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― 2階廊下 ―
[イヴァンの身体を運ぶだけの力はないから、ため息を一つおとして立ち上がる。
墓守である友人の手を借りればなんとかなるかとも思いながら。
けれど昨夜、ニキータへとむかったアリョールを思い返し]
――……大丈夫、だったのかしら。
[人を手に掛けたことも、怪我をしたらしいこともすこし聞こえてはいたから。
気に掛けるように呟き。
けれど、彼女の部屋がどこかは分からず。
アレクセイがまだそこにいない限りは気づけない]
―自室―
[ 昨晩のことを思い返す。
口にしてしまったとは言え、
灰色のそれは人が食べるものではない。
しかし口にすると共に、断片ながらも自分のものではない記憶と感情が流れ込んで来た。]
……、
[ 人の記憶は酷く甘い。
ニキータが死んだ時の感情の発露が、
遅れてニキータが死んだ時の に繋がった時には、
戸惑いと恐怖と、 を知った。]
……ベルナルトさんは、誰が人狼だと、思いますか?
人狼だと思える人を、殺せますか?
[自分は、殺せるだろうか、とポケットに入れたナイフを布越しに触る。
昨日のアリョールのように、迷いなく刺せるだろうか、と自問して、小さく溜息をついた]
私は、「処刑」される人がどちらでも、刺せるかわかりません。
それが自分のためでも、誰かのためでも。
その時が来てみないとわからないけど。
だけど、誰かに任せてばかりでも、いけないと思うから。
[ ヴィクトールには、元々人狼としての自覚はあった。
亡き母は人狼であり、白い毛並みの美しい狼だった。
しかしヴィクトールは聲を響かせることも人を襲う術も持たずに、人間として生きてきた。
この村の人間達を愛し郷土を愛し、血は繋がらないものの唯一の家族と言っても過言でもないアレクセイを愛していた。
その灰色を口にしたのは本能によるものだろう。
そう喩えば、タチアナのハーブ煙草に興味を示したことにも繋がるような、好奇心と探究心の片鱗でもある。
喰べることでその人物の知識を得ること、それが人狼の細かい差を知っているものからすれば、"智狼"と呼ばれるそれであることを実感しながら、アレクセイの来訪を受けていた。]
アレクセイ、
無理はするな。
[ アレクセイ>>54からイヴァンの死を伝えられた時、
ヴィクトールが沈痛な表情だったのは罪悪感があったからだ。
心を鎧おうとするアレクセイを窘めるように緩く首を振る。]
……、
アレクセイ。
あとで話がある。
[ アレクセイが去る間際にはそう伝え、
ヴィクトールもまた広間へと降りていこうとしただろう。]
[淡い溜め息。
若干の不自由さを感じつつも、支度を整える]
――…すまない。
[誰に聞こえる事も無い独り言を、室内で呟く。
視線を上げれば、ほぼ普段と変わりない、感情の希薄な表情。
廊下に出たその先、タチアナの姿が見えた]
おはよう。
大丈夫だったか?
[自分の事を、完全に棚に上げ、気遣う言葉]
[廊下で考え込んでいれば、探していた人の姿が見えて、ほっと吐息を零す]
おはよう。
――ええ、アタシは、大丈夫よ。
[アリョールへと近づけば、血に濡れたスカートが足に張り付くけれどそれは気にせず]
アリョールこそ、大丈夫?
[ちらりと向けた視線の先、怪我をした手を見れば柳眉を寄せた]
[アリョールの部屋は、それなら良いと去り。
それから、ヴィクトールの部屋を訪ねたときのこと。
沈痛な表情の理由がわかるわけもなく、それでも無理はするなと言われれば、微かにわらって、頷いた]
ありがとう。
……話?
[聞いた言葉をオウム返しして。でももちろん嫌だなど言うわけなく。
全員に伝えたら、自分もまた広間におりていった**]
[ 広間へと降りると、
既にベルナルトとフィグネリアが話していた。]
やぁ。
……、
[ 床に染み込んだニキータの血痕を一瞥し、
ソファに近づき、手頃な場所に腰掛けようとする。]
[タチアナの安堵の表情を、じっと見詰める。
怪我をした利き腕を持ち上げ、唇を指でこつこつと叩く。
ニキータの事があれど、自分への対応の変わらない彼女に驚いている様だった。
大丈夫か、問われれば自分でも視線をそこに向け]
痛むが、まぁ…動く。
大丈夫だ。
[口調に揺らぎは無い]
――…この位の代償なら、安いものだ。
―広間―
[席を共にするフィグネリア>>68に、視線は未だ俯いたまま
それでもぽつり、ぽつりと答えていた。]
そうだ、ね――。
君も、辛かったはずだと、思う。
[言葉を詰まらせる様にまた小さく目を伏せて。
カップの紅茶を一口含んでから、再び口を開く。]
あぁ。
彼を――…彼とアナスタシアを殺した、
人狼を、殺さないと、いけない。
[といっても、誰が殺した、に繋がる手掛かりは
未だ頭の中に浮かんでは来ない。
厳密に言えば、わかる、と告げてきたタチアナも、
そして今、目の前に居る彼女に関しても、
人狼でないという確証を持っている訳では無かった。]
そう、ならよかったわ……
[ゆるりと瞳を伏せる。
代償ときけばニキータを思って唇を噛んだ。
アリョールを責めることはできない。
狼ではないときちんと皆に知らせていたわけでもないのだから。
証拠もなにもないのに信じろと言うのも無理だろう]
……人狼がみつからなかったら、みんなしんじゃうのかしらね。
[ため息をついて、小さく首を振る]
――アリョールは、……今日は、大人しくしておいたほうがいいわ。
その手じゃ……
[誰かを殺すのかどうか、まだ考えないまま。
タチアナのナイフは、部屋に置かれたままだった]
[守りたい者を、守る。
アリョールの裡には、その想いが根付いている。
そこにタチアナが含まれている事を、本人に言い出すことは無いけれど]
そうだな。
見つからなければ、きっと、タチアナも――…喰われる。
[何処か限定的な物言いは、無自覚に近い]
大人しく出来るのならしておくが。
まあ、他の人間次第だな。
[すっと、階段の方へ足を向けた。
広間へと向かおうとする足取り]
……人狼に食べられる前に疑われてしまうことも、ありえるわよ。
[断定するような言葉にわずかに苦笑を零し。
階下へと足を向けるアリョールの隣にならぶ]
――そう、ね……
……
[口数が少なくなるのは、この中の誰が人狼でも、手にかけるのはむずかしそうだと思うから。
肩にはおったショールを握り締めて、アリョールとともに広間へと向かう]
[立ちあがる前、ベルナルトの言葉を聞きながら、小さく頷く]
私は、私が人狼じゃないことをわかってる。
だから、言えるけれど、どうして今になって旅人を襲ったのかしらね。
……それとも、今までは見つからなかったとか?
この部屋に焚かれた香みたいなものを嗅いでしまったとか……?
[眩しい、と言われて、無意識に髪を触ると、少し照れたように俯いて又顔を上げた]
逃げてここまで来たから。ここでは逃げたくないの。
だから本当は、強くなんてないのよ。
じゃあ、その内来るでしょうから他の方の分も一緒にいれておきますね。
[ヴィクトールの微笑みにそう言うと、竈の方へ向かう。
お湯は火の近くに置いていたから冷めてはおらず、ポットに新しい茶葉を入れてお湯を注いだ。
アリョールとタチアナが来る頃には、人数分のカップを用意して蒸らしたお茶をそれぞれへと差し出し]
――…。
[一瞬の逡巡]
タチアナよりは、先に私の方が疑われそうだ。
[ぽつ、と呟く。
殺されたというイヴァンの部屋を覗こうとすることも無く、階下へ降り広間へと入った。
広間の面々を顔を見詰めはしても、積極的に口を開くことは無い。
ただ、なるべくタチアナの傍に付いているようには動いた。
彼女に危害の加わる何かがあれば、守ろうとするように]
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