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─ 大浴場 ─
[先程見た両開きの扉の前。
そこが何なのかはさっき聞いたため、唐突に扉を開けることはしない]
オリガー? まだ居るー?
[何度か扉をノックした後、その奥へと声をかけてみる。
しかし返事はなく、しんと静まり返った空気だけが返ってきた]
……もう出たのかな。
[体感経過時間的に、単純に考えればそれが妥当だろう。
それでも一応、中を確認しておこうと思った。
もし事故が起きたら………まぁ、その時はその時だ]
入るよー?
[声をかけながら両開きの扉の片方を開け、中へと身体を滑り込ませる。入ってすぐの脱衣所に人の気配は無い。
やっぱりもう出たのかな、と思ったところで、大浴場へと続く扉の前に鮮烈ないろが落ちているのが目に入った]
…………───── !!
[僕の顔から表情が消える。
今までにも何度か見た、鮮やかながら深みのある真紅のいろ。
アナスタシアやリディアの時とは違い、ひとひらだけであったけれど、嫌な予感を呼び起こすには十分なものだった。
僕は躊躇いなく目の前の扉を開ける]
う、 あ
うあああぁぁああぁあああぁあぁああぁぁああ!!!
[最初は押し殺すように。
けれど耐え切れず、僕は喉が引き裂かれんばかりの悲鳴を上げた。
右目からは止め処なく雫が溢れ、表情は絶望に歪む。
両手は両側頭部を掻き毟るように動き、顔の左半分を隠していた前髪が大きく乱れた。
僕の片目に広がった光景は、美しくも残酷なもの。
湯面に漂う薔薇の花弁。
輝く金糸は放射状に広がり、その中央に白い肌、それを彩るように忌まわしき紅が散っている。
切り裂かれた胸元は、やはり空洞を作っていて、そこから湯面にも紅が零れ漂っていた]
なん、 なんっ で、
なんで だ 、 『鬼』は、 死んだんじゃないのか!
[ジラントがころしたベルナルトが『鬼』だと思っていたのに。
もう誰も死ぬことは無いと思っていたのに。
思いは、最悪の形で裏切られた]
[乱れた前髪の奥から垣間見える、捩れ歪んだ肌。
右目からは滾々と雫が零れ落ちるのに、窪んだ左目からは何も零れてはくれない。
醜く歪んだ顔の左半分は、悲しみと同時に抱いた憤りを表しているかの*ようだった*]
[男が意識を失ってたのは少しの間。
ガラス越しの雨音に、男の漏れる息が混じる。]
……――っ。ぁ……。
[瞼が震え、ほんのわずか開く。
そこにあるのは、地獄の風景だと思っていたのに。]
あ………。
[覗き込むサーシャの姿。]
う、ぁ……
[視線だけを横へ。
血の気を失くしたベルナルトの顔。
それは、どこか愉しげなモノにも見えた。]
[地獄へエスコートじゃなかったのかよ、馬鹿野郎が。
そんな事を毒づきながらも痛む胸元へ。
ナイフは突き立てられたまま。
もし、ナイフが抜かれていれば、失血死していたかもしれない。
もし、ナイフが数センチズレていれば、心臓を直撃していたかもしれない。]
……鬼は、死ん……だ、か――?
[絞り出す様な声で問いかけた。]
[その後、男はサーシャに止血を頼む。
やり方がわからないようなら、指示をし。
ほどなくして、シャツの代わりに包帯を巻かれた状態に。]
……すま…ん……。
もう、大丈……夫……。
[ああ、どこかで言ったセリフに似てる。
紅に濡れ、仰向けに倒れているベルナルトの顔をちらと*見た。*]
[ジラントに刺さったナイフは際どいところにあるようで、止血と、その処置を彼に頼まれる>>22]
こう?
[軽い怪我の手当てくらいなら出来もしたけれど、こんな重傷者を相手に手当てしたことなんてなくて。
ジラントに教えられながら止血をして、彼を包帯でぐるぐる巻きにした]
ここだと落ち着かないだろうし、大広間にでも行きますか?
肩貸すくらいなら、出来ますよ。
………もう、『ゲーム』は終わり、ですよね?
[左足に関しては一旦捨て置いた。
流石に重傷者を放置なんてしていけない。
『鬼』が死んだなら、『ゲーム』は終わりのはず。
僕はそう思い込んで、ジラントに確認するように*問いかけた*]
─ 現在:一階/大浴場 ─
[僕の悲鳴で駆け付けた者は居たか。
周囲を気にする余裕もなく、僕はふらりと湯船へと足を進める。
服が濡れるのも構わずその中に入って、衣服を身に纏ったまま浮かべられたオリガへと手を伸ばした]
オリガ……………オリガ……っ!
[真一文字に切り裂かれた喉が痛々しい。
触れたオリガの肌は、お湯に浸かっているにも関わらず、どこか冷たい。
肩の後ろに右手を通し、彼女の腰に左手を当てて。
僕は身体を折り曲げるようにしてオリガを自分の方に引き寄せた。
一度は思い止まった行為。
失いたくなかった者、護りたかった相手。
零れ落ちたものを取り戻そうとするかのように、僕はきつく、彼女の骸を*抱き締めていた*]
あ……ナイフは、俺が抜く……
その、あとに……
ぐっと、ガーゼで……思いっきり、抑えろ。
[言って、ナイフの柄を両手で握る。僅かに抜くだけでも、悲鳴が上がりそうな痛み。
それならばと、男は一気に引き抜く。
紅が、散った。]
─ 地下一階・武器庫 ─
[地下一階まで降りたのは、事が起きたのが室内庭園とは知らなかったからと。
己の身守る為、『ゲーム』に勝つ為の牙を早く強固にしたかったから。
武器庫の中に入ると暫し物色に時間を費やし、選んだのは]
使いやすそうなのは、これかな。
[腰に括りつけているナイフを3倍程大きくしたような小剣を手に、独りごちる。
そのまま幾度か振って、その重さと間合いを身に覚えさせてから腰に取り付けた鞘に収め。
もうこの場に用は無いと、踵を返した]
─ →一階・室内庭園 ─
─ 一階・室内庭園 ─
[武器庫から出て向かったのは、室内庭園。
青年が横たわるその場所に、ジラント達の姿は既に無く。
キリルやメーフィエがその場に居たならば、会釈位はしたが声はかけなかった。
誰がいてもいなくても、構わず青年の元へと近付いて]
ベルナルトさん。
[名を呼び、傍らに膝をつく。
その顔を見て、緩く細めた目を、伏せて]
借りにしておくと言っておいて。
…踏み倒していくのは、どうかと思いますよ。
[さらりと、金の髪を掬いあげて。
青年にしか見えないように顔を俯かせ、言葉を紡いだ後。
ふらりとした足取りで、この場を離れた]
[それから、どこへ行き何をしたか。
少なくとも、生きている誰かの部屋を訪ねることはせず。
食事を取りに行くことも、しなかった。
この屋敷に着いたばかりの時は確かに空腹を覚えていたのに。
今は、まったく食欲が湧かなくて。
リディヤの部屋、女主人の書斎と辿り、彼女達の亡骸に触れ。
最終的に足を止めるは、三階の展望室**]
─ 数時間前:一階/室内庭園 ─
[ジラント>>26から返る声は是を含み。
僕は彼がとびきりの獲物を仕留めたのだと改めて知る。
彼の指示通りに止血を手伝い、上がる絶叫>>28に思わず耳を塞ぎたくなった。
けれど目の前で弾け飛ぶ紅が目に入り、反射的に言われた通りにガーゼで傷口を強く押さえる。
問うた声に返されるままに押さえつけ、処置が終わった後に僕は深く長い息を吐いた]
終わり……ですよね。
うん。
[問いに返る声>>29に頷き返して、僕はジラントを支えて大広間へと連れて行った。
食事はついでに一緒に済ませる。
その後、彼が自室に戻る際にも手が必要なら、支えることもするだろう*]
― 自室 ―
ん……。
[男は深い眠りから目を覚ます。
いつもの様に身体を起こそうとして、ずきり、胸に走る痛み。]
―――っ!!
[再び伏せ、痛む箇所に視線を向ける。]
あー、ちくしょ。
こりゃ暫くは大人しくしとかねぇと、か……。
[血は止まっている様だが、激しい動きには耐えられないだろう。
顰めっ面をしつつ、今度はゆっくりと身体を起こして、煙草に手を伸ばす。]
[紫煙、深く吸い込み、吐き出した。
思い返すのはベルナルトとの戦い。
人を喰らうバケモノなのに、戦いぶりは人のそれと変わらなかった。]
なんなんだろな……鬼って……。
[ぽつり、零して。
嗤う。
小難しいことを考えたってどうにもならないとわかってるのに、と。]
[煙草を吸い終えた男は、ゲームが終わったなら玄関が空いているかもと、念の為に腰に鉈を下げ、部屋を出た。
壁に片手を付きながら、なるべく傷に響かない様にそろりと廊下を歩いていれば、血の臭を近くに感じ、顔を顰めた。]
ここ、か……。
[血の臭が漏れている扉をノックする。返事はない。
用心のために鉈を抜いてから扉を開けた。
どす黒く変色した血に染まったシーツが見えた。]
→ ニ階・リディヤの部屋 ―
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