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[その後の攻防は一方的に近かった。
司だけあってただやられてはくれない。
けれど先の一撃と、相手がオレであることからか、幼馴染の動きは鈍かった。
オレは特化された能力──スピードを活かしHIT&AWAYを繰り返していく。
時折反撃を食らったりもしたが、相手に比べれば大したダメージでもない。
身に刻む傷に構うことなく、オレは両手を──空気を圧縮した爪を振るった。
腕を、足を、腹を、背を。
接近する度にどこかを一か所ずつ削ぎ落としていく。
その度にオレは血肉を喰らい、チカラを増して行った]
苦しいか、瑞穂。
オレに嬲られるのは悲しいか?悔しいか?
そろそろ楽にしてやるよ。
あまり長引いて誰かに見られちゃ敵わねぇ。
あばよ、瑞穂。
[歪んだ笑みを張り付けて、オレは幼馴染に顔を近付けた。
その至近距離から軽く地を蹴り、脇をすり抜ける]
約束通り、チカラは貰ったぜ。
[そう言って、オレは右手に掴んだ生の塊に齧り付いた。
鼓動を失った幼馴染の身体は、ゆっくりと前のめりに倒れて行く。
幼馴染の左胸に空いた穴から大量の滴が零れ、地面を彩って行った]
一人でやらなきゃならなくなったのは面倒だが、愚痴ったって何も始まらねぇ。
次はどいつが良いかな。
[生の塊を喰らい切ると、手についた赤を舐めとる。
受けた傷は得たチカラも相まって既に塞がっていた。
ひゅん、と風が振り切れる音が鳴る。
あれだけ派手にやっておきながら、服や帽子、マフラーに赤の痕跡は無かった]
[こうしてチカラを増したオレは、演技にも更に磨きをかける。
その場に立ち尽くしているのを誰かに見られたら、こう答えることだろう]
さ、さっき、瑞穂が居ないのに気付いて窓の外見たら、何かを追いかけるのが見えて…。
様子がおかしかったから、後を追ったら……!
[駆けつけたら幼馴染が倒れていて他には誰も居なかった、と伝え、僅かに身体を*震わせる*]
「ひびきは、かわる。
おもいは、かわる。
ゆらゆら、ゆらら。
ゆらゆら、ゆらら。
まよい、まどうは、ひとのさが。
まどい、まようは、よのならい。
ゆらぎ、ゆく子ら。
ゆくさき、いずこ?」
―稲田家・二階→繁華街・広場―
[カーテンは少しだけ開いていて、その隙間が頬に当たって暖かかった。
ぱちりと目を開けて、ぐしぐしと目を擦る。
傍に人がいても、その人らは眠っているようで。
百華が居たとしても、その姿をぼんやりとした様子で見ていた。
誰も起こさないように、そばに置いてあったうさぎ背負い絵本を手にし、そっと一階へと降りてゆき、一人で外に出る。
ぽてぽてと、散歩するように外を歩いた。
朝日はゆっくり地表を暖めてくれるけれど、空気はまだ冷たく小さい体を包み込む。
はーっと、両手に息をふきかけ、まっかな指先を暖めた。
少し先にある広場に立つ。
そこで昨晩何が起こったかなんて知らぬまま。
どこかぼーっと、辺りを見ていた。]
―繁華街・広場―
[視界の隅に何かいた。
そちらへ動く。じっと奥のほうを見ると、そこには動かぬ小さな猫がいた。
あの時見つけた子猫なのか。
そんな事は、知らない。]
………ひょーま?つかさ?
[じ、と。子猫を見つめてそう問うも、もう、みぃという答えすらない。
きょろと辺りを見回して、地面に転がっていた少し大きな石を見つけると、大事な絵本を脇に置き、石を両手に持ってきた。]
ひょーま、つかさ。
[ぶん、と
石を
大きく
振りかぶって]
(―――――――――――ぐちゅり。)
『み゛ぎぃ、っ』
[小さな命が最後にくぐもった声をあげた―――ような気がした。
それで最後。
少し大きい石を持ち上げると、頭を潰され目が飛び出た肉塊が転がっていた。
ぺいっと、石をその上に捨てる。
どすっと鈍い音がして潰れて、血が反対側に少し飛んだ。量が少ないのは、きっと時間がたっていたから。]
いっぴき、かなぁ?
[無邪気な問いはうさぎしか拾わない。
そのままじーっと死骸を見ていると、それはふいにゆらりとした桃色の陽炎に包まれ消えていった。]
?
[きょとん。不思議そうに、石を持ち上げる。そこには血の痕跡が残っているだけ。
桜は正しく、子猫を輪廻の輪の中へと導いた。]
あっ!そっか!
これが『かえす』、なんだ!
[ぱぁと、理解できた事にとても嬉しそうに笑って、手についた血を石でぬぐって落とした。
そのままててっと戻り稲田家に入り、真っ先に洗面所で手を洗うと、した事の跡は綺麗になくなる。
そうしてそっと二階に上がると、うさぎを座らせ、もう一度布団に潜りなおした。]
……ちえおなかすいた。
[だれか居たなら、そう言い起こす。
昨日のことを大丈夫かと言われたら、ちょっとびくっとした後眉毛を下げ、小さく小さく大丈夫と言いながらこっくり頷くだろう。]
[こどもは賢くあざとい生き物だから。
そうしようと、本能が動く。
それは演技ですらもない、子供の仕草。
空腹も怯えも帰りたいも大好きも、全部嘘ではないのだから。
何かが変わってしまった、けれど何も変わらない。
うさぎは全部を見ていたけれど、なんにも言わずに*黙ったまんま。*]
―中央公園/夜―
[返される叫びに、微かに眉を寄せ。
始まる『還し』の舞、それをただ、静かに見つめる。
舞に込められているものはわかる。
わかるが故に、言葉はなく]
……は。
因果な、もんだ。
[口をついたのは、吐き捨てるような言葉]
…………。
[視線を巡らせる。
百華は一先ず落ち着いた様子。
ただ、今の一連の出来事の中でも表情の変わらない黒江の様子は、妙に引っ掛かった。
無口無表情は近所付き合いでそれなりに知ってはいるが。
それにしても]
……ま、とりあえず、だ。
[ため息一つ。
歩き出すのは、神楽が立ち去った方。
公園から離れた辺りで追い付き、声をかける]
神楽。
[声は低く、静か。
慰めるような響きは伺えない]
さっきも言ったが、『司』としての役目を貫くなら、貫け。
だが、『司』はお前だけじゃないってのは、意識にいれとけよ。
[同じ『司』を信じろとは言わない。
頼れとも言わない。
ただ、他にもいる、という、それだけははっきりと言える事実を告げる。
裏側には、先にも投げた言葉が潜んでいるのだけれど。それは、表に出す事なく]
[淡々と告げた言葉に、返る反応は如何様か。
それがどんなものであるにせよ、言いたい事は、結局は一つ]
……魔を滅する事に囚われ過ぎて、お前自身が魔に堕ちるなよ。
とりあえず、今は。
頭、冷やせ。
[一方的にそれだけを告げて、踵を返す。
再度、戻った公園には、まだ人の姿はあるか、否か。
いずれにせよ、一度足を止め、舞散る薄紅をしばし見つめる]
……『いのちのまつり』……か。
[ぽつり、呟くのは、桜の童女の紡いだ歌の一節。
歌った童女の姿は、今は見えない]
……どうせ、一度はなくしたようなもんだ。
有効に、使わねぇと、な。
[小さく呟き、マンションへ向けて歩き出す。
その後にそこで起きる事など、*知る由もなく*]
―回想・中央公園―
[最初は神楽の方を向いていた。
憑魔がいると確信できているのは力を持つモノのはずだから。
そして自分は。それが司なのだと知っているから]
2人目。
[短い呟きは誰かに届くことがあったか。
直後響いた伽矢の声に百華の方を振り返る]
……!
[迷うようでもなくその人を選んだことに驚いた。
その強い思いに打たれたように、表情一つ変わらぬまま百華の挙動を見ていた]
「あなたもなの?
あなたが笑わないのは、悪魔のせい?」
[緋に染まった銀を片手に近づいていくる百華へ答えることもできずに、ただじっと見つめていた。
そうではないと言いたかった。けれど言えなかった。
ならばどうしてなのかという答えを、瑤子は持っていなかった。
甲高い少女の悲鳴が空間を震わせた]
[反射的に背中をビクリとさせる。
一瞬にして誰かの影が視界を遮った]
史…?
[それまでとは調子の違う百華の声。掠れた史人の叫び声。
呼びかけた声は喉に張り付いたように小さくて。
深呼吸するよに吸って、吐く]
大丈夫。
史兄さんの方が怪我してる。
[座り込む史人に尋ねられて首を左右に振った。
ポケットを探ってハンカチを取り出し、応急手当に傷口を縛ろうと手を伸ばしかけ、止める。
緋色の浮かぶ掌に舌を這わせるのを見た]
司は憑魔を喰らい清める。
神楽さんが還してくれてよかった。
[微かな呟きを耳にして、溜息のように呟いた。
神楽の舞は視界の端に見ただけだが、百華に向けた声は聞こえていたし、気配の変化はもっと肌に近いところで感じていたからそれは分かっていた。
史人の隣に一緒になって座り込み]
そろそろ行こう。
休める場所ないなら、私の部屋使っていいから。
史兄さんもちゃんと休んだ方がいいよ。
[落ち着きを取り戻すまで待つとそう提案した。
緊急避難だよと続けるが、史人の返事はどうだっただろう]
次は、正当防衛手段も取らせてもらいますから。
[百華が残っているならそんな言葉も残して、マンションに向かい歩き始めた。
公園を出る際、ちらりと繁華街の方を窺ったことに一緒に誰かいたなら気づいた*だろうか*]
─自宅─
[帰り着いた後の記憶は、曖昧。
それまで溜まっていた疲れが一気に出た、と言うべきか、否か。
寝室にたどり着けたのは、ある種の奇跡と言えたかも知れない]
……ち……だるい、な。
[目覚めの後、口をついたのはこの一言。
起き上がり、サイドボードに置いたミネラルウォーターのボトルを手にして喉の渇きを癒した後、煙草に火をつけ。
立ち上る紫煙をぼんやりと眺めつつ、また寝転んだ]
……俺以外に、七人。
史さんと、神楽を抜いて五人。
あの、瑞穂って子は……外してもいい可能性が高いと見て。
残り、四人……四分の一。
[指折り数える。瑞穂に起きた事は、まだ知らない]
あのママさん……は。
読めねぇ、な……『憑魔』同士で殺しあわないって言い切れるかもわからんし。
……とはいえ、あの状況で、いきなり同類を刺す必要があるかって言うと……。
[特に、疑問を向けられていたわけでもない、状況。
そこで、敢えて同類を手にかける必要があるのか、と。
そう、考えると、可能性は薄くなる]
……暫定で、残り、三択、か。
やり難いっちゃやり難いが。
子供が『憑魔』化しない、とは言い切れんし、な。
何より、それで自分が死んだら洒落にならん。
可能性がある以上は、意識にいれとかねぇとな。
― 襲撃前・中央公園 ―
笑って欲しい……そうよ、黒江さんてばレジなのに、
客が来ても表情一つ変えやしない。
[顔を史さんのほうに向け、鼻で笑う。
嘲笑は誰に向けたものなのか。
視線は落ち着き無くあちこちを彷徨っている]
私、知ってるの。
こんな風になる前から黒江さんは変わらないって。
知ってたの。なのに。
[なのに、恐怖に負けた。
私は言いがかりをつけて雪夜君を襲い、黒江さんを襲おうとした。
雪夜君はたまたまアタリだっただけ]
……伽矢? 千恵ちゃん? 瑞穂ちゃんまで。
[守るべき子供達は、どこかにいなくなっていた]
[自分なりの状況整理。
それが終わった所でまたしばし、ぼんやりと天井を見つめる。
三年前は、ひたすらに動揺が先に立っていたが。
今は、どこか。
思考がマヒしているような感覚があった]
……まったく。
なんだって、こう。
二度も身近で起きるかね。
[想いが行き着くのは、そこ。
忘れたかった。
忘れていたかった。
記事にしたのは、自分以外の誰かに起きた出来事に。
他人事にしてしまいたい想いがあったから]
……は。なさけね……。
[零れ落ちるのは、自嘲の言葉]
― 襲撃前・中央公園 ―
正当防衛。ええ、そうしてちょうだい。
[私は新たな恐怖に怯えていた。
無実の人間を殺めてしまう事への恐怖]
正当防衛なら、仕方ないわ。
……仕方ない。
[私は、身を守るだけに留める事にした。
もう誰も襲ったりしない。襲われたら身を守るだけ。
憑魔や司にちっぽけなナイフが効かない事等、知りはしなかった。
伽矢が落としていった包丁を拾い上げ、握り締める]
花びら、いっぱい。
[柄や刃や布についた薄紅をふう、と吹き飛ばす]
……半端に、血だけもらったりしたから、こんな事になったんですかね……龍先輩。
そうだとしたら、恨みますよ……?
[しばし、間を置いて。
こんな呟きを漏らしながら、煙草を灰皿に。
ベッドから起き上がり、気だるい身体を引きずるようにバスルームに行ってシャワーを浴びる。
濡れた頭にタオルを引っ掛けたまま、次に向かうのはキッチン。
正直、食欲は余りないが、食べないわけにもいかなかったから。
パンとコーヒーでごく簡単な食事を済ませた後、寝室に戻る]
……さて、と。
さすがに、丸腰では出られんよ、な。
[呟きながら、手をかけるのはクローゼットの扉。
その、一番奥から出すのは、黒い布の包み]
誰もいない。 みんないない。
私、一人ぼっちね。
[誰が憑魔なのかわからない今、一人で居る方が安全なのかもしれない。
……けれど。私は手近な木にもたれ、幹にぺたんと頬をつけた]
怖いよ。 辛いよ。 ……寂しいよ。
[下唇を口の内側に巻き込んで、ぺろり、ぺろり。
紅が落ちたってかまやしない。
こめかみを木の肌に押し当てて、そっと擦り付けた]
[布を解けば、出てくるのはサバイバルナイフが一本。
ずしり、と重いそれは、今は亡き『司』の形見]
……普通のナイフや包丁よりはマシだろ。
[そんな事を呟きながら、それをジャケットの下に隠し持つようにして。
新しい煙草に火を点けると、部屋を出て戸締りをする。
しん、と静まり返った空間。
階段に響く足音は、やけに大きく聞こえた]
―自宅―
[洗面所の鏡に映った自分の表情を見る]
笑うって、どうすればいいんだろう。
[唇の端を引き上げてみる。他者に見る笑みの形。
貼り付けただけのような表情になった]
感情をそのまま出すって、どういうことだろう。
[診察を受けても理解することが出来なかった。
感情が無いわけではないけれど、その振れ幅はとても小さい]
強く思うって、どういうことだろう。
[引き攣るような笑みを消す]
桜が覆ってくれた場所。
私に足りないのは、何。
― 中央公園 ―
[木から身体を離すと、濡れた頬をぬぐう]
あの子達、どこいったんだろ。
稲田さんちかしら?
[けれど、子供達は、瑞穂ちゃんは。
憑魔とはいえ人を殺めた私を、どう見るのだろう]
……遠回りしよう。
[そうして、住宅街を経由して繁華街に向かう事にした]
―→ 住宅街 ―
― 住宅街・地蔵堂 ―
ここ、は。
[昼頃、常連の男に追われてきた場所。
殺しあったらしき男女が倒れていた場所]
あの二人、消えてる。
[巫女さんが舞った後、雪夜君の身体は消えていた]
あれと一緒なの?
[傍の地蔵に問うてみるも、地蔵はただ、ただ、慈悲深く微笑み続ける]
……あれ。
[はた、と瞬く。
目の前にあった手をじっと見つめて]
え、……あー、うん。
構わないなら、助かる。
[瑶子からの提案には素直に頷いた。
地面に手をついても、既に塞がっていた傷口から砂が入ることはない。
立ち上がり、もう一度右手を見て]
……。
[何か言うこともなく、百華には頭だけ下げて、後を追って行った]
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