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───……薬、飲んでおかないと。
[今はだいぶ落ち着いたけれど、いつまた発作が起きるとも知れない。
ポケットのリスを食べかけのマカロンがあるテーブルへと置いて、エーリッヒはベッドの傍に置いてある小箱を手に取った。
その中から粉薬を取り出し、水と共に飲み下す]
っ───。
…けほっ…。
………難儀な身体よね。
[少し喉に引っかかって堰をしつつ、ぽつりと自嘲気味に言葉を零した。
鎮静作用もあるその薬はゆるゆると睡魔も引き寄せてきて。
今日は店を閉めたまま、ゆっくりと休むことに*した*]
―詰め所―
あなた。
[ここへ来るべきではない。
そう理解してはいるものの、やはり足は向いてしまい。
団員に通されると夫の待つ部屋に入った。
夫は相変わらず難しい顔をしているようで。
それが少し前にここを訪問したベアトリーチェの一件がそうさせているのだとは知らなかったが。]
………ええ、明日から宿屋に泊めて貰うことになって。
あなたも出ずっぱりになるでしょうし、丁度良いわねぇ。
[夫は事態が収まるまで帰らないだろう。
直接告げられてはいなかったが、それくらいはわかる。
人狼以外の事を話す時は勤めて穏やかに。
他愛の無い話が夫婦の間を行き来した。
自分が何物であるかを、改めて夫に告げる事はなかった。]
あなたも、体には気をつけて。
ええ、私は大丈夫ですから。
[心配させないようにと向けた笑みだったが、少しぎこちないのは察されただろう。
だが夫は昨日のように自分を抱きしめる事はなかった。
少しだけ寂しそうにするも、今日はまっすぐ家に帰る。
やはり他人の同情や恐れの視線は刺さり、何度か溜息をついてしまったが。]
―自宅―
[帰るとまず小さな鞄に替えの服を入れてから、枕元に置いて横になる。
真夜中に一度、思い出したように目が覚めて。
奥のタンスにしまっておいた小さな小箱を取り出した。
中に入っているのは、銀の針。
プロポーズされた時に夫から送られた針は、輝きを損なう事無くそこにある。]
私は翡翠のついた指輪が欲しかったのに。
あの人、魔よけになるからってこれをくれたのよねぇ。
プロポーズ、嬉しかったのに…。
[それで喧嘩になったのよねぇと、懐かしそうに箱を撫でる。
人狼は銀を嫌うと言う。こんなものでも効くのかしらと思いながら、その箱も鞄の奥にしまったのだった*]
―翌日―
[老女の朝は早い。
日の出と共に目が覚めると、鞄を持って外に出た。
とはいえこんな時間に宿の扉を叩くわけにもいかず、暫く暖まって過ごそうかと向かう先は広場のはずだった。]
…あら?
[その途中、玉泉へと続く道に、何かが転がっているのが遠目に見えた。
老女の目には、はじめ猫が蹲っているようにも見えた。
だが、それにしては何かがおかしい。
行ってはいけない。
どこかがそんな警告を発するのに、歩みの遅い足は止まらない。
嗅ぎ慣れない匂いが鼻を擽り。
辿りついたその先で見た物は。]
[苦しそうに歪んだ最愛の人の顔。
倒れた身体は、一見しただけではどうなっているのかわからないくらいに無残に散っていた。
内臓の何が無いのかなど、知る事もできない。]
きっ…
きゃあああ!!あなた――――!!
[早朝に老女の張り裂けんばかりの悲鳴が、村に響き渡る。
傍らに崩れ落ちると、誰かが来るまで周囲に飛び散った内臓や腕を必死に掻き集めようとして、その身は赤く染まっているだろう**]
― 翌朝:自住居 ―
[老婆の悲鳴もなんのその、
男は今日もぐっすり眠っていた。
大きめのバッグに、衣類は詰め込まれている。
本は一冊も、其処に入っていなかった。
アーベルに貸した人狼の伝承の本には、
極一般的に知られている事実が記入されている。
身体能力の事、治癒力の事。
銀に対する反応。
生者、死者を見定める者の事。
狼のイラストの描いてあるページに、栞の様な細長い紙が一枚挟まっている。
其処には二年前、村を出た後の日付が、ウェンデルの字で*書かれていた*]
─ 宿屋 ─
[察したような表情>>27に返すのは苦笑。
鍵を受け取ると、カップに残った紅茶を飲み干して立ち上がった]
……ご馳走さま、と。
んじゃ、しばらく、世話になる。
[足元に置いておいた荷物を拾い上げると、部屋へと向かう。
アーベルに声を掛ける黒いローブ姿>>23とすれ違う時には、泊り客というのは把握していたので、軽い会釈はしていた。
何気に、ベアトリーチェの名は聞き損ねていたりするが、そこまで意識は回っていない。
元々、よほどの事がなければ他者に対して突っ込んで興味を持つ気質でもないのだが]
─ 宿屋・自室 ─
[部屋に落ち着くと、壊れた腕輪の包みを出して開き、明り取りの近くにそっと広げる]
……鳳の方に、傷が入ったか。
直せない範囲じゃない、な。
[二つの玉と枠に施した細工の状態を確かめて小さく呟く。
刻まれた細工は、番の鳥。
二つの玉に刻んだそれを、水晶の珠を挟んで向き合う形に配し、同じく鳥を刻んだ銀の枠に嵌めた物。
父の故郷で、霊鳥と称されるものの意匠。
永きを共にし、護り続けたい、との意志を形にするにはどれがいいか、と考えて選んだのがそれだった]
……まったく。
一人残した挙句に、こんな騒動に巻き込んじまって。
空回りもいい所だろうに……。
……まったく。
一人残した挙句に、こんな騒動に巻き込んじまって。
空回りもいい所だろうに……。
[ぼやくように呟いて、玉をそっと布の上に置く。
翠に宿るのは、何事か思案するようないろ]
……念の強さを思うなら、作り変えた方が、守りとしての機能は高まるだろうけれど。
それは、望まないだろうしな……。
[でなければ、わざわざ自分を訪ねては来ないだろう、と。
そう思い、浮かんだ考えは脇に退けておく]
とにかく、明日の朝一で清めに持ってくか……。
俺も、ちゃんと気を鎮めないと。
[ベルトから下げた組紐飾りの玉を軽く握り締めながら呟いて。
一度だけ、荷物袋に──その中の黒の包みに視線を向けた後、ベッドに潜り込んで目を閉じた]
─ 翌日・玉泉への道 ─
[目覚めの早さは常の事。
厨房では、朝の支度が始まる頃か。
ともあれ、邪魔にならないように短く朝の挨拶と、玉泉に向かう事を告げて外に出る]
……え?
[外に出て、歩き出して間もなく聞こえたのは、悲鳴>>69。
それが向かう先から聞こえてくる、と察すると、僅かに躊躇った後、走り出し──]
……っ!?
なん、だ、これ……っ!?
[目に入ったのは、凄惨な亡骸と、その傍らで何かを掻き集めようとしている姿。
亡骸が誰の物で、傍らにいるのが誰か、認識するまでやや時間がかかった]
……団長、に。
ヨハナ、さん?
[ようやく口をついた名は、ヨハナまで届いたか。
距離を詰めるに従い強くなるにおいに、知らず、表情が歪む]
……ヨハナ、さん。
落ち着い、て。
[無理を言っている。
そんな冷静な部分も、意識にはあるが、何か言わずにはおれなくて呼びかける。
何があったのかとは、聞けなかった。
無残な亡骸と、散らばっていたものと。
それだけで、状況は察する事ができる]
……人、狼。
[これが人の手で、力で成しえるものとは思い難かった。
なれば、と思考は自然、そちらへ流れる]
……もし……受け入れて、いれば……阻めた?
[無意識、零れ落ちるのは答えを求めぬ、そして得られぬささやかな疑問。それは、すぐ傍のヨハナに届いたか]
とに、かく。
このままには、しておけない……。
[団長も、それからヨハナも。
けれど、自分だけではどうにも手が足りないから]
……俺、みんな、呼んでくる、から。
[小さく告げて、歩き出す。
途中、同じように悲鳴に気づいてやって来た者と行き会うなら、見たものを告げ、詰め所へ行く、と伝えるが。
女性や子供に対しては、「見るもんじゃない」と押し止めるくらいの余裕は、一応残っていた。**]
―翌朝―
[のろのろと、身を起こす。
机の上にには昨晩の作品が広げられたまま。
大きな猫に縋り付くようにしている少女がひとり。
それは今にも動き出しそうな―――]
…つ、伝え、ナなな、ゃ、
[起き上がると身支度を整えて。
縫いあげた布を手に、小走りで外へ出た]
[足早に向かったのは詰所だった。
駆け込む勢いに団員が気圧されたように引く]
ぎ、ギュ、ギュ、っター、だん…は?
あ、アノ、た、伝え、ナきゃ、
[慌てて話すが、どうやら通じない。
音は滑る。眉を顰める団員もいて。
だがどうやら今ここには居ないようだと察すること出来て
ゲルダは刺繍の布を手に、長い息を吐いた。
だが、待てないといった様子で。
詰所の出入口の脇に、じっと立って外を見る]
─ 翌朝/自住居穴 ─
[薬を飲んだ翌日の目覚めは遅い。
深い眠りを遮ったのは、小さな居候の威嚇する鳴き声が聞こえたからだった]
───……ん。
パ、ラッシ…うるさ、い…。
[文句を言いながらゆっくりと身を起こす。
寝乱れた髪は右目を覆っておらず、異眸が暗闇の中に浮かんだ]
……灯り……。
[自然光の入らない洞窟では、室内は常に灯りを必要とする。
寝る前に消したそれを求め、手探りで火をつけた瞬間]
………パラッシ、どきなさい。
[「ギーギー」と騒いでいたリスが跳んで来て、両目を覆い隠している。
首根っこを掴んで引き剥がすと、点けた灯りが右目に強く突き刺さった]
っ………。
ホント、不便ね。
[右手で右目を覆いながら、溜息混じりに言葉を零す。
迂闊に外では暮らせない理由の一つ。
光に弱い、色素の薄い瞳。
暗緑の左目に対し、右目は鮮やかな赤色を示していた]
全く、どうしたっていうの、パラッシ。
[落ち着きの無いリスをベッド脇へと置いて、先ずは身だしなみを整える。
髪も右目が隠れるよう、きちんと整えた]
ご飯は……食べてるわね。
それにしても様子がおかしいわ。
[食べかけだったマカロンは食べカスを残して平らげられている。
リスがそれを食べたのは明白なのに、落ち着く様子は全く無かった]
そう言えば、昨日も…。
[トンネルが通行不可になった時も何やら忙しない様子だった。
また何かあったのか、と思考が巡り、リスをコートのポケットに入れて自住居穴を出る。
向かう先は何かあれば動く、自衛団の詰所]
―自衛団詰所前―
[長身の男が見えて、目を瞬かせる。
聞いたことのない音に、視線はリスへと落ちたあと
彼の顔へと上がり、ん、と首を傾ける]
だ、団長、を、まま待っテて…
み、み見てな、イ?
[それに、そのリスの声はどうしたの?
続く問いは、言葉でなく視線と首の傾けで示す]
─ 自衛団詰所前 ─
[歩きながら巡らせる想いは多々。
あまりにも多岐に渡り過ぎて、まとまりに欠く。
ともあれ、やって来た詰め所の前には、団員の他にも見知った姿があり]
……何、してんだ、お前ら?
[首を傾げて問いかける。
呼びかけの声はやや、かすれていた]
…、ら、イヒアルト。
[見えた姿に、視線を向ける。
胸元に畳んだ布握りしめたまま、掠れた声に首を傾けた]
わ、ワタしは、団長、ま、待っテぅ。
[知らない?と問を言外に添えてじぃと見た]
─ 自衛団詰所前 ─
……団長、を?
[ゲルダから返された答え>>86に、翠を伏せる。
落ち着こうとする時の癖で、ベルトから下げた紐飾りをきつく、握り締めた。
エーリッヒからの問いかけ>>88には、一つ、息を吐いて]
そう、か……。
俺は、ひとを、呼びに。
……団長が……。
[ここで一度、言葉を切る。
過ぎるのは、凄惨な光景]
……団長が……死んで……た。
それも、普通の死に方じゃない。
なんていうか……そこまでするか、っていうか、なんというかな、状態で。
[掠れた声で紡ぐものの、さすがに状態の仔細は告げられない]
……ヨハナさんが、傍にいたんだけど……ちょっと、話とか、聞ける状態じゃないし。
俺だけじゃ、どうにもできないから、とにかく、人手を、って、思って……。
[ぽつりぽつりと告げた言葉に、団員たちがざわめく。
場所はどこだと問われると、玉泉への道、短く答えておいた]
…ッ
[ライヒアルトの言葉に、ゆっくりと目が見開かれる。
ざわりと全身に鳥肌立てて口を開くも、
ざわめく団員たちの声に、言葉は埋もれて]
じ、ろロウ、のの、し、しわざ?
[やっと届けられたのは、それだけ。
握っていた布がはらりと足元に落ちて広がる。
描かれているのは、ロミだと見れば分かるかもしれない]
─ 自衛団詰所前 ─
……ああ。
少なくとも、俺には、そう思えた。
[ゲルダ>>91とエーリッヒ>>92、それぞれから向けられた言葉に、返すのは肯定。
ゲルダの手から布が落ちるのは見ていたが、それに対して動くより先に、騒ぎを聞きつけてきたらしき自衛団の副長に名を呼ばれた]
……いや、だから。
俺も、玉泉に行こうとしたら、そうなってるのを見つけただけだから。
とにかく、団長と……ヨハナさん、あのままに、できないだろ。
……かなり、酷い、状態だったし。
[ぽつり、と告げたなら、わかっている、と返された。
これからどうなるのかとか、聞きたい事はあったが、問える状況でもなく。
指示を受けた団員たちが忙しなく動く様子に、は、と息を吐いた]
あ、
[エーリッヒの言葉に顔を向けて。
拾ってくれようと伸ばされた手が止まるのを見る]
あ、あノ、ありがと、う
そ、そ、レ…見せに、き、キタの…
[息を吐き出す。その相手はもういないらしい。]
─ 自衛団詰所前 ─
[影落とす表情>>96と、冷静な言葉>>97と。
それぞれの反応に、僅かに翠を細めるも、何かいう事もなく]
……案内?
ああ、わかった……。
[現場までの案内を請われ、頷く]
てわけで、付き合わされるみたいだから。
また。
[ゲルダとエーリッヒには短くこう告げて、再び玉泉への道へ向かった]
― →ロミの住居―
……。うーん。
[僕たちは手を繋いで、まずは彼女の住居へと向かいました。
追いかけてきた時とは違って、今度は辺りの様子に気をつけながら歩きます。そうして見れば、確かにいつもとは様子が違いました。
顔馴染みのお姉さんも、近所のおじさんも、誰も僕らに話しかけては来ません。よく知らない人ですら、僕らを見るとぎょっとした顔をしたり、言葉もなく睨みつけてきたりしました。
それでも直接的な危害を加えられなかったのはせめてもの救いでした。彼らの良心だったのでしょうか]
……無理しちゃダメだよ。
[2つ目の申し出は断られてしまいました>>41が、道中で何度か彼女にそう囁きました。
怯えているようなら頭も撫でました。
だけどそういう僕の顔は、少しだけ強張っていたかも知れません]
……。えっと、泊まろうって言ったの、僕なんだよ。
村の人たち、僕らを怖がってるみたいだし……ロミも怯えてた。
だから、あんまり外に出ない方が、いいんじゃないかなって思ったんだ。
[彼女とお父さんの会話に口を挟んだのは一度だけでした。
彼女が言っていたもう一つの理由――家に帰りたくない、ということに関しては何も言いませんでした。
それが後押しになったのかどうかは分かりませんが、ともかく宿泊は許されて、準備を終えた彼女と一緒に今度は僕の家へ向かいます]
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