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あ、ナターリエお姉ちゃん……。
うん、気をつけて、ね?
[何を気をつければいいのか自分でもよくわからない、
漠然とした不安みたいななにかを感じるままに口にした言葉だった。
ナターリエの姿を見送った]
― 外 ―
[宿屋を出てからも、ささくれだった心は収まらない。
そこらにある石を蹴っとばして道の向こうに追いやったら、
道行く人に嫌な顔をされて、さらに腹が立った。]
…ちっくしょーじじーめ。
詰め所の前に穴あけてやる。
[と言うが早いが、教会に戻ると
スコップもって、詰め所の裏口に穴を開け始めた。
途中で気づいて大目玉を喰らい、結果穴は完成しなかったのだが**]
私はどうしよう……
[他のそれぞれの思う場所に向かう人も見送ったりしながら、
カヤ君を追いかける気分にも、ナターリエお姉ちゃんが帰った教会にも、すぐにという気分ではなく。
いろいろと迷った様子でしばらくは黒珊瑚亭に*残っていた*]
─ 翌朝 ─
[その日は一日、母の傍について過ごし。
数日分の着替えとスケッチブックに画材を持って家を出たのは翌朝の事。
余り早くに押しかけても迷惑か、とは思ったのだが、人通りが増えてから移動するのは何となく嫌で、早目の時間を選んでいた]
……はぁ。滅入るわぁ。
こんな時間に歩くとか、もう二度とないと思ってたのにぃ。
[そんな愚痴めいた呟きを漏らしつつ、通りを抜けて。
広場に差し掛かった時──不意に、視界が霞んだ]
……っ!? やだ、こんな時に……!
[いつになく強い霞は眩暈も伴い、しばし、近くの建物に寄りかかって鎮まるのを待つ。
只ならぬ様子に、白猫が案ずるように鳴いた]
ん……へーき、クラニア……。
[それに短く返して顔を上げて。そこで、視界の異変に気づいた]
……なに、これ。
[色が、ない。
見るもの全てが、灰色に染まっている。
突然の事に何度か目を擦るが、状況は変わらない。
呆然としていると、目の前に白い炎のようなものが閃いた。
それは目の前で数度揺らめいた後、誘うようにふわり、と飛んでいく]
……呼んでる……の?
[根拠はないが、そんな気がして。
導かれるように、その後を追って行き──]
─ 翌朝/自衛団詰所裏路地 ─
……え?
[踏み込んだ裏路地は、やはり、灰色に見えた。
けれど、そこに座り込む人の姿は、いつもと変わらないように見えた]
……ギュンターのお爺ちゃん?
[呼びかけるけれど、返事はない。
灰色の視界の中、唯一色鮮やかにあるその姿はぴくりとも動かない]
お爺ちゃん、どしたの? こんなとこに座ってたら……。
[風邪引くよ、と。呼びかけながら近づく足元で、何か、跳ねた気がした]
……?
[瞬き一つ。下を見る。目に入ったのは──あかい何か。
灰色の視界の中で、それは妙に冴え冴えとして見えた]
……なに、これ。
お爺ちゃん?
[声が喉に引っかかる。
これ以上見てはいけない、という警鐘と、見るのが自分の務めだ、という何かの声と。
相反する二つの何かが自分の中でせめぎあい──身体を動かしたのは、後者。
壁にもたれ、手足を伸ばして座るギュンターの傍らに膝を突き、その顔を覗き込んで──息をのんだ]
……ゃ……なに、こ、れ。
[最初に目に入ったのは、裂かれた喉。
ゆっくり視線をさげたなら、目に入るのは──赤黒い、空洞で]
や……やぁだぁ……。
[それが何を意味しているのか。
理性ではなく、感覚が認識する。
死んでいる、殺されている──喰らわれている、と何かが囁いて]
[認識が、繋がった瞬間]
……いやあああああああっ!!!!!
[最初に口をついたのは、悲鳴。
路地に響く甲高いそれが呼んだか、それとも血の匂いに気づいたのか、自衛団員や通りすがりの村人たちが集まってくる。
何があった、と問う声はきこえたけれど、答える事はできなかった]
なんで……なんでぇっ……!
[口をついた、今にも泣きそうな叫びはこの状況に対するものと。
人の死に気づいた自分自身への疑問の声。
案ずるように鳴く白猫の声も、今は耳に届かない。**]
― 昨日/黒珊瑚亭 ―
ヘルと一緒なら大丈夫だろうけれど、気をつけるんだよ。
[何に気をつけろというのか、自分でも定かでないまま、
ヘルムートと一緒に外へ向かうカルメンにそう告げて。
ヘルムートの昨晩の気がかり>> 1:198と
先程からの何処かつらそうな様子を思い出せば]
…ヘル、お前も。
[案じる言葉をそっと付け加え、二人を見送ったのだったか]
― 昨日/黒珊瑚亭 ―
………?
[それからどのくらい後のことだったか。修道女と共に来たと
記憶している少女が、まだ一人で黒珊瑚亭に残っていれば>>70]
こんにちは、お嬢さん。
ロミ、だったかな。一人でどうしたの?
[どこか所在なげな様子の彼女に、
少し心配そうな表情で、
片膝をついて目線を合わせるようにして、声を掛ける]
一緒に来ていた、あのシスター
ええと…ナタネー? ナターリエ?が、
そろそろ心配してはいないかな。
[二人の子どもがシスターを何と呼んでいたか、記憶を探り。
あまり一人でいない方がいいのでは、と案じる様子で小首を傾げる。少女が話てくれるようなら、幾らか言葉を*交わしただろうか*]
[どことなく羨むようなエーリッヒの声。
何を思うか気づかぬまま、ほんのすこし首を傾いだ]
そうだなぁ。
[笑顔で言葉交わせる空気でないのは確か。
自衛団長から提示された対策と覚悟を思い
苦さのまじる表情が一瞬過る]
――――……。
[眸翳る気配に片眉が微か動く。
あまり思い詰めるな、と、
そんな言葉を掛けるが精一杯だった]
[部屋を確認するため階上にゆく]
五号室、と。
[廊下で視線彷徨わせるようにしてあれば
目的の部屋はすぐに見つかった。
扉を開き、整えられた室内を見渡す]
よそに泊まるのは久しぶりだな。
[相談があるからと既知に誘われ客室を訪れる事もあったが
自分から泊まりにくることは殆ど無かった。
三年前、父を亡くした数日後、ふらり黒珊瑚亭を訪れて
ユーディットに部屋を頼んだのが最後だったかもしれない。
直後は母親の傍についていたものの、
どうにもやりきれぬ思いで一人の時間を必要とし、そうした]
― 昨夜/黒珊瑚亭 ―
あれ、ロミ。
エーリッヒさんも、どうしたんですか。
[ロミに話しかけているエーリッヒ>>81を見やり。
置いていかれたらしいことをきいて]
ロミが教会に戻りたくないならおねえちゃんとこに泊まっていく?
お部屋は空いているよ?
[帰ると言うのなら、送るのは誰かにまかせるつもりだけれど。
そんな声をかけてからゲルダへと視線を向け]
ゲルダも、泊まっていく?
[そんな風に問いかけた。
それからあとは一階奥にある自室へと引き上げる]
……あー。
なんでこんな時に思い出すかな。
[苦笑を浮かべ男は独り言ちる。
記憶と共に沈んでいた心まで蘇るようだった]
俺もまだまだってことか。
[トン、トン、と胸のつかえを落とすように拳で軽く叩く。
気分を返る為に客室の寝台へと歩み寄り
ピンとはられたシーツの表面に指先を触れさせた。
つ、となぞるよう動かせばなめらかに滑る感触]
しっかり客扱いだな。
俺相手なんだからユーディットも手を抜けばいいのに。
もう立派な看板娘かぁ。
[月日が経つのは早い、と年寄りじみた呟きが漏れた]
― 初日/自宅 ―
[それから着替えなどの荷物を取りに戻った。
母親は自衛団に呼ばれた理由を気にしていたが]
……ちょっと、ね。
暫く黒珊瑚亭で寝泊まりしようと思うから
戸締りだけはしっかり、それから、店は開けなくていいから。
休みと思ってゆっくり過ごして。
[いたわるような響きで母親に言葉を掛ける。
必要と思えるものを大きめの鞄に詰め込んだ。
其処には作りかけの作品を含め仕事道具もおさめられた]
― 初日/黒珊瑚亭 ―
[借りている五号室に荷物を運びこむ。
机が汚れぬよう厚手の布を敷いてそれから仕事道具を並べた]
これでよし。
[満足げに一つ頷く。
暫く机に向かい珊瑚を研磨していたが
頃合いをみて食堂におり、黒珊瑚亭自慢の料理に舌鼓をうった**]
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