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[完全なる転変。
それにより理性は吹き飛ぶはずだった。
しかし何故か、目の前の男が言う言葉が耳へと入ってくる]
常ニ 迫害 ヲ 受ケテ キタ 我ラ ノ 気持チ ナゾ 貴様ニハ 判ル マイ!
安寧 ヲ 願ッテモ ソレヲ 許サレヌ 我ラ ノ 気持チ ナゾ!
[僅かに残る理性が、獣の口から言葉を紡ぐ。
突き出された銀を避けようと、体勢を低くし、向かい来る相手の顔目掛け、下から爪を繰り出した。
避けようとした銀はその肩口を切り裂くように掠め、白銀が紅に染まる。
隻眼であるために遠近感が狂った]
[咆哮に続いては、エーリッヒの叫ぶ声。
2人の会話は遠くてはっきりとは聞こえないけど。とても悲しい音に聞こえた。
そちらの様子から目はそむけずに、イレーネの声を聞く。
『人狼様』『僕』
その言葉を聴けば、寝物語に聞いた話を思い出す。狼の話にはしばしば現れる、狼に仕える狂い人がいることを]
…そっか…
[大きく息を吐いて、少しだけイレーネの方を向いた。続いてきた問いには]
怖くないかっていわれたら、嘘になるかもしれないけどさ…
[申し訳なさそうに頭をかいて、言葉を続ける]
でも、イレーネ姉ちゃんは、イレーネ姉ちゃんだろ。
あそこにいる狼だって、ユリアン兄ちゃんだし。オト先生だって…
[再び、丘の方を向く]
狂い人だから怖い、とは思わないよ。
[主の声に微か驚く。完全に変転してしまえば理性は消えてしまうとそう教えてくれたのに。
何故喋れるのか――その原因に気づいてギクリと身を強張らせた。
そうだ原因は―――自分だ。
僅か別な所にいる意識に気を向ける。]
[ふ、と目の前から姿が消え、手には浅い手応えが伝わる。
避けられた、と認識した直後に、下から繰り出された爪が迫る。
態勢は崩れていたが、軌道の僅かなブレもあってか爪は頬を裂くに留まり。
舌打ちと共に、後ろへと飛びずさる]
……ああ、わからんね。
護る力があるが故に。
誰かが死ぬ度、責められ続け、終いには異端と貶められる。
そんな、俺たち一族の苦労を、お前らが理解できんのと、同じようにな!
[異端なるもの。最初はその意は自身も知らず。
思わぬ形で目の当たりにして以来、決めていた。
何も愛すまい、何も懐に入れまい、と。
情に囚われる事なきように]
っ、エウリノ。私。
[ここから離れるべきか逡巡する。
が、自分からは、暖かな温もりから離れない。失う事を恐れて。]
エウリノ、邪魔なら、命じて。
向こうに行ってるから…。
[切り裂かれた肩口から銀の毒が回る。
くらりと視界が揺れたが、ふるりと頭を振り吹き飛ばす]
何ヲ 言ッテモ 平行線。
ヤハリ 貴様ラトハ 相容レン ナ!
[飛び退る相手を追撃するかのように、低い体勢のまま地を蹴り。
風の如き速さで肉薄す。
懐に飛び込んだと思い、爪を心臓目掛け振り抜く。
その距離は、ほんの少しだけ、足りない]
[ゲイトに寄り添った理性は傍から離れようとしない]
──…嫌だ…傍に、居てくれ…──
[それはまるで駄々をこねる子供のようで。
死期を悟ったからこそ、その傍から離れたくないと思った結果だった]
そう。それは、間違ってないと思うよ。人間なら。
[怖いけど、怖くないと、そう言いながら頭を書き、普段とあまり変わらない表情を見せる少年ティルに微笑む。
向ける笑みは相変わらず透明に澄んだそれだったが。]
…私、ね。
ずっと待ってたの。人狼様を。
父さんは私を慈しんでくれたけど、代わりに母さんからは憎まれた。父さんの愛を独り占めしたからって。
…当然だよね。父さんは血を継ぐ者を求めて、母さんを愛してはいなかった。
でも父さんは私を愛してたわけじゃない。
父さんが心から、愛していたのは人狼様だけ。
[今なら分かる、父もその人生の全てを、まだ見ぬ敬愛する人に捧げたのだ。]
私達の一族は、血を持ってその力を為す。
人狼様の為に、血を、力を、受け継ぐ者を作らなきゃいけない。
だから父さんは母さんを利用した。
そして私が生まれて、10になるまでにその口伝の全てを伝えて死んでいった。
[何故、ティルに自分の全てを語るのかは、分からない。
ただ伝えておきたかった。目の前の主が、相対する人に思いのたけを叫ぶのと同じように。]
後に残った私は、母さんに売られた。
村の人からは疎まれた。
だからずっと、待ってたの。
全てを捧げると、そう伝えられていた人狼様を。
[目の前の人と、そして失った人。
どちらも敬愛した。出会えたことは幸運だった。
でも。]
ねぇ、ティル。
私達は、人と違う人は、幸せにはなれないのかな?
こんなに普通に話せるのに。
みんな、私を憎むの。ユリアンを嫌うの。
狼だから、親が居ないから、娼館に売られたから、ただ普通の人と違うってだけで。
私達は、ただ静かに暮らしてたかっただけなのに…。
[まだ幼い少年に、問いかける言葉ではないかもしれない。
答えは、期待してはいなかった。
それでも、口にした。]
[白銀が疾風の如き速度で迫るは、着地の直後。
未だ態勢は不安定であり、距離を更に開ける事も、防御の姿勢を取る事も難しく。
が、予想に反して相手の踏み込みは甘く、爪は左の胸元を浅く切り裂くに留まった]
(……なんだ?)
[その動きに違和感を感じつつ、しかし、距離を詰めているタイミングは逃せない、と。
裂かれた衝撃に引いた足を基点に、身体を屈める]
相容れる要素がどこにあると……。
特に、俺とお前は、完全に反側面だろうがっ!
[言葉と共に、繰り出すのは下段から切り上げる一撃]
エウリノ…っ
[主の望むままに、抱きしめた。
赤い世界で精一杯、腕を伸ばして力の限り。]
ここに、いるよ。
ここに、いるから…!
[聞こえる声は、いつもの主人の何倍も弱い。
訪れる予感は、悪いものでしかない。]
チィ…!
[腕を振り抜くタイミングは合っていたはず。
それなのに爪は生命の源を抉ることはなく、掠るのみに留まる]
(距離感が、掴めん…!)
[細められる紅き瞳、そこには苛立ちが色濃く現れていた]
…相容レタイトモ 思ウ モノカ!
貴様ラ ハ 我ラガ 餌ニ 過ギン!
[切り上げられる腕を狙い、爪を振り下ろそうとして]
……!!
[ぐらりと視界が揺らいだ。
身体全体に銀の毒が回る。
振り上げた腕はそのまま己の頭を支え、足元はたたらを踏む。
一瞬、白銀の動きが止まった]
―――エウリノ!
[動きを止めた主の名を、叫んだ。
ティルに向けた意識は離れ、主の元へと走り出す。
邪魔になるからと離れていた。
ここから向こうまでの距離が、やけに遠い。]
──…ああ…ゲイト…──
[伸ばされる腕に、僅かに残る理性は嬉しげに、安堵するような気配で擦り寄る。
離れたくない、ずっと傍に居たい。
そう、強く強く願う]
[ただ、静かにイレーネの話を聞く。
それは、自分にとってはわからない話だから。聞くしかできなかったから。
何か言葉を発しようとしたときに、イレーネが目の前から走り出していく]
姉ちゃん!
[とっさに追いかけた]
[今まで見てきた、惨劇の痕が頭をよぎる。
血まみれのギュンター。女将と一緒に殺されたノーラ。先生と一緒に死んでいたアーベル。ユリアンに挑み殺されたユーディット。
みんな、大事な人たちだった。
そして次に浮かぶのは。
父親が死んだ時に、ずっと慰めてくれた先生の姿。
工房で必死に石を加工するユリアンの姿]
俺は、姉ちゃんも、ユリアン兄ちゃんも、先生も。
どうしても、嫌いになれないんだから!
[最後に浮かぶは、宿の二階で終わらせようと言って笑ったイレーネの微笑み]
終わらせなきゃ。悲しいことは終わらせて、幸せにならなきゃ!
[何を言っているか、自分でもわからないけど。
叫びながら、イレーネを捕まえようとする]
[唐突に、止まる、動き。
その理由は、大体察しがついた。
聖別されし銀の力は狼には毒となる、と。
伝えられてきた伝承によるもの。
ほんの一瞬、誘いかとも思ったが、しかし、つけた刃の勢いは止まらず。
振り切った刃は白銀の胴体を捉え、左の肩へと抜ける紅の一筋を描き出す]
……餌になる気は、ない!
そして、これ以上は誰も喰わせねぇよ!
[言葉と共に、振り切った刃を戻し。
軽く、後ろに引いて、突きの一撃を繰り出す。
勢いをつけた突きとするには、引き戻しの距離はやや、不足しているが、構う事はなく]
[思い出すのは初めて出会ったときのこと。
素っ気無い人だった。でも決して傷つける事はなかった。
村の外に居た人だからか、自分を蔑むこともなかった。
だから少しずつ惹かれていった。
いまも、こんなにも。]
エウリノ、エウリノ!
だめだよまだ、私、私っ!
[優しく擦り寄る主の様子が、今は、怖かった。
守護者と相対しているのに、優しいエウリノの様子はまるで何かを悟ったようで。
とてもとても、怖かった。]
[視界の揺れを振り切り、意識を目の前の男に戻した時には、銀が己が身体の上を走っていた]
グ、ガアッ…!
[身体を走る鋭い痛み。
切り上げの勢いもあって後ろへと一歩よろめいた。
ここで倒れなかったのは、もはや、執念]
キ サマ ァ!
楽 ニハ 死ナセン ゾ!!
[叫び、突き出される銀に真っ向から立ち向かう。
既に己の死期は悟っていた。
ならばせめてこの男だけでも道連れにしようと、鋭い牙を剥き出しにし。
その顎門を大きく開く。
相手の突き出しと己の踏み込みの勢いで、銀は違うことなく左胸へと突き刺さり。
それと同時に開かれた顎門は男の肩口へと襲い掛かった]
[突き刺さった銀が身体全体へと広がるのを感じる。
致命の一撃、それは銀の毒も多大に含んでいて]
──…ごめん……イレーネ…──
[呼んだのは人狼として出逢う前の愛しい者の名。
嘘をついたこと、遺していくことに対する謝罪の言葉。
理性の意識は優しくゲイトを包み込み。
そして少しずつ弱まっていく]
[ティルの声は聞こえない。もう主の姿しか見えていない。
ティルの腕はすり抜けた。敬愛する以上に愛する主の所に真っ直ぐ走る。
意識はすぐ傍にいてくれるのに。
伸ばした手が届かない、前に躍り出る事すら出来ない。
もうすぐ…もうすぐなのに。
だから間近で愛した人が、刺され再び守護者に襲い掛かるその様子がゆっくりと、見れた。
同時に毒が、心臓に深く刺さってゆく様も。]
……なにっ!?
[弾かれる可能性も掠めた突きが伝えて来たのは、深く、他者の身体に食い込む手応え。
相手が避けなかったのだ、と。
それに気づくのが、少し、遅れた。
そして、それに思考を奪われた隙をつくよに迫る、顎。
それを避ける暇はなく──]
……ぐっ!
[伝わる衝撃。
次いで、熱さが伝わる]
てめぇ……上等、だっ……!
[激しい痛みを感じつつ、しかし、手の力は抜きはせず。
歯を食いしばりつつ、ぎり、と短剣の刃を回した]
ユリアン――――!
[目の前の景色と、赤い世界の言葉とが、ゆっくり体を回ってゆく。]
いやだ、逝かないで、
私を、一人にしないで―――――――!!!!
[両手で抱いた意識は、砂時計のように零れ落ちて消えていく。
失っていくのが怖かった。
かたかたと、震えながら、それでも話すまいと腕の力は強めたまま。]
ガアアアアアアアアアアッ!!
[捻られる刃に咆哮とも悲鳴ともつかぬ叫びが上がる。
叫びのために肩口から浮く牙。
全身に回る銀の毒も相まって、顎門は緩み、身体は後ろへと倒れ行く。
最期の足掻きと、横薙ぎに揮われた爪は、果たして相手へと届いたか]
姉ちゃん!
[エーリッヒに向かっていくイレーネを捕まえようと走る。
しかし、子供の足では届かなくて]
駄目っ!駄目っ!
[腕を伸ばし、止めようとして]
[消えかかる理性の意識。
それは死への前兆]
[何度も、何度も。
ゲイトへの謝罪の言葉は紡がれて。
その声は徐々に小さなものへとなっていく]
[震える少女を抱き締めたかったが、その力ももう残ってはおらず]
[不意に、腕にかかる、重み。
視線を向けた先の少女に、舌打ち一つ]
……放せっ……。
[痛みを堪えつつの言葉は、咆哮にかき消されるか。
肩が自由になる感触。
動ける。
そう思った瞬間、とっさに縋りつくイレーネを強引に横へと振り払っていた。
それで、動きが止まったが故か。
直後、振るわれる銀の爪は完全に避けきれず、熱さと痛みが腹部を駆ける]
……く……はっ……。
[声は出ず、代わりに零れたのは、真紅。
二、三歩、後ろへとよろめき、その場に膝を突いた]
謝らないで、いい、からっ、
だから、いや、いやぁっ…駄目、駄目だよ…
ずっと、一緒だって。
約束…私が貴方の居場所なんだって…!
帰ってこない居場所なんて、そんなの…、そんなの必要ないじゃない…!
[もう意識はそこに小さく在るだけで、抱いてくれる事も撫でてくれることも出来ないようで。
代わりに自分が、震えながら小さな意識を包み込む。
ここにいるからと、口にしないまま伝えて。]
[どう、と仰向けに地へ倒れ。
左胸からは紅き雫が湧き出るように流れ行く]
ゲッ、アッ……ゴ、ホッ…。
[声を出そうにも喉に込み上げてくるもののせいで言葉にはならず。
ただ呻き声が響いた]
ぅ、あっく!!
[遠慮なく思い切り、振り払われ丘に叩きつけられた。
聞こえる咆哮、血の匂い。苦悶の声、そしてティルの声。
それが遠くに聞こえるほどに、表の意識が一瞬霧散した。]
…、ぅ。
ぅ…ん…、―――!!!
[ほんの数秒、消えた意識を取り戻すと、草だらけの体を起こし、倒れた主の傍らへと膝をついた。]
ユリアン、ユリアン!
ぁ、あ、ユリアンっ!!!
[銀の短剣からは血が溢れ出て。この毒を抜かなければいけないのだが、今抜けば確実に今以上の血は溢れるだろう事は理解できて。ただ今は、傷口をストールで押さえるだけ。]
ユリアン、しっかり、しっかりして―!
[呻く主の名を何度も呼びかける。]
[響く、声。
それは、いつかも聞いたもの。
その時は、自身のした事への覚悟もなく、押し潰された。
だが、今は。
心揺らされる事もなく、静かにそれを見て、聞いていた]
……ち。
さすがに……効いた……。
[勿論、動けぬ理由には、肩と、腹の傷もあるのだけれど]
[白銀の姿はいつしか元の人型へと戻っていき。
瞳を彩っていた紅い光も鳶色へと戻る]
ごほっ…!
っは……、イ、レー……ネ……。
[どうにか発した言葉は、己を上から覗き込み、傷口を押さえる愛しき者の名。
大量の失血と、銀の毒が身体に回ることにより、徐々に視界が霞んでいく。
滲むイレーネの姿。
やはり死ぬのか、と心の中で呟いた。
僅かに残る力を振り絞り、震える右手を持ち上げて、目の前の少女の頬に手を伸ばす]
[やっと追いついたけれど、その場は入り込める雰囲気ではなくて。
傷ついたエーリッヒの姿を見て、青ざめる]
エーリッヒ兄ちゃん!大丈夫!
[エーリッヒに向かって駆け寄った]
ユリアン…
いや、いやだ…
せっかく、やっと、会えたのに、
待ってたのに、ずっと、待ってたのに、ロスト様と、エウリノと、
私の、私の愛するご主人様、どうか、どうか、死なないで―――
[涙は溢れ止まらない。
頬に赤いぬめりとした感触を感じ、細い指でそれを包んだ。]
[呼びかける、声。
は、と一つ息を吐いてから、そちらを見る]
ティル……?
なんだよ、ついて、来たのか……?
危ないから、ついて来させないように……黙って出てきたのに……。
[まったく、と。
浮かべる笑みは、いつもと変わらず]
大丈夫……って、言っても、説得力は、ない、が。
どうにか、生きちゃ、いる……。
[唇の動きが止まると、辛うじて持ち上げていた右手から力が抜け、するりと地面へ落ちた。
イレーネを映していた鳶色の瞳は、もう何も*映していない*]
[聞こえない声は確かに聞こえて。
支えていた手が、ずるりと地面に落ちていく。
もう呼びかけても何の反応もなく。
いくら探しても、あの赤い世界に愛した人の欠片もない。]
あ、あ…
ユリアン、ユリアン、私…
[光の消えた瞳を覗き込んでも、優しい言葉は返ってこない。]
ああああああああああああああああああああ!!!!!!!
[酷い絶叫が唇から漏れた後、少女はかくりと肩を落とし、それっきり、*動かない。*]
……ざわめき。
ざわめき、が……
塔が崩れしは怒りによって。
なれば怒りとは何か。
黒き影は怒りであり、怒りとは黒き影でありしか。
ただ、……
[静寂が広がる宿の中、ふと、水滴のように落ちる呟き。視線を落としていたノートの空の頁に指先で触れ、なぞる。ペンを取り出してはおもむろに線を引き始め――少しずつ、細い、だが強い筆跡で文字を書き込んでいく]
うん…ごめん。出かけるの、見えちゃったから…
[そして、いつもと変わらない笑みを見ては、思わずつられて笑顔を向ける]
そ、そうだ。早く誰か呼んでこないと。兄ちゃんの治療しないと。
[そう言って駆け出そうとすれば、聞こえる悲鳴。
何が起きたかを理解して。その場を*離れるだろう*]
[人へと転じ、動きを止めた姿。
響く、絶叫。
左腕の熱が、少しずつ、鎮まるのが感じられた]
……ああ。
終わった、な。
[零れ落ちたのは、小さな小さな、*呟きだけ*]
[やがて開かれた二頁に渡って書き込まれた文字。端から端まで、殆ど隙間なく密集したそれは遠目に黒く塗り潰されたようにも見え、判読は難しかった。
最後に。その「文章」に終止符を打とうとしたペン先が、滑る。頁を外れ、テーブル上に抉るような線を引く。
じわりとペン先から滲んだインクは、黒ずんだ*血のようだった*]
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