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─ 回想 ─
[自分はどちらかといえば周囲に気を配る方だと思う。
だが、信じがたい話を聞かされたばかりの今は流石にそんな余裕も無かった。
幼馴染の愛娘の様子も、憤って出ていった弟分の行き先も、急ぎの用でもあるのかと思った旅人が落ち着いているのにも、思考は向かず。
>>1:236複雑な表情でこちらを見送る宿の娘にも、気付くことはなかった。
もっとも、気付いたとしても苦笑を滲ませる位しかできなかったろう。]
─ 回想 ─
[19年前に村を離れ、8年振りに帰省してきた自分の変わり様には様々な反応が返ってきた。
多くは戸惑いだったが、特に反発が大きかったのは同世代やそれより上の、所謂昔の自分を知っている層。
エルザのように年若い子達は最初からこの姿しか知らないからか、抵抗の薄い子が多かった。
ミリィもその内の一人だと思っていたのだが、ある時の帰省から妙に強張った態度を取られるようになって。
いつもは笑顔で迎えてくれるのにと首を傾げていた所で、実は、と宿の主から伝えられた事実に目を丸くした。
それまで男と気付かれていなかった事にも驚いたが、それより良く今まで浴室などでニアミスしなかったなと安堵したのを覚えている。
詳しい事情は知らずとも、彼女の態度が男性に対しての不審を表すものとは伝わっていたから。
こちらが男と解った後も他の男性に対してより刺々しさは無くも戸惑いを濃く見せる彼女に、こちらは一歩引くようになってからもう6年。
男性すべてに棘をみせる彼女の氷を溶かす手助けができたらとは思うのだけれど、何もできぬままにいる]
─ 回想 ─
[そして今も、彼女に気遣えぬまま。
自分の望むまま、ピアノの前に座って指を動かす。
>>1:247>>8聴いている者がいるとは気付いていなかったけれど、その弾き方は観客に向けてのそれ。
老尼僧に向けて、心を込めて紡ぐ円舞曲には、自分にとっても優しい温もりを秘めていた。
嬉しそうに微笑む老尼僧の傍ら、くるくると楽しそうに踊る少女の姿は昨日の事のように鮮やかに覚えている]
…?
…あぁ。そっか。そうよね。
[>>13ふと、足音が聞こえたような気がして手を止めた。
周囲に視線をめぐらせると、足早に去っていく背中が見えて。
彼女にとってもこの曲は尼僧との思い出深いものだったと、今更に気付き、眉を寄せた。
老尼僧の死を悼むより、もう取り返せない優しさを認識させて悲しみを強めてしまっただろうか。
追いかけることもできたけれど、かける言葉が見つからず。
談話室に戻ると、幾ばくかの食事を取って片付けた後、何かあれば声をかけてとその場にいる者に言付けてから借りている部屋に戻った**]
─ 薪小屋 ─
[先程作った道を通り、薪小屋までやってくる。
その間も色々と考えが巡ってしまい、ままならぬ状況に拳を握る力は徐々に強まって行った]
──── くそっ!
[右の拳が薪小屋の外壁を捉える。
ドンと言う音と共に、薪小屋の壁は僅か振動に震えた]
俺だけならともかく、どうしてイレーネまで…!
[巻き込まれなければならないのだ、と。
外界から隔離されたこの場で起きている出来事を憎む。
他にぶつけようの無い感情を建物にぶつけ、ささくれ立った心のまま薪小屋に入ろうとした時だった]
─ 談話室 ─
[運んだ薪を談話室の暖炉の傍に置き、客室の薪が足りないようならここから持って行くと良いと居る者に告げる。
食事は既に出来ていたようで、次の作業に取り掛かる前にそれらを腹に収めた。
これから行うのは肉体労働。
何も食わずして働けはしない
食器は厨房に運ぶのみにして、マテウスは再び外へと出た]
─ 外 ─
[鉄製のスコップを手に、先ず取り掛かるのは正面玄関に吹き溜まった雪を削り取る作業。
ここを適度に削っておかないと扉が開かなくなるし、出る時に躓く可能性がある。
既に踏み固められてしまっていたが、妥協せずきちっと整備をした。
それから玄関前の除雪をし、余分な雪は崖の方へと投げる。
投げ捨てた雪は、硬いものは斜面の中に埋まり、柔らかいものは表面を転がって砕けて散った。
その作業を何度も何度も繰り返し、昼時に一度休息。
腹ごしらえをして、再び夕方まで作業を繰り返した。
本当ならば屋根の雪下ろしもしたいところだったが、一人では滑落の危険があるため断念。
村への一本道も、一筋縄では行かないと判断して、日数をかけて作業することに決めた。
尤も、玄関前のみならず、墓地の除雪までしたため、一本道まで手は回らなかったのだが]
─ 聖堂内 ─
[夜に作業は出来ないため、日が暮れると室内で過ごす。
食事はしっかりと取り、湯で身体を温めて。
イレーネの様子を見に行くなどして時間を潰す。
翌朝早くに一本道の除雪を行うため、その日は早く就寝した*]
─ 翌朝/聖堂外 ─
[早めに就寝したために目覚めは早い。
明け方は冷えるが、陽が出ているうちでなければ作業が出来ないため、冷える空気の中、鉄製のスコップを持って外に出た]
──── 冷えるな。
[当たり前のことを口にしながら正面玄関を開ける。
陽の光を反射する雪に目を細めた時、”それ”に気付いた]
[最初に目に入ったのは古めかしいランタン。
置かれているのではなく、横に倒れ転がっており、火は既に消えているようだった]
────…… だ、
[倒れている火の消えたランタン。
その先にあったのは]
団長─────!!
[低い声だったが空気を震わせるには十分な声量。
持っていたスコップを玄関脇に投げ捨てて慌てて駆け寄る]
団長、 団長っ!!
[仰向けに寝かされた身体の周囲は流れ出た赤に彩られ、広がるに連れて色が薄まっているのが分かった。
喉には掻き切られた痕、左胸は抉られ、中にあったはずのものが無くなっている。
既に事切れていると分かっていても、声をかけ、肩を揺するのは止められなかった]
やはり、人狼が……───ッ!
[居なければ良いと願ってしまった浅はかさ。
昨日のうちに動かなかった結果がこれであると。
まざまざと見せ付けられた気がして、声量が落ちた、その時]
ッ、 ァ 、ァグッ──!!
[突然、左手に灼熱に侵されたような激痛が走る。
右手で左手首を握り、膝を付いた態勢で両腕を雪の上に落とした。
呼吸は乱れ、額には珠のような汗。
痛みに耐える左手は固められた雪を掻き毟った]
な……に、………ック……
[痛みの残る左手を強引に持ち上げ、掌を上に向ける。
熱を帯びているのか、雪を掻き毟った手からは湯気が上り。
痛みの中心となっている掌には]
───…… は、 な…?
[小さいが花と分かる朱色がいくつも寄り集まり浮かび上がっていた**]
[自身の演奏がオクタヴィアンの演奏の手>>31を止めたとは気付けない。
けれど一人になって、冷たい水に触れて漸く少し落ち着いて、
思うのはありがとうの言葉と拍手をおくりそびれてしまったこと。
戻る頃には食事の支度が整っていた。
ライヒアルトの手によるものとすぐに知れる。
食事の時間になれば談話室へと足を運び席についた。
老尼僧の死で受けた衝撃が未だ深く残るのか
カルメンの表情はいつになく暗く口数も少ない。
何とかじゃがいものポタージュ>>7を一口二口喉に通して
スプーンを置いて、作り手に申し訳なく思いながらも
ごちそうさまの言葉を紡いで、部屋に戻った。**]
─ 夜中・談話室 ─
[気付け用だろう強目の酒を呷る。喉の奥が熱くひりつききかしアルコールの強い臭気が鼻腔を撫で付ける。
普段は飲まないが、今はこの高揚感を抑える様に喉へと流し込んでいく。
いつぶりだろうか?
それは未だ一兵の身であった頃、襲撃者と剣を交えたときの夜に似ていた。
ああ、これは命のやり取りを予感したからか。
それとも命を懸ける恐怖?
それとも命を奪う昂り?
我が身は未だ戦士なり也]
フフフ……嘘つをつくな。
[深夜、談話室で呑むレナーテを訪れた者がいただろうか?そうであれば少し、いつもより少し饒舌な姿が見れたがもしれない。
どちらにせよ、いずれはアルコールの誘う睡魔に負けて朝まで眠りにつくだろう。]
─ 客室前→談話室 ─
[勿論後から思い起こせばヒントは沢山あったのだけれど、例えば客足が殆ど無い為に湯を男女に分ける必要が無かったことであるとか、暗黙の了解のようなものになっていた為に誰も取り立てて話に上げなかったことであるとか(後に聞いた者は皆『知ってると思ってた』と答えたという)、その他諸々がフィルターになって気付く事ができなかったらしい。
流れるピアノの音にそんな事を思い起こしながら]
イレーネ、起きてる?
[約束した部屋へ食事を持って行き、ノックをして返事があれば中へ、無ければ部屋の前へ置いておいた。
談話室へ戻り食事を取った後、持ってきた本を少しの間眺めて。
その内の一冊だけを部屋に持ち帰り、残りは図書室へと戻した]
―→談話室―
[戻った談話室には幾人ほどの人が居ただろう。
作り手のいない一席に着き、一人分を容易く平らげる]
[……これも、その所為なんだろうか。
食欲を失ってもおかしくないあの光景の後だと言うのに。
軽く空になってしまった皿を僅かの間、見下ろす]
[振り払うように席を立ち、食器を手に厨房へ。
洗うことはできないから、流しの横に置くしかできないけれど]
[幾度も繰り返し鉄紺が辿り、漸く顔を上げたのは大分時を経てからのこと。
ふ、と集中から解かれた故の呼気が漏れて。
緩やかに見下ろした先、一文を指先で撫でて、閉じる]
……ん〜〜、肩凝ったあ。
[ぐる、と右肩を一周。
動かない左肩も拳で数度軽く叩く]
[エミーリアから借りた本ならば礼と共に積み直し。
そうでなければ本はその手に持ったまま。
一度自室へと戻って行った*]
─ 前日 ─
[暫くピアノの前に座ったまま動かずにいた後、談話室に戻ると既に殆どが食事中か食事を済ませた後だった。
自分も用意されていたそれを取り、用意してくれたのだろう司書へと礼を言ってから有り難く頂く。
司書の歌を自分は聴いたことがあっただろうか、彼と同じ名を持つ歌い手>>0:234の話を聞いたことはあったが自分はそれを口に出したことは無い]
ご馳走様。
これだけの人数分、準備するのは大変でしょう?
明日はアタシも手伝わせてくれるかしら。
[食事を済ませ、司書に礼と共に申し出をしたが受け入れられずとも気にせずに食器を片付けた後自室へと戻って。
数刻前、カルメンが声も無く立ち去っていった事も併せて、この夜はピアノを弾きに行く気にもなれずそのまま部屋の中にいた*]
―翌朝/個室―
[空気の冷たさに女は目を覚ました。
毛布を被りなおし寝なおそうとするのも冬のお約束。
けれど喉の渇きを覚えて、仕方なく寝台から下りた。]
――…甘いクッキーと紅茶。
[呟いたのは一人暮らしをはじめてからの朝の定番。
自宅には買い置きのクッキーが常備してあるが
雪に道を塞がれた状態では自宅に戻る事も
菓子を買いにゆくことも出来ない。]
材料はきっとあるのよね。
小麦粉に砂糖に……、卵にバター、……。
[それ以上材料が続かないのは作る事がないから。
いや、作らないわりによく出た方だと思う。]
[下着姿のまま、ぐっとのびをする。
クローゼットを覗き込み、今日着る服を物色しながら]
んー、頼めば作ってくれるかしら。
そういえば、パイの感想も言ってなかった。
[菓子作りが得意なエーリッヒの顔を思い浮かべ呟く。
そうして手にするのは黒のワンピース。
修道女の服に似たデザインの服に袖を通した。]
…………。
[少女の頃の服で身長はそう変わっていない。
けれど胸のあたりがきつく圧迫感を覚える。]
ま、一日くらいならいっか。
[我慢出来る範疇と喪に服すような装いのまま
髪をとかし身嗜みを整えてから部屋を出る。]
─ 翌朝 ─
[浅い眠りを覚ましたのは、刺すとまではいかないが凍える寒さ。
暖炉には燻り終わった炭が白く在り、それは部屋をより冷え切らせている様に見えた]
…まだ早いわよね。
今の内にお風呂頂いちゃおうかしら。
[昨日はこんな事になると思っていなかったから入浴を控えたが、流石にそろそろ芯から温まりたい。
朝早くならば誰かと鉢合わせることも少ないだろうと、浴室に向かっていった。
此処のお風呂は温泉を利用しているから沸かす必要がないのは有り難い。
幸い誰も居なかったからゆっくりと足を伸ばして身体を温めた後、身嗜みを整えて濡れ髪をタオルに纏め。
化粧は部屋ですれば良いか、そんなことを思った矢先、だった]
───…、え ?
[誰かの、>>39男の声が耳に届いたのは]
─ 翌朝 ─
[また何か起きたのだろうか、そう思えば矢も楯もたまらずに浴室を飛び出した。
聞こえた声はどこからか解らず、けれど恐らくは外からだろうと思ったのは昨日の老尼僧のことを無意識になぞったから。
そしてその無意識は、正解だった]
─── っ
…マテウスさん!
[まず気付いたのは、>>41雪の中蹲っている男の姿。
あわてて駆け寄りながら大丈夫かと声を続けようとした所で、視線はそのすぐ傍、白を染める赤と]
ギュンター、おじ、さま?
[無残に傷つけられた自衛団長の姿を捉え、足が止まった*]
― →翌朝/聖堂玄関前 ―
[元より目覚めは早い方で。
いつものように髪をきっちりと編み込んでから、昨日持ち帰った1冊を持って部屋を出た]
今だったら誰もいないかな。
[出来れば自称司書と出くわすのは避けたい。
今のうちに返しておこうと、図書室へと足を向けて]
─ 前日 ─
[歌を捧げていたり、思わぬ怪我の手当てをしたりしていたから、談話室に戻ったのはだいぶたってから。
食欲はあまりなかったものの、食べない事には、と一人分を平らげた。
片付けは請け負ってくれたレナーテ>>3に任せ、蒼の小鳥は暖かい談話室に置いて。
自分は山羊の様子を見たり、地下から食材を出してきたりと中での仕事に没頭した]
…………。
減った。
[その途中、酒蔵を覗いた時に思わず呟いてしまったのは已む無しか。
原因はわかっていて──そこへの複雑な思いもあるから、は、と息吐くだけに留め。
チーズや根菜類を厨房へと移したり、パンを焼いたり、と。
日常の中に沈みこむようにして、一日を過ごした]
─ 前日/自室 ─
……は。
[ようやく息をつけたのは、自室に戻ってから。
思っていたよりも張り詰めていた、というのが改めて感じられた]
……情けない、な。
[零れ落ちるのはこんな呟き。
気が逸ると一人で動きすぎるのは、自分の悪い所だ、とは、老尼僧にも言われていた事だが、それを改めて思い知った気分だった。
元より、あまり他者に気を許さない──許せない気質だから、というのもあるのだが]
……それでも、少しはマシになったつもりなんだけど。
[何かしら、共通の楽しみや感性がある、と感じたものには、気を許せるようにはなった、と思う。
先に、奏者からの手伝いの申し出>>50に素直に頷けたのも、その手が紡ぐ旋律に惹かれるものがあったから、というのは否めない。
申し出を受けた瞬間の、きょとんっ、と瞬いた天鵞絨を、向こうがどう受け止めたかはわからないが。
少なくとも、ありがとう、と言って笑えた──と、思う。多分]
― 回想・客室 ―
ううん。私だってもう小さくないんだから。
できれば、パパの邪魔をするより役に立ちたいもん。
[父に謝られて>>10、腕に縋ったまま首を横に振った。
それでも、どうしてもの時はと言われれば嬉しくて。うん、と頷かずにいられなかったが]
おやすみなさい。
[暖炉を整えて部屋を出てゆく父>>11に挨拶をして、布団の中で目を閉じたが、眠りに落ちることはなかった。
早鐘を打つ自分の鼓動を聞きながら、瞼を閉じてできるだけゆっくりと呼吸をしようとする]
聞こえない、よ。
[遠くに流れる円舞曲が消えると>>31瞼を上げて、焦点の合わない視線をどこかに据え、ポツリと呟いた]
― 回想・客室 ―
あっ、ミリィお姉ちゃん?
起きてるよ。
[それとどのくらい前後してか、ノックの音>>45に身を起こして扉を開けようとした。
ベッドからは降りるより落ちるようになって、ドタンという音を立ててしまったが、余計な心配をさせただろうか]
ちょっと痛いけど、大丈夫。
ご飯ありがとう。
[腰をさすりながら、てへへと笑う。そう出来るくらい元気になっていたけれど、部屋の中から出ようとはしなかった。
運んで貰った食事はスープを半分、パンは一口、ザワークラフトは一緒にあっても申し訳ないが丸々残して。
夜の眠りに落ちるのも早く、父が様子を見に来てくれた時には>>36既に深く眠り込んでいた]
─ 翌朝/自室 ─
[動き回ってそれなりに疲れていたものの、訪れた眠りは浅いもの。
それでも、あの夢を見ずに済んだからその点ではマシ、と言えたかも知れない]
……ん。
[緩く目を開けたなら、耳に届くのは小鳥の囀り。
その響きに天鵞絨を細めながら起き上がり、身支度を整えて。
机の上に置いた銀十字架に目をやった]
それにしても、昨日のあれは……。
[なんだったのか、と。
思いながら、あしらわれた藍玉に手を伸ばす。
蒼の小鳥がちょんちょん、とその近くに寄って、円らな瞳で指の動きを追う。
その羽のいろに、それとは違うあおいろが刹那、重なって見えて]
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