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その慣れてるところがすごいんだって。
あたしが代わりに採ってくるって言ったんだもの。
レイスさんが一緒にきちゃ意味がないよ。
[しかたがないというキリルにぱたぱたと手を振った。
目をあわそうとしないなら無理にあわせる事もなく]
ね、キリル。
ついでだし、森の中でなんか良い香りがする草がある場所、知らない?
[唐突に思いついたというように口にする。
きっとまだ村には戻りたくないだろうしとの思いもあった。
キリルを探しにイヴァンがきているかもしれないとの思いもあった。
もしもイヴァンが来て二人っきりのやり取りになるのなら、きっと村に戻る途中よりは森の中のほうが心をさらけ出せるんじゃないかと、そんな余計な気を回した結果だった]
そう、なのかな。……分からない。
[ふるりと首を振る。
視線は緑をやはり見つめたままだったけれども、
優しく耳に響く幼馴染の声は、心地良かった]
…うん。怖い。
[ふ。と、息を吐くようにして一度目を瞑る]
ずっとやっているから。
カチューシャも知れば慣れるよ…、ほら。
これは乾かしてお茶にしたら疲れが取れる。
持って帰って、兄さんに飲ませてあげたらいいんじゃない?
[ひょいと籠の中の薬草を取り分ける。
ちょっとくらい減っても、兄貴は気にしないだろう。
そう思うことにして、少しをカチューシャの花の方に取り分けた]
良い香りがする草のある場所?
それならもう少し向こうの…
[顔を上げて森の向こうを見る。
川へ向かう道の、それより少しだけ逸れた場所。
そうして何気なく幼馴染へと目を向けた。
優しい気遣いが、彼女の口調の中に滲んでいる]
―― 広場 ――
[男はふらりと再び外に出る。
山から吹く風に肌寒さを感じた。
広場まで出れば、マクシームが篝火を準備しているようだった]
やあ。
[手を掲げて声を掛ける。
同じように手を掲げた幼馴染の掌をそのまま軽くたたいて
二人、にっと笑いあった]
僕も手伝うよ。
二人なら暗くなる前に終わるだろ。
[薪を運び小さな枝に火をつけ移してゆく。
パチパチと爆ぜる音がして篝火が灯ってゆく]
―― 広場・篝火の側 ――
[篝火の側は熱が伝わりあたたかい。
近くに腰掛けたマクシームの隣に男は腰を下ろした]
――…もう、何事もなければいいな。
[ぽつ、と呟き幼馴染をみる。
彼が頷くのが見えて男は頷きを返した]
旅人が襲われたのは残念な事だ。
不幸に見舞われた旅人を悼む気持ちは無論ある。
けれど、同時に――…
シーマやイヴァでなくて良かったとも思った。
[控え目な声は炎の音に所々かき消される]
人狼――…か。
[御伽噺の中の存在。そう信じ込みたいと思いながら柳眉をよせるは
存在を否定するだけの要素がみつけられないから。
考え込むように顎に手を宛がい俯く]
人の血肉の味ってどんなだろうな。
――…僕は鹿や牛、肉や魚の味さえ知らないけど
うまいと思うから、食べるんだろうか。
それとも必要だから、食べるのか。
[菜食主義の男はぽつぽつと考える事を言葉にした。
ユーラは、と問う幼馴染に男ははたと瞬く]
僕の場合は、そうだなぁ。
野菜もパンもチーズも美味いから食べるし
食べなきゃ生きていけないし、なぁ。
[マクシームと語り合えど答えは出ぬまま
そのうち黙り込み二人で篝火をじっと見詰めていた**]
[それからミハイルと話しは続くかもしれない。
ふと顔を外へと向けると、
あんなに地面を照らしていた陽光はピンクと紫の空。
窓から見える広場で、篝火の準備をしている人影が見えた]
…今日は、此処まで、かな。
次の作業は乾かさないと…だから
[くる、とお腹が鳴る。
机の上にあった食べかけのチーズに手を伸ばして齧る。
ミハイルにも食べる?と差し出してみるが、
乾いたそれは、きっと最初よりも味が落ちて居ることだろうと思う]
頭で考えても分からないってよく言われるし、ちょっと考えるのやすんだら良いんじゃないかな。
[わからないという幼馴染をせかす事も諭す事もなく、のんびりと答えて。
彼女が落ち着くのを待った]
へー、そうなんだ。
お兄ちゃん、広場で作業してたし、後で作ってあげようかな。
[キリルがより分けてくれる薬草に、なるほどと頷いた。
森の中に詳しい幼馴染が示すほうへと視線を向け]
あっちのほう、か。
ね、一緒に行こう。
[一つ頷いてキリルを見る。
見つめられて首をかしげ]
あは、ありがとう、はあたしのほうだよ。
だって、迷子だったんだもん。
キリルが来てくれてほんと良かった。
[感謝は受け取ったけれど。
それよりもこっちのほうが助かったといわんばかりに笑みを浮かべて。
キリルの手をとって感謝した]
ん。そうかも知れない。
[落ち着かせるような、穏やかな声。
幼馴染のアドバイスに声はないけど、仕草だけで頷いた]
いいの?
カチューシャが使うなら、摘んであげるけど、
[言っても、この誘いそのものが彼女の気遣いと気付いてる。
だから殊更に拒絶することはせずに、足を向ける。
気がつけば、気分も幾分落ち着いていた。
案内するように、彼女の先へと立つ]
迷子だったの…?危ないよ、そんな。
帰れなくなったら、倒れてしまう。
[狼がとは言わない。
手を取られる、その仕草に頬が自然と綻んだ。
きゅ。と、昔したみたいに幼馴染の手を握る]
それじゃ早く行こうか。明るいうちに。
あまり遅くなったら、今度は二人で迷子になっちゃう。
[少し冗談めかして唇の端をあげる。
どうにか笑顔の形にはなっただろう。そうあるといいと思った]
[頷く仕草ににこりと笑みを返し]
もちろん。
キリルといっしょに草を摘むの久しぶりだし、ね。
[ともに歩きながら、握り返してくる幼馴染の手の暖かさににこにこと微笑む]
帰れなくなったらどうしようとは思ったけど……
でもほら、こうやってキリルに会えたし。
[だから問題ないといわんばかり。
明るいうちに、といわれてうんと頷き]
二人で迷子になったら大変だ。
早くすませちゃおう。
[キリルの顔に笑みらしきものが浮かべば安心したように瞳を和ませた。
そして良い香りのする草のところに行って[13]本ほど草を摘むのだった]
うん、良かった。
[ほんの少し、ぼうっとした。
森の奥を見つめた目を引き戻して、幼馴染に向ける]
…もう。いつもとは限らないんだよ。
だから気をつけなきゃダメ。
[明るい声に向ける叱責は、本気ではない。
小言めいた口調はいつも軽く交わされる程度のものだ。
明るい笑顔に困ったと言わんばかりに肩を竦めて、
そのいつもの空気に、今度はもう少しくすりと笑った]
ん。このくらいでいいかな。
料理に使うなら……あ、そうだ。
今朝、カチューシャに教えて貰った通りにパンを焼いてね。
兄貴が少し、驚いた顔をしていた。
[必要ないのにこそりと声を低く落とす。
目配せして、また少し笑った]
はぁい。
次はちゃんと気をつける。
[どこかぼうっとした様子には首を傾げたけれど。
軽く向けられる小言には素直に頷いておいた。
一人で森の中をうろうろするのは怖かったからでもある]
うん、ありがとー。
レイスさんが? 驚いた顔見てみたいかも……
[声を低めて告げるキリルの言葉にきょとりと瞬き。
くすくすと笑い返しながら、いつもの調子に戻ってきていることに安堵もして]
キリルがもっと上手になったらレイスさんもっと驚くね。
ん。それで宜しい。
[いつものように、偉ぶって冗談めかす口調。
笑って、微かに首を傾げると髪に差した小花も木漏れ日に揺れた]
兄貴の表情も、慣れれば読めるよ。
あ…ほら。薬草の見分け方と一緒。
[酷い言いようだが、声には親しみが篭もっている。
ただ、最後の言葉にはふと、草に触れる指の動きが止まった]
もっと上手に…なればね。
[視線をその指先に落とす]
あ、かわいい。
[いつものようなやり取りがおかしくてくすくす笑う。
キリルの髪を飾る小花が燦めいて、ようやくそれに気づき。
思ったまま、小さく呟いた]
レイスさん、薬草と一緒くたにされてる……
そっかあ、慣れるぐらい話しかけにいかないとだね。
[ひとくくりに扱われた様子におかしそうに笑った。
視線を落としたキリルの様子に瞳を瞬かせて]
――キリル?
[そっと案じるように名を呼んだ]
あ、これ?
…イライダ姉さんに貰ったんだ。
気に入ったなら、カチューシャもつけてみる?
丁度、二本つけて貰ったから。
[言って、自分の髪に指を添える。
嫌がられなければそのまま、幼馴染の髪に差すつもりで]
………あ。
今のは兄貴にナイショね。気にしないとは思うけど。
[カチューシャに指摘されて気がついた。
しー。と、人差し指を口の前で立てるのだけど]
……いや。大丈夫。
ちょっとね。
こんな風に、カチューシャに料理を習って、
兄貴に腕を披露して。
そんな風に、これからもずっといたいなと思っただけ。
[案ずる様子に、笑顔をみせて何でもないと首を振った]
イライダさんの見立てかあ。
通りでキリルに良く似あってると思った。
え、いいの? でもあたしには似合わないんじゃないかなあ。
[白い色の花飾りは、艶やかで濃い色をした髪のキリルだからこそ映えて。
きっとこの色素の薄い、ふわふわとした髪では埋もれてしまってよくわからなくなるだろう。
嫌がったわけじゃないから、キリルが髪飾りを一つ、差し込んでくれるのはそのままに、どうかなと首をかしげた]
うん、内緒だね。
気にしないふうに見えて気にするかもしれないよ。
[くすくすと笑いながらからかい。
もっとも妹のいう事なのだから多分気にしないのだろうと認識した]
そ?
そだね、うん。
皆でこれからも仲良く過ごしたいね。
[大丈夫といわれてそれ以上問いかけず。
笑顔を浮かべての言葉には素直に返した**]
[レイスが薬携えて訪れてくれれば、家の鍵は開けっぱなし。
声も聞こえるだろうから、そちらへ向かう事になる。
擦りむいた傷に薬草宛がわれれば痛みに少し顔顰め、
告げる礼は彼に届くだろう。
笑わぬ男を見上げる顔は、少しばかり眉を下げる]
今日も、お祭りみたいになってる。
手伝わなくて、いいの?
[マクシームとユーリーが篝火を焚いている様子を指して、
ミハイルを―レイスが居れば彼も―振りかえった。
それから、此処に来てやっと、何も無いとは言ったが
お茶のひとつも出していないと気がついたけれど。
今更な気がして、黙っておいた]
そうかな。似合うと思うんだけど…可愛いし。
[色の取り合わせなど、気にしてもいなかった。
ただデザインが可愛いなら、可愛いカチューシャに似合う。
そう考えるだけで、彼女のふわりとした髪に差す。
確かに随分と髪に埋もれてしまったけれど、
時折ちらりと光を跳ね返す花は、彼女の雰囲気に良く似合った]
それに、ほら。お揃いだ。
[カチューシャの髪を指して、他愛もなく目を細めた]
…ん。
[兄のからかいには曖昧に笑んで、目を伏せる。
幼馴染の素直な同意に、すぐには口を開かず]
そうだね。
[ただ、短い言葉を同じく返した]
―― 回想 自宅近く ――
[あの衝動のきっかけはふとした好奇心。
それでも燃料になったのはまた別の欲望だった]
…………っ
[愛でたい。口づけたい。
そうした淡い花の背後にちらつく昏い昏い炎]
[背後からキリルが追ってくる気配がした。思わず漏れてしまった呟きに、彼女の足音が止まる]
ごめん。頭を冷やせば収まるから。
ほんとごめん。
[顔を見られないまま何度か謝った。でも、彼女に謝らせてしまった。はっと振り返る]
―― 。
[ぐっと奥歯を噛み締め、彼女の背中に向かって息を吐く]
落ち着いたらまた迎えに行くよ。
許してくれるなら、一緒に花を供えよう。
[後悔ばかりしかないけれど、このまま終わりたくはないから。無理矢理次を紡いでた]
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