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[声にこめられた感情は、
わからぬほどに交じり合って、
そのまま冷たい空気に溶けた。
早くと呼び立てる声に、
子供はそのまま、歩を大通りの方に向ける。
どうせすぐにはぐれてしまうだろう。
子らは知らないから、
とても楽しんでしまうから。]
[かけられた鈴のような声に、焦げ茶色の瞳を瞬かせて。]
ぁ…おはようございます…。
[ぺこり、頭を下げて。
それからもう一度、きょときょとと辺りを見渡した。]
おはようございます。
[にっこりと挨拶を返す。外にはもう月が輝いていたけれど。少女も今しがた起きたばかりだったから、これも正しい挨拶だろうと思う]
[ひかりに包まれる前と同じ、けれども、どこかがずれた空間は、夢ではなくて。]
やっぱり…捕まえられたまま、なんですね…。
[ちょっとだけ、しょんぼり。
団長さんやエーリッヒさんが帰って来なかったのだから、きっと自分もそうなるだろうとは思っていたけれど。気落ちするものは仕方が無い。]
[扉が開かれれば、現れたのは青髪の男で]
……ミハエル=フォン=エーデルシュタインだ。
ユリアン=フェーダ、君に話があって、こうして来た。
少々時間を頂けるだろうか。
[何時も通りと言うべきか、些か横柄な態度。
ユリアンの反応を気にした様子もなく、つらつらと述べる]
[しょんぼりしたユーディットの様子に胸が痛む。思わず、ごめんなさい、と言いかけて唇を噛んだ。謝れば済むわけではないから]
きっと、すぐに帰れるから。元気を出して、ね?
俺に……話?
[ほんの一瞬、戸惑うものの、すぐに理由には思い至る。
昨夜、波動は感じつつも視覚では捉えなかった、父の力。
……そして、少年が一人で来た事]
まあ、作業一段落して、休憩しようとしてたとこだから、構わないけど。
[いつも通りの軽い口調で言いつつ、ここ、寒いから、と中へ招き入れ]
そうか。ならば、上がらせて貰う。
[一つ、頷く。玄関先でするべき話とは思えなかったから。
ユリアンに従って、中へと付いていく]
はい…心配おかけして、すみません…。
[こくり、素直に頷いて。
それから、ミリィは一番事情に詳しい(妖精王はまだ見かけてないので)という事をようやく思い出して。
かけられていた毛布を畳んで置くと、ソファーからぴょこん、と飛び降りて、ミリィの傍に駆け寄った。]
ミリィさん…私にも手伝える事はありますか…?
先に言っとくけど、片付いてないからな。
[冗談とも本気ともつかない口調で言いつつ、自室へ向かい。
余り使われていない小さなテーブルと揃いの椅子を少年に勧めて、自分はいつもの作業台前へ。
……室内を見回せば、作業台の隅。
銀色の光の粒子をちらちらとまとう花冠が目に付くか]
狽氈c!
[慌てて駆け戻って、大切そうに拾い上げる。
紙に包んだ片方の靴と靴下があることも確認すると、ソファーの上に丁寧に置いて。
タイだけ手にミリィの元へと戻った。]
本当だな。
[さらりと肯定する様子には、一切の遠慮がない。
勧められた椅子に腰掛け、ユリアンの視線を追うように視線を巡らして]
……渡さなかったのか?
[花の冠を視界の端に入れて、問いかけ]
ううん。あなたが謝ることなんて、何もないのよ?
あなたは、巻き込まれただけなんだもの。
[笑みを消さないままに、少女は言って、手伝えることは、という問いには首を傾げる]
どう、かしら?多分、ユリアン達が結界を壊す時には、こちらでも何かが起きるとは思うのだけど。
私は妖精の魔法が使えるわけではないから、具体的にどうすればいいのかは判らないの。
ユリアンは、結界の繋ぎ目に衝撃を与えるって、言っていたけれど。
[遠慮のない言葉に、大きなお世話、と呟いて。
投げられた問いに、ああ、と頷く]
……渡せなかった、って言うべきかな。
色々と、自業自得ではあるけれど。
でも…私も、勘違いして……こっちに来ちゃったから。
[ミリィの微笑みに、ふるふると緩く首を振って。
手伝える事が無いという言葉に、申し訳なさそうに眉根を下げる。]
……ほんとうは、ダーヴィットさんが来て、結界を壊すはずだったんですよね…。
私が…余計なことしちゃったから……
[……すみません、と言いかけて、余計に困らせる気がして口を噤んで。]
上手く…いくといいですね。
[きっと、目の前の少女も早く帰りたいのだろうと――
そう呟いた。]
[そうか、と返す言葉は短く]
昨日の台詞を言えばよかったものを。
[ちゃっかりと聞こえていたらしい。まあ、大声で叫べば当然か。
尋ねはしたものの、大して興味もなかったのか、とん、と机を指で叩くと、翠玉の瞳をユリアンへと向ける]
……さて。
アーベルに大体の話は聞いた。
その様子だと、何の用でここに来たか、大方、察せているとは思うが。
ユーディット――僕付きの侍女が、金色の光に連れて行かれた。
気楽に言ってくれるよなぁ、ほんと。
[思わずグチるように呟けば、相棒が『自業自得』と言わんばかりにてち、と頬を叩く。
それに、黙ってろ、と短く返してから、翠玉の瞳に向き直り]
……あの子が。
同族なのは、知ってたけど……。
[瞳の青が、す、と銀を帯び]
すまん。謝ってどうなるもんでもないのは承知してるが……親父が、迷惑かけてる。
[静かに言いつつ、頭を下げて]
[少女は、ふるふると首を振る]
ううん、ダーヴィッドさんがどうしようと思っていたのかは、私には判らないから。ただ、他の人を送るのが嫌で、ユリアンに我が侭を言っただけだもの。
でも…ええ、うまくいくといいわね。出来るだけ、傷つく人が少なければいいと思うわ。
[もう、かなり手遅れなのは、判っているのだけれど]
[石垣にちょこんと腰掛けたまま、どれぐらい時間が経過したのか。
ぼんやりと、蠢き続ける人の波を見つめて。
ふいに顔を上げれば僅かに躊躇って…それでも、ポケットへ手を伸ばす。
細いチェーンが、シャラリと小さな音を立てた。]
[昨夜ミハエルの話を聞いた事によって、
"向こう"に連れて行かれた人が更に増えていた事を知って。
きっと今、コレを首にかければアイツがまた一つ、教えてくれるんだろうけど。
―――それでも、何故かまだ身に付けられないでいた。]
[何となく。 ―――理由は漠然と 判っていて。]
[部屋の中にはオルゴールの音だけが響く]
[目を閉じてはいたが、決して眠ってはおらず]
[鼠と戯れていた少年、金髪の少年の後ろにちょこんと控えていた少女]
……妖精。
[「嫌い」という少女の声]
[タイを見て不思議そうに首を傾げて問う少女に、何処か困ったような笑みを浮かべて。]
……はい。お別れに…いただいて…きました……。
[ミハエルにもらった(むしろ奪っちゃった?)タイに視線を落とし……思わず滲んできた涙を慌てて袖でくしくしと拭う。
よく見ると、一晩中しっかりと握りしめていたそれは、くしゃりと皺になっていた。
あわあわと手で伸ばしてみるも、修復は絶望的で――
しばし迷った末、長い栗色の髪を一つに結い上げて。]
……これでもう、なくしたりしません…から……。
[……だから、大丈夫です、と。にこ、と微笑んだ。]
[今日は灰色の鼠の相手をする気はないらしく、視線はユリアンに向けられたまま]
……知って、いたのか。
[異なる色彩を帯びる瞳に片眉を寄せるも、小さく息を零して]
別に、謝罪を求めに来た訳ではない。
君が僕に謝る事で、事態が好転するのならばともかくとして。
[ユリアン自身が言うように、そんな訳はなく]
……それに、ユーディットが連れ去られたのは……
彼女自身と、僕の責任もある訳だから、な。
[涙を拭う小さな妖精に、思わず手を伸ばして、そっと栗色の髪を撫でる]
ミハエルに逢いたい?ここは、村と重なっているそうだから、きっと様子を見ることは出来ると思うわ。
―通り―
Moi je vis sans foi
(神様も信じない)
Je suis sans loi
(決まりも気にしない)
[青年はいつもの唄を唄っていた。]
Rien ne peut m'...
[唄が止まる。青年の歩みも止まる]
……信じねぇのも、気にしないのも自由だが……
”ヨソサマ”に迷惑かけんじゃねーよ……
[青年がそう呟く相手は誰なのか。]
[4人もの失踪を飲み込んでなお賑やかな祭りに薄ら寒いモノを感じつつ]
…、……っもー!
何か色々考えてたら、結局ムカムカするっっ!!
[ポケットの中で、小さな石をぎゅうと握り締めれば
ガバリと頭を振って立ち上がって]
とりあえずあれだっ!
判ってることだけ、先に済ませるっ!
[ぱしぱしとスカートを叩いて、簡易的に砂埃を落とせば
うん、と何か決意したように。一人小さく頷いて]
ああ。俺は最初、感覚を閉ざしてたから気づかなかったが、ヴィントがな。
[下げた頭を戻しつつ、静かに答え。
無視された方の相棒も、場合でないと理解しているのか、対抗意識を出す事もなく]
取りあえず、謝るくらいはさせてくれ。後で、当事者にも詫び入れさせるつもりだが。
[妙に真剣にこう言った後、一つ、瞬いた]
責任……?
単に、親父がボケただけじゃ、なく?
[一人で考えていても埒が明かないからと、家を出たは良いものの。結局行く宛てなどある訳もなく]
[少女にこえをかけるのも何となく躊躇われて]
[大通りに着いても、暫くは屋台を見るでもなく地面を見ながら黙々と歩いた]
これも結界の力…てやつかね
[普段のこの村なら4人もの失踪…は大事件だろう。]
………………………
こんなの、楽しいとかいわねーよ…
[自分の知る子供達の表情を思いだし
…それは”楽しい”とは遠い表情で。]
[それに、連れ去られた団長やエーリッヒ。
自ら志願したらしいミリィやユーディットは…
はたして”祭りを楽しむ”ことが出来たと言えるのだろうか?]
…ありがとう…
[代金を受けとると、ランプを手渡し…ゆるり、ろ振り返り…]
…
[少なくなってきたランプの数に、小さく息を吐き…
空を見上げる。冬の空は澄んでいて…]
…どうするんだろ。
[その呟きは喧騒に消える]
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