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-ロビー・早朝-
[館の静けさに、思わず足音をしのばせて歩く。
広間ではまだ食事の準備が整ってはいなかった。
館の客人達はまだ皆眠っているのだろうが、使用人達は起きているだろう。
何か食べるものを貰えないかと、ヘンリエッタは使用人室を探し、歩いていた。
使用人の少女に聞いた通り、一階の玄関近くをうろうろする。
それらしき扉を求め見回した視線が、一枚の肖像画を見留めた。]
熱があるの……
怪我からきているのかしら?
目をさましたのなら、栄養のある、食べやすい食べ物を食べてもらわないと。
何もしないとなおる力にならないわ。
[ナサニエルとネリーの言葉に、近付いて彼を見る。
苦しそうな様子が痛くて、そっと頭を撫でていた。]
そう、だね……うん。
考えすぎだね、きっと。
[肯定の言葉に、いくらか安堵を感じて、一つ息を吐く。
それでも、不安が完全に消えた訳ではなく。
僅かに足を速めたハーヴェイに合わせるように自分も歩みを早め、広間へとたどり着いた]
―自室―
………っ?!
[目が覚めた。寝汗が酷い。
またあの夢だ。喉の奥には、あの時飲んだホットミルクの味。]
……馬鹿馬鹿しい。今更何を恐れる必要がある。
[汗を拭い、身支度を整えてから私は広間へと向かった。]
――客室――
[薬を塗り終わると、持参した鞄から服を取り出し着替えをする。くたびれた感が漂うも、元はそれなりに良い布地だったのだろう。小さく畳まれていても型崩れはなく、服は少女の体にしっくりと馴染む。]
ご飯…食べに行かなきゃ…。今日は晩餐会だって…係の人が言ってたし…。
[体を温めても頭痛は引きはせず。僅かにこめかみを指で押しながら髪を乾かすと、少女は静かに部屋を後にした。]
――客室→広間へ――
…そうだね…食べてくれると良いんだけど。
[そっと男の頭を撫でる姿にふと聖母が浮かぶ。
男はやはり意識が無いのか触れられても身じろぎもせずに]
やっぱり、優しいんだね。君は。
[銀の髪の美しい女の人。どことなく、見覚えのあるような気がしたが、それが誰に似ているのか思い出せない。
ただ、優しそうな笑みを浮かべた絵姿に、魅了されたようにしばし立ち尽くした。]
本物の絵があるなんて、やっぱりお金持ちなんだ……。
[美しい衣装に身を包んだ美しい女性。彼女が実在するとしたら、きっと幸せな女性なのだろう。
いつもぼろを纏って、不幸を嘆いてばかりいた自分の母親とは大違いだ。
人物に見とれていた視線はゆっくりと逸らされ、肖像画の額に飾り文字で記された名に気づく。
額の無い少女には、それが何を意味しているのはわからなかったけれど。]
[ 未だ人は其程集まってはおらず、広間の中は昨晩に比べれば静かなものだった。皆に会釈を軽くすれば中へと入り、眠る男の方へと視線を遣ればローズマリーが頭を撫でているのが見えた。]
今晩和。……今から皆さん、集まり始める頃でしょうかね。
−自室−
[晩餐会をやるという話を聞いて、流石にルーズな部屋着のままで行くわけにもと思い、クロゼットから紺のチュニックシャツを出して身につける。
鏡を見ながら、身だしなみを整え。]
─広間─
[たどり着いた広間は、まだどこか静かで。
眠る男性と、それを撫でる女性という、不思議な構図に一つ、瞬いてから。
こんばんは、と場にいる面々に挨拶を]
―広間―
おや皆様お揃いで。
少々遅れてしまいましたか?
[普段と同じ服装で、いつも通りの笑みを浮かべながら会釈する。
聖書もいつも通りその手の中に。]
普段と同じ服装ですが、これが正装ですのでご容赦を。
[そう言って、悪戯っぽく笑った。]
優しくなんて、ないわ。
[そっと触れる手はそのままにして。
ナサニエルの言葉に首を横に振った。
部屋の扉が開く音。]
こんばんは。きっと今から人で賑わうわ
[次々に集まる人々に挨拶をして。
もうすぐ始まるかと姿勢を正し、出来る限り非礼のないようにと。
こういう改まった席には慣れていないから]
−広間−
[ちょうど人々が集まってくるところで。
軽く挨拶をすると、室内へと入る。]
…おや。
[眠るあの怪我人の姿を訝しげに。]
ここよりも部屋の方が静かに休めるでしょうに…。
[ローズマリーとナサニエルの会話を聞くともなしに聴きながら、ふと見上げた先には大きな絵画。
――“最後の晩餐”]
…不吉。
[声が僅かに洩れた。
眉を寄せ、けれどきっと考え過ぎだと、…思う]
[いくつかの道草の後に、首尾良く使用人室を見つけだし早めの朝ご飯に預かると、少女は館の探険をはじめた。
今日は、夜の晩餐会とやらに出席さえすれば、他は何をしていても良いらしい。
館の客人達もそれぞれ、好き勝手に動いているようだ。]
たくさんお客を呼んで、自由にさせておくって言うのも変わってるんじゃないかと思うけど……。
[そう言うと、朝ご飯を出してくれた年輩の使用人は、うちの御主人ですからと当たり前のように笑って答えていた。
変わっているのは麓の村の噂でも聞いたし、自分をここに置いてくれたことでも何となく察してはいるが、館の主がどう言った性格なのか、少女にはどうもつかめない。
もう少し、彼のことを知りたいと思った。
けれど彼と話すことは恐ろしいような気がして、少女は何も言わず館を探索することにしたのだ。]
――広間――
[ドアを開けば、先程までの不調は一切見せず。
薄紅色の唇をきゅっとあげ、中に居る人達に挨拶をする。]
[ゆっくりと視線を泳がせると、怪我をしたという青年の横たわる姿が目に入り、少女の瞳に僅かながらも心配の色が滲む]
こんばんは…。そちらの方は…まだ宜しくないのでしょうか…
[青年を優しくなでる女性を見つめながら、誰に問い掛ける訳でもなく、呟きは唇を滑り落ち――]
[ ハーヴェイの呟きを聞いたが如くに、徐々に広間には人が集い始める。彼の後から現れた人々には会釈をし椅子に腰掛ければ、ルーサーの言葉にやや苦笑する。]
態々正装して来るのなんて、アーヴァインさんくらいじゃないですか?
[ 食事の準備も疾うに出来ているのだろう、此処に来る迄の間にも厨房からは好い香りが漂っていた。生憎と、館の主は未だ現れる素振りも見せなかったが。]
……主役は遅れて遣って来る、でしたか。
[ 椅子に座れば手を組んで顎を乗せ、入り口の方を見遣りつ誰にともなく云う。]
[眠る怪我人にちらりと視線を向ける。]
容態は、安定しているのですかね?
結局、まだお医者さんには診せていないと使用人さんから聞いたのですが。
[優しくないというローズにはそれ以上何も言えず。
恐らく昨日の自分の答えのように同じ所を廻るだけだろうから
次いで広間に現れたコーネリアスの言葉に]
ちょっと熱が高すぎて、うっかり動かせないんだ。
一人にしておくのも不安だし、ね。
もし何かあったときに、すぐに対応できた方が良いだろう?
[ましてこれから会食の時。
そこまで人目は届かないだろう、と]
[ネリーの呟きを聞いてから“最後の晩餐”の絵を見て]
あはは、何を怖がっているのですか。
私達招待客は11人、館の主人を入れても12人。
“最後の晩餐”には、数が足りませんよ。
あの絵は全員で13人描かれているでしょう?
[からからと笑い飛ばした。]
[続々と集まってくる客たちに、挨拶をしつつ、自分も席へと向かう。
何もない……そう、思っていても、不安があって]
……大丈夫……考えすぎなんだから。
[また、自分に言い聞かせるように呟いた時、ふと、耳に届いた短い声]
……不吉……って?
[声の主──ネリーの方を見つつ、小さく問う。
不安を宿した瞳の色彩は、淡い紫だが、本人はそれと気づくこともなく]
使用人の御一人が、麓に医者を呼びには行かれたのですが……。
[ 入って来る人々を見ていたがルーサーの言葉に窓の方へと視線を遣る。薄いカーテンに遮られてはいたが、未だに雨が降っているのは簡単に見て取れる。]
……此の雨ですからね。
[ルーサーの声には少し悩むように]
安定している…とは言えないかな…。
昨日ほどじゃないけど。
まだ医者が来ていないからね。
この雨じゃ明日になるんじゃないかって。
-広間-
[橋の向こうから、館の全貌が見えた時にも知ってはいた、館の広大さをヘンリエッタは実際歩いてみて、身を持って理解した。
広さもさることながら、その充実した室内に、つい時間を忘れ道を忘れ、広間に戻った時には室内はずいぶんと賑やかになっていた。]
こんばんは。
[館の主がまだ姿をみせていないことにほっとしながら、ヘンリエッタは軽く頭を下げた。]
……使用人の女性も入れれば、十三人ですけどね。
[ ルーサーの勘定に、思わずポソリと呟くも、]
まあ、其れでは些か強引過ぎるとは思いますが。
本来は御二人居るわけですしね。
[絵へと視線を戻してからそう付け加えた。]
[とりあえず、席に着こうとして、どこに座れば良いのかわからず辺りを見回す。
場の者たちの視線を追って、壁にかけられた絵画に気づいた。]
ぇ?
[呟いた声は意外に大きかったらしい。周りの反応にはっとして]
あ…いえ。
そう、ですよね。
[牧師の言葉に安堵した、というように笑みを作った]
申し訳ございません。
お気になさらないでくださいまし。
[周りを見渡し、視線は手許に戻る]
……あんま怖い事言うなよー。
折角の食事の前なんだからさ。
俺、こういう席って慣れてないんだよね。
普通に食ってて良いんだよな?
[半ば冗談めかして呟いて]
[牧師に図星を指され、少女の頬が朱に染まる。]
子供じゃあるまいし、迷子になんてならないわ。
ちょっと、この館が広過ぎたのよ。
[反射的に否定したのは、牧師の笑いをからかいと捉えたからだろうか。
しかし、その笑顔は不快ではなかった。]
ハーヴェイ君。
年下の女の子を苛めるような言動はよろしくありませんね。
それに、使用人の数まで含めるのは反則ですよ?
[ふふ、と笑う。]
好いんじゃないですか?
[ ナサニエルの言葉に軽く笑って、壁に掛けられた時計を見遣る。其の針はもう直ぐに、真上を指そうとしていた。]
多分。
怪我自体は大した事はないと思う。
自分で階段を下りたみたいだから。
[発熱は心因性のものも含んでいるのだろうとは心の中の呟き]
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