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…俺は、いい子なんかじゃない。
[ユーリーには低い声で反論を返すのは小さくて。
はにかみ、恥ずかしそうにするカチューシャを横目で見て、
レイスの言葉には、俯いたまま上目で頷いた。
自身も無愛想である自覚はあるが、
レイスは別格だと、こっそりと思う]
…ん、もう、用事は済んだから。
帰って着替える…それから、そっちに行くよ。
[手間を増やして居るのはまさしく自分であったから。
彼の言葉が軽口に聞こえる訳も無く、
きゅ、と、両側の車輪を掴む手に力を入れた]
――ン、良い返事だ。
[カチューシャの頷きに
花色――薄い藍色の双眸が緩い弧を描いた]
怪我や病気が増えると心配だ、って
そう素直に言えばいいだろうに。
[なるべく仕事を、と言うレイスの其れが
軽口だと付き合いの長さで分かりはしたから
そんな風に言葉を返して男はわらった]
―― 畑 → 自分の家 ――
[収穫した小さな花びらで満ちた籠を背負い、一度戻ることにした。
少しだけのつもりだが、それでもまだ水分を含んだままの花びらの山はそこそこ重い]
[作業でだいぶ汗にまみれた姿と作業着で、でも自分の家の近くに人影を見つけると破顔した]
そこにはいないけど、こっちなら。
やあ、キリル。酒は上手く抜けた?
墓参りの準備が出来たとか。
[そそくさと寄って行ったので、ふわりと風に小さな花弁が舞った]
わ…、畑だったんだね。
花を摘んでいたの?お疲れさま。
[花篭を背負った恋人の姿に、少し照れた笑みが浮かんだ。
風に乗って、ふわりと汗に混じった花の香りが届く。
そちらへと駆け寄って、首傾げて花篭を覗いてみた]
うん。花を持ってきたから。
行けたら行こうかなって…イヴァン。重くない?
[降ろすなら手伝おうかと、彼の負う籠に手を添えてみる]
[薄い藍色の瞳が笑みのかたちを作るのをみて、えへへ、とユーリーに笑いかえす。
花のような色だと、昔兄がからかったのを聞いたことがあるけれど。
綺麗な色だと思った]
あ、ロラン。無理しないようにね?
[帰る、というロランの声に視線をそちらに戻し。
レイスの軽口は軽口には聞こえなかったけれど、ユーリーのツッコミを聞けば納得できるものでもあった]
―― 自分の家 ――
[彼女が振り向いた。
少し目を見張る。幾度か瞬いた。可愛らしいピンと化粧]
………わぁ
[少し呆けたように口が開き、すぐに浮かべる満面の笑み]
キリル。可愛いな。すごく素敵だ。
似合ってる。どうしたの?
[彼女が花かごを覗く。花の香りに混じって化粧品の香料が幽かに届いた。ほう、とため息ついてまじまじと眺める]
本当に綺麗だ。
ああ、いや、大丈夫。ありがとう。
[花籠を下ろす気もそぞろ。手伝ってくれるのは嬉しいけれど、汚してしまってはと思わず断っていた。何か体は動いていても、視線は彼女から離れない]
ごめん、俺、こんな格好だ。これを置いたら少し時間が空くからいいよ、行こう。嬉しいな
[不器用な一面をみせるレイスとロランを交互に見遣り逡巡。
僅かな間の後、帰るらしいロランの方へと駆け寄る]
ロラン
帰るなら途中まで一緒に行こうか。
[車椅子へと手を遣り
ロランを手伝おうとするのは怪我の件があるからか。
それは言葉にこそせず、ついでを装い]
カチューシャも気をつけて。
マクシームによろしく。
[昨夜あったばかりの幼馴染の名を紡ぎ言葉を掛ける]
[一人で帰るロランは心配だったけれど、きっと一緒に帰るのは嫌がられる。
だから言い出さなかった。
そしたらユーリーがロランと戻ると聞いて]
うん、気をつけるね。
ロランもユーリーさんも、またね。
[兄に、といわれて頷いた。
手を振って二人を見送り]
レイスさんはなにか森に用事だった?
あたし、ちょっと入り口にある花を摘みに行くから、ついでに行って来ようか?
[ロランの治療をするなら森での用事を肩代わりしようかと申し出てみる]
え…っ。あ、変じゃない?
あのね、イライダにお願いして教えて貰ったんだけど…
おかしくなってないかな。
[イヴァンの笑顔に、ボクの心臓が跳ねた。
まじまじと見つめられて、ますます視線が下に向く。
けれどやっぱり気になって、もう一度顔を上げた。
本当に大好きな笑顔が、そこにある]
ほんと?……良かった。
本当は、イヴァンに一番見て欲しかったから。
[頬が熱い。きっと、耳まで赤くなってしまっている。
手伝いは気遣うように断られてしまったから、
何だか落ち着かない気分で、おろりと役立たずになってしまう。
そわそわと、落ち着かない手で髪に触れた]
…あ、
[ユーリーが駆け寄るのに、小さく声を上げる。
少し表情が崩れていたから慌ててむすりと眉を引き絞り
口元を覆うと膝にまた、ぽたりと血が落ちた]
――俺、今、血の匂いしてる。
[菜食主義の男は、厭じゃないのだろうか、と
少し眉を寄せて手の内から、言葉を零した。
幼馴染が手伝うと言えば一人で大丈夫と我を通しても、
年上の者達に言われて通す気は、無い。
それは幼馴染だけに見せる甘えなのかもしれないけれど。
小石落ちる小道を行く車輪は、ガリガリと硬質な音。
重なるキィと高い音は、少し先の広場近くまで響いた]
誰でも怪我をすれば血の匂いだってするさ。
[血も肉も、口に入れる事が出来ないだけ。
実際は食べてみれば平気かもしれない。
けれど、亡き母がそう育てたのだから
今更、食に対する主義を変えようとは思わないだけ。
背後から車椅子を押す男にはロランの表情は窺い知れず]
流石に、まだ痛むだろう。
[案じるように言葉紡ぐのは厭でないという証か。
広場へと差し掛かる頃、
ミハイルが何処かへ向かおうとするのが見えて
挨拶がわりに軽く片手を掲げた]
―― 自分の家 ――
変じゃない、変じゃない
すっごく綺麗で可愛いよ。もともとキリルはすっきりした顔しているから、すごく映えるんだ
[彼女の視線が下を向いてしまうと彼女の顔が見えなくなるから少し残念。それでも再び目が合って、すぅっと目を細めた]
一番のりか。ありがとう。うん
[囁かれた言葉に、たまらなくなった。
昨夜、アルコールに外されてしまったリミッター。
きっと2回目からは外れやすくなってるんだ]
[賛辞の言葉は止まらない。
言葉だけでは足りなくなって、彼女が自分の髪に滑らせた小さな手に自分の手を伸ばした]
[避けられなければ、その手の甲に唇を寄せようとする]
― 少し前:自宅 ―
[否定のない「かわいい」に、ほほえましいと彼女を笑って見つめる。
似合うだろうと持って当てたピンは予想通りで、鏡越しに目を合わせた。
だから、涙に気付いたのは鏡を介してで]
キリル?
[少し、驚いたような声。
抱きつかれて、驚いたままではあったけれど、そっと抱きしめる。
あやすように片手で背を撫でて]
うん、大丈夫。大丈夫よ。
[謝る彼女が落ち着くまで、ゆっくりと。手を離したりもせずに、そのままで。]
不安になっちゃったのね。
[言い訳のような言葉に、そっと、そんな風に言葉を返す]
今が、幸せだとね。簡単に不安になるものよ。
でも、大切な人と一緒に居て、不安も全部話して。
そうしたら、きっとすぐ、今までよりずっと幸せになるわ。
不安がどこかにいっちゃうくらい。
[小さく笑いながらそう言って。
彼女の再度の謝罪に、そっと頭を撫でた。
離れた顔を見て、少し笑いかけて。
それからお茶をして、化粧を直して。
使った化粧品と、化粧落としを渡したりして、彼女を見送った。]
いつでもいらっしゃい。
キリルなら、何時だって歓迎よ。
夜が明ける前には戻って寝たよ。
流石に徹夜は堪えるからね。
[この歳になると、と軽く付け足して
続く言葉には驚いた風に瞬き
ロランの烏色を後ろから見詰める]
さあ、如何かな。
この歳にもなって伴侶もいないンだから
「良い男」にはまだまだだろうけど……
キミにそういわれるのは悪い気はしないね。
[小さく笑う気配だけを滲ませた]
うん。あの…、良かった。
けれどイヴァン。もう照れてしまうよ。
[だから。と、困ったように口にする。
嬉しくて顔は綻ぶけれども、心臓はやっぱりドキドキしていて、
つまりは、呼吸は速くなるし大変なのだ]
……ね?
[首を傾げる。
照れ隠しに髪に添えた手は、無防備だった。
もう片腕には花の枝を抱えているから、避けようもない]
っ、〜〜〜イヴァン!
[不意に引き寄せられた手に甲に、柔らかな温もりが落ちる。
振り払うなんて考えの外で、だからボクは真っ赤になってしまった。
何かを言おうとして開いた唇も、上手く言葉を紡げない]
[照れる彼女も可愛かった。彼女の手に唇を落とす]
[彼女の手からわきたつ甘い香り]
[ 『愛は最高のスパイスだ。
愛しているからこそ狂おしく美味いんだ』 ]
[何故なんだろう。
ふと昔聞いた誰かの言葉が脳裏を掠めた]
……………
[気がつけば、彼女の手の甲に軽く歯を立てていた]
[ただ口付けを落とすだけのつもりだったのに。
かりっとした感触ではっと正気になった]
あ、
ごめ。
ごめん。
痛かったよね。あぁ俺何やってるんだろ。ごめん。
[ばっと身を起こし、自分の手を引いた。血を出させるほどの力ではなかったように思うが、少し跡にはなるのかもしれない]
[キリルを見送った後、少し表情が曇った]
……不安ね。
[彼女は大丈夫だろうかと、心配が立つ。
あとでレイスにもこっそり言っておいたほうがいいのかもしれないと、少し悩んだ。]
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