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……その狙いが、甘いっての。
[ リーチは此方の方が長い。
襟首を掴み、されど、首に伸びる手を止める事は出来ず。
咄嗟に首筋を庇おうと挟んだ右腕に、痺れが走った。
風は木の一、この場に在りては五行に即す。
金は僅か、勢いを弱めることとなったが、気休め程度。
掴んだ手は相手の動きを捉え、その背に矢が降り注ぐ。
肉を貫く音は微か、されど低く響き、振動が伝わる。
散る色は、此方側からは見えないが。
直後、脇へと放り投げた ]
やったか?
[光の影の多重攻撃だ。普通の動体視力であればその高低差についていけず、そのまま流星錐に体を打ち抜かれるだろう。
振り返り、その場に止まり、電信柱の光が収まるのを待つ。
次第に光が弱まり、中央部を完全に打ち抜かれた電信柱が姿を現す中、久鷹は舌打ちした。
――そこには、無傷のまま戦闘態勢に移行したサキの姿があったからだ]
(クソ! 今ので決められなかったのは痛かった! 黙っていろ! ヒサタカ! お前もマリーと同じで用済みなんだ!)
[心の中に作った檻の中でヒサタカは必死にもがいていた。だが久鷹はソレを無視すると、サキの体制から、次の行動を予測し始める。
篭手を装着したと言う事は、攻撃は接近戦だろう。ならば、流星錐の連続で懐に踏み込ませないようにするのが常作だ。だが、あのサキがその程度の攻撃で満足するだろうか?
他の天界の駒であればある程度予測が付くが、まるで並の行動しか予測できない事に再度舌打ちした]
─屋上─
[『隔離の陣』を出て、屋上へと移動する。
背に受けた傷は塞がっていた]
……っつーか、やっぱ入り口増設するか。
[ぶつぶつと、愚痴めいた呟きを漏らしつつ、意識を凝らす]
……間に合えよ……。
[零れた言葉には、微かに焦りの響き。
『音』が放たれ、空間を渡る。
渡った先に何があるかは、*未だ知る由もなく*]
[空手をやっているために戦い慣れはして居り、身体が勝手に反応する部分がある。今回はそれに助けられた形になっただろうか]
っつー…。
打撃系は骨にくるんだよなぁ。
篭手越しだったから何とかなったがよ。
[ぷらりと鉄球を受け流した腕を何度か振り、その痺れを取る。その腕の振りの最中にカシュ、と言うスライド音が鳴った]
おい、九尾の陰の心。
さっさと久鷹を明け渡してもらおうか。
そいつを待ってる奴が居るんで、なっ!
[両脇に降ろした腕を上へと跳ね上げる。瞬間、手から飛び出す円盤が、二つ。シュルル、と言う風を切る音を纏いながら、離れた位置に居る久鷹へと左右から迫った。同時に間合いを詰めようと前方、久鷹の居る場所へとツーステップほど踏み出す]
[爪がその首を庇う腕に触れてその属性を知る。
直後、背中に連続する衝撃。紅の霧が舞った。
悲鳴も上げずにその衝撃に耐える。耐え切れたわけでもないが]
――似金行剋木行!
[投げられる直前、腹から声を出す。両手の爪が消え、手首の金属の輪が光り、不完全に術が発動する。
ホンの僅か相手の力を削ぐだけの、最後の悪あがき]
グッ。
[地面に叩きつけられ、息が詰まる。
限界などとっくに越えてしまっている。力なく伏せていることしか出来なかった]
――…………、
[ 力を持った、ことば。眉を寄せる。
先に放った輪が戻り来るのを風を調整して掴み取るも、
感じるは不快――留め切れず、刃は霧散して流れの一と化す ]
ち、
[ 止めを刺し損ねた事に、舌打ちをする。
然程、力の扱いに慣れている訳でもない。
一度集中が途切れてしまえば、再度操るのは難しかった。
かしり、頭を掻く ]
仕方ないか。
煩いのが来る前に、退散しますかね。
……そうそ。
一つ、言っとくと。
鵬谷と違って、俺は、選んだ側。
ありきたりな言い方すれば、
悪魔との契約、ってとこかね。
[ 明かしたのは、気紛れか。
地に伏せたケイコにそれ以上の追撃は加えず、
されど冷えた黒の眼差しを向け、事も無げに言った ]
ど、して…?
[普通に声に出すのも辛かった。喉は熱く、口の中には鉄の味が広がっていて。
それでも言われた言葉は衝撃が大きかった。
どこかぼやける視界に苛立ちながらもアズマを見上げる]
[サキの手から放たれた円盤に、流星錐を手元で再構成して迎撃させる]
!
まさか遠距離だと!?
[カシュ。という音が聞こえた時、接近戦に持ち込み相手に打撃を与えると同時に爆発を生むか、もしくは打撃速度を上げるための機能が備わっていると予測したが、まさか円盤を打ち出すとは思っていなかった。
円盤を打ち落とした時に飛び散った破片が頬を切り裂く。その他の破片を回避するため一歩後退した時、ステップの音が耳朶を打つ]
く!
[元々、九尾の力は三分割されてしまっていて、しかもソレが得意とする力は別の地方へと飛ばされてしまっている。残っているのは雷を使う力と、知能だけ]
ならば次だ!
[流星錐を手元に戻すや、地面に向けて撃ちはなった。アスファルトが裂け、土砂が舞い上がる。その一瞬の目晦ましの間に、再度自分の複製を作り出すと、後ろに位置していたT字路を互いに逆方向へと走り出した]
……さて。
大した理由なんて、ないんじゃね。
そこにあったから、掴んだ。その程度。
[ 声色は平坦で、真意は窺わせない。
靴先が土を抉り、ざり、と不快な音を鳴らす。
眼を伏せつつゆるりと背を向けると、
気怠けそうに片手を挙げて、ひらりと振った ]
あんまり喋ると体力使うぞ。
どうせ、お迎え来んだろ。大人しくしとけ。
[あと一息で足──蹴りが届くと言うところで土砂が舞い上がった]
はっ!
[気にせず回し蹴りを放ち、土砂を蹴りの勢いで礫にし蹴り出すも、相手に届くことは無く。見ればまた複製を作ったらしく、二人の久鷹が先のT字路を二手に分かれ走り行く]
あれこれ小細工ばっかしやがって。
男なら拳で来やがれ!!
[叫び、その後を追いかける。分かれ道、どちらへ行くか迷っている時間は無い。手元に戻って来た円盤を篭手に装着し直しながら、直感を頼りに追いかけたのは──左の通路]
そん…!
[感情の読めない声に反駁しかけて。
ケホ、と咳をした。痛い痛い痛い。
そもそも本格的に武道をやっていたわけでもない人間が、知識と本能だけで戦っていたわけで。身体はしっかりそっちのツケも払えと主張し始めていた]
…バカ。
[小さく呟いたのは意地なのか、それとも。
最後の部分には反論もせず、遠ざかる背中から目を離し、瞑った]
−住宅街−
[家に到着。
自電車を止めて、玄関をくぐり、靴を脱ごうとしたところで感じる、不快な空気。
家から、それほど遠くない]
……?
[微かに首をかしげる。
おかえりー、と中から声が聞こえたのだけど]
…忘れもん、とってくるわ。
[リビングから顔を出した下の姉にそう告げて、急いで家を出る。
彼女はと言えば、不思議そうに首を傾げていたが]
…ったく、時はともかく、場所を選べ、場所を…!!
[明らかに苛立ちの混じった声で、気配のするほうへと走り出す。
しばらくすれば、そこに見えたのは右に曲がった一方の奇術師]
[サキに追われている方の久鷹は、肩越しに背後の様子を見て、ほくそ笑んだ。二つに一つの博打であったが、賭けに勝ったらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・
――本物の久鷹に向かってきてくれたのだから。
ソレを確認すると、左目だけを複製に飛ばした。
複製は、右へと曲がった先にある廃工場脇に準備してあった、片腕がすっぽりと入る大きな鉄管を腕にはめると、そこに電子を磁石状に変化させて固めた釘の固まった玉を入れ、自分自身を発射エネルギーへと変換させた。
目標は廃工場前から一直になっているサキ――]
ハハ! 馬鹿力を持つものは、腕力だけではなくて頭まで力でしか解決を見ないよう思考を固めるらしいな! 返せと言われて返すと思うか!
[流星錐を一発サキの足元へと向けて打ち込むと同時に、右手にあった壁を三角飛びの要領で駆け上がった。
それが合図!
釘の玉が鉄管から発射された]
それで結構。
[ 耳聡く拾って、律儀にも答えを返す。
けれど振り返ることはなく、
石段をくだり、土のない地に立つ。
夜の帳は既に下りて、天には幾数もの星。
アスファルトの路から、熱は失われていた ]
……つーまんね。
[ 冷めてしまえば、そんなもの。
右腕の痺れが今更のように蘇り、
全身へと懈さが広がっていくような気がした。
途切れかけの街灯が、煩くちらついている ]
あっちは、どうなったかねえ。
[ 未だ黒に染まった眼と同じ、闇の奥へと*足を向けた* ]
…?
[見覚えがある。確かバカップルの片割れだ。
なぜ走っていく必要があるのかはともかく、この先に行くと廃工場があることぐらいはご町内の話なので知っている。
不審に思い、そのまま追いかけていけば何やらあまり喜ばしくなさそうな雰囲気。
ましてや、人を狙って金属の弾が発射されたとあれば──]
────っ!
──dople fayra tussu:naja!
[とっさに口にする火の音。
着弾までに間に合えば、金属はまるで水のように沸騰し蒸発するのだが]
[返るとは思わなかった答えには反応せず。
ただその気配が完全に遠のいてから、パン、と一度地面を叩いた。物凄く悔しそうに]
[間を置かず、自分には出せない『音』と共に現れる気配。
顔を上げる元気もなく、自嘲含みの掠れ声で]
ごめ、もたなかった。
[そこまで言って、今度こそ限界。
相手の反応を確かめることもなく、意識はスィと*遠のいた*]
思わねぇから一発ぶん殴ってやろうって言ってんだよ!
そりゃアタシは頭なんか良くは無い。
だからアタシはアタシなりにやれることをやるのさ!
[背後から狙われているとはまだ気付けて居ない。足元への攻撃をバックステップで躱し、壁を駆け上がる久鷹に対し飛び蹴り。タイミングがズレ、外し着地したところで何かの発射音を聞いた]
げっ!
[見れば高速でこちらへと迫り来る鉄の塊。避けるには体勢が間に合わない。仕方なく、先程鉄球を受け流した時と同じように迫り来る塊をいなそうと腕を掲げる。しかし次の瞬間、鉄の塊──釘の塊だと言うのは近くで見てようやく気付いた──は、瞬時に沸騰し消え失せてしまった]
…な、んだ…?
[呆気に取られていたが、釘の塊が飛んできた方向に見覚えのある姿を見つけると、僅かに口端が持ち上がった]
こりゃ、貸し作っちまったかな。
…それよりも。
[呟き視線を久鷹へと向ける。離れた位置へと立つ相手に、牽制するかのように再び円盤を嗾けた]
[発射された輝きは目に入った。そして釘は電子でまとめる――つまりは電磁石の要領で磁石化してあった。そしてソレを引き寄せる対極に当たるのが、今サキに打ち出した流星錐だ。SとNは引かれあい、サキの胴体に大きな穴を穿つ――筈だった]
な、に?
[それは本当に突然だった。
打ち出された玉が、まるで水に溶かした砂糖のように、一瞬で溶けた。しかも、金属の沸点を一息で到達し、蒸発もしてしまった。
もし、ここでヒビキの姿を見えていれば、舌打ち一つで済んだだろう。だが、不幸な事に、ヒビキは彼の視界に入らなかった。
そのため、思考が一瞬真っ白になり、無防備のままサキの前に着地した――]
[はー、と大きく息を吐き出す。
それは体にたまりこんだ不満を吐き出すかのように。
明らかに、神宮司へ向けた視線は不機嫌そのもの]
…お前等、人のシマで何してやがる…っ。
[シマっていうか、町内会ってだけなんですけどね。
まだ小朱雀を召喚するほどではないにしろ、漆黒の瞳にうっすらと丹朱が滲むが、その場所から今のところ動く気配はない]
[嗾けた円盤を追うようにして久鷹の懐へと潜り込む。無防備な状態なため、難なく滑り込み、踏み込みと同時に勢いを乗せた掌底を鳩尾へ繰り出す]
久鷹から出て行かねぇってなら、力ずくだ。
[す、と瞳を細め、追撃とばかりに反対の手で再び掌底を繰り出す。それは顎を狙う一撃]
[流石に今は響へ反応する余裕は無い]
――しま!
[ほんの一瞬の間に、サキに懐へと潜り込まれた。慌てて流星錐の縄部分をまとめて繰り出された掌底を緩和するための盾とするが……]
ぐは!
[その程度では防げなかった。衝撃はあっさりと盾を抜け、鳩尾から背面まで突き抜ける。
そして、それを合図に心の中で檻に皹が入った。ヒサタカが再度表に出るべく暴れる]
グアアアァァァァァァァァァ!
[内外からの痛みは、最高潮に達しようとしている。数メートル吹き飛んだ場所で、四肢を張りながら、サキを、まるで手負いの獣が復習を企むように、幻影すら相手に与える程の殺気を叩きつけた]
殺す……。生きたまま魂を抜き取る苦痛を与え、数千年の時を持って魂を弄ぼうかと思ったが、今、この場で永遠の闇を味あわせてやる!!!
[本来は久鷹も距離をとり、守りを固め、知略を持って敵を滅するタイプだ。
しかし、今も彼は、それよりも自分に傷をつけられた事が、知略を捨てさせていた]
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