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……ひふみん。
[顔をそちらに向けることなく語りかける]
私は、あなたを信じている。
でも、もしあなたが憑魔ならば、浄化するかも知れない。それでも、信じているって言える?
せったんも、みずちーも信じてる。かやりんも、ちーちゃんも信じてる。
でも、憑魔なら浄化するのかもしれない。それは信じているって言えるの?
私は……私の役割は……桜花から与えられた役割は……。
[嗚呼。
どんどん悪意のループにはまり込んでいきそうだ。私は、何をすればいい?
現実逃避が出来れば、どれだけ楽なことだろうか]
[はらりと、母親が持っていた布巾が落ちる。
それに気付いて手を伸ばしたのは、オレの服の裾を握る従妹。
オレは従妹の視界を遮るように母親と従妹の間に身体を滑り込ませた]
おふくろ───っ!
[母親が向かう先。
それは、雪のように白い、白銀の髪を持つ人物。
従妹がウサギと称した、その人]
───は!
[ビクリと神楽の体が脈動した。
オトが鳴り響く。
鈴の音が、
鈴の音が、
鈴の音が、
鈴の音が、
鈴の音が、
鈴の音が、
一斉に、鳴り響いた]
……神楽……。
[振り返らずに告げられる言葉。
どう返すべきかの逡巡。
その空白は、月光を跳ね返す刃に気づくのを遅らせた]
……っ!?
[閃く刃。
舞い散るあか。
薄紅が、散ったあかに、触れて。
染まる]
[『視える』のは、黒い光が、弾け飛ぶ光景]
[嗚呼。
誰だ。
誰が、
誰の最後のオトだ。
───憑魔が滅せられた───
誰がやられた。
誰がいなくなった。
誰を悲しめばいい。
嗚呼]
そっかぁ?
[伽矢に不思議そうに見上げた。
礼斗は、憑魔をかえせばいいと言っていた。
でも憑魔は、みんなを家に帰してくれるかもしれない。
よくわからなかった。
そういえば司は何をする人だっけ?
さっきの会話を思い出そうと、眉を寄せる。
瑞穂がなにか言っていたような気がする。
でも、伽矢が来たので、耳には殆ど届いてない。]
[うぅんと、伽矢の裾を握ったまま、悩んでいたら、はらり、百華のおまもりが落ちた。]
ももおばちゃ、おまもり落ちたよ?
[百華の様子に気づかずに、落ちた布を拾ってかがむ。
百華を見上げようとすると、間に伽矢が立っていた。]
おばちゃ?
[隙間から、向こう側を覗こうと。]
……っ!
[ギリと、奥歯を噛んだ。
視界が戻る。
その目に映るのは、自分が信じていると言った人。
それが、憑魔に入り込まれていたのだと、そう、『司』としての自分は告げているのだ]
せったん……!
信じてた。信じてたんだよ!
なんで、憑魔だったんのさ!
私はこれで、何を信じればいいんだよ!
[叫ぶその顔は、まるで怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた]
……私は。
[そして、神楽は口を開いた]
───『司』
散々明かしてきたけど、もう一度みんなに明かす!
私は、『司』!憑魔を浄化するもの!
死者が何者だったのかを、見定めるものです!
だから───
[みんなの顔をキッと見つめ]
───憑魔は全員浄化します!
少しでも多くの人を救いたいから……私は!あなた達を!疑います!
信じていた人に手をかけることになっても……私は、この役割を果たします!
[ひろがるあかは、牡丹の花弁の如く。
その上に舞い落ちる薄紅は、静かにその色を受けて]
……かぐ、ら?
[その色に、言葉を失していた時に、耳に届いた叫び。
倒れた雪夜と。
叫ぶ神楽と。
ふたりの間を、困惑した視線が交差した]
おまもり。そう、おまもり。
あんたたちを守らなきゃ。
彼と約束したの。 子供達は私が守るって。
[そのまま他の者に視線を流す]
あなたもなの?
あなたが笑わないのは、悪魔のせい?
[視線は笑わぬ娘に注がれた。
彼女の方へふらりと身体が動く]
え……
[ぎらりと光る凶器。
思っても見なかった色にたじろいだ]
ちょ、ももさん!
何考えてるんです……!
[動き出す女。
止めようと慌てて伸ばした手は届かなかった]
[視界は半分、よくみえない。動きはまるで、コマ送りのよう。
それでも、何が、起きたのか。垣間見るだけの時間はあった。
うさぎの人から、溢れた、まっかな、まっかな、水のような。
耳に届く、百華の声と、雪夜の声。
聞いたことのない、恐怖を掻き立てるような声。
ぱたり。目が瞬く。
でも次の瞬間には、伽矢と瑞穂と二人に阻まれ、何も見えなくなっていた。]
[今度はコンビニ店員へと向かおうとする母親。
オレはぎり、と唇を噛んだ]
───っ、お袋、止めろ!!
[力の限り叫ぶ。
実際のところ、他の誰が死ぬのは構わない。
けれど、立場上母親を止めないのは猜疑の一端となる]
[ひくっと、しゃっくりのようなものが出た。]
おばちゃ……?
[百華は守ると言っている。
だけど、どこか、怖い声。
匂いがあたりに広がってゆく。
鉄の匂い、嗅いだ事のある匂い。どこで?
そうだ、飴玉のおじさんに追いかけられた時も、同じ匂いを感じていて。
靴の先についていた赤。
それとおなじもの、たくさん、たくさん、流れ出て。]
きっ
やあああああああああああああああああああああああああああ!!!!
[高い高い悲鳴が、辺りに響き渡った。]
…………。
[神楽の宣。一つ、息を吐く]
……それが、必要であると思うなら、貫けよ。
[告げる言葉は、淡々と]
けどな、これだけ言わせろ。
……自分ひとりが、全部背負わなきゃならんような。
そういう考え方は、するんじゃねぇ、ってな。
[低い言葉は、如何様に捉えられるか。
それを確かめる暇もなく。
視線は、新たな*叫びの元へ*]
……。
[ギリギリと奥歯がかみ締められて、痛む。
綾野が亡くなった場所で、昔からの幼馴染が亡くなったことが悲しい。
それでもまだ、惨劇が終わらないことが悲しい。
幼馴染を殺した百華を憎めないのが悲しい。
このような役割を与えられたことが悲しい。
誰も信じられなくなってしまったのが悲しい]
桜花……!
シナリオ通りの物語になったことが嬉しい!?楽しい!?
望み通りの殺し合いになったことを喜ぶの!?
畜生……!なんで……なんで……!畜生!
っ!!
[耳を劈くような甲高い悲鳴。
庇っていた従妹からのもの。
オレは持っていた包丁をその場に取り落として、叫び声を上げる従妹を正面から抱き締めた]
千恵!何も見るな!何も聞くな!!
[従妹を抱えられるようなら、オレは惨劇の場所から離れるように移動しようとする]
伽矢? 千恵ちゃん?
[息子の声と、姪の声。
近しい者達の声に目を見開き、私の身体は動きを止めた。
誰かが飛んでくるのが視界に入る。
私は呆然と、止まったまま]
[礼斗の言葉に、神楽が吐き捨てるように返す]
新たな友達が死んで……幼馴染が死んで……背負うも背負わないも無い!
もう、走り続けなきゃいけないんだ!
雪夜……!クソッ!
[今にも全身が爆発しそうな足取りで、神楽が雪夜の死体のそばまで歩き出した]
……。
[その体から流れる血は白いその体と合わさってとても綺麗に見えた。
いまだに温かいその体から溢れる血は何かの冗談のようだ。それでも、先程感じた死のイメージは絶対で、彼がすでに旅立ち始めているということを知らしめている]
[怖い、は急に降りてきて、過去の怖いと混ざって増える。
自分の悲鳴が邪魔をして、伽矢の声も周囲の声もどこか遠い。
神楽が何か言っていた。つかさ?つかさって何?ワタシガツカサ?
ツカサはカグラ?じゃぁひょーまは 何?
かえれない、カエレナイ。
ツカサトヒョーマガイルカラカエレナイ。
パニックを起こした頭はぐるぐる回りつづける。
大好きな人から、何も見るな、何も聞くなと言われ抱きしめられて。
くたりと意識を手放した。
うさぎはじっと、舞い散る桜の花弁を*見つめていた。*]
[涙は出ない。涙は出ない。
こんなに悲しいのに、こんなに苦しいのに、それでも、涙は出なかった]
……。
[みんなに背を向けるように、ずっと雪夜の体を見下ろし続け、やがて、神楽が懐から扇子を取り出した]
……。
[顔は誰にも見せない。どんな表情をしているのかは分からない。
だがそれでも、その舞だけで、どれほど彼女が悼み嘆いているのかは、分かりすぎるほど分かった]
……。
[憑魔を浄化するため。黄泉への旅立ちへの餞のため。
最後の舞を神楽が、雪夜に向けてだけ舞い続ける]
[背後の悲鳴に一瞬足が鈍る。
けれど相手も動きを止めていた。
姿勢を低くし、目的のものを無理矢理に奪い取った。
普段からすれば機敏過ぎる動きであるけれど、本人は必死で気がつかない]
……く、
[生温い血の感触。
手が滑り、掌に痛みが走った]
[やがて、雪夜の体から立ち上るモノが神楽の元へと集まり、神楽がそれを『喰らう』
それは今までよりもずっと激しく、ずっと切ない、憑魔の浄化。
自らの体に宿し、そしてまた自然に帰れるように、神楽は舞う]
……神楽……舞う。
[小さく、途切れ途切れに最後に呟くと、雪夜の体は何処にも存在していなかった。
ただ、上気したような湯気のようなものがたなびいて消えただけだ]
……おばさん。
[背を向けたまま、神楽が百華に静かに語りかける]
憑魔を見つけ出し、滅してくれてありがとう。
だけど……しばらく、その顔は見せないでおいて。
私の幼馴染を殺したことを思うと……思わず復讐してしまいそうだから。
時間が経てば、少しは自分の中で折り合いがつけると思うから、今は近寄らないでよね。
[抱き締めていた従妹の身体から力が抜ける。
オレは抱えて、広場の隅にあるベンチへと駆けた。
後から幼馴染も追いかけて来ただろうか。
意識を手放した従妹をベンチへと寝かせる]
…くそ、お袋……何で……。
[オレは二重の意味で声を漏らし、拳を握った。
視線を遠くに戻すと、母親の得物は眼鏡の男に奪われていた]
……瑞穂、お前ん家、また貸してくれ。
[従妹を運ぶと告げると、幼馴染は頷いてくれる。
オレは母親を気にする素振りも見せながら、従妹を抱えた。
幼馴染は律儀にも、その場に残る者達に従妹を運ぶ旨を伝えている。
それを待ってから、オレは幼馴染と共に広場を後にし、幼馴染の家へと向かった]
……!
[飛んできた誰かが、右手の物をもぎ取った。
そして近くで新たな血の匂いを感じる]
あ。 あ。
やっちゃった……
[私はどうやら、人を殺めてしまったようだ。
先程の巫女さんの叫びは耳に届いていなかった。
私が彼に本当に憑魔が憑いていたと知るのは、
舞い終わった巫女さんに尋ねてからだろう。
彼らは怯えているだろうか、子供たちを振り返る。
そして傍の人物の方を向く]
あ。 史さん、手が。 手……
[彼は、私を止めてくれたようだ。
手当てしたくとも、やり方はすっかり*記憶の彼方*]
[それだけを言い残すと、そのまま神楽は正面へ向けて、何処へとも無く歩き出した。
何処へ?などとはどうでもいいことだ。
どうせ、危険などはここで見た顔の人間しか残っていない。
それならば、何処へ行っても同じ事でしかないから。
来るならば、来ればいい。それだけの覚悟をするつもりならば]
……嘘も空も……心の臓も……声も……時が動かすの……
きっと誰も……きっと今も……セイなど……知りえないの……
[ポツリポツリ。
途切れるように唄を歌いながら、神楽が*その場から離れていった*]
[巫女さんの静かな声が耳に届いた]
憑魔を、みつけ、だし。
[ああ。彼は本当にとり憑かれていた……。
私が刺したのは、幸運にも憑かれた人間だった]
幼馴染、だったの。
[それ以上彼女にかけられる言葉はなかった。
一つ頷くと、そのまま去っていく彼女の背中を*見つめた*]
[痛みで取り落としそうになる刃を握る手に力を込めた。
垂れる血は雪夜のものか、傷口からか]
……っそぉ!
[掠れた叫びを上げて、得物をできるだけ遠くへ投げた。
茂みの揺れる音]
[肩で息をしながら振り返った。
一応の警戒もあって、2人の間に立つ]
すいません、ももさん。
けど、瑶は昔っからこうなんです。
今に始まったことじゃない。
……もーちょい笑って欲しいなとは、常々思ってるんで。
[正気を取り戻したらしい相手に、頭を下げた。
笑みは上手く作れただろうか]
あー、大したことないんで。
[本当は結構深い傷だったけれど、気にされれば軽い調子で断った]
[百華が巫女の方へ目を向ける。
緊張の糸が切れたように、どさりと座り込んだ]
……怪我、ないか?
[瑶子に尋ねながらも、朦朧とし始めているのは己の方。
右手には固まりかけた雪夜の血。
――『憑魔』の血。
視界が捩じれ、歪んで、
掌に舌を這わせた]
……ク。
ざまぁ見やがれ。
[微かな声。
わらいを含むそれは、瑶子にだけは届いたかも知れない。
掌に作られたばかりの傷口は、既に*塞がり始めていた*]
─繁華街・瑞穂の家─
[鍵をかけ忘れたままになっていた幼馴染の家。
その中へと入り、二階へと上がる。
寝床を用意してもらうと、そこに従妹を横たえ、上掛けをかけてやった]
……千恵……。
[怯えた悲鳴。
至近距離でのあの悲鳴はかなり耳に来た。
それだけの恐怖を味わったと言うことなのだろう。
オレは口元をマフラーで隠し、ほくそ笑む]
[隠した笑みを消し去ると、オレはしばらくの間、従妹の傍についていた]
─繁華街─
[あの惨劇から数時間、各人が各々の行動を取った後。
オレは幼馴染を散歩と称し外へと連れ出す。
危険だ、などと言われたなら、護ってくれるんだろ?と強引に言い包めた]
[そうして中央広場が近付いた頃、オレは移動の足を止める]
……なぁ、瑞穂。
お前、本当にオレの事、護ってくれるのか?
[幼馴染の方を見ないまま、オレは訊ねる。
彼女はどんな様子で是と答えただろうか。
問いも唐突なもの、警戒されたかも知れない。
けれどそんなことはどうでも良かった]
護ってくれるんならさ……。
オレにそのチカラ、くれよ。
[風切り音を奏で、オレは鉤状にした右手を振るった。
見た目はそのままながら鋭さを持ったそれは、幼馴染の喉元を抉る。
柔らかい肉と細かい骨が右手に残り、幼馴染の喉からは鮮血が舞う。
その鮮血から逃げるように、オレは幼馴染の傍から飛び退いた]
……っは、流石、司は美味い。
溢れてきそうだ。
[抉り取った肉と骨を口へと放り込み、手についた赤を舐めとる。
噛むごとにゴリゴリと骨が砕ける音がした]
その源を喰ったら、どれだけのチカラが得られるかな。
瑞穂、お前の全て、オレにくれよ。
死んだらチカラをくれるって約束、果たしてくれ。
くはははははははは!!
[もはや物も言えないだろう幼馴染は、どんな表情をしていただろうか。
オレが憑魔と知ってどんな思いになっただろうか。
そんなことはオレが知る由もない。
愉しげな嗤い声が響く。
ただ、司を喰らえる悦びだけがオレを支配していた]
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