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[新たに向けられた、声。
覚えのないそれがごく自然に自分の名を呼ぶのに、きょとり、と瞬き一つ。
もっとも、こちらは知らずとも、相手が知っている事があるのは先のミリィとのやり取りでわかっていたので、気にした様子もなく。
青の青年に向け、軽く一礼]
あら、じゃあ私も大丈夫かしらね。撫でるの。
[若き風竜へとくすりと笑い尋ねていると]
あら、アーベル。
あなたも変わりないようね。
[ひらりと水晶の扇子を振り、にこりと微笑んだ]
レンズの調子も変わりはない?
……ゆら、と。
発端というべきものは、そんな感じの大気の揺らぎ。
力の流れに過敏なもの、或いは多くを識るものであれば、その予兆はつかみ取れたかも知れない。
そして、予兆を感じた直後に──それは、動いた。
天から落ちる、光の塊。
それは西殿へと、まっすぐ、落ちた。
そこで何が起きたのか、外にいる者には知る由もないものの。
直後に発生した力の波は。
西殿全体をすっぽりと覆い尽くしてしまった──。
天聖の竜王の領域内、しばしの間、そこに満ちるノイズらしきもの。
それがはれた時、随行者たちの下には、それぞれの王の声が届くだろう。
声は、外にいる者を案じるか。
西殿が何者かの力と、突然発生した時空の歪みの相乗効果によって生み出されたらしき結界に閉ざされた事を語って聞かせるか。
それは、それぞれの王と*随行者次第*。
そうか、ノーラさんは影なのかあ…
[何やら納得した様子で、うんうんと頷く。そしてその微笑みに照れたように頭を掻いた]
俺の持ってる知識の大半は、俺自身のものじゃないですから。だから自分の目で沢山の物を見て、知りたいって思うんです。
そして何か、新しいものをこの手で創れたら嬉しいなって。
そうしたら、俺に知識をくれた兄弟達や竜王にも、新しい何かが見せてあげられるでしょう?
[夢を語る若者特有の、熱の籠った口調で語る。その肩では機械竜が優しげに青く瞳を明滅させていた]
懐かれるのは嬉しきことながら、
離れて行かれる時を思えば寂しきこととなろうかの。
[ 笑みを湛えたままとは言え、言葉の通りの感情が僅か過ぎる。
返される挨拶と推測を含んだ老爺の科白に、羽織りし黒布をノーラの指が掻き、引き寄せた。先程までの表情も、ついと消す。]
影は影でしかなく、
己のものとはならんし、なれぬのぅ。
他が在らねば在れず、
他より生まれ、他に還るものであるがゆえにの。
真に影たるものは、“己”と呼ぶべきものが生まれる前に消えるものじゃの。
[その肩に居る機械竜が、ふいにぽうと青い光に包まれた。それは遥か蒼天の色、天青石の青]
……え?
[機械竜の反応から少し遅れて、視線を西殿へと移す]
[ 老いたる者の如く語り終え、ノーラが差し出された飴玉に、幼くも手を伸ばしかけたときのことであった。
均衡を乱す、光――力が堕ちた。
波が起こり、広まりゆく。覚えるのは、包まれるのではなく、覆い尽くされる、ともすれば喰らわれぬばかりの感覚だ。
揺らぐ。]
ん、大丈夫だと思うよ。
[氷竜に頷いて]
いんや、これ、一応、姫。
風獣王の末の娘だから。
[雷竜の問いには、ある意味飛んでもない事をさらりと返す]
[手から離れた木の葉を見送ったのは、ほんの一瞬前の事。
ぼんやり見送った後は樹に背を預けて半ば船をこぎ始めていた。
どれくらいかの後。
覚醒させたのは己が王の声。]
…あー、姐さん?何突然。
今会議中なんじゃ…
[尋ねる声は平時と変わらず。
というか寝起きなのでどこかぼーっとしているのは仕方ないのか。
声色が、一変するのは王が告げた内容が脳に到達してからの事。]
……なに?
[呟き。
風が止まったような、或いは裂かれたような──とにかく、不愉快な、違和感]
なんだよ、これ……気持ち、わるっ……。
[呟きと、光が落ちるのは、果たしてどちらが先だったか]
[エルザの顎に視線を向けて頷き、その心の動きに微かに笑む。
そうしてブリジットからかけられた言葉に背筋を伸ばし頷いた]
はい、おかげさまで。
ブリジット殿もお変わりなく何よりです。
[懐かしそうに彼女の作ったレンズ越しの紺碧が細くなり、ふと天を振り仰いだ]
―――…来る…!
[目を覆うほどの光の塊が落ちる]
ちょ。
なに、今の……?
[零れ落ちるのは、困惑した呟き。
違和感は続く。
相容れない感覚。
捕らえ、閉ざし、封じようとするような。
それは、自身の本質とは決して相容れぬ要素。
自由を奪い、束縛しようとする力の流れ]
…エネルギー反応…unknown
出力…計測不能
発生源……追跡不可
[青く光る機械竜の光に照らされて、青白く染まった顔から普段とは異なる冷徹な声が零れる]
それは確かにあるかの。
今まで傍に居った者が離れるのはのぅ…。
[何かを思い出し表情はやや暗く。長く生き、竜郷を渡り歩くが故にその思いは何度も体験している。それらを思い出しているのだろう。
発した推測に返される言葉を聞くと、考えるように顎鬚を撫で]
ふむ、影は影でしかなく己の物と成さず、か。
なればお主は”己”が無く真たる影にも非ず、か?
何やら難しいな。
[今まで遭遇し得ぬ個であるノーラを前に、識ろうとするように考え言葉を紡ぐ]
[それに対し考え込んでいる最中だった。思考は途切れ、飛び込んでくる感覚に俯きがちになっていた顔が上がった]
……何、じゃと?
[引き摺られかかるその感覚に、そこに踏ん張るかのように気を持ち直す。視線が向かうのは──西殿]
[指は小さな猿の咽元に絡めたまま、精神の竜に会釈をし。
目を天竜の方へと向けようとして――ぴたり、動きを止めた。]
……――何か、ありましたね?
[カチャリ]
[視線を空へと巡らせ、胸元に手を置くと硬質な音がした。]
……風が。
乱れてる。
……兄貴の力が、弱くなってる……?
[呟きながら、空を見上げる。
先ほどまで晴れていたはずの空は、いつの間にか暗い曇天に]
ちょ、マジで何が起きてんだよっ!
―竜皇殿・中庭―
[風竜が束縛の力と感じるように。
氷竜であるブリジットは、"封印"とはまた違う力を感じ、眉を顰めた]
仲良くなりましょうの会は一時お預けですね…
幾人か、ついてきて頂けますか?
様子を見に行きます。
[水晶の扇子をしまうと、西殿の方へと見向く]
…非常事態と認識、封印第一段階、解除。
[落ちる光に目を覆うこともなく、左手の手袋を外す。メタルの輝きを放つ左手の人差し指の先がカシャリと音を立てて、ドライバーの先のような形に変わった]
[腕の中から白鳩が飛び出し、どこかへと羽ばたいてゆく]
な、にが。
[左手を右手で握り締め、強く胸に当てる。
震えを止めることもできぬまま、視線が西殿へと動く]
あ、オレ、行くぜ!
[ブリジットの言葉に即答しつつ、西殿へと視線を向ける]
なんか、絶対、おかしいしっ!
[言いながらも、既に足は視線の先へと向いているのだが]
[ブリジットの声に、こくりと頷いて]
エミーリェが行きましょう。
せっかく風獣の姫君と仲良くなれる会だというのに、お預けですね。
[全く持って冗談ではなく本気で言い、
ブリジットの横へと歩みを進める。
エルザの腕から飛び立つ白鳩へと目を向けて細めた。]
――全く。
[ 淡い闇は光に還りかけ、薄らいだ影を、繋ぎ止める。
広がった波紋のように空を覆いし雲は天の光すらも遮っていた。]
何が起こったのやら。
ただでは済むまいと思っていたが。
[ 肩口に流れる髪を背へと退け、黒布を掻き寄せて腕を組んだ。]
影は覆いに過ぎぬのだ。
“己”を持った影は覆いの役を担わん。
[ 既に耳に入るかは知らぬが、大地の竜に答えを次ぐ。]
[その器具の先端が通常とは違うXの形の溝を刻んでいることを見て取ったものはいるか…いずれにせよ、他者に見られているかどうかは頓着せぬ様子で、青年は肩に停止している機械竜の眉間にそれを押し当てる]
UNLOCK!
[言葉と同時に、キュルキュルとその先端が回転して、機械竜の額に小さな孔が開く、そしてその孔の内側から、淡い光を帯びた天青石が押し出されてカシャリと三つ目の瞳のようにそこに収まった]
[精神を司る青年は動揺を見せる事なく、虹竜王からの心話に深く頭を垂れる。
そして顔を上げるとブリジットの声に一歩踏み出した]
私でよければお供いたします。
[一番の適任者であろう『封印』を司る氷破竜に歩み寄りながら、会釈半ばに途切れた電撃竜に視線を流す。その重い鎖に僅か目を留め、青年は再び西殿へ向かう背に視線を向けた]
[風竜と雷竜にこくりと頷いて]
向かいましょう。
[そこで、天竜の異変に気が付くと]
……アーベル、折角の申し出、嬉しいのですが。
――彼女の傍にいて上げてくれませんか?
こころを司る貴方に、お願いしたいのです。
[もう一度、心配そうに天竜の様子を見やった]
それと、他竜の随行者が戻られたら、異変を伝えてください。
もっとも……先ほどのような規模の、全員気付きそうではありますが。
―街中―
…っ!!?
[手にした腸詰めの串をくわえたまま、宮殿の方へと振り向いた。
異変に気づき駆け出す背には、鮮やかな赤の三枚の翼。
風を切り、その場所へと!]
はぁっ?ちょ、ま。
…嘘、じゃ無ぇよな。
はいはいスイマセンスイマセン。
[嘘か冗談か。だったらどんなに楽だったことか。
えーと空を見上げながら。
まぁでもほら、すぐ何とかなるでしょとかちらり期待もしつつ。]
とりあえずそっち行くわ。外から何かできるかもしれねぇし。
はいはい、兄さんに宜しく。
[最後に一言付け加えて、向かう先は、西の殿。]
[額に手をあて、しばしの無言。考えるは今の不可思議な現象。今まで体験したことの無い状況に、古き知識を引き出し状態を理解しようとするが、流石に情報が足りず。
ノーラからの返答は辛うじて耳に入っただろうか。尤もそれ以上返す余裕は全く無かったのだが]
[傍で起きるエーリッヒの変化も、ただ視線を投げるだけになる]
…いえ、大丈夫です。
ですが今ご一緒すると、ともすれば足手纏いになりますので。
[氷破竜の言葉に緩く頭を振った]
はい、無理は致しません。
ですからアーベル様もあちらへ。
[精神竜には頷き、スイと目を閉じる]
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