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ユーディ……。
[アーベルをかき抱いて呼びかけ続ける姿に、ふ、と目を伏せる。
彼女が抱く想いが何か。
それ位は察しがつくから。
けれど]
……もう、起きない、よ。
[それが現実なのも、わかっているから。
小さく、告げる]
[手を引かれるままに、ふらふらと歩き出す。
あとは、何を言われても反応を示さずに。他の人の姿が見えても、挨拶もせずに。
地面に、ぽとりぽとりと涙が落ちて、染みをつくった]
[足音に後ろを振り向くとブリジットの姿が見え。
いつもの名乗りを上げようとしたところで言葉が途切れる]
……先生?
[遠慮がちに声をかける。
声が聞こえないのか、ブリジットは頭を押え俯いている]
[答えはない。答えるはずもない。]
…………。
[泣きそうな表情でアーベルの顔を暫し見つめる。
エーリッヒの小さな声が、微かに耳に届き。形になって。
その意味がゆっくりと脳に染み込み。
――ユーディットは、アーベルの死を、受け容れた。
黙ったまま、ごしごしっと袖で目元を拭うと、その手でアーベルの目蓋を閉じさせる。
アーベルの身体を地面に寝かせると、ふら、と立ち上がった。]
[申し合わせたようにほぼ全員が診療所に集まっていることに気づき]
よ、よぅ。
[場に全く合っていない間の抜けた挨拶が口からこぼれた]
[ユリアンにはこくりと頷いて。それ以上は進まない。
青く震えたままでいたら、ティルを連れ立つハインリヒの姿が見えて、微かに頭を下げた。]
ハインリヒさん…。
[『一体向こうには何があったんですか』と口を開きかけたが、ティルの様子に問うていいのか躊躇う。]
[次いで診療所の方からかけられる声。
見れば泣くティルを連れたハインリヒの姿]
…どうも。
……その様子だと……。
[見たのかな、そう続けようとして言葉が切れた。
聞かずとも明白だろうと思ったのもあるが、何より傍らで泣くティルにまた思い出させることになりそうだったために]
……大丈夫、か?
[ふら、と立ち上がる様子に、静かに声をかけ。
それから、改めて、倒れたオトフリートを見る]
人、なのか、獣、なのか。
判断に迷う姿で逝ってくれたもんですね、っとに……。
[零れた呟きは、彼の事情を知らぬが故のもの。
いずれにせよ、人狼が倒れた事。
それは、理解できるのだが。
腕に微かに走る痛みは、何故か。
安堵を感じさせるには、至らずに]
[その視線が向かった先には、もうひとつ、地面に転がった体。
それが誰なのか。判る。
けれど、関係ない。
これは人狼だ。
それは、何より先に知れた。
首筋に突き立ったままのナイフに手をかけ、ぐっと力を込めて抜き取る。ゆら、と真っ直ぐ立ち上がると、オトフリートの体を見下ろした。]
そう。あなたが、アーベルを。
あなたが、人狼だった。
あなたがッ!!
[ナイフを振り上げる。]
…俺にはなんにもできなかったよ。
ひょっとしたら、もしかしたら、最初に診療所を尋ねた時に…止められたかもしれねーのにな。
とりあえず、俺は。
こいつを連れて宿に戻るわ…。
自警団の連中は気にイラねーが伝えないわけにもいかねーしな…。
[と、ブリジットの様子を見て]
なんなら、お前も宿に来るか?
随分調子が悪そうじゃねーか。
[少し躊躇した後で、空いている片手をブリジットへと差し出した]
ユーディ!?
[ナイフを抜き取り、振り上げる動き。
何をしようとしているのかはわかる、けれど]
……落ち着け!
もう、死んでる……終わってるんだから!
[口にした言葉には、やはり微かな違和感があるような気がするけれど。
今はそれに囚われている場合でも、ない、と思い、押し止めようと手を伸ばす]
[荷物を持った方の手は下に下ろされ、空いている方の手は頭から耳を押さえるように変えられる。ユリアンに話しかけられればゆらりとそちらを見るが、声が届いているかはわからないような風情で]
大丈夫だ。大丈夫。
大丈夫、……
[自分に言い聞かせるように繰り返し。出てきたハインリヒやティルの方も一瞥し]
大丈夫、だ。
[手を差し出してくるハインリヒにも同じ事を言う。その手を見つめるでもなく見つめるが、ふらつきながらも駆けるように、現場へ向かおうとして]
[その目には何も入らない。
その耳には何も聞こえない。
憎しみの記憶が螺旋のように立ち昇り、アーベルが殺された事実に絡みつく。
今まさにナイフが振り下ろされようとした時、エーリッヒの手がそれを止めた。]
いや……はなしてくださいっ。
[それを振り解こうと足掻く。]
だって、こいつが、アーベルを、殺したのにっ。
ゆるせないっ!!
[ハインリヒの様子に、やはり問いかけるのは止めて。
戻り自衛団に伝えると言うのに軽く頷いた。]
気をつけて…。
[口にしたが、自分でも何に気をつければいいのかは良く分からなかった。
嘆くティルには、かける言葉が見つからなかった。
ただ心配そうな視線だけを送る。]
いいから、落ち着け!
[振り解こうとするのを、押さえつつ。
何とか、ナイフを離させようと試みながら]
そんなの、俺だって同じだよ!
俺だって許せと言われたら、素直に頷けやしない!
……だけど、ここで屍に八つ当たりしたって、何にもならんだろうが!
だって、だって……でも!
[足掻く力が急に無くなり、ナイフが乾いた音をたてて地面に落ちる。ユーディットはエーリッヒを見上げた。
目から涙の筋が幾つも伝っている。]
でも、私、何もできなかった……!
アーベルを、死なせないように、何か、できたはずなのに。
なんにも。
[顔が歪む。]
なんにも……。
[大丈夫、と告げるブリジットの様子は言葉とは逆のモノではあったが。差し出した手のやり場に困って、いつものように頭をポリポリと掻く]
そっかよ。まあ、でもあんまり無理すんじゃねーぞ。…これ以上なんかあるのは御免だぜ。ほんとに。
ユリアン、イレーネ。
診療所で何があったかは…自分の目で確かめとけ。
おまえらは、もうガキじゃねーし…。見ない方がいいもんだけどよ…。でも見とかなきゃなんねーもんでもある…と俺は思うんだな。うん。
[うし、と一言気合を入れてティルを背中に負うと]
結構、おもてーな。運動不足の年寄りにゃきついかね、こりゃ。
[そう言いながら診療所を後にした]
[ハインリヒの後悔を聞き、ティルを連れて戻ると言う言葉には頷きを返す。
ブリジットはこちらに視線を寄越したが、どこか自分に言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返すばかり]
…そうは、見えないんだけど。
[診療所の方へ向かおうとするブリジットに、一言そう向けた]
[からり、と落ちたナイフ、その軌跡を辿りつつ。
泣き顔で見上げるユーディットに、静かな目を向けて]
……それは、むしろ俺がいう事だよ。
あいつの性格を考えるなら……手の届く場所にいるべきだったんだ。
そうすれば、こうなる前に。
阻めたかも、知れないのに。
[掠れた呟きは、悔しさを帯び]
……ユーディが、そんな風に思いつめる事は、ない。
そんな風に思われても、あいつの事だから……多分、喜びはしないよ。
自分で考えて、自分で決めて、やった事だから、って。
だから、そんな風に自分を責めずに。
[な? と言いつつ。宥めるように、ぽふぽふ、と背を叩く]
[肩で息をしながらやっとの思いで宿へとたどり着く。自警団が数人まとわりついて来たが診療所での出来事を伝えると慌てたように「報告に行かねば!」と走り去って行った]
やれやれ…こいつの事とか気にならねーのかね。
此の村の自警団もじーさんが居なくなった時が終わりだったかねえ…どーにも。
[自分が泊っていた部屋のベッドへとティルを寝かせると、自分も力尽きたようにその横へと倒れこむ]
色んな事が起きすぎなんだよ…ったく。
[ここ数日で起きた様々な事が頭を巡り、そのまま眠りへと落ちて*いった*]
[びくりと、ハインリヒの言葉に身を竦ませる。
見たくなかった。だが見た方がいいとハインリヒは告げる。
足は竦んで動かないが、どうした方がいいんだろうかと。
二人を見送ったあと、ユリアンを見上げた。困惑したような顔で。]
[自分の目で確かめろ。
ハインリヒの言葉に顔を顰めた]
……簡単に、言うなよな。
[昨日アーベルが紅く染まった姿を見ただけでも足が竦んだと言うのに。
本来の現場すら見に行けなかったと言うのに。
直ぐには足が動かなかった]
ブリジットさん、無理は…。
[ふらふら奥へ行こうとする人を心配そうに見る。
だがそんなになりながらも奥に行く人をみて、やはり自分も行くべきだろうかとはどこか思った。]
[イレーネに見上げられ、深呼吸]
…見たく無いなら、見ない方が良い。
──代わりに、俺が見てくる。
[深呼吸の後に決意したことを、はきと言葉にした]
あ、や。
…一緒に行く。
[ふるふる首を振ったあと呟いて、意を決して診療所の奥へと足を一歩踏み出した。
ゆっくりと、歩く毎に覚悟は出来てくる。]
それでも、でも、私は。
っ………。
[肩を叩かれれば、再びじわりと涙がこみ上げる。
こく、と頷いて、俯いた。
手で顔をもう一度拭って。]
……ごめん、なさい。
取り乱して、しまって。
[顔をあげた。
そこにはもう憎しみの色は鳴りを潜めていて、その陰さえ見ることはできなかった。]
自衛団の人が来るまで、ここにいて、いいですか。
[その声はまだ弱々しかったが、エーリッヒの目を見てそう言った。
許可が貰えれば、その場でアーベルの横に座って、人が来るのを*待つことだろう。*]
[辿り着いた現場。ユーディットにエーリッヒ、落ちたナイフを順に見るともなく見ながら、残骸の傍へと真っ直ぐに――傍から見れば揺れていたが、真っ直ぐに歩み]
……。
[赤い残骸らを、見下ろす]
いいから。
今は、無理に何か言わなくても、いいから。
[向ける言葉は、どこまでも静かで。
謝罪の言葉には、気にしない、と返す]
……ああ、構いはしない。
落ち着くまで、いていいから。
[穏やかに笑みつつ、言って。
座り込むユーディットから少しだけ離れるのとブリジットが来るのとは、どちらが先だったか]
……ブリジット。
何か……聞こえる、のか?
[亡骸を見つめる彼女に、そう、と声をかけ]
[突然ぐるりと視界が変われば、ハインリヒの背中に背負われていた。
そのまま、背負われて宿屋に向かう。
大きな背中は温かくて、やさしくて。少しずつ落ち着きを取り戻してきた]
おっちゃん…ありがとう…
[小さな小さな声で、搾り出すように言葉を紡いで。
泣きつかれたのか、そのまま眠りに*落ちていった*]
[一緒に行くと言うイレーネ。
本当ならば止めたかったが、足を踏み出す様子に付き添うような形で隣を歩く。
ゆっくりとした歩みで進み、やがて見えてくる。
──紅に染まりし二つの姿]
……っ!
[片方は胸から、片方は首から赤き雫が流れ落ちていて。
オトフリートと思しき身体は、まるで獣のような姿だった]
…これって…。
そう言うこと、なのか?
[治まりかけていた震えが再び強まる。
オトフリートが人狼であったと言う現実。
俄かには信じられないものであった]
[一人では決して見えてこなかったろうそれを、ユリアンと共に見た。]
――――――っ、ぅ。
[アーベルの血に染まった亡骸も当然ショックだったが、それよりは、明らかに異形と化したもう一人の―ミリィの傍に居た人の姿を見て、顔が引きつり、口元を押さえた。]
おいしゃ、先生…。
[それ以上は言葉も出なかった。]
……聞こえる。
[エーリッヒの問いに少し間を置いてから答える。耳を押さえたまま、どこか彼の声を聞き取り辛そうに]
赤いモザイク。
黒き影。
交じり合い、
――怒れよ!
怒れし影は――欠けたるか!
[ノートなどを持った手を腕ごと掲げるようにして。僅かに掠れた叫びを重ねてから、ぽつりと]
……異形。
異形に殺されしと、殺されし異形……
赤き賽は……
[イレーネの様子にこれ以上は、と考え。
紅き惨劇から視界を遮るように立ち、少女を腕の中へと収める]
[自然、紅く染まった二人に背を向けるような形となり。
自分の視界からも惨劇を遠ざけた]
[後からやって来た二人には、軽く視線を向けるに止め。
ブリジットの言葉に耳を傾ける]
異形に殺されしと、殺されし異形。
[小さな声で繰り返す。
力あるもの、それもまた異形、異端と言えるのかと。
ほんの一瞬、自嘲的な笑みを掠めさせ]
……これで……終わる、のか?
[問いはブリジットへ向いたか、それとも、独り言は定かではなく]
[ブリジットが叫ぶ。
叫びの内容は理解出来なかったが、続き落とされた呟きは先程見た二人のことを示していると理解し]
…やっぱり、そうなんだ…。
[人狼が誰なのか、真実を突きつけられた。
信じがたいが、それが事実で。
不意に漏らされたエーリッヒの問いが聞こえたが、自分には知る術はなく。
何も言えずただ押し黙ったまま]
終わる。
終わるか、否か。
塔は崩れた。崩れた塔は一つか。
一つだとして。二つだとして。
黒き影は……
[エーリッヒの問いとも呟きともとれる言葉に対してか、ぼそぼそと。一歩、二歩と後ろに下がり]
留まらないのなら。
どうしたらいい。
変容が続くのなら。
[最後は独りごちるように]
[ユリアンの腕の中で、嗚咽をもらす。
辛うじて泣いてはいないようだったが、酷く怯えたように震えていた。
ブリジットの声も耳に届く。
異形、そうだこれが――人狼。
エーリッヒが言うように、これで終わるのだろうか。
これからの事を思い、震えは止まらなかった。]
[腕の中で震えるイレーネの身体を抱き締め。
首だけをエーリッヒ達へと向ける]
……ここ、任せても良いか?
イレーネを、休ませてくる。
[これ以上長居してはイレーネの負担が大きいと判じ。
この後来るであろう自衛団の対応などを頼む]
[ぼそぼそと、途切れた言葉は相変わらず抽象的で。
下がる様子を見つめつつ、一つ、瞬く]
変容が、続くのであれば……。
[それは、終わらない、という事か、と。
口に出しはせずに]
……ああ。
ユーディの事もあるし、ここは引き受ける。
[ユリアンの方を見て、一つ、頷いた]
[頼む、とエーリッヒに返し。
腕から解放したイレーネを促し、診療所から離れていく]
[未だイレーネが嗚咽を漏らすようなら、宥めるように、慰めるように、その背中を擦りながら歩を進める]
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