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― 広間 ―
[フォルカーを降ろし、心配するかのように顔を覗いて様子を見、安心させるように頭を撫でる際に、本人にしか聞こえないよう小さく囁いた。]
余計な事は言わずに黙っとけ。
[囁きの後はにこりと笑って、それから身を離す。
血塗れた服のままだったが、誰かに説明を求められれば。]
フォルカーと旦那が人狼云々でやりあって、フォルカーがこんなだから、結局俺が旦那を殺したヨ。
[そう説明するだろう。
それは嘘ではないのだから**]
[アーベルの説明に嘘はなかったが、自分が先に手を出したことは説明されてなかった。
けれど自分には多くを語れるほどの余裕はなく、アーベルから黙っていろとその言葉を素直に聞いていた]
ごめん……
[アーベルが皆に説明をする中ぽつりと出る謝罪の言葉はどこに向かってのことだったか]
─勝手口→納屋─
[アーベル達を見たのは角を曲がる直前だったから、アイツらが赤く染まってたとか言うのにはオレは気付いていない。
フォルカーが抱えられてたことだって辛うじて見えたくらいだった]
……おいヴィリー、居るのか?
[納屋に近付く前にオレはヴィリーを探して周囲に声をかける。
返事は無い。
…もう穴掘りに行ったのかな。
そうも思ったけど、オレは念のため納屋の中を確認することにした。
道具探しててオレの声が聞こえなかったかも知れないし]
[でも、そんな期待は思い切り裏切られたんだ]
っ、お、い。ヴィリー…?
[納屋の中はそんなに明るいわけじゃなかったけど、光が差す小窓があったから部屋の中を見回すのにそんなに苦労はしない。
でもそのお陰で異変には直ぐ気付いた。
───何でヴィリー、紅いんだ?]
―クレメンスの部屋―
[義兄の対となる存在を知った。
支えるべき双花の片割れである彼女。
支えなければと本能が告げるのに
今は未だ弟の事を告げる気にはなれない。
月のいとし子は彼だけでは無いと知ってしまったから。
心の何処かでその存在を見出さねばと思う。
けれどこの日、女が見極めようとしたのは双子の片割れ。
教会に縁の深かった少女。
幼い彼女が獣でないなら此処から逃したいと思っていた。
其れが叶うか叶わぬかは別の話であるが――]
─納屋─
おい……ふざけんなよ…。
何でお前、何して。
[上手く言葉が出て来ない。
驚きが先行して、オレはしばらく茫然としていた]
なんだよ、お前。
なにしん………。
[そうだ、ヴィリー、これ死んでんだ。
何でだ? どうしてこうなった?
だれが、やったんだ?]
[取り乱す、ってことをオレは何故かしなかった。
唐突過ぎて頭の整理が追いつかない。
血の匂いがしても、くらめく余裕すらなかった]
え、と。
…みんなに、知らせなきゃ…?
[ヴィリーを殺した当人が既に皆に知らせていると言うのはオレは知らない。
それでもそうしなきゃいけないと思い込んで、オレはゆっくり納屋から離れて勝手口へと戻って行く。
薪の事なんてすっかり忘れていた]
─ →厨房─
[勝手口から厨房に入り、オレは一旦扉を閉める。
薪も何も持っていない様子を不思議がられたかもしれない。
オレの表情はヴィリーを見つけた時の、翡翠を見開いた状態のままだったことだろう]
あの、さ。
なんか、納屋で、ヴィリーが───。
[言いかけて、オレは言葉を止める。
見開いた翡翠は広間に居る赤を纏った人物を*見詰めていた*]
―→二階・双子部屋―
[そのまま治療を受けた後は、部屋で安静にしているように言われ、
二階の左奥の部屋に連れて行かれることになるだろうか]
大丈夫、だよ……
[一緒に来ていたエーファにはそう告げて、でもその言葉は苦しそうにしていたので余計に心配させたかもしれない。
ベッドに横にされると、すぐに意識は落ちていくことに]
―夜明け前/双子部屋―
[安静にしているようにと寝かされたベッドの上で、夜も遅くになる頃から夢現と覚醒とを繰り返していた。
今は鼻血も止まり、顔の方は目立った怪我はなくなったが、体の痛みはまだ引かず、服をめくればそこにはいくつかの痣は残ったままだった。
突如胸に感じた痛み、その苦しさは怪我によるものじゃなく、ここに来て何回か経験のしたことあるものに似ていた。
けれども、少し違うように感じるのは何かをとられるような、抜け落ちていくような苦しみ]
エーファ……?
[ベッドから這い出て、壁に手をつけ支えにし立つ。
そのまま痛む体を引きずるようにして部屋を出た。廊下を照らすのは月明かりのみで、皆は寝静まった頃なのか静けさを感じる。
昨日から一緒に寝なくなったエーファはどこにいるのか、聞いていたわけではないけれども向かう先に迷いはなかった。
その存在を、たしかに消える前に感じていたから、何よりも自分が守りたいと思った、自分の半身たるエーファの存在を]
―夜明け前/エーリッヒの部屋―
[昨日と同じくエーリッヒの部屋に、窓から差し込む月明かりの下、確かにエーファはいた。
ただ、そこにはあるのはエーファだった遺体、まだ殺されて間もなく、血も乾かず床にその赤を広げている]
なん、で……
[守りたかったはずの、守らなきゃいけなかったはずの存在はもう二度と返らない姿に。
喉から胸、お腹までを切り裂かれて、どちらの遺体かは怪我の跡からは判別のつかないものに。
そこには見るものが見れば、足りない部位がいくつかあるのもわかったかもしれない]
嘘だ、嘘だって、言ってよ…ねぇ……
[言葉が続かない、エーファの死体にすがりつき、よく似た二人はともに血塗れて重なるように。
体の痛みと、半身を失った心の痛みと、耐えられなくなった意識はそのまま落ちていった。
二つ重なる、よく似た双子、生者と死者に分かれたその姿を誰かに発見されるのはもう少し後のことになるだろうか**]
[嘘を吐くのも隠し事をするのも元来得意ではなく
どちらかといえば苦手な部類で――。
重い息を吐き出しクレメンスの眠る部屋を出る。
彼を埋めようとした男が其の部屋に来ることは無く
それを少しだけ訝しく思いながらもその行為を是とせぬ女は
隻眼の彼を呼びにゆこうとは思わなかった。
隣にあるライヒアルトの部屋の前に行き控えめにノックをして]
ラーイ、着替えは終わった?
[問い掛ける声に返事はあったか。
入口に、と言っていたから少しだけ躊躇いながらも扉に手を掛けた。
抵抗なく開く扉の向こう――足元には畳まれた衣服がある。
手を伸ばし其れを拾い上げると頭痛を堪えるようにある弟の姿。
心配そうな眼差しをライヒアルトに向けて]
――…大丈夫?
ゼルギウスさんを呼んで来た方がいいかしら。
[尋ねるような声を掛け階下へ向かおうとした**]
―自室―
[ノックの音に気づくのもまた遅れたらしい。
入り口でナータが衣服を拾いあげるのを見て。
絶対に食らうものかと思ったら、一度だけ痛みがぶり返した。
顔を顰めた瞬間をしっかり見られてしまったらしい]
大丈夫。大したことない。
俺も一緒に行くよ。
[血の匂いがする服は預けて、下に向かおうと*した*]
―二階廊下―
[自分の存在が大事な弟を苦しめているのだと女は未だ知らない。
大丈夫と告げるライヒアルト。
彼の身を案じる気持ちはその言葉だけでは消えない。
けれどそれ以上言われたくはないかも知れない、と
納得しきれぬ様子のまま、小さく頷く]
――…ん。
無理はしないでね。
[言い添えて共に階下へと向かう]
―広間―
[階段を下りればアーベルとフォルカーの姿が見えた。
一方は血に濡れて、一方は怪我を負った風。
其れは何かが起きたのだと知らせるには十分なもの。
アーベルの説明>>38を聞けば菫は驚愕に見開かれる。
名を紡がれずとも誰のことかは知れて]
……そうでしたか。
[未だ少女であるフォルカーに傷を負わせた当人が其処にいれば
大人気ないと責めたであろうがその人は居ない。
人狼でないと知るその人は命を絶たれた。
一瞬過ぎるくらい面持ち。
怪我をした彼女と手当てするゼルギウスに何か手伝えることはと
歩み寄ろうとするが傍で心配するエーファの姿も見えたから
結局、彼女らに任せることにした]
[牙を持たぬ者が命を絶たれた。
それは惨劇は終わらず再び犠牲者が出る事を意味する。
朱花である義兄が襲われ、次は――。
そう思えば義兄の対である存在が案じられた。
エルゼリートからの知らせ>>45は厨房に届き
ブリジットやゲルダの姿は広間から見ることが出来ただろうか。
ゲルダの無事を確認すれば、微かに安堵の色を眸に滲ませる]
――……。
[告げるべき言葉があるのにその時は口を噤んだまま。
特に引き止められる事が無ければ黒衣を手にし一度リネン室へと向かった]
─厨房 カウンター側─
[広間の人物をじっと見詰めていた翡翠は、驚きのものから徐々に通常へと戻り、一度姿を隠してからまた瞼から覗いた。
表情に感情は籠らず、どこか呆とした態。
ようやく紡ぎ出した声も、いつもとあまり変わらなかった]
──…オレ、ヴィリーどうにか、してくる。
[そのままカウンターから広間に出て、オレはリネン室からシーツとタオルを取ってこようと進路を向ける。
誰がヴィリーを殺ったのか理解したのに、激情なんてものは湧いて来ず、凪いだような心持ちだった]
─ →納屋─
[リネン室には先にナターリエが居たかも知れないけど、オレは何も言わずシーツとタオルを手にする。
動きは緩かったけど、心許ないとまでは行かず。
きちんと持ちやすいように纏めてから外へと向かった。
納屋へと戻って来て再びヴィリーを目にする。
外傷は首の後ろだけみたいだけど、出血量が尋常じゃあなかった]
………んっとに。
ナニやってんだよ、お前は。
[コイツが死ぬとは思ってなかった。
こんな状況でもしぶとく生き残ると思ってたのに。
オレは血溜まりからヴィリーを引っ張り出して、何枚か重ねたシーツに転がした。
一人だから扱いが手荒になっちまうのは許せ。
転がしたヴィリーをシーツで包む中で、オレはコイツの顎に痣がまだ残ってることに気付いた]
……悪かったな。
[ぽつりと言いながら、オレは痣の部分を指で弾く。
後で具合を聞こうと思ったのに聞けず仕舞いになったな。
その時にちゃんと謝れたかは怪しいところだけど。
シーツに包み終えたら、オレは汚れた手をタオルで拭いて。
厨房から入るのは気が引けたから、一旦玄関口まで回って中に入る。
広間の方には目もくれず、オレは二階へと上がって行った。
アイツの部屋って*どこだったかな*]
―リネン室→井戸近く―
[リネン室で毛布やシーツ他に衣服等の洗濯すべきものはあるか探す。
エルゼリートがシーツやタオルを取りにくる気配>>55に
一度顔を上げるものの声を掛けられる空気でなく口を挟まずに。
勝手口から外へと出る彼に遅れて続き、井戸で水を汲んで洗濯をする。
彼の居る納屋にその時は足を運ぼうとは思わなかった。
先ずは白いままの毛布、シーツ、それから着替えの類。
盥に張られた水が濁ればその都度、水を汲みなおして――。
最後に洗うのは血の染みたその黒衣。
暫く水に浸していれば水面には赤がじわりと滲んだ。
赤は徐々に色濃くなり生々しい血の匂いが鼻につく]
――…う、……ッ。
[気持ちが悪い。濡れていない腕の方で一度鼻と口許を覆い眉を寄せた。
血の濁りが消えるまで、その匂いが消えるまで――
洗い終わる頃には手はかじかみ感覚が薄れていたけれど
それをさして気にせず苦とも思わず物干し用のロープに
水気を絞った洗いたてのそれを干してゆく]
―納屋の前―
[ふと納屋に足を向ける。
エルゼリートは既に屋内に戻っていたらしい>>56。
シーツに包まれた人のかたちをした其れを入り口から見詰める。
女は自分に祈る資格がないことを知っていながら
胸元で十字を切り聖句を紡いだ]
私の祈りなど届かぬでしょうけど……。
[祈りを紡ぐに相応しい義兄はもういないから。
自分が何も言わずに居たから命を絶たれたかもしれぬ人。
もっと罪悪感を感じるだろうと思われたのに
義兄を失った時ほどの罪悪感もなく感情は何処か薄い。
女はくるりと踵を返して屋内へと姿を消した]
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