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― 朝/自室 ―
[人々が階下に集まる気配を感じても、男はすぐには動かなかった。ゆっくりと、昨日汚した服を着替えて髭を剃る。顎の痣は青黒く変わっていたが、もう痛みはない]
蒼花とはえらい違いだな。
[鏡を覗いて、くす、と笑う。この痣も胸ポケットの赤い丸薬を飲めば跡形も無く消えるのだろうが、まだその時ではない、と知っていた。今はまだ、ここは「獣」のための舞台]
[階下に降りたのは最後に近かったか、クレメンスが犠牲になったことは、誰かが教えてくれたろう。男にとっては意外ではない事実。「獣」の最も傍にあった花が散るのは必然]
……外だな。
[話を聞き、建物を出ると、アーベルとエルザが遺体を運ぼうとしていた]
こりゃあ、早めに埋めたほうがいいな。
[二人に手を貸しながら、シーツに包まれていても、辺りに立ちこめるような血の匂いに、嘆息を漏らす。まともな葬儀などは望むべくもなかったから、近くに埋葬してしまうしかないだろう]
墓穴掘りの道具なんざ、あったかねえ。
[後で探してみるか、と、常の通りの口調で呟いた**]
―回想―
[ナータの部屋から出ると階下の方が騒がしい。
急いで広間の方まで降りる。
そこで目撃した事に強く歯をかみ締める。
ヴィリーを思い切り殴りつけたかったが、この場では自制した。
そうするのだと、言っていたのを覚えていたし、
何より騒ぎを大きくしてしまうと何より自分が理解していた。
そんな自分に腹立たしさを感じながら、司祭としての役割を果たす。
そしてエルゼリートと共に二階のエーリッヒの部屋へと、
エーリッヒの遺体を運んだ。]
―回想2―
[その後は、風呂に入る気も起きずに、
ラーイの部屋の隣に陣取った客室に戻ると、
しばし寝台に横になる。]
……わかってはいるんだ。
[皮膚の下に隠された痣が疼く。
だが本能よりも理性を重視するよう教え込まれてきた男は、
苦しみを堪えること、耐えることにどこか慣れてしまっていた。
そんな頃だろうか、微かな物音に気づいたのは。]
…ラーイ?
[そっと玄関先まで降りていった弟を追いかける。
そして、呟かれた言葉に]
何を落ち着いておく、と言ったんだ?
[と、聞き返した。
こんな時間に何してるんだよ、と言われても]
それはこっちの台詞だ。
一応、お前は病み上がりだろう。
[と笑った。
そして明瞭さを失っていく声や変貌する様子に目を瞬かせた後、
どこか哀しげにも見える笑みを一瞬、浮かべたが、
黒い獣が飛び掛る瞬間には男が普段浮かべる笑みをたたえていた。*]
―広間―
[浴室へと向かうライヒアルト>>164を何も言わず見送る。
朝、目覚めた時に彼は居なかった。
けれど彼は血肉を欲している風には見えなかった。
外でクレメンスを抱く彼は悲しんでいる風に見えて
弟の口から月のいとし子は他にも居るらしい事を聞いている。
誰が義兄を殺めたのか、知りたいと思うのに知るのが怖い。
一人きりである時間、ソファに身を沈め目を閉じた]
おにいさま。
いつでも話を聞いてくれるって言ったのに。
[朱花たる義兄。神のいとし子。
女は双花の片割れに支えられるばかりで支える事が出来なかった。
見出す者は双花を支えると伝承にあったのに――。
ごめんなさい、と声なく紡ぎ目許を拭う]
―広間―
[ゲルダが厨房から戻る頃にはライヒアルトも戻ってきていた。
慣れぬ血の匂いが彼から漂う。
義兄が自分の立場なら如何しただろう。
考えても答えなど見つからない。
伝承に詳しく義兄とも親しかったエーリッヒなら
義兄の考えがわかるだろうか。
ゲルダに礼を言いホットミルクのカップを受け取りつつ
エーリッヒの姿を探して菫を彷徨わせたが其処に姿は無く]
ゲルダさん。
[彼女を見上げ名を呼んで]
エーリッヒさん、は……?
[彼の名を紡げば昨夜の出来事を知ることが出来ただろうか]
[人がきて、いなくなって、また、人が来て。
血の流れた場所の様子を、翠の瞳は瞬き一つせずに眺めていた]
……なんで、だろ、ね。
[小さな呟きが零れる]
いたくないのに、いたいんだよ。
[死に堕ちて、痛みから逃れるべく、最初の喪失の頃まで刻を戻した魂は、それでも。
そこでおきた事に痛みを感じて。
呟く声に、夜闇の猫がにぃ、となく。
抱えられた猫の翠の瞳は、死する直前の青年と良く似たいろを湛えていた]
─広間─
[ゲルダとは擦れ違うばかりで姿を見ることが出来ていない。
昨日は無事な姿>>153を見届けたはずだ。
オレはゲルダの姿が見えないのを気にしつつも、ナターリエ>>152とライヒアルト>>163の言葉を受けて、玄関外へと向かった]
─ →玄関外─
[外に出た先で見たのはクレメンスの無残な姿。
仰向けにされていたし、シーツに包み始めた頃だったから、背中の傷は見えなかった。
思わず左手を口元に当てる]
……っ。
クレメンス──…。
[昨日エーリッヒを運んだ時に見たのが最期になるだなんて…。
血の匂いにくらりとしながら、オレはアーベルへと視線を移す]
…ぁあ、運ぶ、んだよな?
[オレは確認をとるように問う。
その辺りかな、ヴィリーも来たのは。
オレは少し茫然としてたから、昨日のやり取り>>166を少し思い出した。
ダメだ、しっかりしないと]
…よし、いくか。
[顔つきもおかしくはないだろう。
いつも通り肌身離さずもつ持ち物を手に、部屋より出て広間へと向かった]
― →広間―
…埋めなきゃダメか?
埋めるなら、教会の傍の墓地にしたいんだけど…。
[そのまま保存、までは行かないけど、埋めるのはそっちにしたいとオレは思っていた。
だから、昨日のエーリッヒも部屋に運んだんだ。
……それをやるには今の状態を解決しなきゃいけないけど]
………スコップとかだったら、多分納屋にあると思う。
あそこ、荷物置き場みたいなもんだから。
[オレの意見は多分罷り通らないだろうから、オレはヴィリーの疑問>>168にぽつりと声を零した]
―広間―
[既に人がいた。広間にはライヒアルトやゲルダ、ナターリエがいたり、玄関のほうにはエルゼの姿が見えたりしたか。]
…また、何かあったんですね。
[ただ、広間の空気を感じて口にする。
それが誰かまでは知らないけれど]
―昨夜・広間―
左側の、奥から三つ目。
……ありがとう、ございます。
[求めた答えはエルゼから得られ、頭を下げ]
[ゲルダの言葉には素直に頷きを返した]
[濡らしたタオルで白猫の赤を落として]
一人で、大丈夫だよ。
[何処か遠慮がちな姉の声]
[対するエーファの言葉に迷いはなく、まるで逆転したかのようにも見えた]
─前日・二階個室─
でも、だからって…人が見て、誤解されたらどうするの。
アーベル、困るでしょう。
[しれと答えるアーベル>>119に、もう、と言いたげな顔で見上げ問いかけた。
使用人としての努めだからこそというのは解っている。
子供のようで恥ずかしいというのもあるけれど、感謝こそすれ責める筋合いなどはない。
けれど、人が見てどう思うか。彼に対してその意識が薄い自分でも、さすがにこれは察することが出来て。
咎めるではなく、心配して彼を見上げたがアーベルはどう反応したろうか。]
…うん。ありがとう、アーベル。
心配かけて、ごめんなさいね。
[頭を撫でられ、注意を残して部屋を出ていく彼を見送った後。
アーベルに言った通り、ベッドに横になろうとして、ふと荷に手を伸ばした。
そこから手に取ったのは、執事から持たされていた銀の短剣。
鞘に納まったままの其れを胸元に抱いて、瞳を閉じればそこから零れた雫が頬を伝った。]
………こんなもの、必要ないと、思っていたのに。
[どれだけ泣きそうになっても、人前で涙を見せるのを厭っていたから。
堪えていた涙を静かに零し、亡くなったエーリッヒと彼の祖父の死を悼んだ。
そして、ふと過ぎった考えを口に出す。]
…エーリッヒさんは、人狼だったの、かしら。
[エーリッヒが何者だったのか解らない。
死者を視る者も、生者を視る者も解らない。
ゲルダさんは、蒼花。ならば、朱花は誰。
…解らない。]
アーベルは…ゼルは、どうなの、かしら。
[ゲルダは自分を信じると言った。
けれど、彼らがもしも人狼だったとしたら…自分は彼女の信頼に応えられないだろう。
でも。もし、どちらかがそうであったとしたら。
自分はどちらを守ろうとするだろうか。二人とも、大切な人なのに。
そんな、答えの出せない問いを続ける内、何時の間にか眠りに落ちて。
外での出来事に、気付くことはなかった。]
ぁあ…
[エーリッヒが四回目は無理だといっていた。
教会の姉弟が特に憔悴していて、もう一つの人の集い。玄関のほうまで歩いていく。
なんとなく予想は出来ていた。]
─二階個室→広間─
ん…、あ、さ…?
[目覚めははっきりとしないもので。
泣きながら眠ったせいで頬は引き攣っていた。
緩く顔を擦り、ゆっくりと身体を起こしたもののそこから動くことが出来ずにいた。
昨日は、朝起きた時に自衛団長が殺されていて、エーリッヒもまた命を失った。
今日は、皆無事でいるのだろうか。
もしも、誰かがまた自衛団長のように殺されていたら…
それを確認するのが怖くて、外に出ようという気になれなかった。]
― →玄関外―
ヴィリーさんにエルゼさんに、アーベル…よぅ
[挨拶も軽く、玄関より右手にあるシーツに包まれたものへと視線を移した]
―夜/一階・広間→―
わかった…
[返す言葉も遠慮がちに、少しずつ立場が入れ替わるかのように]
あっ、着替え…
それだけは…
[広間を去る前にアーベルとあったならば、軽く礼をする程度に。
お互い服は血で汚れたのでエーファの持ってきていた着替えを着ることに。
二人っきりの部屋の中、エーファに小さな声で、
エーファに自分と違う、自分の知らない、大きな何かを感じた気がしたから]
エーファ、なにか、隠してること、ない…?
[疑いではなく、心配するように、答えはどうだったか。二人の会話を聞くのは猫だけに]
─玄関外─
[にぃ。
不意に、夜闇の猫が鳴く。
黒の中の翠は、宿屋の中から出てきた銀の姿に向けられていた。
少年は抱えている夜闇の視線を追い、銀を見て、首を傾げる。
にぃ。
また、猫がないた]
……いたい、ね。
[何故かはわからない、けれど。
そんな気分になった]
─玄関外─
………おぅ。
[問いに色よい返事はやっぱり返って来なかった>>179。
だからオレが返したのは、生き残っての方だけの返事。
口元を押さえていた左手を離す。
その下からは少し尖らせた口が現れた。
それを意味するのは拗ねるとかそういうものじゃない。
分かり辛いかもしれないが、肝に銘じた表情だった]
あ、ゼルギウス…。
………クレメンス、やられちまった。
[姿を現したゼルギウス>>182に、オレは視線を移す。
相手の視線がシーツに移るのを見ると、小さく、簡潔に言葉を紡いだ]
―朝/→一階・広間―
[昨晩はそのまま自分は空いてる部屋に行くことになり、エーファとは別々に寝ることになった。
途中、寝ることができず、椅子に座りながら一晩を過ごすことに、頭の中はごちゃごちゃと整理がつかずにいて、外で何かがあっても気付くことはなかったが。
広間に降りるのは妹よりも早く、一人で。
妹の服を着て、遠慮がちな礼をしたため、初めは皆に間違われたかもしれない]
[そして、気づけば朱花が目覚めた12歳の姿になっており。]
……さすがにこれはないだろう。
[おいおい、と突っ込んで20歳くらいの姿になった。
身長は大体、185cm〜190cmくらいか。
そして、消耗しきっている弟妹の様子に困り果てただろう。]
そ…ですか。
まあ、広間の様子見ててなんとなく予想つきましたけどね。
[ヴィリーとエルゼが何を話していたのかはしらない。
ただエルゼからの簡潔な応え>>184に苦笑気味に返した]
なーんで…クレメンスさんだったんかねぇ…
花…だったのかな
[一つ一つ考えながら呟く。死体の状況を見ようとはしない]
─二階・個室─
[けれど何時までも部屋に閉じこもっている訳にも行かない。
それに、ゲルダ達の安否も確認したいと思うのも本心で。
いつもの薬を飲んだ後、部屋の外に出ようとして。
スカートの裾をめくると、胸に抱いたままだった銀のそれをソックスベルトに掛けてから裾を直し。
頬に残った涙の跡を化粧水で誤魔化してから、改めて部屋の外に出た。]
─ →廊下─
[きょと。
二対の翠が、瞬く]
……誰?
[不意に聞こえた、紗を隔てない、声。
夜闇の猫がにぃ、にぃ、と鳴く]
……誰か、いる?
[ぐるり、と周囲を見回して、問う。
猫もしきりと、声を上げていた]
―昨夜・個室―
[一度部屋で着替えた後、姉とはそこで別れることになる]
[着替えの入った荷物を持ち、2着程は姉の為に置いて]
大丈夫。
心配、いらないよ。
[姉の言葉には微かな笑みすら浮かべ、そう答えて]
[核心には触れることなく]
[白猫を抱いて、その主だった者の部屋へ]
―→エーリッヒの部屋―
……あ、そうか。
これじゃ、寝れない、ね。
[行く先を聞いていなかった為に、遺体がここにあるとは来るまで知らず]
[落ち着かない様子の猫を宥めるように撫でる]
[部屋を見渡せば伝承に関する資料も見つけられたか]
でも、ここなら、誤魔化せる……かな。
[呟いて、猫を一度床に下ろした]
─玄関外─
だよな……。
オレでも予想ついたよ。
[広間についての感想はオレも同意だ。
ナターリエとライヒアルト…二人があの様子になるっつったら、一人しか思い当たらねぇ]
……花?
花って、伝承言われるあの花か?
[呟くゼルギウスの声>>186を聞いて、オレははたりと翡翠を瞬かせた]
[それから少しだけ時間は過ぎて]
[シーツ越しの遺体からは、変わらず血の香りが強く漂っていた]
[それに床に落ちた微量な赤は紛れるか]
[もしかすると、獣の嗅覚には見破られてしまうかも知れないけれど]
ごめんね。
戻ろう、か。
[先程使ったものを、荷物の奥に押し込めて]
[白猫を連れて部屋を後にした]
―浴室→広間―
[血の匂いが残る服はどうしようか悩んだまま、広間で足を止めた。
上着である黒衣の替えは一枚だけ。部屋に下げてあるそれは流石にもう乾いているだろうか]
シスター ナターリエ。
[入れ違うように外に出て行った人達も戻ってくる頃か。
ゲルダから受け取ったカップを両手に持ってナータに近づく。
そして愛称ではない形式張った呼び方をした]
私は聖職位を持たないから。
クレム司祭への祈りは、あなたが捧げて下さい。
[どこか事務的な口調で言った後に俯いて]
お願い。ナータ。
[消え入るような小さな声で付け足した]
……猫?
[にぃ、にぃ、と猫の鳴き声に首を傾げる。
と、言っても思い当たる人物は一人しかいないわけだが。]
エーリッヒか?
[この声が届くと信じて、呼びかけてみた。]
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