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…イライダは、若いよ。
[夫と小さな子。記憶にはまだ有る。
それでも彼女が老いたとは思えず――くすくす笑う彼女を
そっと見上げ、長い前髪の隙間から伺った。
伸びてくる手を拒む事は無い。
撫でられれば、そっと目を伏せて暫く考える、間]
良い男、にはなりたいけど。
俺には無理だ。
[自嘲めいた口調が零れるのと裏腹に。
俯いた顔は、少しだけ、ほんの少しだけ困った風に眉を下げた]
[年の功か。
自身の適量を理解している男が酒を飲みすぎる事はない。
普段どおりに朝食を作りそれを口に運ぶ。
彩りの良いサラダと少しだけ不恰好なチーズオムレツ。
そえられたパンは昨夜の余りを拝借したもの。
葡萄酒の酒気の代わりに漂うは紅茶の芳香。
長閑な村だからか男の性格ゆえか
ゆったりとした時間が流れる]
獣の仕業なら村の周りに罠でも仕掛ける、か。
それなら……
[ミハイルに相談してみるのも良いかと思う。
獣ならば多少の効果は見込めそうだが
獣ではなく噂の人狼なら――。
過ぎる思考にゆる、と首を振り窓の外へと視線を向ける]
私にとってはまだまだ、ロランくんは子供だけど。
断言してあげる。絶対、無理なんかじゃないわ。
[うつむいた表情は、うまく読み取れはしないけれど。
慰めではなく、本心から強く言って]
色んな人を見てきたお姉さんを信じなさいな。
動くことだけが良い男の条件じゃないのよ。
メーフィエが良い例じゃない。
[正直情けない、と言われることが多い夫だったから。
そう思わない?なんて、ロランに笑みを含んで問いかけて]
それにキリルだって、マクシームだって、あなたが良い男になれないなんて言わないと思うわよ?
ねぇ
[その場の二人に同意を求めたり]
でも、
[紡ごうとした言葉を切り、唇を噛んだ。
大人の女性は、本当に苦手だ、と思う。
一生懸命繕い隠そうとする内心が、見抜かれる気がするから。
それが、心地よいと思えてしまうから。
笑み含めるイライダの声に、ゆっくりと顔を上げた。
僅かに、居心地悪そうな顔の血色が良く、なる]
…――、う、…ん
[それからまた、顔を背ける。
メーフィエ、との名が出て僅かに動きを止めるのは、
思い出させたのかな、と、不安になったからだ。
キリルの言葉にもまた、俯いてしまった。
膝の上に乗る手を見下ろす。きゅ、と握った]
[は、と、顔をあげる。
キリルがイライダの下へいこうとしていた、のを思い出して
…、あ、2人は用事がある、んだよね?
俺、邪魔してる。
[マクシームが余計な事言いやがって的視線を向けた気がするが
ロランはそれどころではなかったので、受け流すことにした]
子供扱いなんてそんなこと
[してない、とはっきりと否定はしなかった。笑いながらの言葉である。
キリルの言葉も聞いて頷いて。もちろんマクシームも同意であり。
ロランを見る目は、困った子を見るようでもある]
良い男になれるわ。
なりなさいな。
[うつむいてしまったので、また頭を撫でる。
大丈夫、と安心させるように。手も震えてなんかないし、表情が崩れたりもしていなかった]
あ、そうね。キリルにあげる約束だものね。
[ロランの言葉にうなずいて、キリルを見る。来る?と問いかけつつ、話をするようなら都合の良いところまで待つつもりでもあった**]
俺、川に行こうと思って。
[言って、2人から離れようと車輪に手を掛けた。
キィィ、と、いつもより高い悲鳴のような音があがる。
広場から辺りを見渡せば、料理等の煙上がる家もあり。
陽光の下、小さな村の営みはいつも通りだ]
〜〜、顔に書いてある…っ!
[笑い声を肯定と受け取って。軽くむくれた。
けれそもそれも、冗談の範囲内。
一緒に笑ってしまってから、幼馴染へと同じく目を向ける]
邪魔ではないけれど…、うん。
いいかな。イライダの話も少し聞きたいし。
その…色々と見たりしながら。
[要は縁がなさ過ぎて、化粧品と言ってもさっぱりなのだ。
流石に口にはしがたく、自然と歯切れは悪くなる]
……ん。ロラン、気をつけて。
[何気ない調子で、幼馴染へと気遣いの言葉を向けた。
イライダに頷き返して、マクシームへと手を振る。
ガッカリした表情は、何だかとても分かりやすかった]
お勧めとか、教えてくれたら嬉しいんだけど。
その、あまりこういうのって良く知らないし…。
なるべく簡単な感じで、出来れば。
[男性陣と離れたところで、こそりとイライダへと囁いた。
華やかな彼女の笑い声を聞きながら道を辿る。
村の長閑な春の陽に、小鳥が一羽鳴いて過ぎていった*]
― 朝 ―
う、うぅ〜〜
[自宅のベッドの上でうなっている。
昨夜飲みすぎたせいでの二日酔いだ]
もうあんなにのまない……
[兄は妹を見捨ててとっとと広場に向かった。
昨夜のことはぼんやりと覚えている。
イライダにお水を渡されて諭されたときに回らないしたで意味不明な返事をしたような記憶もあるが、詳細が見事に不明だった]
――変なこと、してなきゃいいけど……
[見捨てていった兄はそれでも薄情ではなかったらしく、水差しだけは枕元に用意されていた。
コップ一杯、水を飲んでなんとか起き上がる]
[ベッドの上に座り込んだまま、ぼんやりと窓から見える村の風景を見る]
オリガは都会でがんばってるし。
キリルは恋人ができて可愛くなってるし。
……あたしも、がんばらないと、なあ……
[幼馴染の女性陣二人が輝いている。
それに比べてとわが身を振り返り一つため息。
もともと同い年のような年下のような、微妙な年齢差ゆえに二人に追いつこうともがんばっていたのだが。
結局追いつくことはできていない気がした]
――でも、恋って良くわかんない。
[オリガは都会で恋をしてるのだろうか。
届く手紙にはそういったことは書かれてなくて。
たまに出す返信にもそれを問うことはしなかった]
[両親が死んでからは生活することで必死だった。
兄はある程度親から仕事を引き継いでいたから、金銭面での苦労はなかったけれど。
知らなかったことや、やらなかったことなど沢山あって。
恋というものを意識したこともなかった]
まあ、べつに、困らない、かな……?
[イヴァンが帰ってきてからのキリルの様子を見ていれば、羨ましくもあるけれど。
羨んで焦ったところで手に入るものではないし、と、どこか冷めたことを考えていた]
[朝のお茶を飲んだ後。
身支度を斉えて外に出る。
向かう先は特に決めていないけれど、広場で手伝いをするような体調ではないし。
趣味で作っているポプリの材料を取りに行こうかと、小さな籠を片手に森の入り口にでも向かった]
―― 川辺へ ――
[川へと降りる道はなだらかな坂道で。
何時も少し難儀するのだけれど、
祖父が川の底石で作業用のナイフを研いでいたから
ずっとそれを真似して、そうしていた。
川に入るから車椅子が錆びて悲鳴上げるのも知って居たけれど]
久しぶりの、仕事だから。
[呟いて細い道を行く。
左右に生い茂る木々と草葉が、緑の匂いを揺らしていた]
おはよー、ロラン。
[いつもよりちょっと鈍い足取りで近寄る。
白いシャツにピンクのボレロと、薄紅色のフレアスカートはいつもどおりの姿だけれど、二日酔いの頭痛のせいでちょっと青ざめた顔色はごまかせない]
どっかいくの? 川?
[川へと降りる道の途中。
首をかしげて問いかけ]
カチューシャ。
…二日酔い?
[川、との問いには、ん、とひとつ頷いて。
それでも寄れば彼女の顔色が違うのが判ったから、
問いを向ける。
――自身にも今まさに覚えのある頭痛だ]
そっか。
あたしは香草を摘みに……
……う、ん。
そんなに、わかりやすいかなあ?
[頷きにはやっぱり、と笑みを浮かべ。
二日酔いを言い当てられて恥ずかしそうに頬に手を当てる。
鈍い頭痛が続いているから、ほんとはレイスのところに薬を貰いに行くべきなのだろうけれど]
まあ、ちょっと頭が痛いだけだから、ポプリでも作れば気分転換になるかなーって。
だって昨日。
……すごかった。
[はずかしそうに頬に手を当てる様子。
自分の頭痛は棚に上げて、表情少し和らげて悪戯ぽく言う。
回らない舌で話していた内容は、殆ど判らなかったから]
そか。
川の方?
[ポプリに使う花が、何処に咲いているのか知らない。
問いは顔を傾けて、前髪の隙間から彼女を覗き見上げた]
[食事を終えた男は手早く片付け地下へゆく。
葡萄酒の樽が並ぶ其処にただようは熟成された深い香り。
貯蔵庫の奥には眠り続ける葡萄酒の瓶がある]
あいつももうすぐ二十歳か。
[妹の生まれ年が書かれた瓶のラベルをそとなぞる。
二十歳の祝いに贈るようにと父に託されていたもの。
その日を迎える前に妹は家で出てしまったが]
今年は戻ってくるかな。
[そうでなければ会いにゆくのも良いかもしれない。
ただ、村の長閑さに混じる不穏な空気。
それが拭いきれるその日までは――]
そ、そんなに変なこといってない、はずだよ……
[ロランのからかいに弱く反論する。
なにせ記憶があやふやだから、言い切ることもできやしない]
うう、お兄ちゃんはお酒強いのになあ……
森のほうと、川沿いにも、ちょっと。
だからロランが川に行くなら、先に川のほうにしようかな。
[ため息とともにぼやいた後。
黒くて艶のある髪の間から見上げてくるロランにこくりと頷いた。
いつもつかうのは森の入り口に咲いている花と、川辺にある香草だった]
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