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−現在・6の部屋−
[ヘルムートとの会話の後は黙って会話を聞き続けた。
周りから見たら不自然に見えたかもしれない。
しかし、自分の意見はもう話した、後は聞くだけのつもりだった。
それに、じっとしてれば体の痛みもましに放っていくだろうという考えもあった]
しかし、変人ばかりです、ね。
[鎮痛剤を駄々っ子のように嫌がるアーベルを見て呟いた。
自分を棚に上げているのは言うまでも無い]
[こん]
[小突かれて、いい音がした]
[石化が進んでいる証拠だろうか]
どうかな───わからない。
[治りたくないのか]
[思考の半分くらいは痛みと怠惰によって麻痺している]
来いといわれたから、それだけだ。
[眼を閉じる]
───遅かれ早かれ、人は死ぬんだ。
[いつ死ぬか]
[どう死ぬか]
それなら今、死んでも構わないと思ってる。
―3階奥―
――…壊せと。
殺せと、言うの…。
[カードを握る石像を見つめて、見つめて瞑目。]
…それが――…罪なら
私は…背負うわ。
[唇を引いて、松葉杖を軽く持ち上げ石像の手の部分を
目がけて振り下せば、ガラリという音と共に崩れるだろう。]
[自分を構成する、色々な要素がぽろぽろ剥がれ落ちていく]
[別に医学を志したわけではないけれど。
統合教育の制度下で、知っている。学んでいる。
メドューサが治っても、けして回復しない箇所のこと]
[自分が自分でなくなる前に、死にたいと思う。
けれど、今、ここにいる自分は、オトフリートなんだろうか。
―― かくありたいと、そう願った、
あのコルチャック先生と同じ道は歩めなかったのに。
本当のオトフリートは、はるかな過去で死んでいるのではないか。
それなら、ここで、自分は生きなければいけないのじゃないか]
[思索の淵から呼ぶのは、隣にいる人の声。
そっと、顔のあるだろう位置を覗く]
げン き、出まった……?
[戻ると言う彼女に頷いて、そっと手を差し出した。
その手の温度を確かめて、彼女が望むなら、階下まで手を引こうと]
●業務連絡●
Cの石像がもっているキーカードは屋上に続くものです。
またそのカードをパソコンに刺すことで、ロックがかっているドアがすべて解除されます。ヘリのドアも含みます。
アーベルさん……。
[その声色に潜む感情に又涙が出そうになった]
どうして? どうして生きようとしないの?
もう、あきらめたの?
生きてれば、もっと写真だって撮れるのに。
[寂しいと思った。生きることをあきらめたように写る彼の言葉が。
ぼんやりと重い体。鈍痛が、左胸に落ちる]
アーベルが死にたいなら、それはそれでいいと思いますです。
でも、周りの人の気持ち考えてみてはいかがでございます?
[ブリジット、
ハインリヒ、
ベアトリーチェと順番に指差した]
ノーラ待て、僕が……
[だが、彼女はすぐにその石像の腕に松葉杖を振りおろす…。]
…………ッ
[舞いあがる砂埃。
そして、必死な形相のノーラを見る。
だが、勢いに押され、とりあえずカードを崩れた中から拾い上げようとする。]
…うん。
[その手をなるべく力を入れて握る。]
センセの、こっちの手。
やわらかくて、あったかい。
[命ある証を、しっかりと感じた。]
生きるも、死ぬも───あるがままに。
[エーリッヒに伝えられることはそれだけ]
[生き急ぐでもなく]
[死に急ぐわけでもない]
[治療薬でない物を飲んだところで]
気休めは、欲しくないだけ───ッ
[右の眸]
[まるくなる]
[その手は頬を叩かなかったけれど]
[聞こえた声]
[ユリアンのほうを見る]
───。
[嘆息]
[人と触れる事を拒否するようになったのは、いつだったか、と。
ぬくもりを感じつつ、ふと、そんな事を考えた。
思索は短く、すぐに思い当たる。
なくしたときだ、と。
『そらいろ』の庭をねだって。
完成を待たず、そらにきえたものを]
……こういう温かさ、は。
悪くない、な。
[詰めた距離を、再びあけて。
紡いだのは、こんな言葉]
…時間が、ない の。
[はぁ、と肩で息をする。黒い髪が僅かに乱れる。
繰り返す言葉、けれどそれは自分の事ではない。]
そのカードが道を開いてくれる、わ。
ダーヴィッド、…上に。
上に行ってみましょう。
ツヴァイさん、口移すなら。
僕からした方がいいような気がするんですけどね。
[ついでのように、お節介。
――こんな状況だから、
これ以上ブリジットの精神を不安定にさせても、
という配慮もあったけれど。]
───遅かれ早かれ、人は死ぬ。
今、死んでも構わない…程度の気持ちなら。
[ブリジットから水を受け取ると包装された薬を開けて]
ちょっとくらい遅くなるのも、構わないだろ。
それにこれは延命の薬じゃ――ない。
残念なことに…。
[ただ、痛みを緩和するだけ。ただそれだけ。
それすら期待する効果が選べるかはわからない。
『――――――――。』
気休めは欲しくない。
アーベルの言葉に感じる既視感。
それを言ったのは、誰だったか。
思い出そうとして、咳がひどくなる。]
●業務連絡●
どなたか未コミット状態のようです。
よろしくお願いします。
また揃わない場合は、満足いったところで、睡眠解散。
村立が明日朝コミットアンカー代理します。
ノーラさんも休まれてください。
[重い心音が、頭に響く。まだ大丈夫だと言い聞かせて深呼吸を二度。
糸が、揺れた気がした]
ノーラさん……?
[何も見えない。ぶれたように写る、糸はまだちゃんと視えていて、無事なことはわかった。けれど、何かあったのだろうかと心配になる]
[彼女の握力を、感じる。
先だって、指きりの形が戻らないのを見た記憶。
照らし合わせて、少しいびつながら、笑顔になった]
ん
[良かった、と目を細める。
つないだ手を、空いた手でそっと撫でてから立ち上がった]
む むり、無理、は、だめです、よ。
ほっぺ、約束、おぼえ、て、ます。
[声音と握力から、多分大丈夫だろうと思いながら念を押す。
そして、彼女が望む場所へとともに向かおうと]
ノーラ
どうして、そんなに?
[素直に戸惑う言葉…だけど、
彼女の言葉に押されて、そのまま階段上へ……。
言われた通りにカードキーを差し込むと…
カチリと、開錠した音が……]
───薬は、いらないったら。
[何度も繰り返す]
欲しく、ない。
[何でそんなに飲ませようとするのか]
[理解できない]
鎮痛剤なんか、いらない。
[痛くても耐えられるんだから]
[だから]
[離れても、しばらくはぼうっとライヒアルトを見ていた。]
……あ、うん。温かいね。好きよ、ライヒ。
[微笑んだ目尻に涙が浮かんだ。]
[糸が遠く離れる感覚、けれどそれが切れる感覚はしない。
少女の体が僅かに重くなった気がして心配した。]
ベアトリーチェ…
[少女の事も心配して、慣れない松葉杖で階段を昇りながらだったが一度だけ振りかえった。]
え?
[どうしてそんなに。
解らない、ただ、いつもみたいにじっとしてられなくて。]
…生きたいから。かしら。
[階段を上りきれば扉があり、カードの差し込み口が見えた。
カチリ、音とともに扉は開かれて隙間から――風が吹いた。]
[あるがままに――
自分と同じ生き方だと思った]
結局は好きなようにすればいいと思いますです。
僕は人に説教できるほど偉くないです、ここでも好き勝手やってますです、から。
ただ、アーベルの生き方だと周りが邪魔するでしょうから、がんばってくださいです。
[自分も同じように生きてきた。
だから止める権利など無かった。
だから、思いとどまるようにあえて応援してみた]
[ 嗚呼。
見殺しに、 なんて 聞いた所為か
眩暈がする 気が した。
波立つ。ざわつく。
何の所為なのか分からないままだ。]
―― ……
[唇を引き結んで
ふいとアーベルとハインリヒから顔を逸らすと
亜麻色の髪を翻しそのまま6の部屋から出て行った。]
うん、無理しないよ。
だって、わたしがいなくなったら、
[俯き、止まる言葉。]
みんな、病気よりも先に飢え死にしちゃいそうだもの。
[クスクスと冗談まじりに笑う。
けれど、それは本音でもあって。
食糧の仕分けと小分けを急いだのは、動けなくなる前にすこしでも役に立ちたかったから。]
みんなは、二階?
[手を繋いで、肩を並べて歩く。]
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