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……誰がおとーさんですかと。
[いい加減、諦めた方がいいと思うが。
やっぱり突っ込んだ。真顔で]
無茶はしない……と言いたいが、向こうの出方次第だろ。
最悪、『全力』も考えにゃならんさ。
[『全力』とは即ち本性の解放。雷精にはそう言わずとも伝わるだろうが]
ま、大丈夫。後先顧みずに走りはしねぇ。
『現在(いま)』は……。
[続いた言葉は、*舞い落つ白に、溶けてゆく*]
−南東部:海岸−
[戯れるような波]
[彼の足に触れては引く]
[影輝の精のちからによってか、]
[海は穏やかだった。]
[断続的な波の音]
[子守唄か][ノイズか]
[揺らぐ海面]
[映り込む彼の姿]
[*その表情は沓として知れず*]
―昨夜:広間―
[お戻りになりし二人を迎え、何が起こりしかを伝えし後。
疲弊しきった身体を休めんと、それぞれが部屋へ戻るであろうか]
…えぇ。影輝が少女は、私が。
目覚められし時…お困りになられるやも知れませぬゆえ。
[『少女』の姿取る精霊が、殿御の元に在るは不都合あらんと。
そう告げて、私は藤色の羽竜を両手に抱き、部屋へと戻る。
動けぬ者を側に置くは、何事か在りし時にお困りになるやも知れぬと密やかに思いながら]
[少女の伴侶たる氷精殿の反応を思えば、ある意味他の選択肢などなかろうとは知りはせなんだなれど]
―二階個室→広間―
[やはり未だ身体が弱っているゆえか、目を覚ましは陽も高き頃。
僅かなりと身体は回復せしか、辛うじて隠せし角に安堵の息を吐く。
厨房に残りし料理の、野菜のみのポトフをいただいて。
消えてしまいし陽の麗人と、風の御仁を想い心は刹那沈みゆかん]
[やがて食事を終えれば、私は身を清めると告げて、藤の羽竜を連れて温かき泉へと向かう。
酷使したままの脚は、薬効も切れて既に棒の様。
いざと言う時、せめて彼の仔や眠りの羽竜を連れて動けるようにと、温泉が効能に縋ろうか]
―温泉―
[脱衣所に残されし亜麻色の布を見つくれば、姿消えし優しき彼の猫を思い出し。かつての時の、地の獣らとの遣り取りも今は懐かしく思えよう。
纏いし白金の衣と亜麻色のそれを洗い干し、私は静かに胸まで温泉へと浸かる。
傍らに在るは、柔らかき布を敷き詰めた籠に眠る藤色の影。
昏々と眠る様子を眺めつつ、布が乾くまで――傷が和らぐまで――私は小さな声で柔らかく歌う。
小さな生き物達と戯れし時、好んで口ずさむ歌を]
「ピィ」
[歌に合わせるよに一声鳴いて、舞い降りしは黒の鳥。
上空を旋回し、舞い降りるは何処なりや。
次いで聞こえしは猫の声。
歌に惹かれたか、主や白の猫の痕跡を探しに来たかはしらねど、側に来たらば指先で優しく撫でようか]
―温泉―
[温もりと潤いと。
ふんわりと包まれている感触。
優しい歌声が聞こえる]
ん…。
[まだ重い瞼をゆっくりと開く。
何だか視界が何時もと違うような]
『あれぇ…?』
[ぼんやり。湯気の中]
[藤色の羽竜が瞼を開けたのを見、私は安堵の息を吐く。
途切れる、歌。
黒き鳥は再び高く舞い上がり、黒き猫は籠を覗く]
……お目覚めなりや?
[問う声は、案ずるよに]
『ナタ・リェさん?』
[聞こえた声の方を見ようとして。
先に視界に入ったのは黒猫の姿。
…なんでこんなに大きいのだろう]
『シシィ?』
[思考は纏まらず、疑問は浮かんで消えるだけ]
『おはよう』
[微笑。といっても見た目では分かりにくいのだろうけれど。
聞こえた言葉にそう返して。
未だ夢現]
[藤色が羽竜は、未だ夢現。
鳴くように口を動かす様子に、私は仄かに目元を和ませる]
…なれば、今しばしの眠りを…
[私は途切れた歌を再び口ずさみつ、乾いた白金の衣を身に纏う。
やがて亜麻色の布を肩に掛け、籠に眠りし藤色の影を手に、共に来る者あらば共に広間へと*戻るだろう*]
『…うん…』
[覗き込み手を伸ばしてきた猫にもされるがまま。
流れる歌声に気持ち良さそうに目を瞑った。
籠の中揺られながら、再び夢なき夢の*中へ*]
―屋敷・自室―
[結局、昨夜オトフリートがこちらの言いたい事を判ってくれたのかどうかは甚だ疑問だった]
て、ゆーか、ぜってー本質的に判ってねーな、あれ。
[ごろり、寝台の上で寝返りをうつと、バンダナを外したままの髪がばさりと揺れ、パチパチと紫の光を散らした]
─影輝界・中枢─
不意に駆け抜けた衝撃は、精霊界の全域を揺らして。
『均衡』を領域と為す界の中枢。
貴紫の六翼広げし影輝の王は、閉ざせし瞳をゆるりと開く。
「……揺らいだ……か」
掠れた呟きが零れ、影輝王は手にした刀を握り直す。
「……外からの干渉は、不可能……出来うる限り、支えはするが……」
できるのは、それだけ、と。
零れるのは苛立ち帯びた、呟きか。
「……頼むぜ……」
機鋼界の内にある者、その姿を思いつつ。
音を立て、六翼を羽ばたかせる。
舞い散る粒子は、影輝の波動。
それは軋み、揺らぐを機鋼の界を支えし力となるべく、精霊界を*渡り行く。*
─二階・自室/昨夜─
[屋敷に戻り、状況を聞いて。
色々とため息をついたりなんだりしつつ、セレスを連れて自室へと]
……て。
なんですか、コレ?
[それで、差し出された物にちょっときょとりとしていたりとかは、緊張の中でののんびりとした一コマ]
[その後、いくつか言葉を交わして。
……セレスは少し、機嫌を損ねたりもしたようではあったけれど。
それを笑って受け流しつつ、眠りに落ちて──翌日]
─二階・自室─
[目を覚まし、最初に確かめたのは呪印の具合。
痛みはなく、それなりに安定している様子に、一つ安堵の息を吐く]
……ヴィンター、悪い。少し、頼む。
「……まったく」
[処置なし、と言わんばかりにばさりと羽ばたく白梟に苦笑しつつ、癒しの光を印に受け、痛みを抑える]
さて……んじゃ、どうしたもんかね。
[落ち着いたところでぽつり、零れたのはこんな呟き]
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