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[嫌な予感がしたのだ。
だが逃げられるわけも無いのだからと、気を引き締め直して目的地へと入った]
何か簡単なものを作るくらいはしたいのだけれど。
[道具は揃っている。ただその余裕があるかどうか]
[あるわけもなかった。
結局水を一杯とクッキーを一枚だけ口にする。
身体を意識して、力を意識する]
…大丈夫。
[自らに暗示をかけるように呟いて。
ローブが「覆い」となるように念じると廊下へ出た]
―西殿・一階廊下―
オトフリート様…。
[僅かに身構えながらも、どうにか微笑らしきものを返す]
ご心配の掛け通しで申し訳なく思います。
ですがこの通り。お約束したように休息も取りましたから。
いえ、未だ。
会わねばならないとは思いますが、何処に居るかご存知でしょうか。
[心配は幾重にも掛けているだろうなとは思いつつ。
眉が寄るのには小さく首を振り]
今少しばかり口にはしました。
ですが、落ち着いて食べる余裕も欲しいところですね。
…剣のことが気になるのは、貴方の方ではないですか?
[疑問に疑問を返して微妙にはぐらかす。
相手がどこまで知っているのか判断は付かなかった。
柔らかな微笑の理由も知れず、惑う]
少しでも減らそうとして?
…そうした無理をする人では無いはずなのですが。
[だが確信できるものではなく、表情を曇らせる]
元から、近年はそう多くを口にすることがありませんので。
[本当は回復の為には多くを摂った方が良いのは他者と変わらないのだけれど]
どうして私が持っていると?
そしてご覧になって…どうなさるおつもりですか。
確かに頭の固い人ですし。
その強さも存じておりますが。
必要とする分まで絶っているわけではありませんから。
[自分も影響をかなり受けている自覚は薄い]
――ダーヴィッド様以外には見せていないはずですが。
確信をお持ちでは誤魔化しようがありませんね。
[半歩、身を引く]
であれば、お見せするまでは構いませんが。
お渡しすることは出来ません。
[両手を前で重ねながら、否を告げた]
これは剣の意思でもありますがゆえに。
[聖魔剣は仮初の意思を持つ。
その本体が共に在るを認めそうな相手、その中で一番近くに居たのがエルザだったのだ。
だから一抹の不安はあれど彼女に剣は託された]
[二振りの剣は契約の下にその姿を変える。
腕輪然り、短剣然り。
そして聖魔剣が他に多く取ってきた形は…首飾り]
[側近であればその姿も見たことがあっただろうか]
手にするべきでない者が手にすれば、崩壊を招く。
それを知った上で望まれますか。
[伸ばされる手を、鋭く払う。
そのまま大きく一歩後ろに下がる]
なれば猶のこと、渡すことは出来ませぬ。
[左手の印は無理をしすぎたせいで、そう簡単に封を解けなくなってしまっていた。或いは癒された時にそうもされたのか]
………。
[ギュ、と唇を噛んだ。
視線が胸元に向き、気配が変わった。
右耳に手を伸ばし、真珠飾りを引き千切る。
手の中に現れたのは相手のそれより一回り小さな短剣]
最後まで、抵抗します!
[一瞬それた意識、反射的に踏み込んでいた。
短刀を握る手を狙い刃を振るう。
力量差は当然あるだろう。目の前の相手にだけ集中して]
[肉を切り裂く感覚。
眉を寄せながら刃を返し、武器を封じられたなら次は足と。
だが、それよりも早く相手は動く]
グッ!
[腹への一撃がまともに入った。思わず身体が折れる]
[容赦なく上から降ってくる一撃。
ミシ、と嫌な音が鳴った。
右肩に痺れが走り、短剣が転がり落ちる]
っ…!
[足にも力が入らず、膝を突く。
見上げた翠は暗闇を宿して冷たく見下ろしていた]
…我が血を糧に、その動き、暫し留めん。
[右耳から流れる血に意識を向けて、小さく唱える。
先日、オトフリートを助けるために使った術を、今はその相手を封じるために使おうとして。
広がる網は、だが力の弱まった今、どこまで効力を発するか]
わたせ、ま、せん。
[苦しい息の下から、それでも搾り出すようにして声を出す]
[浮かべられた笑みにゾクリとしたものが走る]
んっ…!
[闇の力を宿したタイに締め上げられ、息が詰まる。
空気を得ようと首を、背を逸らす]
「我は認めぬ」
[男とも女とも付かぬ低い声が響いた。
だがそれも一瞬のこと。掬い上げられた首飾りは月闇の竜の手の中、冷たい感触を伝えるのみ]
[奪われてゆく首飾り――聖魔剣。
もはや留めるだけの力はなく、絶望が沁み込んで来る]
あ…。
[スルリと手の中から抜けてゆく感触。
パチリと最後に小さな何かが弾け、エルザの身体から力が抜けた。
同時にオトフリートに絡み付いていた網も霧散するように消え失せる]
[声を掛けられても癒しを受けても一切の反応を示さず、ただ呆然とへたりこんでいた]
[やがて生命の竜に送られた力で意識を手放して。
昏々と、ただ昏々と眠る。
一時の忘却の内に。
何の声も聞こえない*静寂の中で*]
/*
長々とお付き合いいただきありがとうございました!
こちらの我侭を受け入れてくださり感謝です。
もう暫く在席はしておりますが、基本動かずで。
―東殿・食堂―
うん、ノーラみたいなの。
[こんなの、と幼子が小さな手にて示すは輪を模った其れ。
仔にしてみれば腕輪を視的表現する精一杯の技法であったが、しかしその表現すら結局の所曖昧に変わりは無い。
暫しの沈黙の間幼子は視線の高さが等しくなった地竜殿を真直ぐに見つめていたが、やはり返る答えは幼子の期待する答えでは無かった。落胆の色は隠しきれねども致し方無い事。漸く全ての問いを投げ終えた仔は、地竜殿の解放へと至る。
――例えの話、これが幼子ではなく他の者であれば若しやすると言い包めに近いと察しも出来ようが、少なからず仔には其れを悟るには困難であった。]
……こまったね。
[私へと視線を落とす幼子は言葉通り確かに困っている――途方に暮れている様であった。
と、近くへと歩み寄る心竜殿の存在を認知したと同時向けられた提案に、幼子は一度目を瞬かせる。]
デザート?
……、ノーラの?
[デザートと耳にし輝いた目は、しかして影竜殿の分であると聞き及び一寸躊躇いを見せる。
幼子としては恐らくとも非常に食したい所であるだろうが、
本来は己と親しい相手の物であると聞き悩むのは道理。
沈黙を保ったまま心竜殿を見上げ次に影竜殿が出でた扉を見、
最後に卓上へと置かれた皿へと視線を向けた。]
…、…たべる。
[…しかし幼子の心情は好みの菓子を目の前には敵わぬとみた。私は思わず溜息をこぼす。
影竜殿のこと故、恐らく仔が食したと知れども叱りはせぬだろうと思ったが、
しかし人の物には変わり無い、後に謝罪だけは述べねばならぬと心に*決めた*。]
[確りとした「声」が聞こえたのは所有の移ったあの一瞬のみ。
拒絶の意思は強く感ずることができても、剣は黙して語らない。
精神の竜が接触を図れば或いは、仮初とはいえ個に近いものがあり、だが反応を示そうとしないことに*気付くかどうか*]
―東館:部屋―
[ベッドの上、少し湿った髪。
身じろぐ手に握られた首飾り。]
[床に落ちたタイは、赤黒く。
鍵がかかった部屋は、ただしずかに、今は闇。]
[闇の気配があたりを包み、それ以外には、なにもない**]
―東殿の部屋―
[翠樹の仔竜がデザートを食べる様子を微笑みながら眺めて。
やがて部屋へと戻り、青年も休息を取る。
椅子に腰掛けたまま目を閉じる姿は、どこか*彫像の如く*]
―― 私室 ――
[横たわっていたベッドの上で、しかばね…もとい青年がぱちりと目を開ける。眠っていたのかどうか、どうあれ寝惚けている風ではない]
新しい可能性…不確定要素…
…「力ある剣」
[静かな声が、誰も聞く者の無い室内に響く]
なぜ、剣の持ち主は名乗りでない?
[それほどの力ある剣を持っているなら、この騒動の始まりに、名乗り出て他の竜に協力を仰げば、揺らされた者もおいそれと手出しは出来なかったろう。それをしなかったのは何故か?]
ケース1…剣は存在しない…
[それがこれまで、最も高いと思っていた可能性]
ケース2…所持者自身、剣を持っていることを知らない…
[これが二番目に高いと思っていた可能性]
ケース3…剣の力そのものが封じられている…
[ケース2同様に可能性はある。だが、それでも他者の協力は仰いだ方が良かったのではないかという疑問は残った]
ケース4…すでに一振りを奪われている…
[それが、新しい可能性…もしも、皇竜の側近が、本当に剣を預かっていたとしたら…剣を奪ってから結界に閉じ込めたのかもしれない…そして、剣が奪われたから、もう一振りの所持者は名乗り出ることが出来ないのかもしれない]
─竜皇殿・城壁上→東殿・回廊─
[狭い空間での演舞は、どれほど続いたか。
さすがに、体力の消耗を感じた所で城壁から降りる。
濡れた常磐緑は、手に持ったままだった]
……疾風だけに風邪はひかねーつもりだけど。
[義兄が聞いたら、違う理由でひかない、と突っ込んだかも知れない]
いちお、あったまった方がいいんかなぁ……?
[そんな事を呟きつつ、浴室に向けてずりずり]
[とりあえず、浴室で身体を温める。
着替えは、一時的にだからと適当に借りた。
びしょ濡れの常磐緑はすぐには巻けず、やむなく、タオルで首筋を隠したりとか、微妙に不自然なスタイルになったりしつつ、部屋まで戻り]
─ →東殿・自室─
っかし……どーすっか。
誰か巻き込むか、それとも。
[自身に秘密が明かされた理由。
それは、何かあれば後を託す、という意思表示なのやも知れないが。
自分は、そこの所には──剣を第一とする部分には、どうしても賛同できていない訳で。
それを考えると、あと一人ぐらい、巻き込みたい所なのだが]
んー……。
[考えながら、ごろ、ごろり]
[どさり、と重いものを落とすような音をさせ、ベッドから降りる。
それから身支度を整えると、部屋を出る。
ガチャリ、扉が音をさせた。]
…ザムエル殿に、どう聞くべきでしょうか。
[独り言をぶつぶつ呟きながら
外を見て――西殿を、窓から見上げる。]
[結局、何が悩みの種なのかといえば。
相手によっては、状況が更に悪化する、という可能性。
もう一振りの行方は全くわからない以上、敵に塩は贈れないわけで]
だああああああっ!
なんで、もっと頭の回るのにしとかなかったんだよー!
[それは八つ当たりというものです]
うー……本気で、あったまいてぇ……。
― 東殿・一室 ―
< 幾らの時が過ぎたか、陽は出ないために確かではない。世界は少し違って感じられる。
孫娘が結界に囚われた事を伝え聞いても、皇竜の眷属らは平静であるよう努めていた。
しかし、灯された明かりは闇と共に不安を払わんとする証。
光は影を生み、揺らめく >
[絶叫が聞こえ、びくりと扉の前で肩を竦める。
聞こえた部屋の前まで行き、そっと耳をつけ。
コンコン、とノックした。]
…あの、大丈夫ですか?
何か、ありましたか?
[混沌の欠片でも出たのだろうか、と。
風竜の部屋の、扉の前。]
……ふえっ!?
[唐突なノックの音に、慌てて起き上がろうとして]
あ、なんでもね、ちょっ……どわたっ!
[ごろごろしている内に端に寄っていたのか、見事にベッドから落ちた。
派手な物音が、響く]
―――回想―――
[食堂に着いた後は、一緒に歩いていた二人とはそれなりに離れ、アーベルからお茶をもらい、適当に益体もない話を色々な人と話しているとき、
『それ』は突然来た]
(……は……ぁ……!?)
[声にこそ上げなかったが、多少身震いしたのは鋭いものならば気づいたかもしれない。
水が。
いきなりその力を増大させた]
―――っ。
[ともすれば、暴走してしまいそうな力を無理矢理に押さえ込む。
それが精一杯だ。
其の後のことは、断片的にしか思い出せない。
後にそれは―――天聖のものが結界に囚われたことにより、一時的に弱まり、結果、「力ある剣」の持つ強大な力が、流水へと流れたことだということに気づいた]
(『力ある剣』を持っていなく、また、それを扱う資格のない私にすら余剰の力がフィードバックするとは……。
『力ある剣』
予想よりも遥かに強い力のようねぃ……)
[この時に一時的に流れた力に比べたら、焔に何かされたことなど、取るにも足らないことだった。
―――ややして、雨にもう少し触れてくるとか適当な理由をつけて、中庭でその力が発散されるのを待った]
―――回想終了―――
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