミ箱へシュートを真似て放り投げる。
淵に一回当たって、ゴミ箱へ収まるラップに、小さく握り拳を作って]
……虫の知らせって、飯に?
[初めて聞いた、と思わず眉を寄せながら首を傾げる。
つーか飯作れたんだな、とちらり思いながらそこは黙っておく。
全く作れない自分がいう事では無いし、作って貰えるだけでも有難い]
[ぐるり、校舎伝いを足早に歩いていけばやがて薄紅の下へと辿り着く。]
[ここからなら、寮からも見えるし、走ればすぐに戻れる。そんな安心感からだろうか、足を止め、幹に背を預けるように座り込んだ。]
あぁ……そういえば。
この桜が植えられた経緯とか調べられないのかな?
[図書館で調べれば何かヒントが見つかるかも知れない、明日行こう、なんて考えながら見上げれば、視界はすべて薄紅に覆われて]
あの子……おうかだったっけ。桜の花と書くのかな?
―→桜の樹の下―
[頭上の仔犬を床に下ろすと、戸棚から取り出したグラスに
麦茶を注ぎ氷を入れて、一気に呷った。
喉の奥にまで沁み渡る冷たさに目を瞑る。
吐き出す息すら、ほんの一時だが、冷えていた。
口元を拭って、また一息。今度は少し、温い]
……、……………。
[喉につかえているような奇妙な感覚は、苛立ちだろうか。
流しそうとするように、再び注いで、杯を傾ける。
仔犬はじっと、それを見つめている。
微動だにぜず、ただ、眼差しがゆらりと揺れた。]
あ、いや、その。
[虫の知らせ、の意味をそのまま言うのはさすがにためらわれるものがあり、言葉を濁す。
それでも、続いた問いには、ふと、窓の外へと視線を走らせて]
何か……。
……今、起きている事が、俺の知っている事と一致するなら……。
[実際には、一致していると、『認識』してはいるのだけれど]
何も、起こらない……と考えるのは……楽観かも、知れません。
[ととと、と走っていく。
どこにいるのかななんて思って、少し笑ってしまう。
と、視線を感じてくるっと振り返る。
人の視線には慣れている。]
……あ、さくませんぱい
[ぴたっと立ち止まる]
………………………
[マコトの姿をじっと見つめ、もう一度、木刀に目を向ける]
………………………その、知っている事…まだ、話せないか?
ああ、うん。
剣道、だよ。
[アズマの反応に、一つ、瞬く]
『……気づいて……ない?』
[でも、この感覚は。
自分の力と、よく似ているような気がして。
恐らくは、同種の力を持つ者、なのだろうに、と思いつつ。
後半の疑問はやはり答えようがないので、笑顔で流しておいた]
[ヒサタカの問いに、一つ、息を吐く。
しばし、言葉を探して目を伏せて]
……正直な所……これがどこまで現実なのか、認められない……いや、認めたくない、部分は、あるんです、けど。
[途切れ途切れ、言葉を綴る]
……でも……俺にとっては、これは。
真夏の桜も……心臓だけを奪われる、唐突な人の死に方も。
二度目の事だから……。
……だから、俺が話さないと、ならない事……に、なるのかな?
[くるりと振り返った少女の姿が、何故か楽しげに見えた気がした。]
今晩和。
…寮、行くの?
[やはり微笑みを浮かべたつもりで、目だけは笑えていない。]
んー。
大丈夫だよ、リュウ。
[麦茶ばかりで腹が膨れそうになった頃、止めて。
きゅぅん、と小さく鳴く仔犬を抱き上げると、
給湯室を後にして、廊下を歩んでいく]
………腹が減っては戦は出来ぬー、だよな。
[冗談めかした独り言。
静寂の中に、虚しく響いた。
食事を求めているのか、
人の気配を捜しているのかは定かでなく。
ただ、食堂の前に辿り着くと、また、吐息を零した]
そうー。
[にこっと笑って]
バトン、多分部屋に忘れてきちゃって。
とってきたら、桜のところにいこうかなーって。
誰がやったのかって聞きに。
………………………強制する気はない。
だが、このままだと、全員が「何だか判らないもの」が隣にいるのかもしれない、と怯え続けなければならないのは事実だな。
[淡々と言う]
変わったこと、ですか?
特に何もありませんね。
[サラリと答えれば、そのままサヤカに近付いて]
ねえ、キリュウせんぱい。
先輩には欲しいものがありますか?
[覗き込むようにその顔を見る]
[淡々と告げられる言葉に、また、一つ息を吐いて]
……そうなりますよね。
それに……それだと、俺はただ、逃げるだけになる。
[現実からも、コトネの事からも、と。
その呟きは心の奥深くに零れるのみ]
ただ……俺自身も、ちゃんと『理解』が追いついてないところもあるんです。
そも、自分がなんでこんな事知ってるのか……とか。
それが、わからない訳ですし……。
[それでも構いませんか、と。
確かめるような声は、微かに震えを帯びていたか]
ん…そっか……。
事態が動いてないのは良いことなのかしらね?
欲しい、もの……?
[唐突な問いに、幾度かの瞬きを繰り返し。]
とりあえず今は、ここから出る為の力が欲しいかな?
……貴女は?
バトン?
[それを何かに使うのだろうか。そう思ったけれど、]
桜に、誰が。
[幹を殴り付けていた少女の姿を思い出す。]
……誰かが。殺した。
…それを、聞きに?
[少女の姿をしたモノのうたを。]
出るためのちから。
うん、ほしいですね。
わたしもちからがほしいです。
――だから、せんぱいの、ください?
[ニッコリと笑って手を伸ばす]
………………………逃げるのも、一つの選択だ。
だが…俺自身、いつまで無事でいられるのか判らない状況だからな。
どんなことでも、聞いておきたい、というのが本音だ。
[マコトに告げる声にも表情にも、相変わらず動揺の色は無かった]
ふーん、剣道か。
[凄いな、と。
相手の言葉に、適当にも取れる返事を返して。
直後ヒサタカの問いと、マコトの返事に緩く瞬くと、
近くの机に、座るような形で凭れ掛った。
会話に口を出すこと無く、ぼんやりと会話を聞きながら
マコトの『理解』している物言いを統合して、漸く。
先ほど感じた感覚の正体を理解する。]
あー…。
[小さく、一人納得するように声を上げた。]
うん、バトンですよ。
[にこっと笑う。疑問には答えずに]
そうです。
ゆめってはかないものじゃないですか
だったら、はかなくなれば、ゆめになるかもしれませんし。
[それは普段の様子であるのに、
どこか壊れてはいて]
ううん、ただ……ゆるせないだけですね
だって、ぜんぶ壊したんですよ
[せんぱいは?と尋ねる]
私の、力……?
[にっこり微笑むその表情は、なぜか遠いモノに思えて。伸ばされた手を避けるように彼女は立ち上がる、ヨウコを見据えたままで。]
それは……どういう、意味?
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