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かわいそうな、人狼の血を引く人間だ。
ギュンターさんも酷いものですよ。
…わざわざ場を完成させてくれるなんてねぇ
[広間には入らない]
[廊下の窓を開ける]
[鳴き声が響いた]
[口元が、笑んだ]
―一階・広間―
[昨晩に似た、けれど、どこか異なる雰囲気。
幾人かが、緊張の空気を持って、扉の外へと出ていく。
暖炉の火は変わらず盛っているのに、寒かった]
……なに?
[問いかけ。]
[一度踏み出してしまえば止まらない。
空気に流れる小さいながら大きな異変と、何処からともなく聞こえるアーベルの叫び。
仮説を肯定してしまうような巨大な不安は、すでに仮説から真実に変貌しかけている。
だが...はそんな不安を打ち払うように、アーベルの声の方向に走り出した]
あ!まって!待ちなさいブリジット!
外に出ては……!
[立ち上がって]
[だけど]
[間に合わない]
[不安だけが、大きくなっていく]
だって、レーネもいる…。
[開け放たれた扉から夜気が入り込んでくる。
口を噤む。
今、自分は何を言って、何をしようとしていた?]
え、あ…?
[走る頭痛と、体内を駆け巡る熱と。
知らない記憶と、分からない現状と。
翻弄されて目を見開く]
…っ。
[男の低い声には、有無を言わせぬ説得力があって。
なにより、かつて共に暮らし、知識と技術を授けたあの人を思い起こさせた。
老いてなお衰えきらず、トレンチコートの似合った師匠。
若ければきっと、こんな感じだったのだろうか。
あの人がこの場に居れば…やはり自分にはそう指示しただろう。]
判りました。
…けど、30分経っても彼らが戻らなければ、迎えに。
[ゆっくりと中へと歩み、淡い胡桃色が視界に映る]
て、リュー、なにしてんの。
[そこには、窓があったはず。
月光は少女の身体に遮られている]
ひ……
[足が止まる。すくむ。これが血の匂い。
女が血に強いなど、嘘ではないのだろうか。]
でも、これは、ただの狼。
ただ、人狼の、「残り物」を食らっているだけ。
まちな、さい……。
[がくがくと震える足は、動かない。追いかけられない。
獣たちの咀嚼する中、へたりと座り込んだ]
……こら、じーさん。
…………答えろ。
……答えろってば!
[傍らに膝を突いて、問う。
返事がないとわかっているのか。
わかっていて、認識していないのか。
それは、当人には到底、理解の及ばない事で]
……なんで……?
[かくん、と。
身体の力が抜ける。
紅の染める雪の上に]
……わけ、わかんない……。
[狼は食事中なようで今のところ無事であったがこんな場所、早々いたくないものではあって
アマンダの声はかろうじて届くと足を止めずに一度だけ振り返り]
アーベルがいる。放っておけんっ!!
それよりさっさと帰れお守りを増やすなっ!!
[大声量でそれだけ言って、追いかける足を速めた]
本当に、愉しいものが見られそうです
[呟きを落として広間に向かった]
[開いた窓は風を通す]
[冷えた風だった]
[広間の人々に何があったのかと尋ね、*彼らと行動を共に*]
たくっ!これだからガキってやつあ……
[男は、外へと駆け出した二人に舌打ちを漏らし、座り込んだイレーネから手を離す]
おいこら、そっちも待てっつってんだ!
[窓に手をかけるリディに駆け寄って引き止めようとする]
リディも!行ってはだめ!
[だけど、止める事は出来ない]
[恐らくは、流れ始めてしまった、運命の流れは]
……満月の夜に……。
でも……それでは……。
[わたくしたちは、と言う最後の言葉は空気に溶けた]
[ほぼ同時に走り出したであろうブリジットをちらりと見て、一瞬戻した方がいいかと思ったが、次第に強くなってくる血の匂いに、治療を考えると彼女が居た方が良いと判断し、無言で走る。
そして――]
アーベルさん!
…って、おい!
[その横をすり抜けていく小柄な姿を思わず追って。]
女子供を守るんならいいだろ!?
[ある意味、屁理屈も理屈。
腰の銃を確かめつつ、外へ出た者を追う。]
[ざくざくと雪を踏みながら。]
[ミハエルのその背を追いかけながら。]
[走り、走る。][進めば進むほど。][血の匂いは咽るように濃くなって。]
おも……
お守りじゃないわよ!
人狼がなんだかわかんないあんたに言われる筋合いなんてないわ!
あたしはずっと!小さい頃から…!
[足に爪をたてて、がりりと引っかく。
文様をいれるため、右手小指の爪だけは、伸ばしてある]
これ、で、歩けるわよ!
…違うわ。
あの時は姉様を兄様が止めて。
私も行こうとしたら。
あの時傍に居てくれたのは…?
[頭痛のする頭を抑えながら。
呟きは独り言というには大きいものになってゆく]
違う、そうじゃない。
今はここは、私は……。
やっと…追いついたか
[言葉通りやっとアーベルに追いつく
血がついているようであるが、それは傍らに倒れる骸の血であって、別に外傷は今のところないようだ。
最も正常でないことなど当たり前であるが
そっと傍により、骸を拝見した]
こら、やんちゃするな――
[冷たい風が流れ込む。
澄んだ空気ではなくて、澱みを孕んでいた。
何の匂いかと判断する前に、白い大地へと降り立とうとする痩躯を追おうとして、窓枠に強く突いたのは、またしても慣れた右腕だった。
動きが止まる]
[その間に、陽のひかりに似た金色が駆けていくのが見えた。
声からして、エーリッヒだろう。
自分に体力がないのはよくわかっていた。感情はなおも追いすがろうとしたが、彼に任せたほうがいいと、理性は判断して、窓から離れる]
[室内を見渡した]
……あ。
[名を呼ばれたような気がした。
それから、人の気配。
蒼の瞳が、ゆるり、と瞬く]
……。
[何か、言おうとしたけれど。
言葉に、ならなかった]
…何故。
これを持っていたのは姉様なのに。
姉様の朱花は。
もう失われたのに。
[頭痛が思考を切り裂こうとする。
それでも目の前に現実がある以上、最早それも役には立たず]
[シスターの制止も、ハインリヒの怒声も。][今は遠く聞こえない。]
[ミハエルにも追い返されなかったので。][そのまますぐ後を走り出す。]
[そしてようやく。][金と白以外の色が見えた。]
[それは、それは。]
[――――― 一面の 赤。]
――――――――――――――――――――――。
[悲鳴すら、出ない。][手放してしまいそうになる気を辛うじてつなぎとめたのは。]
[薬師、ローグとしての、誇りだけ。]
[慌しく動く流れにどうするべきか戸惑い]
[そして、どこか混乱した様子のイレーネの側に寄る]
イレーネさん?
ここが判る?わたくしがわかるかしら?
[そっと、彼女を驚かさないように声を掛けて]
[窓枠の上、手を掴まれ引き止められた。振り返る。]
だって、いないんだもん。
せんせーも、ベルにぃも、ユーリィも、
探しに行かないと。
[うわ言のように言葉は落ちる。
頭の芯がくらくらとした。]
村を守るとか抜かしながら勝手にしにやがって……戻るぞ。アーベル。
[それは食い漁られた無残な死体のギュンター
呆然としているアーベルにかける気の利いた言葉など浮かばずにただそれだけで]
なんだ…ミハエルも来たのか。
[若干のあきれを込めて、そう呟いた]
[大きな背中がひざまづくのが遠くに見え。唸る。
アーベルの姿も見えて。]
ああ。
[追いすがって、彼らに追いついて、勿論できることなどない]
……。
[シスターの声にのろのろと顔を上げる。
真っ青な顔のまま、問いには答えずに]
…私の花は。
咲かなかったのに。
咲かなかったから。
兄様は私には。
[どこか違う光景を見ているような瞳で]
……でも、まだ。
[マテウスの呼びかけに零れたのは、こんな言葉]
何にも、聞いてない、から。
なんにも。
たくさん、聞いたのに。
じーさん、一つも、答えてない、から……。
[だから、行けない、と。
ぽつり、呟いて]
[同じように少女を引き止めようとしていた青年が動きを止め、その後ろから飛び出して、少女の腕を掴むと、半ば外に落ちかかっていた身体を引き戻そうとする]
みんな戻ってくる!お前は待ってろ!
[少女の口にする中の一人が傍らの青年であるとは気付かずに]
[ミハエルの先に見えた、二つの人影に。][赤い雪の脇を通り、近づいて。]
…アマンダさん、マテウス、さん。
[声は掠れ、顔は青ざめたままだったが。]
これは、これって…。
[状況が、読めない。][否、読めているのだが、理解するまでに。][酷く、時間が。]
[追いついた先に広がるは、赤。]
…はじまっちまった。
[祭りの開始を告げる、獣達の血の宴。
贄に捧げられるのが自衛団というのも、あの事件と奇妙に一致して。
役者は揃い、舞台は整い、そして幕は今さっき開いたところ。]
…さっさと戻れ!
どの道もう助からない!
[先へ行ったものへと声をかけ、銃を抜く。
死体に群がる獣達が、生者に興味を持つ前に戻らないと。]
アーベル。戻るわよ。
おじいさんは、明日まで待ったって答えないの。
[かける言葉などないのだけれども、
誰かが言わなければ彼は帰らないのだろう。ならば]
ブリジット。近くにきちゃだめよ。
あなたも一緒に帰りましょう。
[できるだけ、やさしい声をかけたかった。
でもきっと、失敗している]
[結局来た、アマンダや、ブリジットを視界に納めながら、呆然と、いけないと呟くアーベルを強引に立たせる。
爺さんといっていたのがギュンターであることは察していて、ショックなのだろう。
だが酷ではあるが、他の自衛団員を食事している飢狼がいつこっちに牙を剥くかことになるのかを考えれば悠長なことなどしているつもりはなく]
もう聞けねえよ。アーベル。あの爺さんは頑固だからな
…なんでそうなったかは。後ででいい。今をどうするか、今はそれが重要なのはわかるだろう
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