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……なるほど、今日からが本番……か。
[賑やかな様子と、途中で押し付けられたビラからそれを察して小さく呟く]
にしてもお前、まさか見たい訳じゃあるまい?
[尻尾を揺らす黒猫に問いかけつつ、荷物を持ち直す。
黒猫はなぁう、と鳴いて、また、尻尾を揺らした]
[カウンターの前で、荷物が出来上がるのを待つ少女に名乗られて、こちらもほほ笑むと]
こんにちは、ニーナさん。
成程、診療所のお嬢さんだったのね?
[見たことがあると思ったのよ?とおっとりと言葉を続ければ、後ろの娘もぺこりとお辞儀をして。
――彼女にそれは、見えないのかもしれないけれど]
サーカスが来ても、診療所や雑貨屋さんを、
おやすみするわけにはいかないものねえ。
皆は助かるけれど、
働いているお年頃の女の子には、物足りないわよね?
―サーカス広場―
[丁度天幕から、ふらふらとした足取りで出て来るアーヴァインの姿が、ハーヴェイとヘンリエッタには見えたかもしれない。]
[自身に気づいた少女に気づいたのか、黒猫はそちらを見やって声を上げる。
動いた視線の先を追えば、目に入るのは鮮やかな赤]
と……やあ。
君も来てたんですか。
[にこり、と笑って。軽い口調で声をかけ]
そうなのよね、うん、年甲斐も無くね。
[ニーナの興奮していた、の声には深く頷く]
ニーナはなんだか元気ないみたいだけど、大丈夫?
疲れてない?
ありがとう、レベッカさん。
白い、レースのがいいのだけれど……。
[言いながら、棚に近づいて]
いつも同じようなのを選んでって、怒られちゃうのだけれど。
こればっかりは譲れないわね。
喪服の黒を選べだなんて。
だって、誰も――。
[言いかけたところで、一つの扇子が目について]
あ、これ、すてきね。
そうですね・・・機会があれば。
と言っても、誘わなくてもまた行きそうですけど。
[楽しそうな様子を思い出したか小さく笑う。]
嗚呼、そうなんですね。
・・・にしても、折角の機会なんですし、少しは楽しんでみれば良いのに。
そういえば、今日は何があるんですか?
――あ、
えと、
…………うん、
[声をかけられたのに驚いたのか、
何故だか急に慌てた様子になって、]
そう、
こんにち、は。
[顔を隠すように深く深くお辞儀。]
[手にとってもいいかしら?と、レベッカに確認して広げた扇子は、白檀の地に、白の繊細なレースを張ったもの。薄金色の刺繍が美しく]
あなた、どう思う?
[そう尋ねた言葉は、娘へのものだろうか、それとも店の二人に対するものだろうか]
[鞄に道具を片付けようとして、自分用の紙袋とは別に入れていたプレゼントの包みに気付く]
あ…すっかり忘れていました。いけませんね。
[とっくに帰ったらしいニーナに、しまったなとぼやきつつ診療所を後にする。
メインストリートに出れば新しいビラが手渡されて、興味深げに見ながら歩いていく]
はい、こんにちは。
[深いお辞儀に、穏やかな挨拶でこたえて]
……もしかして、脅かしちまったかな?
[だったらごめんね、と笑いつつ。
ふと、視界の隅を掠めた影に、一つ、瞬き]
今の……。
[アーヴァインさんだったような、と。口の中で小さく、呟く]
そうですねえ。一度楽しんで頂ければ、サーカスの効用も判って頂けると思うのですが。
そうそう、今日は軽業と空中ブランコのショーがあるんですよ。
魔術の実演は明日からの予定です。
一番の売り物なので、週末にお披露目するってわけです。
はい、こんにちは。──、
[ふと、女性の後ろに薄ら影が見えた気がして、緩く瞬いた。
慌てて、再び──今度は女性の後ろへ向けて、軽く頭を下げる。
確かに、見える人には女性の周囲に「居る」とは耳にしていた。
それでもどれだけ目を凝らしたって、今までは見えていなかったのに。
近しい存在、だった事があるからだろうか。
それにしたって、もしサーカスが来た影響なのならば、
──考えて、少しだけ眉を寄せた。]
いえ、昨日、少し行っただけでも十分満足です。
私は、診療所のお手伝いは楽しいですし。
サーカスは、小さい頃に言った事がありますから。
[行かなくても、結構平気です。
女性の続く言葉に、へらりと笑みを浮かべながら答える。
…小さい頃に行ったのは、本当。
問題はそれからだけれども、それまで告げる必要もないだろうし。]
[顔を上げて、ふるふると首を振る。
小さな呟きは聞こえなかったけれど、
どうかしたのかと思ってそちらを見て、]
……?
[少女の視線の高さでは、
影は見つからなかったらしい。
代わりに、足下で鳴く猫へと視線が落ちた。]
[エレノアの選んだ扇子を見て、さすがにいいモノを選びますわね、とつぶやきながら丁寧に包装し、ニーナとエレノアの会話に笑みを浮かべる。]
久しぶりだったんだから、楽しんじゃえばいいと思いますよ。
まるで、遠足の前日みたいにわくわくしても仕方ないです。
[レベッカの頷きに、くすくすと笑みを零して。
続く問いに、少しだけ慌てたようにふるふると首を横に振った]
──え、…え?大丈夫、ですよ?元気です。
疲れてません。本当。誰も疲れてません。
[無駄に繰り返すのが微妙に怪しい。
が、確かに元気だし、疲れてはいない。…多分。]
[確かめる間もなく、人影は見えなくなった。
正確には、人だかりに紛れてしまった、と言うべきかもしれないが]
あの人が遊びに来るとは思えんし……見回り、かな?
[ご苦労なことで、と呟く。
一方、少女に視線を向けられた黒猫は挨拶するように尾を揺らしつつ。
じい、と少女と熊とを見つめて]
あ。
そうだ。
[暫く黒猫とにらめっこしていたけれど、
ようやっと思い出して、顔を上げ。]
えと、……お礼、昨日の。
[そう言って、
小さな掌に取り取りのビーンズを乗せて、
好きなのをどうぞと言わんばかりに差し出す。]
[ニーナに挨拶をされると、婦人のほうは嬉しそうに笑う。
少女はそれを見て取るとニーナの近くへ歩み寄り、
彼女の眉間をつん、とつついてほほ笑みかけた。]
こら、シャーロット、いたずらはだめよ。
――そう、子どものころに……。
サーカスがこの町に来たことって、あったかしら…?
[彼女の言葉に小さく首をひねり]
お仕事が大切な看護婦さん。とてもすてきね。
包まなくていいわ、すぐに使うの。
[気に入ったらしい扇子をレベッカに渡し、
さらさらと勘定書きにサインをしていれば、娘が彼女を呼んで]
なあに?
[白い扇子の隣にあった、黒い扇子。
紫檀に黒のレース。縁取りは紫紺。]
黒のものは、嫌い。
それは欲しくないわ、シャロ。
一度行ってみれば、案外――
いや、如何かな。
[何時ものしかめっ面しか思い浮かばなかったのか、小さく首を傾げる。]
空中ブランコ、ってあの高い・・・
サーカスの人達って凄いですよね。怖くないんでしょうか。
成程、週末なら人も集まりやすいかも知れませんね。
コーネリアスさんは、何かされるんですか?
あら、そうですか?
なら。
[いってはさみで丁寧に値札を切って手渡す。
娘とのやりとりには、わからないままにも笑みを崩さずに様子を見守った。]
え……お礼って……。
[言われた言葉に、ほんの一瞬、きょとり、とするものの、すぐに昨日の事に思い至り]
……ありがとう、じゃあ、一ついただくよ。
[言いつつ、色彩の中から青を選び取って、にこり、と笑う]
そういや昨日、大丈夫だったかな。
帰り遅くなって、心配されてなかった?
[それから、ふと気になった事を問いかけて]
[距離が近付いても、元々見える力は持たない所為か、
彼女の姿は薄らとしか見えないけれど。
…何となく影が笑みを向けたような気がして。
思わず、つられるようにふわりと笑う。]
えと、シャーロットさんって、言うんですか?
[初めまして、とペコリ頭を下げる。
続く女性の言葉に、あぁ、と慌てたように手を振って。]
私、5歳の頃にここに越して来たんです。
ここに来る、直前に。──サーカスに。
[会った事があって、と続く語尾は、少しだけ澱んだ。
小さな溜息と共に、しかし褒められれば少しだけ嬉しそうに
ありがとうございます、と礼を告げて]
[きちんと受け取った様子に、満足そうなかお。]
……猫には、駄目?
[そんなふたりを見つめる眼差しに気づいて、
そう尋ねはしたけれど、
ちょうど重なるように相手からも問いを受け、
瞬きしてから熊を持ち上げ、]
ヘンリエッタには、
ぼくがついているから大丈夫。
心配ないサ。
[……誤魔化し。]
私はまだ見習いですからねえ、せいぜい助手や舞台のセッティングといったところですよ。
そのうち前座でカードマジックくらいなら披露できるかと期待しているんですけどね。
[手にしたビラの内容に魅入っていた為か、足取りは自然とサーカスの方へと。
途中、どんっとぶつかった感触に慌てて顔を上げる]
! すみませ…ん、あの、大丈…
[謝罪の言葉も耳に入ったか怪しい様子で、その男は去ってゆく]
今の…自警団長さん、ですよね。
心ここにあらずといった感じでしたが…はて。
[町に来て最初に顔をあわせた瞬間、鼻を鳴らして不愉快そうに見られた表情を思い出す。
あまりの違いに目を丸くするも、わざわざ不愉快な顔を見せて欲しいというわけなどなく。首を傾げるだけで黙って見送った]
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