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― 回想・厨房 ―
[この館では客人は珍しくないだろう。
現に今も旅人が滞在していたりもする。
それでも人数が増えればそれだけ労力が必要になる。]
してもらってばかりというのも落ち着かないから。
[エーファと黒猫の動きが重なる>>8のに
ほのかに表情を和ませて、濡れた手を拭く。
一泊だけなら甘えようと思っていたが
滞在がいつまで続くか分からぬ現状を考えると
彼に負担がかかろうことは容易に知れる。]
――…ずっと修道院にいたから、
こういう事にも慣れている。
皆、大人だし、――キミが全てを担う事はない。
[礼とそれに重なる鳴き声に小さく頷き、
分担とまでは行かずとも手伝う旨を軽く伝えた。*]
─ →3階・ギュンターの私室 ─
[客間が並ぶ廊下では黒猫が鳴き続けていた。
にぃぃ、と鳴く声を聞きながら、黒猫が3階を見遣る仕草を見る]
上か。
[そう言っているようにしか見えず、階段を上り3階へ。
階段を上り切り廊下を進むと、ギュンターの私室の扉が開いているのが見えた。
そこかとあたりをつけ、ギュンターの私室へと近付いて行く。
近付くにつれ、漂う匂いに軽く眉を寄せた]
[部屋を覗き込むと、エーファを助け起こそうとするユリアン>>35が居た。
匂いは部屋の奥から漂っている]
ユリアン。
エーファは……てか、もしかして…じっちゃんが?
[先ずは移動を促しているユリアンに声をかける。
ここはギュンターの部屋、エーファに何かあったと言うよりは、部屋の主に何か起きたのだろうと考え、問いかけた]
エーファ、動けそうか?
[更に問いながらユリアン達へと近付き、エーファの様子を窺う。
それに付随してギュンターの遺体が目に入り、歌い手と似たような姿になっている様子に顔を顰めた]
………じっちゃんも、包んでやらねーと。
[新しいシーツの方が良いのかも知れないが、エーファの目から傷を隠すべく、ベッドに使われているシーツを引き上げてギュンターの躯を包み始めた*]
─ ギュンターの私室 ─
[呆然としていた所にかけられた声。>>34 >>35
びく、と身体が震えた]
けが、してない。
[助け起こそうとする手をするりと抜けて。
ぽつ、と零したのは掠れた声]
怪我なんてしてない……してないよ。
俺は、大丈夫なんだよ。
いつも、俺は、大丈夫、なの、に……。
[言葉だけが先走って、後から後から零れて落ちる。
イヴァンがやって来た>>43のにも気づけず、問いも素通りしていた]
だいじょうぶ、なのに、なん、でっ……。
みんな、みんな、大丈夫じゃなくなるんだよぉ……。
[振り絞るような声で吐き出して、大きく息を吐く。
蒼い瞳はどこか呆然と、目の前で包まれて行く祖父の亡骸を見つめていた。*]
―回想・広間―
[人狼を探す事ができるもの、と口にしたのを聞きとめたのか、ユリアンが控えめに声をかけてくるのに気付く>>15のは、音楽家として音に敏感なおかげだったろう]
どうやって探すのかはわからないんだ。
俺は「場」について聞いただけで、他はあの詩のことしか知らないし。
[ごめん、と小さく返して頭を下げた。
方法は知らない、ただ「わかる」と言うだけだから、それが本当かもわからない。
必要以上の事を言って不安にさせることはないと、それ以上は言わなかったけれど]
[ライヒアルトが広間を出る間際>>5、掛けた声に僅かに表情が緩むのが見えた。
今の状況に、やはり不安を感じるのは同じなのだろうと返された言葉に頷く]
俺だけじゃなく、みんな力になってくれると思うから。
[それだけを最後に背中に返して、最後の気遣いには笑うだけ。
自分は、果たして何を望むのだろうなんて
思うのは胸の内だけに止めて]
[気付けば広間からは人の姿は殆ど消えていた。
それぞれに思うところがあるのだろう。或いは
誰を信じるべきか、と。
不安を抑えて笑みをくれるカルメンに、向ける表情は少し硬かったかもしれないけれど]
まぁ……「その時」が来たら、嫌でも何とかしなきゃいけないんだろうけど。
旅人の言葉を信じるなら、ギュンターさんは「光の者」だからね。
「場」が出来たのなら、それに囚われた役割を持つ者はその定めに抗えないらしい。
でも、カルメン……もし何かあっても、君は君だって事、忘れないでね。
[大丈夫だ、もう何も起きないと、そう思いたいけれど。
それが幻想だと言う事を男は「知って」いる。
だけどそれは面には出さず、今は不安を軽くしようと笑って]
俺は一度部屋に戻るよ。難しい事を考えるのは性に合わないし。
君も、少し気分転換をした方がいいかも。
[そう言って立ち上がると、一度伸びをしてから広間を後にする。*]
─ 二階・客室 ─
[屋敷の主の物言わぬ姿が見出された頃。
旅人は一人、窓辺で空を見ていた]
……朱き花は、導く者。
[ぽつり、と小さく呟きが落ちる。
旅人がそれを紡げた所以は単純で。
ほんの数か月前、同じような状況のただ中にあったから。
彼のいた『場』は、狼が他者を喰らう事によって解放された。
旅人は辛うじて命長らえ、けれど、心を壊して一人彷徨い、この地へたどり着いた。
主が朱き花を宿していると言っていたのは、錯乱する彼を落ち着かせるべく、主自らが明かしたから、というのは他者の知る所ではなく。
零した言葉が広げた波紋、その行く先もまた、誰にも知り得ぬ事。**]
―二階・客室―
[部屋に戻ったものの特にすることはない。
ただ、一人になりたかった、それだけ]
どうすれば、いいんですかね、私は
[護らなければいけない、だけどそれは、懐かしい優しい人たちを……]
みんな、いい人でしたのに。
[過去形で語るのは、もう戻れないと知っているから。
持ち込んだ旅行鞄を探り、その中から一振のナイフを取り出すと上着の内側に隠すようにしまう。
こんな物で「彼ら」を護れると思えないけれど]
面倒な役目を与えてくれた物です、本当に。
この中で「黒曜石」を砕かれないように、なんて。
[争いごとは嫌いです、と言い置いて再び部屋を出る。
その後は、やはり手伝える事はないか探し回って一日を終えたのだけど。*]
[物心ついた時には修道院に居た。
幼い頃に死に別れた母の記憶は殆ど残っていない。
もし、母の故郷であるこの村で生まれ育っていたなら、
故郷と思えもしたのだろうけど。
幼い日を過ごした場所は別にあり、
その日々の思い出を共有する者も此処にはない。
肩書きで呼ばれることは嫌ではないが、
名で呼び合うを見ていると
仄かにではあるが寂しさを覚えることもあった。
己の立場は、どちらかといえば
歌い手や旅人の方に近いのかもしれない。
祈りを捧げ眠る夜。
夢にみるのは暗闇にたったひとりで立つ己。]
― 翌朝 ―
[目覚め身支度を整える。
祈りを捧ぐ為に組んだ手――、
右手の甲、手首に近い其処には、蒼き花が咲く。]
朱き花の対――…
[双花聖痕、と、音無く綴り息を吐き出す。
予兆はあれど気のせいだと思おうとしていた。
圧し掛かる責から目を背けようとして
逃れようがないことを明瞭になるその痣が知らせる。
暫し考え、白手袋を両手にはめて
日課を、と思うとほぼ同時にその声>>29が響いた。]
─ ギュンターの私室 ─
[ギュンターを包む傍ら、問いも届かなかったエーファの口から零れる言葉>>44 >>45に短く嘆息した。
言葉の意味が分かるだけに、かける言葉を考えてしまう]
……エーファ、
[ギュンターを包み終えて、それを見詰めていたエーファと目線を合わせるように傍にしゃがみ込む]
じっちゃん、抵抗した痕が無かった。
歌い手さんにはそれらしい傷もあったのに。
推測でしかねーけど……じっちゃん、襲われるの、分かってたんじゃねーか?
分かってて敢えてそうしたのって、何か護りたいもんあったからじゃねーのかな。
例えば、お前に矛先向かねーようにするとか。
正しいのかは、分かんねーけど。
[なんで、と繰り返すエーファの言葉に正解を返すことは出来ないけれど、ギュンターの遺体から読み取ったもの──多少強引ではあったけれど、それを理由として挙げてみる。
恐らく、それはエーファが望むものではないのだろうが]
あとさ、お前、身体は大丈夫でも心は大丈夫じゃねーだろ。
ここで泣けとは言わねーけど、吐き出せそうなら吐き出して来い。
[一旦部屋に戻れ、というように言い、立ち上がらせるべく手を差し伸べた*]
― →三階廊下 ―
[廊下に出ると忙しなく鳴く黒猫の姿がある。
黒猫の気にする方へと足早に行けば
三階の一室――ギュンターの私室であったと記憶する其処に
人が集まるのがみえて、己もそちらへと向かう。
噎せ返るような血の匂いに、
白を嵌めた手の甲で鼻と口許を軽く押さえる。
昨日は外であり更には冷えた空気が嗅覚を鈍くさせていたが
今は、生々しきにおいに生理的な嫌悪が滲み眉間に皺がよる。]
――…っ、
[屋敷に響いた声の主、
此処に住まう黒猫が知らせ、
漂うこのにおいは、
この先にある部屋の主は、
朱き花、甘美なる、と幻燈歌にうたわれるが過り、血の気がひく。]
─ ギュンターの私室 ─
……なに、それ。
[抵抗の痕がなかった、とか、わかってたんじゃないか、とか。>>53
言われてもすぐには頭に入らない。
護りたかった、と言われても、やっぱりすぐには受け止められなくて]
……俺、そん、なの…………うれしく、ない。
[父が死んだときに同じ事を言われた。
だから、その通りだとしたら嬉しいと言えない、言いたくない。
だから、拒絶するように俯いた]
…………だいじょうぶ、だ、よ。
[それでも、心が大丈夫じゃない、という言葉>>54には反抗した。
強がりなのは誰の目にも明らかだろうが、認めたらそれこそ動けなくなりそうだから]
……俺は、へーき、なんだから。
[自分自身に言い聞かせるように繰り返して。
それからようやく顔を上げて、差し出された手を取り、立ち上がる。
ここに居ても何もできない事。
それは、わかっているから。*]
―翌朝・客間―
[いつになく遅い覚醒が訪れ、再びまどろみに沈もうとしたその時
そのまどろみを引き裂いたのは、悲痛な絶叫>>29
ぱちりと目を開き身を起こす]
今の……上から?
[あぁ、嫌な予感がする。いや、きっと予感ではすまないだろう。
廊下で猫の鳴く声がして、すぐ後に近くの部屋から出て行く音>>41がした。
男も起き上がり身支度をして…ナイフの所在を確認して部屋を出る。
イヴァンが階段を上がっていくのが見え>>42、その後を追いかける]
―三階・ギュンターの私室―
[辿り着いたのはギュンターの私室の前。
開いたままのドアから漏れる異様な気配と、そして、昨日も嗅いだ嫌な臭いが届いた]
みんな、居るのか?
一体何が……っ!?
[そこには、エーファを助けようとするユリアン>>35と、先に辿り着いたイヴァン>>43がいて。
エーファがそれに気づかずに呟くのを聞く>>44>>45
そうして、予感のままに視線を動かした先、寝台の上に見える、赤に]
……ギュンターさん、が?
[問いかけるでもなく声が零れる。
イヴァンが遺体を包み始めるのに気がついたけれど、手伝おうとする前に手際よく事を終えたから、自分はただ祈りを捧げるだけで。
そうして、イヴァンがエーファへと語りかける>>53のを見守る]
大丈夫、じゃないだろう?
エーファ、君、ずっとちゃんと休んでいないんじゃないか?
イヴァンの言うとおり、少し休んでいた方がいいとおもう。
[大丈夫だと、平気だと言うエーファ>>57にそう言いながら、現れたライヒアルト>>55を見つけて頭を下げ、視線で状況を伝える。
『幻燈歌』に歌われる双花聖痕さながらのそれを、彼はどう捉えただろう。*]
─ 回想 ─
[オトフリートに話を聞く間にも、広間に残る者は少なくなっていく。
それにつれて静けさが増して、より不安は強くなる。
周囲に気も向けず、ゆらりと、けれど澱みなく歩き出ていった旅人が残した言葉>>1:156。
何故そんなことを知っているのか、そもそも何者なのか、そんな思いもまた、不安に加わっていって]
…あの人が、本当のことを言ってるって、信じるの?
[>>48オトフリートからの言葉には、流石に笑みを返すことが出来なかったけれど。
続いて、何かあっても忘れないで、と言う言葉は真摯なものに思えたから。
ぎこちなくも、しっかりと頷きを返してから、広間を出ていく姿を見送った]
[取り留めなくめぐる思考。
頭を振ってそれを振り払う。
口許を押さえるままギュンターの部屋へと行けば
日常では見る事のないおびただしいあかと
シーツに包まれた人のかたちが映り込む。
オトフリートが視線で伝えたそれ>>61に、
いろなき顔で小さく頷き、重い息を吐き出した。]
――…恩人である彼の為に、祈りたい。
[そう呟き、ギュンターの遺体の傍へと歩み寄る。]
[オトフリートが出ていって、静けさがより増した広間の中。
もう冷めきってしまった茶器を片付けようとした所で、ユリアンがまだビルケと共に暖炉の前に居るのに気付き]
…あの、ユリアン?
火が落ちたら冷えるでしょうし、そろそろ部屋に戻った方が良いわ。
…動けそう?
[近くない間柄だし、下手に気遣っても遠慮されるかと控えてはいたけれど、体調を崩している人を一人残すのはと問いかけて。
無理そうと言われたら誰か男手をと思ったものの、>>30歩いて戻れるようで少し安堵した。
もしも遠慮されなければ、手を支えて部屋までは付き添い送っていった。
その間か、広間で彼が動けるまでを待つ間に夢の話は聞けただろうか。
その後には広間の茶器を片付けに厨房に赴き。
そのまま厨房に残ってエーファを手伝い準備した食事を少しとった後、部屋に戻ると今日も絵筆を取らぬまま、寝台に入った**]
─ ギュンターの私室→三階廊下 ─
…………ん。
[黒猫の名前>>59に、こくり、と返すのは小さな頷き。
遅れてやって来たオトフリート>>61の言葉にそちらを見やるも、何も言わない──言えなかった。
言葉が引っかかって、どうしていいかそろそろわからなくなっていたから。
だから、一先ずは促されるままに廊下に出て]
……あ。
[ライヒアルトの姿が目に入ると、ほんの少し、表情が緩んだ。
どこかほっとしたような、安堵したような変化。
それを齎したのが、『この人はひとだから』という認識──無自覚の力が齎したものとは、自分でもわかっていないけれど。*]
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