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珈琲か
[とりあえず茶葉だと思わしき入れ物を取ると、中にあるのは珈琲豆]
[そのまま目をラッセルへ向けた]
――飲めるか?
ううん、そうじゃなくて。
この建物の中に、ご婦人っていたんだ、
って思ったんだ。
[あっけらかんと言い放つ。
皮肉でもなく、何処か不思議そうに]
うわぁ、戦場なんだ。
それなら早く逃げないと。
[立ち上がり、ブランケットを纏い直す]
[くちゃくちゃ音立てて噛んでた干し肉をなんとか飲み込み、かなり遅れてギルバートに鼻を鳴らす]
誰がネズミだ。こんなでかいネズミがいてたまるか。
そこのでかいのも笑うな。
[喉を鳴らすクインジーを一睨み]
俺の名前は……「ギルバート」。
何故かここに来る時にその名を覚えていたのだから、多分それが俺の名前なのだろう。
踊ることに比べたら、あやふやな記憶でしかないが、名前が無いよりマシだろう?……という程度の「名前」さ。
[目が覚めてしばらくは、光の無い部屋の天井を見ていた]
………。
[眠る間、何かが過った気がしたが、それが何なのかは分からず。思い出すことも出来ない。しばらく考えていたが、直ぐに考えるのを止めた]
…休んだ意味が無いったらありゃしない。
[小さく息を吐いてから上半身を起こした。どのくらい眠っていたかは分からない。けれど少しではあったがすっきりした感じはしていた]
[ベッドから降りると服を直し、髪を整え。そのために鏡を探したが、この部屋にも鏡は無かった。仕方なしに直せるだけ直し、部屋を出る]
[鏡があったのであれば、瞳が滅紫に染まっていたのに気付いたかも知れない。けれど鏡は備わっておらず、また滅紫も部屋を出る頃にはいつもの紅紫へと変じていた]
……あれが、酒なんだ。
「命の水」、って言うんだよね。
[信じられないといった様子で幾度も瞬く。
クインジーの問い掛けに鼻を動かす。
酒とは異なる、深い匂い]
んー……
飲んだことないけれど、くれるなら飲むー。
いやいや、「戦場」っていうのは「ものの例え」さ。本当に銃弾が飛び交う訳じゃあない……。
ラッセルには、そういう類いの例え話は合わないのかな?……なるほど、了解。
[露台に佇み手を伸ばす。
空に輝く月は遠く、どれだけ手を伸ばしても届くことは無く]
たかいところへきても。
とどかない。
[溜息を吐いて腕を戻す。
下ろされた視界に入るのは湖。
月をうつして、緋をうつして]
きれいなのに。
ああ、やっぱりネズミじゃ無かったか。
チーズと干肉と酒と、それから人間の言葉。
………なるほど、人間だ。
これはこれは失礼をば。
[干肉を喰う男を見て、恭しく一礼した。]
俺はコイツがあるからいらねえ。
[料理に関しては出来るが作る気がないから黙り、飲み物の勧めには手を横に振る]
そっちのちびも呑んでもいねえ内から文句垂れてんじゃねえよ。
茶に垂らすとあったまるんだぜ?
オマエの場合はミルクの方がよさげだがな
[ラッセルに瓶を揺らして見せ、無精髭に囲まれた口を歪ませる。ミルクはネズミ呼ばわりの意趣返し]
可笑しい言い方だと思っただけだ
良いと思うが、ねずみ
[鼠に対しての笑いは、ケネスを苛立たせるだろうが、男は気にすることもなかった]
[珈琲をいれるのも適当に]
[慣れた者が見たら、適当すぎると文句をいうだろうが、コトコト音を立ててやがて沸騰した湯を淹れ、注いだ]
砂糖がある場所はわからん
飲むなら飲め
[カップに移すのは望まれた分だけだった]
[どれだけそこで過ごしたか。
やがて常盤を揺らして露台を離れる]
何かするべきことがあれば。
気も紛れるのでしょうか。
[部屋を借りた一角に伸びる廊下を足音も無く歩きながら。
ポツリと呟く]
あ、そうなんだ。
[ギルバートの訂正に胸を撫で下ろす]
合わないっていうか、例えは解り辛いかな。
いくら飾っても真実は変わらないから、
そのままに伝えるほうがいい。
オレ、言葉選ぶの上手くないけれど。
なんてーか、えらくキザな男だなおい。
そういうのはアンタの言うご婦人とやらにしろや。
なんかあちこち痒くなってくらあ。
[ギルバートの台詞や仕草に粗野な部分が馴染めず、ぼりぼりと首筋を掻く。それぞれの名乗りは耳にしていたが気のない態度で聞き流していた]
[泉を離れ、どれだけ進んだか。
いつしか周囲には蒼黒い木々。
それはどこまでも続くが如くひしめき合い、先に進むのを阻んでいた]
……どうあっても、出るは叶わず、か。
予想していたとはいえ、ここまで見事に的中されると、腹立たしいな……。
[ため息と共にこんな言葉を吐き出し、踵を返す]
あそこに戻る……しか、ないか。
[男の揺らす酒瓶に釣られて視線が揺れる]
ちびじゃなくてラッセルだよ、鼠の人。
髭のおじさん、のほうがいい?
ああ。
うん、ミルクは好き。
よくオレの好み、わかったね?
[皮肉は通じず、あっさり答えた]
[鏡が無いのはやはり不便で。客室はほぼ同じつくりだろうと当たりを付け、それ以外の部屋を一つ一つ覗いて回る。一つくらいないだろうかと淡い期待を持ちながら]
と言うか、客室に鏡が無いってどう言うことかしら。
普通あるものじゃないの?
[とは言ったものの、記憶が曖昧過ぎて自分の言う「普通」が本当に「普通」なのかははきとせず。それでもやや憤慨したような様相で部屋を開けては鏡を探し、また廊下に戻ると言う行動を繰り返す]
ぢゅー
…とでも鳴けば満足か?
ああ、服からしたら言われてもしゃーねえな。
[クインジーの声にふざけた鳴き真似を返す。チーズを投げようと動いた目が薄汚れ鼠色の袖を見、弄ぶにとどめて肩を竦めた]
[珈琲を淹れたカップを受け取り、
両の手で包んでそっと口をつける。
幾度か息を吹きかけ、冷まして飲んだ]
……にがーい。
[舌を出す]
[木々の間を戻り、再び緋の敷き詰められた空間へと。
今は人影のない泉の側を通る際には、水に触れて行きたい衝動にも駆られたが、それは抑え。
そこに映る月をしばし見つめ、佇む。
周囲の緋が風に揺れた]
……なんつったっけ、この花……。
[揺れる緋を眺めつつ、小さく呟く。
幾つかの名のある花と。
それは、認識してはいるのだが]
身体が痒くなったら、一度汚れを洗い流すのも悪くはないさ、髭の御方。
俺に染み付いた言葉や行動が「これ」なのは、どうしようもない事実だ。今さら変えてしまったら、全てを忘れてしまいそうで――畏ろしいのさ。
[珈琲の香りにひとつ鼻を鳴らし、カップに手を伸ばした。]
ありがとう、クインジー。
[歩く先にあかいリボンが目に入る]
シャーロット様?
どなたかをお探しですか。
[部屋から出てまた次の部屋へと向かうのを見て、声を掛けた]
……その内、思い出すか。
[結局、記憶の探索は諦めたか。
軽く肩を竦めて言った後、城へと続く道を辿る。
吹き抜ける風、揺れる緋。
夜気は冷たく体温を奪うが、紅の熱は表層の一部をさらうだけ]
そう鳴いたら、皆から鼠と呼ばれることだろうよ
あの番人ですらそう呼ぶんじゃないか?
[珈琲が冷めるのを待つか、置いたまま低く笑う]
[苦いと言うラッセルには、やっぱりなと言う]
砂糖やらミルクやらがあれば良いな
どこにあるやら
[ギルバートには、気にするなと軽く言い切った]
ついでだ
[あれからどれだけの時間が経ったかは分かりません。
わたしは廊下にいました。
ひとが嫌いなわけではありませんが、大勢と共にいるのはあまり好きではありません。
声が誰のものなのか認識し辛いからです。
随分と賑やかな部屋を通り過ぎ、静かな廊下を、こつりと杖を鳴らしながら進みます。]
さて、と。
これもそろそろどうにかせんとならん訳だが……。
[目を向けるのは、左の腕。
包帯を替えるぐらいはしなくては、とは思うものの、手持ちは先に使ってしまっていた]
……どっかにある、かねぇ。
探すか……面倒だが。
[どことなく、他人事のように呟き。
イザベラに見せてもらった見取り図を思い返しつつ、廊下を歩いていく]
[何度目かの室内探索。足を踏み入れたのは倉庫のような沢山の物が置かれた部屋]
うっわ、何ここ埃だらけ。
[扉を開けたことにより舞う埃を払うように顔の前を手で仰ぐ。様々ありそうなその部屋に入り、今までと同じように鏡を探し始める。箱や布の包みを開いたりして、ふと動きが止まる]
………───。
[布から覗いた銀の光。それは己が姿を映していたが、探していたものではなく。思い起こされるのは番人の言葉。しばしそれを見つめて、息を飲んでから布を戻した。元の場所へと戻すと足早に倉庫を出る]
[倉庫を出たところでネリーの声が耳に入り、僅かにビクリとしてから振り返った]
あ、ああ、ネリー。
人を探してるのでは、無いわ。
[笑みを乗せた紅紫の瞳がネリーへと向けられる]
はいはい、わーったよちび。
終焉とやらが嘘でも本当でもどうせ短い付き合いだ、好きにしろ。
[ラッセルの訂正にも直らず、ちび呼ばわり。名に興味がないのは自分のも他人も同じ]
当たりかよ。
その割にゃ伸びてねえが…
[チリン]
[随分と人の少なくなった広間へと入り、スケッチブックを開く]
ああ、全て黒と白なのですね。
眼を閉じれば、花の色は垣間見えそうですけれど。
[暖炉の焔が、ちらちらと揺れ、手の中の風景に陰影を落とした]
[渋面を作りつつもちまちまと
飲み進めているところに手渡される砂糖。]
あ、ありがとう。
クーはやさしいね。
[闇に親い液体に白を雪のように混ぜ込み、
甘味を含んだあたたかさに息をつく]
バートも要る?
[台の上に砂糖の壺を戻して問いかけた]
人では無く。
では物をお探しでしたか?
[相手の緊張には気付いているのか気付かずか。
小首を傾げて再度尋ねる]
何かお手伝いできそうでしたら、手伝わせて下さい。
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