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[リディの手を断るティルに笑いそうになる顔を無理矢理顰め、怯えた声にほくそ笑む]
そォう、川がいいのかい?
それとも…ちゃァんと謝って、そこの泥を掃除するかい?
……あらら。
[捕獲された猫の様子に、きょと、と瞬き。
それから、くすり、と笑みをもらす。
肩の鳥も、楽しげにくるる、と声を上げていたり]
か、か、川は駄目にゃーっ!
[折角修正した語尾が、元の木阿弥。箒の恐怖も合わせて、ふるふるぷるぷる]
そ、掃除する、にゃ!
[涙目]
ほら、本当に大事なものはここにあるし。
[紙袋を持った左手で己の胸を指し示し言うが、笑みを浮かべた様子からして冗談のつもりらしい]
そういうこと。
俺はヨハナ婆んところ寄ってから帰るつもりだけど、そっちは?
[言うと同時に右手で猫を掴みあげる。痛みはもう殆どなく怪我の存在を知っているのもミリアムくらいだから、隠すのはすっかり忘れていた。
しかも首根っこ。可愛らしくない鳴き声は余計に悲惨になっただろう。
その形相のほうは、青年の側から見えはしなかったが、二人と一羽の反応から、どんな風になっているかの想像は容易につく]
まあ、いつものことだし放っといてもいいんだが。
祭りの後の崖崩れ、なんて不穏なことがあったばっかだし。
それは、そうですけどねぇ。
[胸を指し示しての言葉にこう返して。
猫を掴む腕の動きを追う時だけは、紅の瞳はほんの少し真剣さを帯びるものの、すぐにそれは消えて]
特に、予定もないのですよねぇ、ボクは。
一応、診療所に待機してた方がいいのかも知れませんけど、何もなければそれに越した事はないですし。
よォし、それならいいじゃろ。…くくく。
[ティルの敗北宣言に、ついに笑い出しながらリディへ向いて]
さァて、嬢はお手柄だったねェ。
だけど裏口じゃなく玄関もちゃァんとあるんだよ。
今度からはそちらから訪問しとくれ。
御褒美を用意するまで掃除の見張りも頼むさね。
[それからなにやら見ているアーベルの方を見やって説明した]
あァ、こちらはマッキンリーさんちの嬢ちゃんだよ。
近所に越してきたとこでねェ。
なるほど。
じゃあ、気にしなくてよかったんだね。
不法侵入が二人だったらヨハナおばあちゃんも大変だなって思ってたんだ。
おれはアーベルっていうんだよ。
エーリ君のところに宿借りてて、そろそろ出ようと思ってたけど、崖崩れでまだ居候中だったりするから、よろしくね。
[猫はユリアンの様子に目ざとく気付いて「フシャァー!」と気勢を上げたが、首根っこ捕まれててはどうしようもない。
虚しく前足で空を切りながら、ぶらーんぶらーんと揺れる痛みにようやく唸り声を上げる程度には大人しくなった。
鳥の啼き声には、ゆらぁり尻尾が不穏気に揺らめいたりした]
[ウェーバーさんがご褒美と口にするのを聞くと歓声を上げる。]
は!リディ・マッキンリーがしっかと見張らせていただきます。
[ぴしと、軍隊式に手を上げて頷いた。
お客だと言う青年に自分を紹介するのを好奇心に満ちた目で見て口を挟む。]
こちらのお客さんは?
お祭りを見に来たの?
……そうじゃなァ、考えてみてもいいがなァ。
そもそも掃除は汚された分を戻すだけなんじゃから、ちィと虫が良すぎる話だねェ。
[ティルの視線に、確約せずのらりくらりと逃げながら]
ま、さっさと掃除が済まなきゃ全部食べちまってるかもなァ。
ほれ、早くおし。
[ケトルを火にかけ、なんだかんだで更に二人分の準備を始めた]
ああ、そっか。
お師匠さんいないもんな。
まあ、程ほどに息抜いて、好きにしたらいいんじゃないか。
[納得の頷き。それから暴れる猫に視線を落として]
ほーら。こうやって掴まれんの厭なら、大人しくしとけ。
[大人しくなったところを見計らい、一度地面に紙袋を置いて、猫を抱え直すのもやはり慣れた右腕。
手提げでも持ってくれば良かった、とは後悔先に立たず]
それじゃ、一先ず行くかな。
また、になるかな?
[別段、付いて来るなら来るで止めはしないが。
一応は別れの言葉を告げて、歩み出す]
さすがに二人ともじゃったら困ったねェ。
まァ、アンタもいてくれたし助かったよ。もう少しでせっかくの初物がなくなるところだった。
[手を忙しく動かしながらアーベルに言って、リディの問いに頷く]
そうらしいねェ。足止め中で気の毒なこった。
わたしゃ気軽に手伝ってもらえるんで助かってるがねェ。
そこの林檎もアーベルが採ってきてくれたのさね。
はい。よろしくお願いします。
[アーベルと名乗った青年の自己紹介にぺこりと頭を下げてかえす。]
崖崩れかぁ。
現場見ました?
見に行きたいんだけど、母さんが危ないから駄目って。
[少しだけ不満げに口を尖らせて零す。]
ですねぇ、のんびりするのもいいかしら。
[いつもしてないか、というのはさておいて]
じゃあ、猫さんはよろしくですよ。
あと、腕が痛むようなら、診せに来てくださいねぇ?
……何か、「重ね」られてるみたいですし。
[歩み出す背に向けて、こんな言葉を投げて]
さぁて、と。
ユーリは、どうしますの?
[場にいるもう一人に向け、問いを投げかけてみたり]
[腕の件は知らない故に、特に反応することもなく。
だいぶ大人しくなった猫の頭に、一度ぽふと手を置いた。
それから、猫を抱えたエーリッヒが背を向けるのに片手を上げた]
[少年の帚さばきをうんうんと監視しながら、ふと問いかけた。]
そういやアンタ、どこの子?
このへんじゃ見ないけど、アンタも崖崩れで帰れなくなったの?
おお、上手だね、泥棒猫くん。
[名前がわからないのでそう呼ぶことにした、らしい。]
なくならないでよかったよ、ヨハナおばあちゃん。
エーリ君に自慢してやらなきゃだめなんだから。
崖崩れは見てきたよ。
酷かったよ。
確かに危ないかもしれないね。
ちょっとでも進んだら、すぐおっこちちゃいそう。
リディちゃんが心配だから、いっちゃだめっていうんだと思うよ。お母さんのこと、心配させないであげなきゃね。
おいらは旅をしてるんだ…よ。
崖崩れのことは知らない。
[リディに問われると、箒を止めないままで、答える。問いの返答になってるかどうかは微妙だが]
[腕だとか「重ね」だとか、聞こえた言葉に去る背を見るが、見ただけでは分からない様子]
森に。
[尋ねられてそう返す。
その後でミリィを示し、首を傾げてみせた。
そっちはどうする、との問い]
ふむ、手先は意外と不器用じゃないようだねェ…。
[薄く切ったパンを育ち盛り用に多めに切って炙りつつ、ティルの手際を盗み見る。掃除があらかたすむ頃にはパンに栗のクリームを乗せた大皿と新たに二つ増えたマグカップ]
さァて、お菓子が欲しい泥棒さんや。
食べたいならその分ちゃァんと働くのが対価ってもんさ。
明日、籠一杯の栗を拾ってくるってなら御馳走してあげるんだけどねェ。どうする?
[キッチンにはパンと栗とお茶の香ばしい匂い]
[猫はちゃんと抱えなおされて大人しく…ではなく、右腕から漂う薬の匂いに気を取られ鼻先に皺を寄せた。落されないようにと服に爪を立てているが、肌までは届かないだろう。
ユリアンの手に「ミ゛」と声が出たが、すぐに離れたので耳がぴぴっと跳ねただけですんだ]
[背後から投げかけられた台詞は、聞こえなかったか、その振りか。
鳥やらユリアンやらにまだ気を取られがちな猫の意向は無視して、祭りが終われど帰れぬ人達で普段より賑やかな通りを歩み、到達するのはウェーバー宅。
裏口からではなくて、きちんと表から]
ヨハナ婆ー、いるー?
ふみゃ…?明日?
[ヨハナにかけられた声に首を傾げる。甘い栗の匂いに鼻がひくひく]
栗を拾ってくれば、いい、の?
[目はお皿の上に釘付け。ちなみに、アーベルの呼び方はまるで気にしていないというか、耳に入ってるか疑問]
おっこっちゃいそうなんだ!
[アーベルさんの説明に興奮した声をあげて身を乗り出した。]
いいなぁ。やっぱり見に行かなくっちゃ。
滅多に見れるものじゃないもの。
[諭す言葉を右から左へ受け流し,決意するように頷いた。]
危険だからわくわくするのに、母さんてば分かってないんだから。
おやおや、自慢するほどの事かねェ。
けど褒め言葉と受け取っておくよ。
[なんだかんだで坊は毎年食べてるような…とは思ったが口には出さず、アーベルのリディやティルへの言い草に笑みを零す]
そうだねェ、二人目の怪我人になっちゃ困るから嬢やも好奇心は程ほどにな。
ティルはカッツェなのかい? じゃァ猫でいいさね。
リディちゃん、それはダメだよ。
ダメ。
リディちゃんは、身を乗り出しておっこっちゃいそうなんだよ。
[けっこう酷いことを真顔で言った]
――エーリ君のばーか。
[でも悪態づいた。外から聞こえた声に。]
[ちょうど掃除が終わり、キッチンから紅茶の良い匂いが漂って来た頃、玄関口から来訪者の声がした。]
む。誰かお茶の匂いを嗅ぎ付けて来たな……。
開けてきます?
[お茶を準備する老女にそう声をかけて、勝手知ったる人の家をずんずん進む。]
森に、ですかぁ。
今は、お散歩にいい季節ですからねぇ……。
[端的な答えに、妙にしみじみとした口調でこう言って。
問いの仕種に、こちらも軽く、首を傾げる]
んん、どうしましょうか。
お邪魔でなければ、お付き合いしてもいいかしら。
さっき言った瓶の意匠にお願いしたい、綺麗な蔦が森にあったのですよ。
[鍵は開いてるから勝手に入ってくるだろうと表は放置してティルの様子に大きく頷く]
そうさ、ご馳走されたら、材料を貰わないとねェ。
[アーベルの台詞をもじって言うと、どうだいと重ねて尋ねる]
[扉を開けようにも、両の手とも塞がっているわけで。
とりあえずは荷を降ろそうかとしたところで、人の近付いて来る気配がした。老婆にしては、些か勢いが良いが]
[エーリッヒの腕に比較的大人しく抱かれていた猫は、ねぐらに増えた気配と匂いに耳をぴんと立てて前足に力を入れた。
まだティルの匂いには気付いていないが、隙あらば逃げ出して家の中に飛び込もうと首を下げる]
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